血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2018年12月27日木曜日

免疫グロブリン検査-4.IgM抗体-

IgM抗体は5量体構造を持ち、補体結合性や凝集活性が強いが、IgG抗体と異なり胎盤透過性は無い。

IgM抗体は、IgG抗体が作られる時期になると産生量が低下し、半減期も5日と短いため感染症感染後に一過性に増加し直ぐに減少してしまいます。

その産生量は、IgG抗体に比較すると低値である。

IgM抗体に属する抗体には、同種血球凝集素、寒冷凝集素、ポールバンネル抗体、リウマチ因子、ワッセルマン抗体、グラム陰性菌体抗原に対する抗体などがある。

日常血清中のIgM抗体は感染症の診断のため感染要因に対するIgM型特異抗体として、測定されることが多い。

各種疾患の診断や、予後、重症度、経過観察などの目的でもIgM抗体は測定され、通常はIgG抗体やIgA抗体と組み合わせて判断される。

IgM抗体はFc部分を5個、Fab部分を10個とそれぞれIgG抗体の5倍もつため、補体結合性、凝集活性、オプソニン活性が強く細菌に対する免疫防御反応や、赤血球の凝集能などに強力な作用を及ぼしている。

分子量が大きいIgM抗体は、胎盤移行性がなく母親から胎児へ移行することがないため、新生児の血清濃度上昇は子宮内感染を受けたことを表しています。

【検査法】

免疫比濁法

【基準値】

男性:31~200mg/dl

女性:52~270mg/dl

※使用する機器や検査法によって若干異なる※

【高値】

急性感染症(初期)、自己免疫性疾患、多発性骨髄腫(IgM型)、単クローン性免疫グロブリン血症、高IgM症候群

【低値】

先天性無ガンマグロブリン血症、IgM欠損症、低ガンマグロブリン血症、多発性骨髄腫(IgM型以外)

【IgM抗体の特性】

感染症に対する抗体産生において、最初に産生されるのはIgM抗体で通常1~2ケ月のうちに減少し、その後順次IgA抗体、IgG抗体が産生されます。

【小児の基準値】

IgM抗体は免疫グロブリンのうち、Bリンパ球の成熟分化過程で最も早期に出現するクラスであり、生下時には活発な産生が行われており、血中濃度も成人レベルとほぼ同様ですが、その量は6~8歳で成人レベルに達する。

そして成人同様に、女性が男性に比べ高値になる傾向があります。




2018年12月19日水曜日

免疫グロブリン検査-3.IgA抗体-

IgA抗体は、形質細胞より産生され成人においては血中に存在する免疫グロブリンの約10%を占めています。

IgA抗体のほとんどは単量体ですが、二量体の分泌型IgAとしても存在し、唾液、涙液、鼻汁、気道・消化管分泌液、乳汁などの分泌液中に高濃度で存在し、局所免疫の中心として、感染防御や食物アレルギーの予防の働きを担っています。

IgA抗体は胎盤通過性はないので、出生直後はごく微量で、生後6ヵ月頃から徐々に産生され、思春期までにほぼ成人値となります。

IgA抗体は特に腸に多く存在しますが、これは食べ物一緒にウイルスや細菌などが侵入しやすいためだと考えられています。

【検査法】

免疫比濁法

【基準値】

90~400mg/dl

※使用する機器や検査法によって若干異なる※

【高値】

多クローン性: 慢性肝炎、膠原病、IgA腎症、ウィスコット・オルドリッチ症候群、慢性感染症、悪性腫瘍

単クローン性:IgA型多発性骨髄腫、形質細胞性白血病、IgA型無症候性M蛋白血症、H鎖病
【低値】

ブルトン型無γ-グロブリン血症、選択的IgA欠損症、IgA型以外の多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、サルコイドーシス、毛細血管拡張型運動失調症、分類不能型免疫不全症、ネフローゼ症候群、ステロイド剤連用

