血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2019年12月27日金曜日

正しく知ろうインフルエンザ-1.インフルエンザとは-

2019年11月13日、国立感染症研究所より、インフルエンザの流行入りが発表されました。

過去20年間で2番目に早い流行入りです。

今回から数回に渡りインフルエンザについて詳しく解説していきます。

【インフルエンザとは】

インフルエンザとはインフルエンザウイルスによって引き起こされる上気道炎症状・呼吸器症状を呈する急性感染症です。

季節性インフルエンザには、A型、B型、C型 の3種類が存在し、A型によるインフルエンザが全体の95%を占め、残りはほとんどがB型によるもので、C型インフルエンザは発生数が少なく主に小児にみられますが、典型的なインフルエンザの症状を引き起こしません。

流行を引き起こすインフルエンザウイルスの株は常に少しずつ変化していて、毎年、前年とは多少異なるインフルエンザウイルスが登場することによって以前に効果的だったワクチンが効かなくなります。

【感染経路】

ウイルスは、感染者のくしゃみやせきで周りに飛び散った飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。

【潜伏期間】

症状は感染後1~4日に突然生じます。

【症状】

悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。

症状の大半は2~3日で治まりますが、発熱は5日目まで続くことがあります。

せき、脱力、発汗、疲労感が数日間、ときには数週間続きます。

気道に軽い刺激を感じ、激しい運動や長い運動ができなくなることがあり、軽い喘鳴(ぜんめい)が完全に消失するまで6~8週間もかかることがあります。

2019年12月23日月曜日

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症とは、グラム陽性の偏性嫌気性菌であるクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile infection:CDI)によって引き起こされる感染症で抗菌薬関連下痢症/腸炎を引き起こします。

抗菌薬使用歴のない患者でクロストリディオイデス・ディフィシル感染症を認めることもあります。

【クロストリディオイデス・ディフィシル】

ディフィシル菌は、ヒトや動物の腸内に住む常在菌であり、健康な成人の大便からは2~15%の頻度で検出されます。これに対し、健康な乳幼児の大便には15~70%の高い頻度でこの菌がみられ、毒素も高い濃度で検出されますが、不思議なことに臨床症状はまったく認められません。これについてはさまざまな要因が議論されていますが、いまだ明確にはされていません。

この最近の特徴としては、芽胞を形成することから酸素が存在する環境や乾燥した環境でも死滅することなく生きていることです。

院内感染の原因細菌としてしばしば院内アウトブレイクを引き起こします。

病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生が見られることがあります。

【感染経路】

クロストリジウム-ディフィシルで汚染された器物が病院・老人施設等の施設内で感染を広げた例としては、共用していたポータブルトイレ、新生児用の風呂桶、電話機、直腸用電子体温計の持ち手部分、呼び出しスイッチ、トイレの電気スイッチなどがあります。

【潜伏期間】

はっきりと確定されておらず、1週間未満、2~3日程度で発病することもありますし、抗生物質による治療終了や退院から発病までの期間が長期に亘ることもあります。

【症状】

下痢や腹痛を引き起こしますが、軽症例がほとんどですが、重症となり腸閉塞・消化管穿孔・敗血症を引き起こし死亡する場合もあります。

血液の検査では、白血球数増加(40%)や低アルブミン血症(76%)を認めることもあります。
【どのような人に発症するのか】

クロストリジウム-ディフィシル感染症は、すべての年齢層で見られますが、65歳以上の老人での発生が多く、老人に限らず、免疫機能が低下している人たちでの発生が多いです。

最近2~3ケ月以内に他の感染症を治療するために抗生物質を使用していることが、クロストリジウム-ディフィシル感染症を誘発する最も主要な要因です。

【治療方法】

クロストリジウム-ディフィシルは、多くの抗生物質が無効です。

誘因となっていると思われる抗生物質や抗がん剤等の使用を中止します。

抗生物質の中止後2~3日以内に23%の患者でクロストリジウム-ディフィシル感染症の症状が改善するとされています。

中止後2~3日で下痢等の症状が改善しない場合や重篤な場合は、メトロニダゾールやバンコマイシンといったクロストリジウム-ディフィシルに有効な抗生物質による内服治療を行います。

