抗体依存性感染増強(antibody-dependent enhancement:ADE)とは、ワクチンの接種などにより起こりうる現象です。
本来、ウイルスなどから体を守るはずの抗体が、免疫細胞などへのウイルスの感染を促進し、その後、ウイルスに感染した免疫細胞が暴走し、本来体を守るべきシステムがあろうことか症状を悪化させてしまうという現象ということになります。
現在抗体依存性感染増強の詳細なメカニズムについてはほとんど解明されていません。
これまでに、複数のウイルス感染症で抗体依存性感染増強に関連する報告が一部されています、例えば、重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome:SARS)や中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome:MERS)に対するワクチンの研究では、フェレットなどの哺乳類動物にワクチンを投与した後、ウイルスに感染させると症状が重症化したとの報告があり、これは抗体依存性感染増強が原因と考えられています。
今まで新型コロナウイルスに感染し、自然免疫を獲得した人の間では抗体依存性感染増強のような問題は見られないことが複数の研究で示されています。
しかし最近では新型コロナウイルスに感染すると、感染を防ぐ中和抗体ばかりでなく、感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産生されることが発見されています。
新型コロナウイルスワクチンによる抗体依存性感染増強の危険性は2020年から一部の専門家らにより指摘されてきましたが、影響はないとする見方が大半でした。
またデルタ株に関して、ウイルスのトレードマークであるスパイクタンパク質に対する親和性が驚くほど高まったことにより、ワクチンが感染を促進したと考えられています。
そのことからして一部の専門家は、新型コロナワクチン接種により、SARS-CoV-2感染時に抗体依存性感染増強が起こることを懸念しています。
ファイザー社、或いはモデルナ社のワクチンでは中和作用のある抗体が十分に産生され、Th1細胞活性化も誘導されるため、抗体依存性感染増強が起こる可能性は極めて低いと考えられています。
実際にこれらのワクチンは、感染防御だけでなく、重症化防止にも有効であることが証明されています。
そのことからして新型コロナワクチン接種により誘導される抗体が結合しにくい新規変異株の出現や、経年的な抗体価低下への懸念は当然残こりますが、抗体依存性感染増強によるデメリットがワクチンのメリットを上回る可能性はどの段階においても極めて低いと考えられています。