血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2018年3月30日金曜日

心臓疾患についてー1.種類と症状ー

心臓疾患は、日本人の死因の第2位となっています。

初回は体表的な疾患を紹介します。

1.心臓弁膜症

心臓にある弁に何らかの障害が起き正しく機能せず、本来の役割を果たせなくなる病気です。

弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流してしまう「閉鎖不全」があります。

2.心房中隔欠損症

右心房と左心房を隔てる壁を心房中隔と言い、この心房中隔に穴が空いた病気。

3.心筋梗塞

虚血性心疾患のうちのひとつで、心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給している冠動脈血管に閉塞や狭窄などが起きて血液の流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死する病気。

4.狭心症

心臓の筋肉である心筋に酸素を供給している冠動脈に動脈硬化が起こり一過性の心筋の虚血のための胸痛・胸部圧迫感などの主症状を呈する虚血性心疾患のひとつ。

5.胸部大動脈瘤

大動脈が胸部(胸郭)を通過する部分の壁に膨らみが生じた状態のことです。

真性大動脈瘤の多くは破裂しない限り無症状で、大きくなっていくと周囲の組織を圧迫して、胸部大動脈瘤なら咳、血痰、胸痛、背中の痛みが、腹部大動脈瘤なら腰痛や腹痛などがみられます。

6.心房細動

心房が細かく動き心房が痙攣したようになり、血液をうまく心臓から全身に送れなくなる病気です。

7.心室細動

心室が1分間に300回以上不規則に震えるように痙攣する状態のことで、これが起こると脳に血液を送れなくなるため意識を失い、死に至る緊急事態となります。

できるだけ早く電気的除細動により心臓の周期的な拍動を取り戻すことが必要とされます。

心筋梗塞や、心筋症の人で出やすくなります。

2018年3月19日月曜日

糖尿病について-3.J-DOIT3試験-

【J-DOIT3試験とは】

J-DOIT3試験とはジェイ・ドゥイットスリーと呼ばれ、Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases の略称です。

J-DOIT3試験は,血糖(HbA1c),血圧,脂質の統合的強化療法を標準療法と比較した大規模医師主導試験で、デンマークで実施されたSteno-2試験の日本版試験といえるものです。

日本で行われた大規模臨床試験「J-DOIT3」の最新の成果が、9月にポルトガルのリスボンで開催された第53回欧州糖尿病学会(EASD 2017)で発表されています。

J-DOIT3試験は,対象患者数が2542人と多く長期の追跡(中央値8.5年)も行われていることから近年のライフスタイルや医療環境の改善によるイベント発生率の低下が大きく貢献しているものと考えられています。

【J-DOIT3試験の方法】

糖尿病患者を以下の二つのグループに分けて検討を行っています。

1.従来治療群

糖尿病ガイドラインに沿った治療を実施

2.強化治療群

・HbA1c 6.2%未満

・血圧 120/75mmHg未満

・LDLコレステロール 80mg/dl

【試験結果】

従来治療群及び強化治療群共に合併症発生率は低く押さえられていますが、強化治療群は従来治療群よりも合併症の発症率を19%も減らすことが出来ています。

【合併症の低下率】

・脳卒中 58%

・糖尿病腎症 32%

・糖尿病網膜症 14%

と合併症を大きく減らす効果が明らかになっています。

【J-DOIT3試験の結果からして今後の治療法は】

血糖値だけでなく血圧やコレステロール値を下げる治療法が今後積極的に行われるようになってきています。

2018年3月6日火曜日

糖尿病について-2.合併症-

糖尿病で恐いのは全身くまなく現れる合併症です。

高血糖が続くと、体のいたるところで血管が詰まったり破れたりすることで、さまざまな合併症が起こります。

三大合併症として知られる"糖尿病網膜症"・"糖尿病腎症"・"糖尿病神経障害"は、いずれも細小血管障害で、糖尿病発病から5年で神経障害、7~8年で網膜症、10~13年で腎症が出現するとの統計結果があります。

しかし、実際は合併症の発症の順序や発症までの期間はあくまでも統計結果であり、人それぞれ合併症の現れる期間は異なることから必ずしもこのようになるとは限りません。

1.糖尿病腎症

血糖値が高い状態が20年ほど続くと、腎臓が機能しなくなり人工透析の適応となります。
透析は週に3回、各4時間行う必要があり、腎臓を移植しない限り、透析は一生続ける必要があります。