【予防法】

病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生を防ぐためには、手洗いの徹底により、患者・医療従事者・介護者がクロストリジウム-ディフィシルを他の人へと運ばないことが大切です。

医療従事者・介護者は入院患者・入居者等との接触の前後で石ケンと流水での手洗いを徹底する必要があります。

※アルコールによる手の消毒は、クロストリジウム-ディフィシルの芽胞には無効です※

※芽胞:一部の細菌が形づくる、極めて耐久性の高い細胞構造を言い、そして極めて高い耐久性を有し劣悪な環境で通常の細菌が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能です※

※近年多用されているアルコールによる手の消毒は、特に下痢症の原因となるクロストリジウム-ディフィシルやノロウイルスなどには無効である点に留意する必要があります※

環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムが有効です。

健康体の人は、通常、クロストリジウム-ディフィシル感染症にはなりにくいです。

大切なことは特に、トイレの後や食事の前には、石ケンを使用して流水で手をよく洗うことです。

【流行の実態】

2010年2月、埼玉県内の病院で入院患者12人(31~91歳)が集団感染し、うち1人(71歳男性)が死亡しています。

下痢等が見られた他の患者については重症化していません。

米国においては、毎年、約50万人前後のクロストリジウム-ディフィシル感染症の患者が発生していると推計されており、毎年約15,000~20,000人の患者が死亡していると推計されています。

【検査】

1.便中のクロストリジウム-ディフィシル毒素検査により診断する。

2.イムノクロマト法を利用した検査キットで、糞便中の本菌の存在とトキシンを調べることができる。

グルタミン酸デヒドロゲナーゼは、この菌が産生する酵素であることから、糞便中にこの酵素が存在すればクロストリジウム-ディフィシルが糞便中に存在することになります。

トキシン産生性については、トキシンAとトキシンBの両方を見つけることが出来ます。

判定

・グルタミン酸デヒドロゲナーゼ陰性かつトキシン陰性・・・クロストリジウム-ディフィシルは存在しない。

・グルタミン酸デヒドロゲナーゼ陽性かつトキシン陽性・・・クロストリジウム-ディフィシルが存在。

・ルタミン酸デヒドロゲナーゼ陽性でトキシン陰性・・・偽陰性。

3.トキシンB遺伝子検査

感度・特異度ともに高い検査法で、自動機器を使って全自動検査が出来ます。

2019年12月9日月曜日

血液型について-6.マラリアと血液型の関係について-

血液型と疾患の関係は昔から多く論じられてきましたが、生化学的に証明されたものはなく大部分は数字を使用したこじつけ的なものです。

寄生虫と関連を持つ血液型については、これを生化学的に裏付けるものがあります。

数ある血液型の中のひとつのDuffy(ダフィー)式血液型は、三日熱マラリア原虫の感染に対して抵抗性があることが証明されています。

Duffy式血液型とは、Fy(a)とFy(b)のふたつの抗原から成り立っていて、Fy(a)とFy(b)には遺伝的優劣はありません。

この血液型の表現型は、Fy(a+b+)、Fy(a+b-)、Fy(a-b+)、Fy(a-b-)の四型からなり、Fy(a)とFy(b)の両方の抗原を持たないFy(a-b-)の人は三日熱マラリア原虫には感染しません。
しかしFy(a)とFy(b)を持つFy(a+b+)、Fy(a+b-)、Fy(a-b+)の人は、三日熱マラリア原虫に感染します。

Fy(a-b-)は非常にまれな表現型で、白人と日本人の発現頻度はほぼゼロです。

アフリカ系黒人ではFy(a-b-)の発現頻度は、68%と高頻度です。

北アメリカ大陸在住のアメリカ・インディアンにもFy(a-b-)の人は存在し、やはり三日熱マラリア原虫の感染に対して抵抗性があることが確認されています。

このDuffy式血液型と三日熱マラリア原虫の関係は、特定の地域においては自然淘汰の重要な要因であったものと考えられています。

Fy(a-b-)型はアフリカのサブサハラの三日熱マラリア流行地に遺伝的起源を持つ人に非常に多いのに対して、それ以外の地域に起源を持つ人にはほとんど存在しません。

タンパク分解酵素を使用して赤血球上のFy(a)抗原とFy(b)抗原を壊すと三日熱マラリア原虫は赤血球に感染しなくなることから、Fy(a)抗原とFy(b)抗原には三日熱マラリア原虫が感染する受溶体が組み込まれていることが明らかにされています。