【IgG抗体と新生児の関係】

母乳にはIgA抗体が特に多く含まれており、赤ちゃんを感染から守っています。

【小児の基準値】

生まれてすぐは10mg/dl以下で、加齢に伴い徐々に漸増し、15~18歳で成人レベルになります。

2018年12月10日月曜日

免疫グロブリン検査-2.IgG抗体-

IgGは、血液中に最も多く存在し、量的には免疫グロブリン全体の約80%を占め、液性免疫の主役です。

IgGは免疫抗体で、細菌やウイルスの感染性を失わせる中和抗体で、細菌やウイルスを補足するのを助ける働きや補体活性因子の役割をします。

膠原病・慢性感染症・悪性腫瘍・多発性骨髄腫などで高値に、無γ-グロブリン血症・重症免疫不全症・ネフロ-ゼ症候群などで低値になります。

【検査法】

免疫比濁法

【基準値】

820~1740mg/dL

※使用する機器や検査法によって若干異なる※

【高値】

■急性感染症(後期)、慢性感染症、慢性肝炎、自己免疫性疾患、多発性骨髄腫(IgG型)、単クローン性免疫グロブリン血症

【低値】

先天性無ガンマグロブリン血症、低ガンマグロブリン血症、多発性骨髄腫(IgG型以外)、ネフローゼ症候群

【IgG抗体と新生児の関係】

IgG抗体はヒトの胎盤を通過できる唯一のIg クラスで、生後数ヶ月の間は新生児の保護に大きな役割を果たしています。

【IgG サブクラス】

ヒトには4つのIgG1・IgG2・IgG3・IgG・4のサブクラスがあります。

2018年12月1日土曜日

免疫グロブリン検査-1.免疫グロブリンの種類-

免疫の中で大きな役割を担っているのが免疫グロブリン(Immunoglobulin、略称Ig)で、血液中や組織液中に存在しています。

免疫グロブリンとは、血液や体液中に存在し抗体としての機能と構造を持つ蛋白質の総称で、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5クラスに分類され、それぞれの分子量、その働く場所・時期にも違いがあります。

これら5種類の免疫グロブリンの基本的な形はY字型をしています。。

1.IgG

5種類の免疫グロブリンのうち血中にもっとも多量に存在しており、生体内に侵入してきた病原体(細菌やウイルス)の抗原と結合して、白血球の働きを助けたり、ウイルスや細菌が出す毒素と結合して無毒化する働きを担っています。

2.IgA

喉の表面、腸の内側、気管支の内側の壁などの粘膜の表面に存在し、侵入してきた病原菌やウイルスなどの侵入を防ぐ働きを担っています。

3.IgM

細菌やウイルスに感染した初期段階で産生される抗体で、補体という蛋白質と共同して病原菌やウイルスなどの抗原を破壊したり、白血球がこれらを食べるの働きを担っています。

4.IgD

リンパ球の成熟、分裂になんらかの役割を果たしているものと考えられていますが、今のところまだ働きはよくわかっていません。

5.IgE

免疫グロブリンとしては最も量が少なく、アレルギー反応に主要な役割を果たしており、アレルギー性疾患、寄生虫感染症などで増加します。

次回から免疫グロブリン個別の解説をしていきます。

2018年11月22日木曜日

シェネリックとオーソライズド・ジェネリック-2.オーソライズド・ジェネリック-

オーソライズド・ジェネリックとは、は新薬メーカから許諾を受けたジェネリックで有効成分・原薬・添加物・製法・製造工場(注:同一でない場合もある)・効能効果全てが新薬と同じ薬です。

しかし、薬の色、味、形状、添加物、などにおいて新薬と異なる場合があります。

要するに新薬と同じ作り方をした薬をオーソライズド・ジェネリックと言います。

オーソライズド・ジェネリック(Authorized Generic)は略してAGと呼ばれています。

残念なことに全てのジェネリックにオーソライズド・ジェネリックはありません。

その理由としては、別の医薬品メーカーが特許を保有している場合もあり、同じものが利用できなかったり、飲みやすくするための工夫をしている場合や、安定性を良くするために変更していること等が挙げられます。

患者の体質によっては、添加剤の違いにより、アレルギー反応などの副作用を引き起こすことがまれにあります。

これは、ジェネリック医薬品に限らず、新薬であっても同様に起こりうることです。

2018年11月11日日曜日

シェネリックとオーソライズド・ジェネリック-1.シェネリック-

臨床検査から少し外れますが、多くの方から質問のありますシェネリックとオーソライズド・ジェネリックについて解説いたします。

一回目はシェネリックについて解説いたします。

シェネリックとは、新薬(先発医薬品)の特許が満了した後に、他のメーカによって製造販売される薬を言います。

新薬と同じ有効成分の医薬品ですが、開発にかかるコストが安価なために新薬より価格が安いのが特徴です。

新薬と、有効成分が同じで、効果、有効性や安全性について違いはなく、厚生労働省の審査を経て、新薬と同じ効き目・安全性、品質であることが証明されてから初めて、販売することが認められています。

気をつけなければいけないのは、薬によっては先発医薬品の効能・効果の一部がないものがあります。

その理由としては「先発医薬品に新しい効能・効果が追加され、再審査期間が設けられている」または「用途に対して特許がある」などが考えられます。

新薬で効き目があったのにジェネリックに変更後効き目が悪くなった場合、ジェネリック医薬品への不安感による心理的要因も考えられますが、ジェネリックそのものに問題がある可能性も完全に否定はできません。

実際薬の種類によってジェネリックは新薬より効き目が悪いものもあるのは事実です。

例を上げますと、

・ステロイドを含む塗り薬のジェネリックは効き目が悪いことがありますが、これは皮膚に塗った時、有効成分を均一に浸透させていくのに技術が必要なためと考えられます。

・湿布などの貼り薬では、有効成分の放出をコントロールするといった製剤技術に特許があるために、この技術に関する特許が失効していなければ、その製法は使えないことから効き目に違いが出てきますし、仮に特許が切れていたとしても、ジェネリックメーカーによっては製剤技術に差があることから効き目が悪い場合も当然あります。