透析を受けているのは現在約32万人で毎年5,000人のペースで増加中という統計結果があります。

2.糖尿病神経障害

神経細胞に血液が届かなくなり、全身の神経に障害が起こり、発汗異常や立ちくらみ、便通異常、男性の場合は勃起障害も起こります。

ほんの軽い傷や水虫により足が腐り切断しなればならなくなります。

毎年およそ2万人が足を切断しています。

3.糖尿病性網膜症

初期のうちは自覚症状がないことから気づくことは稀です。

ある程度病状が進行すると、目のかすみ、視力障害、眼底出血による突然の視力低下などが起こり、放置すれば失明することもあります。

要するに血行障害から眼底の血管がつまり、視力の低下から、悪化すると失明状態になる訳です。

中途失明の原因の第1位は糖尿病によるものです。

失明する例は最近では年間3000人(約5人に1人)で、現在わが国における成人の失明原因の第1位となっています。

初期の段階では血糖を正常にコントロールすることで改善されますので、検診で糖尿病と診断された場合、内科はもちろん定期的に眼科を定期的に受診する必要があります。

失明を防ぐために光凝固法、レーザー凝固法、冷凍凝固法などで網膜症の進展を遅らせることができます。

その他の合併症

1)心筋梗塞

糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて心筋梗塞になるリスクが3倍ほど高いという統計結果があります。

突然胸の中央あたりに激痛が走り、30分以上、場合によっては何時間も痛みが続き意識を失う事があります。

梗塞が起こる場所によっては10分ほどで死に至る事があります。

2)脳梗塞

糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて脳梗塞になるリスクが男性で2.2倍、女性では3.6倍も高いという統計結果があります。

※糖尿病の治療では、可能な限り初期の段階で血糖コントロールを開始することにより大血管障害や細小血管障害などの糖尿病合併症のリスクを回避する上で極めて重要となります※

2018年2月26日月曜日

糖尿病について-1.日本における糖尿病患者の現状-

糖尿病についてシリーズで解説していきます。

日本人はインスリンをつくる能力が低い民族であるといわれています。

そのため、軽い肥満や少しの運動不足でも、糖尿病になりやすい事が知られています。

糖尿病とは、"血糖値が高い状態が続く病気"で それ自体は大した病気ではありませんが、何と言っても恐いのは合併症です。

血糖値が高い状態が続くと、体のいたるところで血管が詰まったり破れたりすることが原因で、さまざまな合併症が起こります。

糖尿病は、血糖値が病的に高い状態をさす病名であり、"インスリン依存型"と"インスリン非依存型"の2つのタイプがあります。

1.インスリン依存型は、先天的にインスリンが不足するために高血糖になるタイプで「1型糖尿病」と呼ばれ、多くは児童期に発症します。

2.インスリン非依存型はインスリンは分泌されているにも関わらず、その働きが悪いために糖をエネルギーに変えることができず高血糖となる成人に多いタイプで、「2型糖尿病」と呼ばれます。

日本人の糖尿病患者のほとんどが「2型糖尿病」です。

【日本における糖尿病の現状】

厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」には以下のように解説されています。

糖尿病が強く疑われる人の割合は、12.1%であり、男女別にみると男性16.3%、女性9.3% である。

糖尿病の可能性を否定できない人の割合は12.1%であり、男女別にみると男性12.2%、女性12.1%である。

更に糖尿病が強く疑われる者は約1000万人と推計され、平成9年以降増加傾向にある。

また、糖尿病の可能性を否定できない人も約1000万人と推計され、平成9年以降増加していたが、平成19年以降減少して来ている。

【日本における糖尿病の治療現状】

糖尿病が強く疑われる人の内、現在治療を受けている人の割合は76.6%で、男女別にみると男性で78.7%、女性で74.1%で男女とも有意に増加している。

性・年齢階級別にみると、40歳代男性では治療を受けている割合が他の年代よりも低い傾向が見られます。

【日本における糖尿病患者数】

厚生労働省の「患者調査」によると、糖尿病の患者数は316万6000人となり、前回(2011年)調査の270万から46万6,000人増えて過去最高となっています。

2018年2月20日火曜日

人獣共通感染症-7.細菌性人獣共通感染症としてのエルシニア・エンテロコリチカー

エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)は、豚、犬、猫などの腸管や自然環境中にいる細菌です。

