血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2012年7月22日日曜日

C型肝炎検査-1.HCV抗体検査-


C型肝炎とは、C型肝炎ウイルス (HCV) に感染することで発症するウイルス性肝炎のひとつです。

C型肝炎ウイルス(HCV)が体内に侵入すると、身体はこれに対抗するためにHCV抗体という感染抗体つくります。

HCVは、直径55~57nmの球形をしたRNA型のウイルスで、HCV粒子は二重構造をしており、ウイルスの遺伝子(RNA)とこれを包んでいるヌクレオカプシド(コア粒子)、そして、これを被う外殻(エンベロープ)から出来ています。

HCV抗体とは、HCVのコア粒子に対する抗体(HCVコア抗体)、エンベロープに対する抗体(E2/NS-1抗体)、HCVが細胞の中で増殖する過程で必要とされるタンパク(非構造タンパク)に対する抗体(NS抗体:C100-3抗体、C-33c抗体、NS5抗体など)のすべてを含む総称です。

そのHCV抗体の有無及びその量(HCV抗体価)を血液検査によって調べるのがHCV抗体検査です。

HCV抗体陽性の人の中には、『現在HCVに感染している人(HCVキャリア)』と『HCVに感染したが治ってしまった人(感染既往者)』とが存在します。

そのため、HCV検査が陽性となった時は必ず、体内に今「HCVがいるかどうか」の精密検査が必要で、HCV抗原検査およびHCV核酸増幅検査を肝臓専門医によって調べて貰う必要があります。

HCV抗体陽性例のうち、HCV抗体「高力価」群では、その98%以上にHCV RNAが検出される即ちHCVキャリアですが、HCV抗体「低力価」群では、そのほとんどがHCV RNAは検出されないことから、ほとんどがHCVの感染既往例と判断されます。

HCVに感染した直後は、身体の中にHCVがいても、HCV抗体が作られる以前(HCV抗体陰性)の時期(HCV感染のウインドウ期)に検査を受ける場合もありますが、これは新規のHCV感染の発生が少ないわが国ではごくまれなこととされています。

C型肝炎は進行が極めて遅く、感染後10~20年たってから発病します。

急性肝炎では症状が現れず、気付かない人が殆どで、身体の中からHCVが排除されないまま無症候性キャリア(体内にウイルスがいるが障害が見られない状態)や慢性肝炎に移行します。

気付かないうちに病気が進行し肝硬変になると、10年後には70%の人が肝臓がんになります。

日本におけるHCV感染の原因は、20年ほど前までは注射針の共用や輸血用血液で大勢の人が感染した経緯があるので、1980年代以前に輸血を受けた人や針の使い回しで予防接種を受けた人は、症状の有無に関わらず検査を受けたほうがよいでしょう。

近年では、輸血時のHCV検査が行なわれているので、輸血によるC型肝炎は極めて少なくなってきています。

また、注射器の使い回しをしないことから予防接種や注射、採血からのHCV感染はありません。

【HCV抗体検査の受け方】

血液で調べます。

スクリーニング検査では、HCV抗原は測定せず、HCV抗体を測定して感染の有無をチェックします。

食事をしてからの検査でも何の問題はありません。

【基準値】

陰性(-)

※HCV抗体は感染後1ヶ月で血液中に現れるため、感染直後は陰性でも、1ヶ月後に陽性となることがあります※

※HCVの感染力は非常に弱く、現在では性行為での感染はまず無いと考えられています。

2012年7月15日日曜日

性行為感染症検査-14.梅毒血清反応定量法-


梅毒血清反応には、カルジオリピンを抗原とするSTS検査としてのガラス板法とRPR検査(現在ガラス板法はほとんど実施されていません)と梅毒トレポネーマを抗原とするTP検査があることはよく知られていることです。

