1. 「スーパー」は俗称で真の正体は「進化したH3N2型」
医学的には「スーパーインフルエンザ」という特定の病気があるわけではありません。
その正体は、A香港型(H3N2)から派生した**「サブクレードK(K亜系統)」**という変異株です。
変異の仕組み: ウイルス表面のタンパク質が「抗原ドリフト」と呼ばれる微細な変異を複数重ねたことで、私たちの体が持つ免疫から少し隠れやすくなっています。
毒性は不変: 「スーパー」という言葉から致死性が高い印象を受けますが、医学的な解析では、ウイルスそのものの毒性が強まったという証拠は見つかっていません。
2. 「免疫のすり抜け」による流行の早期化と拡大
疫学的に最も注目されているのは、その**「広がりやすさ」**です。
流行の早まり: 日本では2025年9月、米国や英国でも例年より大幅に早く流行が始まりました。
免疫の空白: 過去数年のコロナ禍でインフルエンザの流行が抑えられていたため、人々の集団免疫が低下していました。
そこへ、既存の免疫を回避しやすい「サブクレードK」が登場したことで、爆発的なスピードで感染が広がったと考えられます。
3. 「関節痛が出にくい」など症状の変化
最新の臨床報告(英国や日本のデータ)では、従来のインフルエンザとは少し異なる症状の傾向が指摘されています。
隠れインフルのリスク: 従来の「高熱と激しい関節痛」という特徴が薄れ、「ひどい咳や鼻水が先行する」、あるいは**「関節痛が少ない(約1割程度)」**といった、風邪に近い症状で始まるケースが報告されています。
重症化リスクの対象: ウイルス自体の性質は変わらなくても、H3N2型はもともと高齢者や乳幼児で重症化しやすい性質があります。流行規模が大きいため、結果として入院患者数が増加する点に注意が必要です。
4. ワクチンの効果は「重症化予防」にあり
今年のワクチン株と流行中の「サブクレードK」には、遺伝子上の「ズレ(ミスマッチ)」生じていますが、ワクチンの価値がなくなったわけではありません。
有効性の維持: 英国の初期データでは、ミスマッチがあっても小児で70〜75%、成人で30〜40%の入院予防効果が確認されています。
部分的な免疫: ワクチンがウイルスを完全にブロックできなくても、体内に入ったウイルスの暴走を抑え、肺炎や脳症などの深刻な事態を防ぐ効果は十分に期待できます。
5. 対策の基本は「冷静な継続」
「スーパー」という過激な呼称に惑わされず、従来の対策を徹底することが医学的に最も有効です。
スピード勝負: 発症から48時間以内に抗インフルエンザ薬(タミフル、ゾフルーザ等)を服用すれば、サブクレードKに対しても十分な治療効果が得られます。
日常生活: 飛沫を防ぐ不織布マスク、手洗い、室内の加湿(50〜60%)といった基本的な防御が、引き続き有効な壁となります。
【参考資料】
https://wired.jp/tag/influenza/