🔬 血圧の医学的分析と正しい理解のための5項目
1. 「高い/低い」で終わらせない:血圧は複雑な全身状態の指標
血圧の数値は、心臓のポンプ機能、動脈の弾力性(動脈硬化の程度)、自律神経(交感神経/副交感神経)、ホルモンバランス、そして体内の水分量など、多岐にわたる要素が複雑に絡み合った結果として現れます。
このため、たった1回の測定値だけで「健康か病気か」を判断するのは不十分であり、全身の血液循環の状態を映す鏡として捉える必要があります。
2. 診断基準:家庭血圧を重視し、変動を見る
日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧の基準値を以下のように定めています。
特に、環境に左右されにくい家庭での測定値を重視します。
測定場所 収縮期血圧 (上) 拡張期血圧 (下)
診察室 140mmHg 以上 90mmHg 以上
家庭 135mmHg 以上 85mmHg 以上
また、血圧は時間帯や日によって大きく変動するため、「年齢+90」といった簡易的な基準は推奨されず、日々の変動パターンを把握し、持続的な管理を行うことが重要とされています。
3. 【診断の視点1】血圧と脈拍の組み合わせによる循環状態の解析
血圧と脈拍(心拍数)を同時に見ることで、血圧変動の裏にある具体的な原因を推測できます。
1)高血圧 + 頻脈 (速い脈):交感神経の過剰な活性化 (ストレス、睡眠不足、過労、カフェイン過剰)、または甲状腺機能亢進症などの疾患。
対策としては精神的な負荷の軽減、生活習慣の見直し。病気が原因の場合は治療が必要。
2)高血圧 + 正常脈:動脈硬化の進行、塩分過剰摂取による血液量増加。血管の弾力性低下、腎臓への負担。
対策としては減塩などの生活習慣改善。
3)低血圧 + 頻脈 (速い脈):循環血液量の低下 (出血、重度の脱水)。極めて危険な状態。血圧を上げようと心臓が代償的に速く拍動している状態。
対策としては失神・ショックのリスクがあり、直ちに医療機関を受診すべきです。
4. 【診断の視点2】脈圧(上の血圧と下の血圧の差)の重要性
「上の血圧(収縮期血圧)」と「下の血圧(拡張期血圧)」の差を脈圧といいます。
脈圧=収縮期血圧-拡張期血圧
脈圧の拡大(差が大きいこと、例:160/70)は、動脈硬化により大動脈の弾力性が失われ、心臓が収縮したときに圧力が過剰に上がり、拡張したときに圧力が維持できなくなることを示唆しており、動脈硬化の進行度や心血管病のリスクを評価する上で重要な指標の一つです。
◎脈圧とは?(定義と計算方法)
脈圧とは、心臓が収縮したときにかかる最も高い圧力(収縮期血圧、上の血圧)と、心臓が拡張したときにかかる最も低い圧力(拡張期血圧、下の血圧)の差のことです。
正常な脈圧の目安は、一般的に40~60mmHg**程度とされています。
例えば、血圧が120/80mmHgの場合、脈圧は120-80 = 40mmHgとなります。
この差が**60mmHgを超える**など、基準値よりも大きくなる状態を指します。
脈圧拡大がもたらす危険性
脈圧の拡大は、単なる数値の変動ではなく、すでに動脈硬化が進行していることの強いサインであり、将来的な心臓・脳血管病のリスクを予測する指標として、近年重要視されています。
1)脳卒中・心筋梗塞リスクの増大
脈圧が大きいほど、脳卒中(脳梗塞や脳出血)や心筋梗塞、心不全などの発症リスクが高まることが多くの研究で示されています。
これは、硬い血管に高い圧力が繰り返し加わることで、血管の内膜が損傷し、血栓ができやすくなるためです。
2)心臓の負担増(心肥大・心不全)
上の血圧が過度に高くなると、心臓は硬い血管に向かってより強い力で血液を送り出す必要があり、オーバーワークになりその結果、心臓の筋肉が厚くなる心肥大を起こし、最終的にポンプ機能が低下する心不全へと進行しやすくなります。
3)腎機能の低下
腎臓の細い血管にも大きな負荷がかかるため、血管が傷つき、腎機能が徐々に低下し、慢性腎臓病のリスクが高まります。
脈圧の拡大は、**「血管が老朽化し、心臓が過負荷になっている」**という状態を明確に示して血圧を測定する際は、上の血圧と下の血圧の差も確認し、この脈圧が60mmHgを大きく超える場合は、動脈硬化の進行を疑い、医師に相談することが重要です。
5. 【診断の視点】血圧の変動パターンを見る
血圧は常に変動しており、そのパターンを観察することが重要です。
早朝高血圧: 睡眠中から起床時にかけて血圧が急激に上昇するパターンは脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まります。
白衣高血圧: 診察室でのみ血圧が高くなる現象。
仮面高血圧: 診察室では正常だが、家庭や職場で血圧が高くなる現象。
これらのパターンを把握するためには、毎日決まった時間(例:起床後1時間以内、就寝前)に家庭で測定し、記録することが、単発の測定よりも遥かに重要で正確な診断につながります。
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