要するに三日熱マラリア原虫は、赤血球上にあるFy(a)抗原とFy(b)抗原から赤血球の中に入り込み感染するということです。

【追加事項】

マラリア原虫には、熱帯熱マラリア原虫・卵形マラリア原虫・四日熱マラリア原虫・三日熱マラリア原虫の四種類がありますが、Duffy式血液型と関係があるのは三日熱マラリア原虫です。

2019年11月28日木曜日

血液型について-5.後天性獲得B(acquired B)について-

ABO式血液型は時には理解しづらい現象を引き起こします。

今回は本来A型である人がAB型に変化する事例を紹介します。

直腸・結腸癌の患者の状態が悪くなるとA型患者が後天的にB型抗原を獲得して一見AB型様の反応を示す現象が起こることがあります。

後天性獲得Bは、直腸・結腸癌の癌患者が細菌感染を起こした時に、A抗原が少し変異してB様抗原になって抗Bと弱く反応しAB型と判定されます。

直腸・結腸癌の患者の状態が改善されるに従い後天性獲得BのB型は少しずつなくなり、本来のA型に戻ります。

直腸・結腸癌の患者の状態が改善されずに不幸にも死亡した患者は、後天性獲得Bのままであることが多いことが経験されています。

後天性獲得Bは、A型の人がなり、O型の人が後天性獲得Bになることはありません。

この後天性獲得BのB型抗原はヒト由来及び動物免疫由来の抗B判定血清で起こりますが、モノクロ-ナル抗体由来の抗B血液型判定用血清とは反応しません。

※モノクローナル抗体とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体※

※ヒト由来及び動物免疫由来抗体は、複数の抗原で免疫されてできたもので、ポリクローナル抗体と呼ばれる※

現在のABO式血液型判定にはヒト由来及び動物免疫由来判定用血清はほとんど使用されることなく、大部分がモノクローナル抗体由来の判定用血清を使用していることから後天性獲得Bは検出されなくなってきています。

モノクローナル抗体由来の判定用血清の使用が主流になったことから、後天性獲得Bは消えてなくなったということになります。

血液の鉄人も40年以上前に63歳の女性の直腸がん患者が後天性獲得Bとなった症例を経験しています。

2019年11月18日月曜日

血液型について-4.白血病によるA型の変化-

ABO式血液型は、一生不変であることは周知の事実ですが、ある種の疾患によつて稀に変化することがあります。

そう白血病になるとA型が変化することがあるんです。

白血病の末期になると、A型があたかも0型のように、あるいは完全に0型に変化することがあります。

しかし、白血病が寛解するともとのA型に戻り、悪化すると再び0型に変化します。

※寛解とは、病気が永続的であるか一時的であるかを問わず症状が好転またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態を言います※

この現象は自血病の病状が悪化するのに正比例して本来のA型がよリー層O型に近づきます。

また、この現象は白血病の種類に関係なく発現するが、すべての白血病患者に発現するとは限りません。

B型がO型に、AB型がO型に変化することも報告されていますが、何故かA型の変化が圧倒的に多いのが現実です。

白血病が誘引となってABO式血液型が変化する原因については、諸説があり確定的なことは解明されていません。

血液の鉄人もA型の白血病患者の血液型がO型に変化した事例を数例経験しています。

2019年11月11日月曜日

血液型について-3.AB型とO型の親からAB型の子供は生まれるのか??!!-

ABO式血液型は、例外なくメンデルの遺伝の法則に従つて遺伝するために親子鑑定に応用されてきました。

ところが"両親のいずれかがAB型の時には、0型の子供は生まれることはなく"、また"両親のいずれかが0型の時には、AB型は生まれない"との原則に例外があることが1966年に発見された。