アメリカやイギリスなどの先進国にもジェネリック薬はありますが、それらの国には、専門の審査機関があり、厳しい品質管理が行われています。

しかし我が国においては、ジェネリック薬専門の審査機関はなく、医薬品の品質管理の遵守は、製造するメーカーごとに義務づけられていますが、第三者によるチェックは行われていないため、品質管理が甘くなる場合があります。

更に新薬とは違い、開発費用のかからないジェネリック薬を製造するメーカーには、小規模の会社も多く存在することから、どうしても品質の悪いジェネリックは存在しています。

要するに大手製薬会社による一流のジェネリック薬がある一方、三流のジェネリック薬も存在することを頭に入れておく必要があります。

ジェネリック薬に切り替えたあとに効き目がなくなったり、これまでになかった副作用が続いたりする場合は、症状の悪化を考える前に、「ジェネリック薬のせいかな」と疑って医師に相談されることです。

ジェネリックの良いところは、コスト面ですが、飲みやすいように大きくて飲みづらい錠剤を小さくしたり、またコーティングすることによって、薬そのものにある苦味などを抑えるなど改良を加えた薬もあります。

ジェネリックを国が推奨するのは、医療費削減を第一目標にしているからです。

なぜならジェネリック医薬品を広めることにより、国の医療費削減にも繋がるからです。

2018年10月31日水曜日

甲状腺検査-2.遊離トリヨードサイロキシン(FT3)-

遊離トリヨードサイロニン(Free triiodothyronine:FT3)は、甲状腺ホルモンです。

TSH(甲状腺刺激ホルモン)は脳から分泌される甲状腺のホルモン分泌を促すホルモンでT3、T4の調節をしています。

T3(トリヨードサイロニン)、T4(総サイロキシン)とは血液中の甲状腺ホルモンのことで、糖の代謝や蛋白質の合成など、エネルギー代謝を行うために分泌されています。

血液中では蛋白質と結合しホルモンとしては作用していません。ホルモンとして作用しているのは結合してこないFT3(遊離トリヨードサイロニン)、FT4(遊離サイロキシン)です。

これらの甲状腺ホルモンの分泌を見ることによって甲状腺の働きと亢進症と低下症の異常がわかります。

T3もT4同様、血中では大部分が蛋白と結合し、FT3は総T3の約0.3%しか存在しません。

しかしT4よりもT3の方が優れた甲状腺機能の指標となります。

体内での必要に応じ、T3、T4が結合蛋白から離れて遊離T4(FT4)や遊離T3(FT3)になりますが、末梢組織においてはT4がT3に変換されることも知られています。

甲状腺疾患の診断にはTSHとFT4(またはFT3)の測定が重要です。

【検査方法】

電気化学免疫測定法(Electro Chemiluminescence Immunoassay:ECLIA)

【基準値】

2.1~4.1pg/ml

※検査に使用する機器や施設によって異なることがあります※

【異常値】

高値:甲状腺機能亢進症(バセドウ病、プランマー病)、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎(急性期)、TSH産生下垂体腺腫、T3甲状腺中毒症など

低値:原発性甲状腺機能低下症(粘液水腫、クレチン病)、二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎(橋本病)、低T3症候群など

【検査値に影響を及ぼす要因】

1.薬物の服用(甲状腺ホルモン剤、ヨード剤など)の影響を受ける。

2.測定方法によっては、抗T3自己抗体や抗マウス抗体の影響を受ける。

3.低アルブミン血症の場合も影響を受ける。

【附則】

1.通常、FT4, FT3は一緒に変動するので、一方のみを測定すれば十分。

2.しかし両者が一致しない病態があるので、その場合は両者とも測定する必要がある。

例えば以下のことが考えられます。

①FT4が正常なのに、FT3が低い場合をlow T3症候群という。この場合は両方測
 定する。

②抗甲状腺剤治療中にFT4は正常になっても、FT3が高いことがあり、この場合、
 TSHは低く、甲状腺機能は亢進状態にある。

③橋本病で甲状腺機能低下が軽度のとき、FT4だけが低値で、FT3は正常値のこ
 とがある。

2018年10月22日月曜日

前立腺がん腫瘍マーカー ガンマ-セミノプロテイン (γ-seminoprotein:γ-Sm)

