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2020年10月25日日曜日

アレルギー検査について-9.食物アレルギー検査は何抗体で検査をするのか?-

最近新型コロナウイルスについての解説に偏る傾向にありますから、今回は新型コロナウイルスの解説は一旦休みアレルギー検査について解説させていただきますので、お付き合いください。 

食物アレルギーについて最近は多くの人が関心を持つようになってきていますが、食物アレルギー検査について正しい知識を持たれている人が少ないのが現実です。

さてそれでは食物アレルギーの検査は何抗体を検査するのがお分かりですか?

結論から申し上げますと食物アレルギー検査は、血液でIgE抗体を調べます。

巷度はIgG抗体を調べて、これが高い数値を示すから除去食(じょきょしょく)する傾向がありますがこれはのは間違いです。

※除去食とはアレルゲンとなる食品を使わないで作る食事のことを言います※

食べ物の除去食を考える上で食べ物に対するIgG抗体を検査することは、日本だけでなく、欧州も米国でも、一般に推奨されていません。

日本アレルギー学会の〔学会見解〕血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起を参照してみてください。

【学会見解の全文】

 学 会 見 解 

 血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起

 米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では、食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています。

その理由として、以下のように記載されています。

すなわち、①食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体である。②食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しない。③血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけである。④よって、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもある。

以上により、日本アレルギー学会は日本小児アレルギー学会の注意喚起を支持し、食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。

 平成27年2月25日

 一般社団法人日本アレルギー学会

 理事長 斎藤博久

※参考URL:https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=51

そもそもIgG抗体とは、感染症から感染するのを防ぐ抗体なのです。

アレルギーが悪化しているかどうかを調べる抗体はIgG抗体ではなく"IgE抗体"なのです。

例えて言いますと小麦アレルギーのある人は小麦に対する"IgE抗体"が高くなります。

4つあるIgG抗体のなかでも特にIgG4抗体は、食物アレルギーが改善してきているときに上がる抗体として研究目的で行われています。

※IgG抗体は、IgG1、IgG2、IgG3。IgG4の4種類のIgGのサブクラスがあり、IgG1はIgGの65%程度、IgG2は25%程度、IgG3は7%程度、IgG4は3%程度存在しています※

例えば、食物に対するIgG4抗体は、『症状が出ない量で少しずつ、アレルギーになっている食べ物を食べていると、食べられる量が増えていく』ことがわかっています。

その際に、IgE抗体はいったん上昇して、その後下がってきます。

一方でIgG4抗体は、一貫して上がっていくのです。

食物に対するIgG4抗体は、その食物が食べられるようになってきているかどうかの指標として使われています。

IgE抗体は、アレルギーが悪化しているときの指標して使われます。

そして

IgG4抗体は、すでに食べられている場合に上がりやすい値なのです。

普段から食べている食物なので、陽性であることが当たり前なのですから、"IgG4抗体が陽性"だから除去の指標をするのは間違っているのです。

しかし、『現実IgG4抗体の値が高いから除去しましょうと言われると心配だから除去しなければ』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは除去する必要はありません。

今まで食べられている食物をあえて除去をすることはないのです。

2020年10月18日日曜日

新型コロナウイルスについて-6.集団免疫とは-

 集団免疫とは、特定の集団や地域で、特定のウイルスに対する「総合的な免疫力(人が生まれつき持っている自然免疫と、特定のウイルスに感染してできる獲得免疫を合わせたもの)」を持つ人が一定の割合に達し、その人たちが壁になって感染が拡大しなくなった状態を言います。

例をあげますと、インフルエンザウイルスが原因だったスペイン風邪や香港風邪、コロナウイルスが原因だったSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)など、過去のすべてのウイルス感染症は「集団免疫」によって収束しており、新型コロナウイルスも例外ではなく集団免疫によって収束すると考えられています。

要するにある一定の割合に感染者が増えると集団免疫が成立すると考えられていますが、この一定の割合についてはいろいろと言われていて、確かな値はわかっていません。

・人口の70%程度

・50%以下

・40~45%

・10~20%

それでは集団免疫が成立したか否かはどうして判断するのか?

ウイルスに感染するとその感染したウイルスに対する抗体が体内にできることから、無作為に選んだ人を血液で抗体検査をすればわかります。

集団免疫獲得に反対意見を唱える人もいることは事実です。

例えば世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、2020年10月12日、新型コロナウイルス対策として「集団免疫」を獲得する方法は、「科学的にも倫理的に問題がある」と排除しています。

反面日本ではすでに感染が拡大しない状態になっていると指摘する専門家もいます。

集団免疫を獲得しても、高齢者、基礎疾患を持っていたり、あるいは体調が不調だったりして総合的な免疫力が弱い人は、ウイルスに感染して重篤な肺炎などになり、ごく少数の人は死亡することになります。

しかし死者の数は感染拡大期に比べてきわめて少なくなります。集団免疫状態であれば、不要不急の外出や県外旅行の自粛、集会の人数制限、マスク着用や社会的距離の確保などは、原則として不要となります。

アメリカ、ブラジル、イタリア、ルクセンブルク、スウェーデンなど多くの国々では、1日当たりの死者数がある時期を境に急減していることからして、これらの国々では既に集団免疫が獲得されていると指摘する専門家もいます。

多くの国の中でスウェーデンは、集団免疫を獲得したと考えられています。

それでは日本ではどうにのでしょうか?