1966年、大阪府赤十字血液センターの山口英夫博士(2019年死去)らは、0型とAB型の両親から家族3名全員がAB型の家系を発見しました。

このAB型の血清学的性質従来のAB型とは異なり、A型およびB型抗原は普通のAB型の反応よりかなり弱いものでこの遺伝学的背景は従来のメンデルの遺伝の法則によつては到底説明出来ませんでした。

その後、多くの研究者により同様の家系が発見されるに至つて、このメンデルの遺伝の法則に基づかない遺伝様式も説明可能となりました。

山口らは、この特殊な遺伝をする血液型を“Cis AB(シスAB)"と命名しました。

ABO式血液型の遺伝は、A遺伝子とB遺伝子は異なつた染色体に乗つて遺伝しますが、“CisAB"はA遺伝子とB遺伝子が同一染色体に乗つて遺伝するためにこのような異例の遺伝様式をしたわけです。

普通のAB型は"trans AB(トランスAB)"と呼ばれ遺伝子型はA/Bと表記されますが、この特殊な遺伝子型をA2B3/0と表記します。

普通はAB型とO型の両親からは、A型とB型が生まれAB型は生まれません。

普通のAB型の遺伝の場合:A/BとO/O→A/OとB/OなりA型とB型が生まれAB型は生まれません。

CisABの遺伝の場合は、A2B3/0とO/O→A2B3/0とO/OとなりAB型が生まれます。

この“Cis AB"の発現頻度は00012%と非常に稀なために、遺伝様式がメンデルの遺伝によることがないことから親子鑑定にも大きな影響を与えたり、産婦人科による新生児の取り違え騒動に発展することがあるので注意が必要です。

血液の鉄人もCisABの家系を数家系見つけていますが、産婦人科による新生児の取り違えや家系騒動となった事例を経験しています。

この血液が発見された当時は、興味あることにこの“ClsAB"の家系は徳島県と石川県に多く見られていましたが、現在は人の往来が多様化されたためにこの傾向は見られなくなっています。

2019年11月1日金曜日

重症熱性血小板減少症候群

重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:SFTS)は、SFTSウイルスを保有しているマダニに咬まれることにより感染するダニ媒介感染症で、感染症法では四類感染症に位置付けられています。

【SFTSウイルスとは】

SFTSウイルスは2011年に中国より報告されたマダニ媒介性の新興ウイルス感染症で、国内SFTSウイルス自体は,以前から国内に存在していたと考えられていましたが,平成25年1月に初めての症例が確認され,現在までに,全国では24府県で475例(うち69例で死亡)の症例が確認されています(2019年9月25日現在)。

【感染経路】

主にSFTSウイルスを保有するマダニに刺咬されることで感染する。

 【潜伏期】

6~14日

【臨床症状】

発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)を主張とし、ときに、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などを伴い、血液所見では、血小板減少(10万/μL未満)、白血球減少(4000/μL未満)、血清酵素(AST、ALT、LDH)の上昇が認められる。

【致死率】

10~30%程度。

【診断】

血液、血清、咽頭拭い液、尿から病原体や病原体遺伝子の検出、 血清から抗体の検出。

【治療】

特効薬はなく対症療法しか存在していません。

【予防】

草の茂ったマダニの生息する場所に入る場合には、長袖、長ズボンを着用し、肌の露出を極力さけ、マダニに咬まれない予防措置を講じる

【日本に存在するマダニ】

日本には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされていますが、これまでに実施された調査の結果、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からSFTSウイルスの遺伝子が検出されて、日本国内ではフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニがヒトへの感染に関与しています。

【ペットから感染する可能性は】

SFTSウイルスに感染して重症熱性血小板減少症候群に類似する症状を呈したネコに噛まれて重症熱性血小板減少症候群を発症した患者が確認されています(第92回日本感染症学会発表.2018年)。

同様にSFTSウイルスに感染して重症熱性血小板減少症候群様症状を呈したイヌとの接触により重症熱性血小板減少症候群を発症した患者も確認されています(第92回日本感染症学会発表.2018年)。

これらはまれな例ですが、ペツトや野良猫などからの感染も気をつける必要があります。

ペットに付いているマダニに触れたからといって感染することはありませんが、マダニに咬まれれば、その危険性はありますので、ペットのマダニは獣医師に相談して駆除する必要があります。