今回は前立腺腫瘍マーカーのガンマ-セミノプロテイン (γ-seminoprotein:γ-Sm)について解説いたします。

ガンマーセミノプロテイン(γ-Sm)は,前立腺腺上皮細胞と精漿にのみ存在する前立腺特異抗原で,分子量28000~29000の糖蛋白です。

アミノ酸配列の検討により、γ-Smは前立腺特異抗原(PSA)の遊離型(フリーPSA)と同一であると考えられています。

PSAは前立腺由来の分子量約34kDの糖蛋白で、蛋白分解酵素セリンプロテアーゼの一種で、血中PSAは前立腺癌の診断補助に用いられていることは周知のことです。

γ-Smは,PSAであることが明らかにされたことから,PSAと同等の意義があると考えられています。

しかし,前立腺癌を疑う場合や前立腺癌のスクリーニングや経過観察を行うときには,通常はPSAキットを用いるのは、臓器特異性が高,前立腺疾患の悪性および良性腫瘍マーカーとして有用であるからです。

【検査方法】

CLEIA法

【基準値】

4.00ng/mL以下

【高値疾患】

前立腺癌・急性前立腺炎・前立腺肥大症

【注意点】

・前立腺触診や尿道膀胱鏡検査後は前立腺刺激でも高値となるため、24時間以上の間隔をおいて採血する必要がある。

・急性前立腺炎,急性尿閉塞,前立腺手術後などでも高値となる事がある。

・生理的変動として、年齢により高値傾向を示すが,疾患の発症を意味するかどうか充分解明されていません。

2018年10月13日土曜日

甲状腺検査-1.甲状腺刺激ホルモン-(TSH)

甲状腺刺激ホルモン(TSH:Thyroid Stimulating Hormone)は、下垂体前葉の甲状腺刺激ホルモン分泌細胞から分泌されるホルモンで、甲状腺に働きかけ甲状腺ホルモンの分泌を促す働きがあります。

【甲状腺の機能と働き】

甲状腺は、のどの下部にあり、大きさが縦4cm、重さが15~20g程度の蝶が羽を広げたような形で気管の前方(喉仏のすぐ下)に付いています。

薄くやわらかい臓器ですから普段はのどを触ってもわかりませんが、腫れてくると手で触ることができ、見ただけでも腫れがわかる場合があります。

甲状腺は脳の下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモンの刺激を受けて、食物に含まれるヨードを材料にし、トリヨードサイロニン(T3)と、サイロキシン(T4)という甲状腺ホルモンを合成し分泌します。

この2つのホルモンは、糖や蛋白のエネルギー代謝の調節に関与しているほか、心臓、消化管、骨、脳の発育を促進させるなどの重要な働きをしていますから、この甲状腺に異常があると、ホルモンが出過ぎたり、逆に不足したりしてさまざまな障害が出現します。

【検査をする目的】

血中TSHは視床下部-下垂体-甲状腺系の機能診断に有用で、主に甲状腺機能障害のスクリーニング、下垂体前葉機能検査などに用いられる。

健常人の血中TSHは、年齢、性別による差異はなく、食事、運動による変化もありません。

【甲状腺に異常があるときの症状】

甲状腺ホルモンが出過ぎる場合、これを甲状腺機能亢進と言います。

分泌が足りなくなる場合を甲状腺機能低下)と言います。

【検査方法】

電気化学発光免疫測定法(Electro Chemiluminescence Immunoassay:ECLIA)で検査。

【基準値】

0.33~4.05μU/mL

※使用する機器や施設によって若干異なる※

【異常がある場合】

1)高値の場合

原発性甲状腺機能低下症(粘液水腫、クレチン病)、慢性甲状腺炎(橋本病)、無痛性甲状腺炎、TSH産生下垂体腺腫

2)低値

甲状腺機能亢進症(バセドウ病、プランマー病)、二次性(下垂体性)甲状腺機能低下症、亜急性甲状腺炎(急性期)

【追加事項】

甲状腺疾患の診断には主に、TSHと共にFT3(遊離トリヨードサイロキシン)とFT4(遊離サイロキシン)を検査しますが、TSHが最も鋭敏に異常を検出する事ができます。

甲状腺ホルモンは建てないの代謝に関するホルモンですから、機能が亢進すると微熱が続きます。

軽い微熱程度の発熱が長く続く場合や、寒気が続く、体重の増減などが激しい場合なども甲状腺の機能検査を行う必要性があります。

風邪を引いていないのに微熱が続く、寒気や悪寒が走るなどの自覚症状が長期的に継続して体感される場合は要注意です。

甲状腺機能に何らかの異常をきたしている可能性があります。

妊婦はTSHと同じ様な構造を持つヒト絨毛性ゴナドトロピン(Human Chorionic Gonadotropin:HCG)が多量に分泌されますから、HCGの働きかけの結果、TSHの分泌を抑制させることからTSHの数値が減少します。