これらの検査は、単に陽性(+)または陰性(-)だけを判定するのではなく、陽性の場合は血清を生理食塩水で2倍連続希釈して何倍まで陽性となるかを判定します。

これを抗体価と呼びます。

※事例 RPR法 128倍、TPHA 5120倍

単に陽性と陰性を判断するのは、「定性検査」と呼びます。

一方血清を希釈して何倍まで陽性であるを調べるのは、「定量検査」と呼びます。

「定量検査」は、梅毒の治療の判断のために必要な検査法です。

【定量検査の解釈】

1.RPR法4倍、TPHA陰性の場合は、偽陽性反応(BFP:生物学的偽陽性反応)の疑いが濃く、1ケ月後に再検査を行い、同じ結果であればSTSの偽陽性反応と判断します。

本当に感染していれば、1ケ月の時間経過により体内に梅毒抗体が産生されていることからSTSの定量値も高くなり、当然TPHAも陽性となっています。


2.RPR法16倍以上、TPHA陰性の場合は、1期梅毒と判断し治療を開始します。

この場合、FTA-absを実施して陽性を確認します。

3.RPR法16倍以上、TPHA640倍以上の場合は、2期梅毒と判断し治療を開始します。

4.RPR法陰性、TPHA640倍の場合は、無症候性梅毒あるいは過去に梅毒に感染したという梅毒既往ありと判断し治療せずに経過観察を行い、RPR法が陽性とならない場合は、過去の感染経歴として治療は行いません。

※TPHAは梅毒が完治した後も長期間或いは一生涯高い定量値のまま推移しますから、梅毒血清反応の解釈の不得手な医師により、治療か必要と誤診されて不必要な治療を加えられるケースが多く見られます※

性行為感染症の専門家でない医師は、抗生物質治療によってSTSが陰性化して、体の中の梅毒トレポネーマが死滅しているにもかかわらず、TPHAやFTA-absが陽性であることから、「梅毒は治っていない」として、TPHAやFTA-absが陰性化するまで抗生物質の投与が必要として治療続けますが、これは完全な間違いです。

幾ら強力に抗生物質を投与し続けても、TPHAやFTA-absが陰性化することはありません。

梅毒の治療効果の判定には、TPHAやFTA-absなどのTP検査は使用できません、STSの「定量法」で行います。

2012年7月8日日曜日

性行為感染症検査-13.唾液によるHIV抗体簡易検査


2012年7月3日、米食品医薬品局(FDA)は家庭で素早くHIV抗体検査(HIV-1/-2)が実施できる初の市販検査キットを承認しました。

FDAは1996年にも家庭で行えるHIVの検査キットを承認していますが、このキットは検体を検査機関に送付する必要があるものでした。

今回承認されされた簡易HIV抗体検査キットは、米国オラシュア・テクノロジーズ社が開発したもので、『オラクイック・インホームHIVテスト』と呼ばれるもので、歯茎を拭って採取した検体(唾液)を溶液の入った小瓶に入れると、陰性であればラインが1本、陽性であれば2本のラインが表示されるというもので、検査の所要時間は20分程度だということです。

この検査キットの信頼性は、危険な行為から3ケ月後に実施すればほぼ100%の信頼性が得られますが、3ケ月より早い時期に検査をすれば信頼性は低くなるとのことです。

※これはどのHIV抗体検査についても言えることです※

一方、偽陽性反応の出現率は、5000人に1人という結果が得られています。

※偽陽性反応の出現率は、血液を使用する迅速抗体検査に比べて低いと考えます※

この検査キットは、米国では、2012年10月上旬頃には店頭とネットで販売される予定です。

米国での販売が開始されれば、日本国内においても個人あるいは、代行業者によってこのキットを輸入して使用出来ると考えられます。

参考のために、オラシュア・テクノロジーズ社が提供した『オラクイック・インホームHIVテスト』の写真を紹介しておきます。




2012年7月1日日曜日

性行為感染症検査-12.ケジラミ症の検査


ケジラミ症は、ヒトシラミ科に属するシラミが寄生することにより発症します。

ケジラミの寄生している毛と接触すれば100%感染します。

ケジラミはアポクリン汗腺を好み、陰毛部でヒトの血を吸い生活しますが、24時間血を吸えないと死んでしまいますが、卵は約10日間栄養の補給がなくとも生き続けるため、 この期間に痒みがないことから治癒したと勘違いすることがありがちです。