シカ、イノシシ、ネズミなどの野生動物、犬や猫などのペットの糞便、河川水などから見つかっています。

エルシニア・エンテロコリチカは、1939年に胃腸炎の原因菌として発見され、その後発生頻度が低いことから忘れられていましたが、1970 年代になって豚肉の汚染と関連して注目を浴び、米国では年間 3000~20000人の患者発生があると推定されています。

ヒトに対して病原性を示す血清型の分布調査で、健康なブタ、イヌ、ネコ、 ネズミなどが保菌しており、これから飲食物への汚染が感染経路と考えられています。

食中毒の起炎菌として有名ですが、ペットや動物からも感染する人獣感染症としても注目されています。

【菌の性状】

0~4度の冷蔵庫内の温度でも増殖可能です。

このように寒冷に強いため、エルシニアは"好冷菌"と呼ばれることもあります。

【症状】

臨床症状は腹痛や下痢などの胃腸炎症状が主なもので、発熱、頭痛など、風邪のような症状を伴うこともあります。

右下腹部痛(特徴的)・吐き気・嘔吐などの症状から虫垂炎と診断されてしまう場合もあります。

【検査】

エルシニア感染症の確定診断には、糞便からエルシニア菌の検出が必要となります。

下痢便には多くのエルシニア菌が存在するので、選択培地で直接分離することが可能で、分離培地にはSS寒天、マッコンキー寒天、CIN 寒天などを用います。

患者の初期血清と回復期血清でエルシニア菌に対する血液中の抗体価を測定します。

エルシニア菌の分離ができず、抗体価の上昇が認められた場合でも、本感染症が強く疑われます。

【治療】

自然治癒傾向が高いので、食事制限をし、水分を多めに取る以外は特別な治療は必要ありません。

たまに重症化する事がありますが、この場合は抗菌剤を使用します。

トリメトプリンサルファメトキサゾール(ST合剤)、セフォタキシム、フルオトキノロンなどが効果があるとされています。

【予防】

1.この菌は低温でも増殖しますから、冷蔵庫を過信しない。

冷凍された食品中でも、長期にわたって生存可能ですので注意が必要です。

2.生の肉や、加熱不十分な肉は、食べない。

3.生水を飲まない。

4.料理前、食事前は、手をよく洗う

5.ペットや動物と接触した後、生の肉を扱った後、トイレの後は良く手を洗う。

6.肉用のまな板と他の食材用のまな板とは区別する。

7.ペットの糞は衛生的に処理する。

【献血とエルシニア】

エルシニアに感染した場合血液中にエルシニアが入り込んでいますから献血はできません。
エルシニアの含まれた血液は4~6度で保存しても菌は死ぬことはなく増殖しています。

その為1ケ月以内に発熱を伴う食中毒と見られる激しい下痢をした人は献血はできません。

輸血を介したエルシニア・エンテロコリティカの感染についてわが国では報告例がありませんが、米国では死亡の危険率は輸血1単位当たりおよそ900万の1と推定されています。
米国においては1987~1988年に4例の輸血に関連したエルシニア・エンテロコリチカ菌血症の報告があり、1989年1月~1991年2月にさらに6例の報告があります。

6名の患者はいずれも輸血開始後50分以内に発熱,血圧低下をきたし,内1名は10分以内に激烈な下痢をおこし、6名中4名は12時間~37日の間に死亡しています。

現在、スクリーニングに適した信頼性のある検査法は存在していません。

米国において1987~1988年に4例の輸血に関連したエルシニア・エンテロコリチカ菌血症の報告されていますが,1989年1月~1991年2月にさらに6例の報告があり6名の患者はいずれも輸血開始後50分以内に発熱,血圧低下を起こし,内1名は10分以内に激烈な下痢が起こり、6名中4名は12時間~37日の間に死亡しています。