2018年9月27日木曜日

ふたつの抗体について-2.中和抗体-

この抗体は、体内に侵入した細菌やウイルスを無毒化する抗体です。

例えば、麻疹に感染しますと、生体の免疫機能は、麻疹のウイルスと戦い、免疫機能が勝てば麻疹の中和抗体を作ります。

次ぎに麻疹のウイルスが生体に侵入しても、この麻疹の中和抗体が、麻疹のウイルスを無毒化することから、二度と麻疹にはかかりません。

予防ワクチンは、毒力を弱めた病原体を生体に感染させて、中和抗体を作り出します。

ワクチン接種で中和抗体が体の中にできあがれば、それに対する病原体が生体内に侵入しても、この中和抗体が、病原体を無毒化するために感染しないわけです。

仮に感染しても症状は軽く直ぐに治ってしまいます。

インフルエンザのワクチンも、インフルエンザ予防ワクチンを接種して、生体にインフルエンザウイルスを無毒化する中和抗体を作りますが、インフルエンザワクチンを接種しても、インフルエンザに感染することがあります。

これは何故でしょう?

疑問に思われませんか?!

その理由は、予防接種に使用したインフルエンザの株以外のインフルエンザが流行すれば、予防接種で生体内に出来た中和抗体は、別の株のインフルエンザウイルスには働かないために感染してしまうわけです。

予防接種に使用するウイルスの株以外のウイルスが生体内に入れば、感染してしまうわけです。

HIVは中和抗体が現時点では確認されていませんので、一度HIVに感染してしまえば、感染を示す感染抗体は出来ますが、HIVを無毒化する中和抗体は出来ないために、HIVは生体から排除されることなく、増殖するわけです。

【代表的な中和抗体】

ジフテリア、猩紅熱、百日咳、麻疹、水痘、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)

ご理解頂けましたでしょうか?

2018年9月15日土曜日

ふたつの抗体について-1.感染抗体-

抗体には感染抗体と中和抗体の2つがありますが、最初に感染抗体について解説いたします。

【感染抗体とは】

外部から生体内に侵入した、細菌・ウイルス・異物に対して、生体の免疫機能が、それらの侵入した物に対して作る物質です。

例を挙げますと、HIVが生体内に侵入しますと、生体の免疫機能が反応して、HIVに対する物質、即ちHIV抗体を作ります。

HIVやHCV、梅毒トレポネーマに感染しますと、生体の免疫機能が反応してこれらのウイルスや細菌を排除しょうと反応します。

生体の免疫機能が勝てば、侵入したウイルスや細菌は無毒化されて、生体から排除されます。

しかし、生体の免疫機能が負ければ、これらのウイルスや細菌は感染して、生体内で増殖していきます。

そして、これらのウイルスや細菌に対する感染抗体が体の中に出来ます。

HIV抗体、HCV抗体、梅毒TP抗体は感染抗体です。

感染抗体は、これらのウイルスや細菌に感染したという証拠になります。

その為に、HIVの検査は、感染抗体であるHIV抗体を見つける検査と言うことになります。

HCVも同様に、感染抗体であるHCV抗体を見つける検査です。

梅毒血液検査も梅毒トレポネーマの感染抗体である梅毒TP抗体を見つける検査です。

このように、多くのウイルスや細菌に感染した場合、感染の証拠となる感染抗体が出来ます。

従って、感染の判断をするのは、血液中の感染抗体を見つけると言うことです。

この感染抗体はウイルスを無毒化する働きは一切ありません。

【代表的な感染抗体】

HIV抗体・HCV抗体・梅毒TP抗体・クラミジア抗体など

【間違いやすいこと】

※梅毒検査のSTS検査で見つける抗体は、梅毒トレポネーマに対する抗体ではなく、梅毒トレポネーマに感染したときに体の組織から出てくるカルジオリピン抗体です※

2018年9月8日土曜日

謹んで北海道胆振東部地震により被災された皆様にお見舞い申し上げます。

謹んで北海道胆振東部地震により被災された皆様にお見舞い申し上げます。

この度の北海道胆振東部地震により被災された皆様ならびにそのご家族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

2018年9月7日金曜日

謹んで台風被害のお見舞いを申し上げます。

この度の台風21号により被災された皆様にお見舞い申し上げます。

一日も早く復旧されますよう、心からお祈り申し上げます。

2018年9月2日日曜日

便中カルプロテクチン検査

便中カルプロテクチン検査は2017年6月に潰瘍性大腸炎の病態把握を目的として検査される検査として保険収載されました。

【便中カルプロテクチン検査とは】

潰瘍性大腸炎の検査として利用されます。

潰瘍性大腸炎の検査としては、大腸内視鏡検査が用いられてきましたが、患者の負担が大きいことが欠点でしたが、この度患者の糞便を用いる簡便な体外診断薬が登場したのが便中カルプロテクチン検査です。

便中カルプロテクチン検査は、潰瘍性大腸炎の再燃を早期に発見したり、内視鏡検査の回数を減らすなど、潰瘍性大腸炎の経過観察を大きく変化させる検査と言えます。

潰瘍性大腸炎の炎症の再燃を確定診断するには内視鏡検査など他の検査所見を含めた総合的な判断が必要となりますが、少なくともこの便中カルプロテクチン検査が陰性であれば炎症の再燃はないと判断出来ます。

