米国において、麻しん(はしか)の感染拡大が深刻な事態に陥っています。
米疾病対策センター(CDC)の発表によると、2026年に入ってからの確定症例数はすでに2,318件に達し、前年(2025年)の年間トータル(2,289件)をわずか半年余りで上回りました。これは、9,643人が発症した1991年以来、過去35年間で最悪の流行規模となっています。
1. はしかという感染症の脅威と疫学的特徴
はしかは、麻しんウイルスによって引き起こされる極めて感染力が強いウイルス性感染症です。
◎感染経路: 空気感染、飛沫感染、接触感染により広がり免疫を持たない人が感染すると、ほぼ100%発症すると言われるほど強力です。
◎主な症状: 高熱、咳、鼻水などの呼吸器症状に加え、全身に特徴的な発疹が現れます。
◎重篤な合併症: 肺炎や脳炎を引き起こすことがあり、最悪の場合は死に至るケースや、深刻な後遺症を残す危険性があり幼い子どもだけでなく、幅広い世代で警戒が必要です。
2. なぜ今、米国で急増しているのか?(背景と要因)
米国は高いワクチン接種率を背景に、2000年に「はしかの根絶(排除状態)」が宣言されましたが、近年その基盤が揺らいでいます。
◎ワクチン接種率の低下(集団免疫のほころび):
流行を防ぎ、社会全体を守る(集団免疫を維持する)ためには、一般に約95%の接種率が必要とされていますが、全米の未就学児における接種率は約92.5%へと低下し、基準を下回っています。
今回のCDCのデータでも、感染者の約93%が「ワクチン未接種」または「接種歴が不明」な人々であることが分かっています。
◎医療・保健当局に対する不信感と免除制度の利用:
米国では就学時にワクチンの接種が義務付けられていますが、多くの地域で宗教的・哲学的な理由(非医療的免除)を掲げてこれを回避することが可能で、コロナ禍以降、SNS等を通じてワクチンの副反応に対する過度な恐怖心や、公衆衛生当局への不信感が広がり、こうした免除の利用や接種控えが急増しています。
◎政治的リーダーシップの影響:
政権幹部を含む一部の指導者層やオピニオンリーダーから、ワクチンに対する懐疑的な姿勢や科学的根拠に乏しい情報が発信されたことも、保護者の間に迷いを生じさせる大きな要因として医療専門家から強く非難されています。
◎国際的な人の移動:
世界的な人の往来の活発化や、大規模な国際スポーツイベント(ワールドカップ等)の開催に伴い、流行地域からウイルスが持ち込まれたことも、全米各地でのアウトブレイク(集団感染)に拍車をかけた一因と指摘されています。
3. 専門家が指摘する「見えない感染(診断漏れ)」の懸念
サウスカロライナ大学のメリッサ・ノーラン教授らは、表面化している数字以外にも、実際には診断されていない(医療機関を受診していない)感染者が多数存在する可能性を指摘しています。
日頃から医療全般に対して不信感やためらいを持つ人々は、発症しても受診を避ける傾向があるため、感染拡大の全容が正確に把握しにくいという構造的な課題があります。
まとめ
かつて「根絶」を達成した感染症であっても、人々の意識の変化やワクチンの接種控えによって、ウイルスは容易に社会の隙を突いて再流行を引き起こします。
今回の米国での35年ぶりの大流行は、科学的に有効性が証明された感染症対策を維持し続けることの難しさと、公衆衛生における「信頼の重要性」を改めて私たちに突きつけています。
【参考資料】
