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2023年2月12日日曜日

現在の梅毒流行の現状-11.梅毒の曝露後予防(Post Exposure Prophylaxis*PEP)について-

 性行為後に抗生物質を内服する曝露後予防(PEP)により梅毒だけでなく、クラミジアや淋菌といった性感染症を予防するという最新研究の結果が報告されましたのでその概要を紹介します。


2022年年8月にカナダ・モントリオールで開かれた『第24回国際AIDS会議』で発表されたドキシサイクリン曝露後予防(DoxyPEP)の効果についての研究です。


『ドキシサイクリン曝露後予防(DoxyPEP)とは』


テトラサイクリン系の抗生物質ドキシサイクリン(Doxycycline)を性行為後に服用することにより、性感染症のリスクが66%低下することが明らかにされました。


ドキシサイクリンは、安価で半減期が比較的長いことから諸外国では曝露後予防に使用する薬剤として用いられています。


日本では、クラミジアに対してはアジスロマイシン、梅毒にはペニシリンが使用されていて、一般的にドキシサイクリンは性感染症治療には使用されていません。


2021年、米疾病対策センター(CDC)はクラミジア治療にアジスロマイシンではなくドキシサイクリンを用いるよう提唱しており、海外では性感染症に対して瀕用される薬剤となっています。


これまでは、曝露後予防としてドキシサイクリンがとして機能するかどうかは明らかにされておらず、過去に被爆前予防としてドキシサイクリンを服用する研究が2015年に米国で、2017年にはフランスで行われています。


この結果はどちらも梅毒発生率の低下が示されたが、米国の研究ではクラミジアに対するPrEPの効果が確認されず、両研究とも淋菌への効果は認められなかった。


その理由として、淋菌はテトラサイクリン系に対する耐性菌が多いことが考えられる。


しかし、今回の研究では、HIV陰性・陽性の両者において、3種の性感染症発生率の低下が示された。


クラミジアに対する有効性は、HIV陽性者で88%、非陽性者で74%と高いものであった。


梅毒に対しても、HIV陽性者で87%、非陽性者で77%と高い有効性を示したが、患者数が少なかったために統計学的には有意差を認めなかった。


淋菌では、HIV陽性者で55%、非陽性者で57%とクラミジアと比較すると軽度な差であるが、有意な有効性を認めた。


他の研究でも、DoxyPEPにより梅毒への感染を予防できるという結果が報告されている。


【参考資料】


梅毒の増加に対抗する:ドキシサイクリン曝露後予防の役割?


DoxyPEPを有効に用いることができれば、「性感染症予防薬」としてドキシサイクリンが広く用いられるようになるかもしれない。


DoxyPrEPに比べDoxyPEPは服用回数が少ないため費用の節約になり、抗菌薬の過剰使用による薬剤耐性や副作用への懸念も軽減されると考えられる。


ただし、抗生物質の開発と細菌の抗生物質耐性化が「いたちごっこ」であるのはご存じの通りである。例えば、淋菌は多剤耐性化が進んでおり、現時点で有効な薬剤はセフトリアキソンまたはスペクチノマイシンの注射剤しかない。


DoxyPEPが淋菌の抗菌薬耐性化を促進しうるかどうかは、さらに大規模な研究が必要である。


 また、フランスのDoxyPEP研究では、淋菌に対して適度な有効性(33~40%)を持つ髄膜炎ワクチンが検討されている。将来的には「性感染症ワクチン」も登場するかもしれない。


本研究は、性交渉後にドキシサイクリンを内服するという、極めてシンプルな介入で、性感染症リスクを抱える人たちの健康に大きな変化をもたらす可能性があるインパクトのある研究であった。続報に期待したい。


一般名:ドキシサイクリン塩酸塩水和物は、テトラサイクリン系の抗生物質でビブラマイシンと呼ばれています。


ビブラマイシンの内服を始める初日に200mgを1回又は2回に分けて経口投与します。2日目以降は初日の半分である100mgを1日1回内服します。なお、感染症の種類及び症状によって投与量は適宜増減します。


食事の影響を受けにくいと言われているため食後の内服にこだわる必要はありません。


性感染症として代表的な梅毒、クラミジアや淋病など、多くの細菌感染症に対して治療効果を持ちます。


主な副作用として、吐き気・嘔吐、食欲不振、発疹、発熱、じんましん、光線過敏症(光にあたった部分が赤くなる)、多形紅斑(皮膚の赤み)などが報告されています。