【潰瘍性大腸炎とは】

潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜に慢性の炎症を生じ、下痢や血便、腹痛を頻回に引き起こす原因不明の疾患で、寛解と再燃を繰り返しやすい疾患です。

潰瘍性大腸炎は、根本的な治療法がないうえに近年若年層を中心として増加傾向にあります。

根本的な治療法がないことから、寛解維持が診療の目標となっています。

【便中カルプロテクチンとは】

カルプロテクチンは、好中球の顆粒中に豊富に含まれてれており、腸管局所で炎症が起こると白血球が腸管壁を通じて管腔内に移行します。そのため、糞便中のカルプロテクチン量を測定することで、腸管炎症度を把握することが可能になり、慢性的な炎症性疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病等)の診断補助ならびに内視鏡検査の実施判断を補助します。

便中カルプロテクチンを調べることは、直接的に腸管粘膜の炎症の程度を知ることになります。

カルプロテクチンは、腸内細菌で分解されることなく、常温で1週間以上安定していることから検査がしやすい利点があります。

便中カルプロテクチンは、潰瘍性大腸炎の診断及び疾患活動性の評価、再燃予測を知る上で大変有用な検査です。

潰瘍性大腸炎の診断の上で便中カルプロテクチンを検査することにより、内視鏡検査の適応患者を選択する事が可能となります。

要するに潰瘍性大腸炎の診断の上で、内視鏡検査・CT検査・腸注などの検査は浸潤性や被爆等の問題から訴えの軽い患者全員に実施することは大変難しいことから、簡易的に実施できる便中カルプロテクチンは有用視されている訳です。

【検体】

糞便1~3gで検査可能

【基準値】基準値

50.0mg/kg以下
炎症性腸疾患の診断補助の指標

300mg/kg以下
潰瘍性大腸炎の病態把握の指標

【測定方法】

蛍光酵素免疫測定法

【検査の判断】

カルプロテクチン検査を行って高い数値が出れば、2~4週間後に再検査を実施し、連続して高い数値が出たり、上昇し続けるような場合には、再燃を強く疑い、症状がなくても内視鏡検査の必要性がある。

3~6ケ月に一度程度、定期的に測定しながら、ある程度の上昇があれば再燃を疑内視鏡検査を実施する。

カルプロテクチン検査は陰性的中率が高いので、陰性であれば内視鏡検査の省略も可能となる。

カルプロテクチン濃度が低ければ炎症が起こっていないと判断し、内視鏡検査に進む必要はなくなる。

2018年8月21日火曜日

消毒・殺菌・滅菌・除菌について-4.除菌・抗菌-

除菌・抗菌という言葉は専門用語ではなく、どの程度まで病原菌を駆除できるかという曖昧な意味合いを持つ言葉です。

1.除菌とは

除菌とは「増殖可能な菌を対象物から有効数減少させる」という意味で、洗剤や漂白剤など「雑貨品」の表示にも使える言葉です。

家庭用合成洗剤・石鹸の公正競争規約の中に、台所用洗剤のスポンジ除菌と、住居用洗剤、洗濯用洗剤の除菌表示のための統一基準が設けられています。

すべての菌を除去する・すべて駆逐すると思われがちですが、実際は消毒と除菌は同じ程度なのです。

したがって除菌よりも効果が高い場合は殺菌になります。

いくら除菌しても菌は生き残り、10分から数時間で2倍に増殖できるのが細菌で、90%の細菌を殺しても、1~10時間後には元に戻ってしまいます。

2.抗菌

抗菌とは、菌を殺したり減少させるのではなく、"菌の増殖を抑制、あるいは阻害する"という意味しかありません。

抗菌は菌の増殖を阻害するという意味で、除菌よりも弱い効果しかありません。

よく抗菌文具や抗菌スリッパという言葉を耳にしますが、これらには菌がいないのではなく、菌が繁殖しにくいというだけです。

近年、日本国内においては清潔志向や安全志向が高まり、それに伴い抗菌加工製品の市場は拡大しており、そもそも日本人は、他の国と比較して清潔・安全志向が高い傾向にあるのが事実です。

近年多くの感染症が報告され、細菌に対する不安感や恐怖心が急速に増大し、その結果細菌への防衛策として、抗菌加工を施した製品が市場で多く販売、消費されるようになってきています。

【おまけ】

抗菌という言葉は、近年新しく使われ出した言葉で、現在までのところ抗菌という言葉について法令や業界、また学術的にも共通の定義あるいは認識がされていません。

一部の関係業界団体では、それぞれ独自に抗菌に関する用語の定義を定めており、各関係業界団体における抗菌の定義は、概ね"細菌の増殖を抑制する"としているが、その内容の表現には若干の違いがみられるのが現状です。

