厚生労働省が2025年9月26日に発表した2024年のHIV感染者とエイズ患者の確定値は、合計994人で、これは前年より34人増え2年連続の増加したことになります。
この数字は単なる統計ではなく、日本のHIV/AIDS対策における重要な課題を示しています。
医学的な観点と最新のデータから、この増加が持つ意味をわかりやすく以下に解説します。
1. データが示す深刻な変化:HIV感染者とエイズ患者の内訳
全体の報告数は増加していますが、内訳を見るとより深刻な傾向が見えてきます。
・HIV感染者は662人で7人減・・感染を早期に発見し治療を早く開始でき発症を防げる。
・エイズ患者は332人で41人増・・感染に気づかず、すでにエイズを発症してから診断された
・合計 994人で34人増・・報告総数は増加傾向にあります。
【"いきなりエイズ"が示す遅すぎる診断】
注目すべきは、エイズ患者(332人)が前年比で41人も増加している点です。
「エイズ患者」として報告されるのは、HIVに感染していることに気づかず、病気が進行して免疫不全の指標となる病気(指標疾患)を発症してから初めて診断されたケースです。
これは俗に**「いきなりエイズ」**とも呼ばれます。
医学的には、HIV感染は早期に発見し、抗HIV薬による治療を始めれば、エイズ発症をほぼ完全に防げます。
エイズを発症してから治療を始めても遅くはありませんが、初期の治療が難しくなったり、体力的な負担が大きくなったりします。
※"いきなりエイズ"に至る前に感染を見つけて早期に治治療を開始することが重要です※
エイズ患者の増加は、「感染に気づいていない人が増えている」「検査を受ける機会が減少している」など、早期発見の体制にほころびが出ている可能性を示唆しており、最も懸念される傾向です。
2. 依然として最も多い感染経路:同性間の性的接触
感染経路別に見ると、HIV感染者(662人)とエイズ患者(332人)のいずれにおいても、同性間の性的接触が最多となっています。
・HIV感染者(662人中):417人
・エイズ患者(332人中):170人
このデータは、特定のコミュニティ内での予防啓発や検査アクセスの確保が、依然として日本のHIV対策における最優先課題であることを裏付けています。
3. ではなぜ報告数は増加しているのか?
2年連続の報告数増加には、複数の要因が考えられます。
🚨 検査機会の回復(コロナ禍の影響)
新型コロナウイルス感染症のパンデミック期には、保健所等でのHIV検査実施件数が一時的に大きく減少しました。
2024年の増加は、検査機会が徐々に回復し、それまで潜在化していた感染者が発見され始めた「検査体制の回復」による数字の変動である可能性も指摘されています。
🚨 リスク意識の希薄化
HIV感染症は治療薬の進歩により「慢性疾患」となり、早期発見・早期治療を行えば、感染していない人と変わらない生活を送れるようになりました。
この医学的進歩が逆に「エイズは怖い病気ではない」という誤った認識を生み、予防行動の低下につながっている可能性も無視できません。
🚨 予防薬(PrEP)の普及の遅れ
欧米諸国ではHIV予防薬(PrEP:曝露前予防内服)の普及が進んでいますが、我が国においても導入されていますが、まだ一般への浸透は限定的で最新の予防策が広く利用されていないことも、新規感染を抑制しきれない一因と考えられます。
💡 私たちにできること:検査と情報へのアクセス
今回の厚生労働省のデータは、私たち全員に対し、「HIVは過去の病気ではない」ということを改めて突きつけています。
最も重要なアクションは、**「知る」と「検査する」**ことです。
検査の活用:不安な行為があった方は、保健所や自治体の検査機関で無料・匿名でHIV検査を受けることができます。
◎早期発見は、自分自身とパートナーの健康を守る最良の防御です。
◎正しい知識の更新:HIV/AIDSに関する情報は日々更新されています。
◎治療の進歩や予防策(PrEPなど)について、常に正しい情報を入手しましょう。
HIVの新規報告数を減らし、エイズ患者をゼロに近づけるには、個々人の意識と行動の変化が不可欠です。
今回HIVの感染が判明した人のうち、エイズを発症していた患者(いきなりエイズ)の割合は33.4%と、過去20年で最も高くっていまずこの理由について同委員会は、コロナ禍でHIV検査を受ける人が減り、エイズを発症するまで感染が分からなかった患者が増加したためと推測しています。