無くなったと勘違いされる感染症についてシリーズで紹介していきますのでお付き合い下さい。
「結核は昔の病気であり、現代の若い人には無縁である」——そう考えていないでしょうか。
日本国内の結核罹患率は人口10万人あたり8.0人で低蔓延国の水準を維持していますが、年間1万人以上の新たな患者と1,400人以上の死者が発生しています。
しかし、日本国内における疫学的データや臨床現場の現状を振り返ると、その認識は大きな誤りであることが分かります。
結核は過去の遺物ではなく、現代の職場や家庭において、世代を超えて静かに猛威を振るう侮れない感染症なのです。
1. 若者や職場を襲う「集団感染」の現実
国内では結核の患者数は全体として減少傾向にあるものの、集団感染の事例は今なお後を絶ちません。
◎大阪市の事例では、40代の男性がせきや痰、呼吸困難、両手のこわばりなどの症状を経て受診し結核と診断された後、死亡する事態となり、同じ事業所で働く接触者ら14人にも感染が広がる集団感染が確認されています。
◎更に都内の病院に通う20代半ばの女性は、祖母の結核発症に伴う「接触者健診」で自身も罹患していることが判明し痰の中に結核菌を排出する状態であったため即入院となり、3カ月を超える休職や周囲への影響を余儀なくされました。
このように、若い世代であっても家庭内や職場の身近なところから感染が広がるリスクが潜んでいます。
2. なぜ高齢者の発症・重症化が目立つのか?(疫学的背景)
現在、日本国内で結核を発症する人の大部分を高齢者が占めています。
◎2024年に国内で新たに患者として登録された1万51人のうち、60.2%が70歳以上であり、日本で出生した患者に限れば74.5%が70歳以上に達しています。
◎結核研究所の加藤誠也所長によると、過去に国内で結核が広く蔓延していた時期に感染を受けた世代が高齢化し、加齢や基礎疾患の影響によって免疫力が低下したことで発症(再活性化)しているのが主な理由です。
◎高齢者はせきの症状があまり出ないなど、症状が徐々に進行して気付きにくいため、「熱が続いていたが風邪と診断されていた」「食欲低下や転倒を機に行なった検査で初めて発症に気づいた」というケースが少なくありません。
3. 治療の進歩と、現代ならではの新たなリスク
世界保健機関(WHO)のデータによると、多剤耐性結核でない場合の治療成功率は世界で9割に達しています。
一方で、日本の治療成功率が2024年時点で約67%と比較的低いのは、患者に高齢者が多く、合併症などが原因で亡くなるケースが含まれているためです。
さらに、現代特有の社会情勢も無視できません。
◎国境をまたいだ人の流れが活発化していることや、新型コロナウイルス流行期における受診・検査の遅れが生じた影響もあり、近年では欧米の低蔓延国の一部で結核の感染者が再び増加する傾向が見られます。
「過去の病気」という固定観念を捨て、長引く発熱やせきなどのサインを見逃さず、早期受診と適切な感染対策を行うことが、自分自身と大切な人の命を守るために不可欠です。
【参考資料】
『2025年(令和7年)結核年報の概況 新登録結核患者数と罹患率』