2018年8月8日水曜日

消毒・殺菌・滅菌・除菌について-3.滅菌-

滅菌とは、すべての細菌を死滅させることを言います。

増殖性を持つあらゆる微生物(主に細菌類)を完全に殺す、又は除去する状態を実現するための作用・操作のことを言います。

対照物を限りなく無菌に近づけるために、国際的に採用されている現在の基準としては「滅菌操作後、100万個のうち1個の対象物に微生物が付着している確率」で滅菌できれば良いとされています。

【滅菌方法】

1.火炎滅菌

菌を直接、ガスバーナー等で焼く方法で、一般的には検査器具の滅菌に利用される。

2.乾熱滅菌

ガスまたは電気を利用した機器で、乾燥させたまま160~180℃くらいの熱で滅菌を行う。ガラスや金属製品、手術器具などの滅菌に利用される。

3.高圧蒸気滅菌

オートクレーブで2気圧の飽和水蒸気によって温度を121℃に上昇させ、20分間処理する。
培地、包帯、ガーゼなどの滅菌に利用される。

医療機関における器材の再使用のための蒸気滅菌の第一選択は高圧蒸気滅菌です。

この方法は短時間で滅菌出来ますが、高温高圧に耐えられない材質のものには利用できない。

4.ガンマ線滅菌

医療機器の製造工程において利用される。

ガンマ線は透過力が強いことから人畜にも危害が及ぶため、人が作業する場所で同時に滅菌を実施することはできない。

5.ガス滅菌

オートクレーブが使用できないプラスチック製品等にエチレンオキサイドガスを使用して滅菌を行い。

高熱に弱い素材のものにも適用できることと、筒状や複雑な形状である医療機器についてもエチレンオキサイドガスが浸透するため適用しやすい利点があるが、ガス毒性が強く残留ガスが人体等に悪影響を及ぼす可能性があることに注意が必要とされる。

滅菌は殆どの場合医療現場で行われ、日常生活で行われることはまずありません。

【まとめ】

滅菌とは第十四改正 日本薬局方によると物質中の全ての微生物を殺滅または除去することを言い、生存する微生物がゼロである状態を指します。

2018年7月24日火曜日

消毒・殺菌・滅菌・除菌について-2.殺菌-

殺菌とは、特定の細菌を殺すことを言い、言い換えれば病原性や有害性を有する糸状菌、細菌、ウイルスなどの微生物を死滅させる操作のことです。

要するに殺菌とは、対象物に付着する菌を殺すことで、殺す対象や程度を含みません。

そのため10%の菌を殺して90%の菌が残っていても"殺菌した"ことになるため、有効性に対する厳密な保証はありません。

要するにどの程度の菌を殺すことが殺菌となるのか、明確な定義はありません。

ちなみにこの殺菌という言葉、洗剤などには使うことは出来ません、殺菌というのは、薬事法で医薬品や医薬部外品に使用できる言葉なのです。

殺菌剤とは、病原性を有する微生物を殺す、または増殖を抑止するための薬剤のことを言い、殺菌薬とも言います。

殺菌剤は抗生物質や抗真菌薬を除外し、微生物を非選択的に殺すものを呼ぶのが普通です。

また医療機器の殺菌のみ、あるいは皮膚にのみ用いるものは消毒薬と呼ぶことがことが多い。

殺菌剤としては以下のようなものがありま。

・ヨウ素剤 ― ヨードチンキ、ポビドンヨード

・塩素類 ― 次亜塩素酸ナトリウム

・マーキュロクロム液

・グルコン酸クロルヘキシジン-ヒビテン

・アルコール類 ― エタノール、イソプロパノール

・オキシドール(過酸化水素水)