性行為による陰毛どうしの接触感染が主なものですが、オーラルセックスによって肛門周囲の毛、わき毛、胸毛、太ももの毛、まゆ毛、まつ毛、口ひげ、頭髪などに寄生することもあります。

毛に寄生したケジラミが吸血することによって、激しい痒みに襲われます。

性行為やオーラルセックスをして、1~2ヶ月に毛の生えている箇所に激しい痒みが発生すれば、ほぼ間違いなくケジラミに感染しています。

【検査法】

皮膚科を受診して、痒みのある箇所の毛の中に体長1mm前後ケジラミの成虫または虫卵(長さ0.5mm)を検出することによって診断します。


【ケジラミの自己検査方法】

1.虫眼鏡やルーペなどので痒みのある部分の毛を注意深く観察すれば成虫や卵を見つけることができます。

2.白色の下着を1日身につけて、下着をよく観察して下着に黒色の点状のしみ(ケジラミの排泄する血糞)が付着していればケジラミが寄生していることになります。

※ケジラミの成虫や虫卵を発見したり、下着についた黒色の点状のしみを確認した場合は、直ぐに皮膚科を受診して治療を受けて下さい※

※ケジラミ症は性行為感染症の中で、唯一自己検査が可能です※

2012年6月25日月曜日

性行為感染症検査-11.咽頭淋菌検査TMA法-


TMA法(Transcription Mediated Amplification )の特徴としては、


1.1回の検査で咽頭のクラミジアトラコマチス・淋菌の結果が同時に検査が可能。


2.他の遺伝子検査と比較して高い特異性(ニセの陽性反応が出にくい)を有して、咽頭検査に適している。



3.他の遺伝子検査法と比較して約1,000倍高感度で検出可能である。


4.口の中の非病原性の細菌との反応がほとんどないことから偽陽性反応の出現率が極めて低い。


これらのことから咽頭淋菌感染の検査としては、極めて優秀な検査法です。

咽頭淋菌検査に、PCR法を行うと偽陽性反応が出ることを婦人科、泌尿器科、性病科の医師に周知徹底されていないことと、喉の専門家の耳鼻咽喉科医も十分周知徹底されていないのが実情です。

誤った検査法を採用して、咽頭淋菌感染症でもないのに、咽頭淋菌感染症と診断され、不必要な治療を行われている患者もいることは確かです。

※咽頭淋菌陽性と診断されて、幾ら抗生物質を服用しても治らない場合は、間違った検査法による偽陽性反応の可能性もあります※

咽頭淋菌の検査を受けるときには、検査名を良く聞き、PCR検査でなく、SDA法かTMA法を受けることです。

2012年6月17日日曜日

性行為感染症検査-10.咽頭淋菌検査SDA法-


近年風俗店でのオーラルセックスにより、咽頭への淋菌感染が多く報告されています。

オーラルセックスで淋菌が喉に感染しても、ほとんど症状が出ることはなく、仮に症状が出てても一種の咽頭炎のような症状ですから、喉への淋菌感染を疑う人は殆どいないのが実情です。

その為に咽頭淋菌感染は、感染していることに気づくことなく、相手に感染させるという危険性を伴います。


咽頭の淋菌感染検査としては、培養検査やPCR法がありますが、口腔内の常在菌であるナイセリア属などを検出してしまい、感染ない人を誤って淋菌陽性(偽陽性反応)としてみなしてしまうことが多く起こります。

そのことから、咽頭淋菌検査は常在菌のナイセリア属と淋菌との鑑別が可能なSDA法を使用すべきです。


SDA法(Strand Displacement Amplification)は、BD社が独自に開発した核酸増幅検査法のことです。

4種類のプライマーとDNAポリメラーゼおよび制限酵素を利用してターゲットDNAを増幅しながら蛍光プローブによりリアルタイムに検出を行なうことで、検体中の目的の微生物DNAの有無を調べます。