2018年2月12日月曜日

人獣共通感染症-6.細菌性人獣共通感染症としてのサルモネラ症

サルモネラ感染症の原因菌はサルモネラ(サルモネラ・エンテリティディスなど)によって引き起こされます。

サルモネラはおよそ2,000種類以上の血清型に細分されており、チフス性疾患をおこすチフス菌およびパラチフス菌も含まれるが、ここではヒトに胃腸炎、つまり食中毒の原因となるサルモネラについて解説いたします。

サルモネラ菌は自然界のあらゆるところに生息し、家畜、ペット、鳥類、爬虫類、両生類が保菌し食中毒ならびに人畜共通感染症の重要な原因細菌のひとつです。

国内では、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)での感染報告が多く、国内で飼育されているカメ類のサルモネラ保菌率は18%、その他トカゲ類で75%、ヘビ類で90%であるとの報告があります

サルモネラ感染症は、近年ではペットの犬や猫をはじめ爬虫類や両生類から人へ感染した事例が多数報告されています。


【症状】

潜伏期間は、5~72時間(平均12時間)です。

小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しますが、小児や高齢者はわずかな菌量でも感染してしまいます。

人への感染は、主として成人では急性胃腸炎を引き起こします。

小児や高齢者が感染した場合には、症状がより重篤化し、菌血症を併発しやすくなります。

サルモネラ菌に感染した犬・猫をはじめ小動物では、一般的に急性胃腸炎として嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失が認められ、特徴的な所見はほとんどないので見過ごされることが多いので注意が必要です。


【検査】

新鮮な糞便を分離・同定、抗生物質の感受性試験などを実施します。

サルモネラの特異的な迅速診断法は2018年現在存在しません。

【治療】

アンピシリン(ABPC )、ホスホマイシン(FOM )、およびニューキノロン薬に限られます。

【予防】

サルモネラの予防は原因食品、特に食肉および鶏卵の低温保存管理、またそれらの調理時および調理後の汚染防止が基本となりますが、ペット等からの感染も無視できません。

サルモネラ菌は、動物の消化管に保菌されており糞便から人の口に入り感染する場合も多いので、動物に触れた後は必ず早めに手をよく洗う必要があります。

ペットとの不用かつ安易な濃厚な接触(餌の口移しなど)をしない。

サルモネラ菌は、色々な消毒剤が有効です。

消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、逆性石けん液(ベンザルコニウム塩化物液)など、市販されているほとんどの消毒剤が有効です。

2018年2月4日日曜日

人獣共通感染症-5.細菌性人獣共通感染症としてのコリネバクテリウム・ウルセランス感染症

犬や猫などから人間にうつるとされる人獣共通感染症「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」による死者が2018年1月14日国内で初めて確認されました。

国立感染症研究所調べによりますと、国内では2001年から2017年11月末までに25例の発生が確認されています。

【感染経路】

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症は、家畜やペットの動物が持つ「コリネバクテリウム・ウルセランス菌」に感染することで起きる人獣共通感染症です。

コリネバクテリウム・ウルセランスはジフテリア菌に類縁なグラム陽性の短桿菌で、おもに家畜などの動物に常在しており、ウシの乳房炎の原因となることがあります。

人から人に感染することはほとんどありません。

【症状】

症状としては、基本的にジフテリアと類似した臨床症状を示します。

喉の痛みや咳など風邪の症状が出て、重症化すると呼吸困難などで死亡することもあります。

【検査】

患者の体液を培養し、病原菌を単離、同定するか、PCRを用いて検査する。

【治療法】

マクロライド系抗菌薬が有効とされています。

【予防法】

人での国内感染事例の多くは犬や猫からの感染であることが確認されていることから、この菌に感染した動物と接する場合には注意が必要となります。

感染した動物は、くしゃみや鼻汁などの風邪に似た症状や皮膚病を示すことがあり、動物間で感染が拡大することも報告されていますので注意が必要となります。

無症状の保菌動物の存在も報告されています。

日常生活において過度に神経質になるのではなく、一般的な衛生管理として動物と触れあった後は手洗いを確実に行うことなどにより、感染のリスクを低減することが可能となります。

【感染対策】

国内では、人に対する定期の予防接種の対象である3種混合(最近では4種混合)ワクチンにジフテリアトキソイド(ワクチン)が含まれていますので、このワクチンはコリネバクテリウム・ウルセランス感染症に対しても有効であると考えられています。