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2022年10月23日日曜日

梅毒治療の現状-2022年-

 2022年10月9日時点で9562人の梅毒患者が報告され、未だに大流行は収まっていません。

このまま増加すれば2022年は10000人を超えることはまず間違いはなさそうです。

2022年の梅毒治療に関して解説していきます。

治療に関しては、『性感染症診断・治療ガイドライン2020』では経口ペニシリン系抗菌薬アモキシシリンを第一選択薬とし、アレルギーなどによりペニシリン不耐容の場合はテトラサイクリン系抗菌薬ミノサイクリン、妊婦ではマクロライド系抗菌薬スピラマイシンといった経口薬が治療選択肢となっています。そして神経症状や髄液初見から神経梅毒と判断した場合は、ペニシリン系抗菌薬ベンジルペニシリンカリウムを点滴静注する事になっています。


この治療指針は日本特有で国際的には、筋注のペニシリン系抗菌薬ベンジルペニシリンベンザチン(以下BPBと略します)が標準治療となっています。

日本国内ではBPB使用は認められていませんでしたが、早期梅毒に対しては単回筋注で治療可能かつ耐性菌の報告もないことから、厚生労働省において医療上の必要性が高い未承認薬と評価され2021年9月に遅ればせながら日本でも承認された経緯があります。

これを受けてガイドラインも改訂され、アモキシシリンと同様にBPBも第一選択薬として推奨される様になりました。

BPBは細胞壁合成阻害により梅毒トレポネーマに対する殺菌作用を発揮し、血中濃度が長時間持続することから(血中半減期188.8時間)、成人では早期梅毒に対して240万単位を単回筋注し、後期梅毒には240万単位を週に1回計3回筋注することでその効果があるとされています。

先天梅毒に関しても梅毒合併妊婦に対しても国際的な標準治療薬はBPBですが、日本においてはアモキシシリンを中心とした治療が行われているのが現実です。

実際アモキシシリンが妊婦の初期/後期梅毒に対し、BPBの代替薬となりうるかについての報告件数が少ないのが実情です。

梅毒合併妊婦のでは、母子感染率は21%と高いことが知られていますが、これはアモキシシリンによる治療が行われていたことに起因します。

梅毒予防に関しても早期に治療すれば母子感染を防ぐことが可能となってきています。

【用法用量】

・成人および2歳以上の小児では「早期梅毒に240万単位を1回、後期梅毒に1回240万単位を週1回、計3回を筋注」使用する。

・2歳以上13歳未満については「いずれも年齢、体重により適宜減量は可能」となっています。

・2歳未満の小児では「早期先天梅毒及び早期梅毒に5万単位/kgを1回、筋注」となっています。

【注意点】

アモキシシリンと同様にBPB使用においても"ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応"の懸念があることから、改訂ガイドラインでは「妊婦でBPB筋注製剤を使用する場合、"ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応"による胎児切迫仮死に対応できるよう、入院下の観察を勧める意見がある」と付記されています。


※ ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応とは、梅毒治療薬投薬による梅毒トレポネーマの大量死により倦怠感、発熱、悪寒、頭痛などの症状が生じる現象※