SDA法は、口腔内の常在菌の口腔内ナイセリア属との交差性が極めて少ないため、咽頭検体での検査が可能です。

検査方法としては、スワブと呼ばれる綿棒で喉の奥を拭って検査します。


咽頭淋菌感染の検査は、PCR検査を用いるのではなく、SDA法またはTMA法で検査をする必要があります。

【注意】

本来、咽頭の淋菌検査は耳鼻咽喉科で受けるべきですが、耳鼻咽喉科の一部では検査を実施していない施設もあります。

最近では、泌尿器科、性病科でも咽頭の淋菌検査を積極的に実施しています。

検査を受けられる時は、事前に咽頭淋菌検査としてSDA法またはTMA法を実施しているかを事前に問い合わせて下さい。

間違ってもPCR検査による咽頭淋菌検査を受けてはいけません。

PCR法による淋菌検査は、性器感染に関しては優れた検査法ですが、咽頭淋菌検査ではニセの陽性反応が出て、咽頭に淋菌感染がなくても陽性となってしまいます。

※TMA法については、次回紹介致します※

2012年6月11日月曜日

性行為感染症検査-9.クラミジア抗体検査-


クラミジア感染症は、我が国においては性行為感染症の中で一番多く見られる感染症です。

クラミジア感染症の検査の中で血液で検査されるクラミジア抗体検査について解説してみます。

クラミジア抗体検査は、IgA、IgGの2つの抗体を検査します。

これら抗体の検査結果の解釈としては、クラミジアに感染した直後はIgA抗体、IgG抗体とも陰性ですが、少しするとIgA抗体が陽性になってからIgG抗体も陽性になります。

まとめますと、

クラミジア感染→IgA抗体産生→IgG抗体産生→そしてIgA抗体はIgG抗体が産生された後しばらくして消失という状態となります。

治療によってIgA抗体が陰性化し、最後にIgG抗体が陰性化しますが、陽性化、陰性化するまでの期間は個人差があり一概には言えません。

また、完治してもIgG抗体の陰性化は10年近くかかる場合もありますし、一生陰性化しない場合もあります。

一般的に保健所では、無料でクラミジア抗体検査をしています。

しかし、このクラミジア抗体検査が問題になることが多くあります。

クラミジアに感染するとクラミジアに対する感染抗体が身体の中に出来ます。

この感染抗体を調べるのがクラミジア抗体検査ですが、この検査はクラミジアそのものを見つける検査ではありません。

本来感染病原体のクラミジアその物を見つけてこそ感染していると言えますが、感染抗体があれば、即感染しているとはいえません。

特にクラミジア抗体検査は、特異性(信頼性)が低いことから、感染していないのに陽性(偽陽性)となることが多くあります。

従って、クラミジア抗体検査は信頼性が低くあまりお薦めできる検査ではありません。

問題となるのは、一度も性交渉していないにもかかわらずIgA抗体陽性、IgG抗体陰性という人もいますし、IgG抗体陽性という人もいます。

「保健所でクラミジア抗体陽性と言われた」人の中に上記のような人が多く見られ、実際にクラミジアに感染している人はそのなかで20~30%程度です。

その逆に実際にクラミジアに現在感染しているのにもかかわらず、クラミジア抗体検査では陰性(偽陰性)となることもあります。

この原因は、クラミジア感染抗体が出来ていない時期に検査を受けたことです。

クラミジアに感染して感染抗体が出来る時期は、かなりの個人差があり感染後、数週間で抗体が出来る人もいれば、3ヶ月たっても出来ない人も存在します。

従って、血液を採取して信頼性の低い抗体検査をおこなうより、感染の可能性がある粘膜(咽頭、子宮頸部、尿道、肛門など)から検体を採取し、その抗原(クラミジア)を調べるのが一番信頼出来る結果が得られます。

大切なことは、クラミジア抗体検査の結果はあくまでも”参考”と考えるべきで、抗体検査が陽性になっても必ずしも現在感染しているわけではないということと、陰性と出たからといって(特に危険な性交渉から時間がたっていないときは)100%安心できるわけではないことには注意すべきです。

現在一部の進歩的な保健所は、クラミジア抗体検査の不備を認めて抗原検査に移行しているようです。