未だ感染は拡大中なのか、集団免疫を既に獲得したのかは国や地方自治体の精力的な抗体検査にかかっています。

急いで国民の抗体保有率検査すべきと考えられますが、いずれにしても毎度のことながら動きは遅いのは否定できませんねぇ!!



2020年10月11日日曜日

新型コロナウイルスについて-5.新型コロナウイルスワクチンの接種についての問題点-

 2020年10月2日、厚生労働省は厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、新型コロナウイルスのワクチンは特例的に全員無料で接種できるようにし、接種費用の全額を国が負担する方針を示し了承されました。

本年10月下旬に召集予定の臨時国会に予防接種法改正案を提出するとしています。

今回の予防接種について国の考えていることを以下に解説してみます。

1.2021年前半までに全国民に行き渡る量のワクチンを確保する方針。

2.タイミングが良けれは2021年明けから接種が始まる見通し。

3.蔓延予防を考えて緊急の必要があるとして、予防接種法が規定する「臨時接種」の規定を準用する。

4.実施主体となる市町村は原則として住民に接種を勧奨し、住民には接種を受ける努力義務を課す。※現時点でワクチンの有用性と副作用についての殆どわかっていない時期に、接種勧奨と努力義務を付けることに強い抵抗感があるとの指摘もあります※

5.ワクチン接種の副作用で健康被害が生じた場合に医療費や障害年金などを支給する救済措置も臨時接種と同様、高水準とする。

6.救済措置の財源は全額国が負担し、訴訟となった場合に製薬企業などに代わって国が賠償金などを払うための法整備も行う。

7.新型コロナウイルスの予防接種については同法を改正し国が全額負担する。

今後法律提出までにどの様に加筆訂正されるのか、法案可決時にはどの様に法律になるのかをよく見極める必要がありそうです。

現在ロシアや中国で使用されているワクチンは、安全性が十分に確認されていませんし、予防効果もどの程度あるのかもはっきりしていません。

予防ワクチンが利用可能となるのは、「十分な感染予防効果がある」、「重い副作用がない」ことが最低求められています。

2020年10月4日日曜日

新型コロナウイルスについて-4.新型コロナウイルスのゼロ次予防とは-

 ゼロ次予防は、もともと循環器疾患の予防についての研究から生まれた発想です。

※ゼロ次予防とは、"primordial prevention"と呼ばれる発想※

WHOは、2006年に発行した『WHOの標準疫学 第2版』の中で改めて「primordial prevention」に言及し、日本語版で「ゼロ次予防」と訳されたことから、現在に至るまで訳語として定着しています。

"ゼロ次予防"とは、一人ひとりの体質に合わせて生活習慣などの改善を行い、病気の予防を推進するという考え方で、自分が親から受け継いだ遺伝子などを調べて、「どのような病気になりやすい体質なのか」を知ることで、効果的に生活習慣を見直すことを目指しています。

感染予防など意識する以前に、オフィスや住まいを健康的に整備し、そもそも感染症にかかりにくい環境を作るという取り組みのことを言います。

それでは1次予防、2次予防とは何なんでしょうか?

・1次予防とは、病気固有の原因やリスクファクターを減らすことで病気の発生を防ぐこと(病気にならないように気をつける)。

・2次予防とは、病気の初期段階において罹患期間を短縮し罹患率を減らそうということ(病気がひどくなる前に見つける)。

・3次予防とは、近年では、病気の後期で合併症の数や影響を減らす3次予防も注目されていいます(かかってしまった病気の悪化を防ぐ)。

千葉大学予防医学センターは、イオンモールや竹中工務店と協力し、ゼロ次予防に着目して、建築物などで利用者を知らず知らずのうちに健康に導く仕組みについて研究をしていることを報告しています。

2007年に長浜市長と京都大学医学研究科長が一体となってゼロ次予防コホート事業を展開してます。

ゼロ次予防の具体例としては、

・タバコの値上げや喫煙所の撤去などが分かりやすい事例で、健康に悪影響を及ぼすタバコを吸える環境を無くすことで禁煙を促していることになります。

・飲食店等でのカロリー表示も、その表示から適切な食事量を心がけるよう促す意味で同様の位置づけと捉えられます。

新型コロナウイルスの空気感染を防ぐ観点からも、こうした知らないうちにウイルスを消毒する仕組み作りは求められるに違いない。

健康でいることを目指すのではなく、意識しなくても人々を健康的な状態に導くにはどうすればよいのか?

ゼロ次予防の考え方は様々な場面で重要性を増してくるものと考えられます。