・逆性石鹸 ― 塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウムなど

・フェノール類 ― クレゾール石鹸液など

2018年7月15日日曜日

消毒・殺菌・滅菌・除菌について-1.消毒-

日常生活で消毒・殺菌・滅菌・除菌・抗菌などの言葉をよく耳にされると思いますが、それぞれどのようなことなのかはっきりと理解しづらいのが現実でしょう。

今回これらについてわかりやすく解説して行きます。

初回は消毒についてです。

消毒とは、生存する微生物の数を減らすために用いられる処置法で、必ずしも微生物をすべて殺滅したり除去するものではありません。

要するに消毒とは、人体に有害な病原性を持つ微生物を除去・無害化することです。

消毒はあまり明確な概念ではなく、被消毒物の用途や消毒の対象となる微生物の種類など、消毒の目的により必要とされる消毒が異なります。

人体に有害な病原性を持つ病原性微生物を、死滅または除去させ、害のない程度まで減らしたり、あるいは感染力を失わせるなどして、毒性を無力化させることをいいます。

消毒も殺菌も、"薬事法"の用語で、一般に消毒殺菌という言い方をする場合がありますが、消毒の手段として殺菌が行なわれることもあります。

人体に有害な病原性を持つ病原性微生物の病原性をなくする方法としては殺菌以外にもありますから、滅菌とも殺菌とも違うという意味で使い分けがされています。

【薬事法とは】

正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言います。

従来「薬事法」と呼ばれていた法律が、平成25年11月に改正さ、この際の大きな改正点は、再生医療に関する再生医療等製品の規定が新設された点です。

【消毒方法】

手や指などはアルコール・石鹸・ヨウ素・過酸化水素(オキシドール)・塩素で消毒します。

医療機器などは煮沸したり加熱したりして消毒します。

2018年7月10日火曜日

お見舞い申し上げます

この度の大雨等による被害を受けられた皆様に謹んでお見舞い申し上げます。

一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。

2018年7月5日木曜日

もっと知ろうHIV検査-6.感度と特異度-その3.感度と特異度の関係-

理想的には感度100%、特異度100%であれば、完全に正しく病気の有無を判定しうる理想的な検査となりますが、実際はそのような検査は残念ながらまだ存在していません。

そのために検査結果には偽陽性と偽陰性が必ず存在します。

HIVスクリーニング検査は、HIVに感染していない人が誤って陽性(僞陽性反応)と判定されたり、あるいはHIVに感染している人を誤って陰性(僞陰性反応)と判定される可能性を常に持っています。

この原因は、HIV検査に限らず医療におけるすべての検査は、感度・特異度共に100%である検査は存在しないからです。

従って感度、特異度がともに高い検査は、その検査を実施するだけで疾患の有無を高い確率で判定できることになります。

一般的にスクリーニングに使用される検査は、陽性者を見逃さないために感度を高くしていることから、逆に特異度は低いということになります。

反面確認検査に利用される特異度の高い検査は、本当の陽性者のみを見つけることから感度が低いことにより感染初期の本当の陽性者を見逃すことがあります。

要するに診断を確定する検査は、感度は低いでが特異度が高いことからこの検査が陽性となるとその疾患に感染していると言えますが、実施する時期が早いと感度が低いことから真の陽性者を見逃してしまうことがあるのです。

今までのことをまとめますと、HIV検査は感度、特異度共に100%の検査キットを製造すれば良いという結論に達しますが、感度、特異度共に100%のHIV検査は存在しません。

※HIV検査に限らずどの様な検査でも感度、特異度共に100%の検査は存在しません※

感度が高いHIV検査は、スクリーニング検査(除外診断)に使用され、特異度の高い検査は、病気を確定する検査(確定診断)に使用されます。

感度と特異度の両方が高い検査を何故使用しないのかと多くの方が疑問に思われると思いますが、そんな究極な検査は存在しないのが現実なのです。

なぜなら、感度と特異度の二つはお互いにトレードオフの関係があるからです。

※トレードオフ(Trade-off)とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係のことを言います※

※感度を追求すれば当然特異度は犠牲となり、特異度を追求すれば当然感度は犠牲となるということです※

まとめますと感度が高い検査は特異度が低い検査であり、感度が低い検査は特異度が高い検査となります。

従って感度と特異度を考えながら検査を実施する必要があるわけです。
 

【本当のHIV陽性を決定するのはどうするのか】

1.感度・特異度共に高いHIV検査を複数回実施する。

2.日にちを変えて採血して感度・特異度共に高いHIV検査を再度実施する。

3.ふたつ以上の検査結果を組み合わせて真の陽性か、ニセの陽性かの判断を行います。

2018年6月22日金曜日

もっと知ろうHIV検査-5.感度と特異度-その2.特異度とは-

特異度とは、臨床検査の正確さを決める指標のひとつで、ある検査について"本来陰性であるべきものを正しく陰性と判定する確率"として定義されています。

すなわち特異度が高いということは、その疾患に罹患していない人の大部分が検査で陰性になることを意味しています。

HIV検査で特異度が高ければ高いほどニセの陽性者が少ないということになります。

従って特異度の高いHIV検査は、HIVに感染していない人を陽性と判断することはまずないと言えます。

従って陽性と判断されることがほとんどないHIV検査で陽性と判断されれば、絶対にHIVに感染していると診断することができます。

感度が高いHIV検査で陰性となれば、HIVに感染している確率は低いと言えますが、特異度が高いHIV検査で陽性となれば、HIVに感染ししている確率が極めて高いと言えます。

特異度の高いHIV検査は、確認用検査として利用されます。

これは感度の高いスクリーニング検査では、ニセの陽性反応が出現する可能性が高いことから、陽性となった確認用検査として利用されるわけです。

感度の高いHIV検査でスクリーニング実施し見落としを防ぎ、特異度の高いHIV検査で確認検査を行い真のHIV感染者を見つけるわけです。

【まとめ】

特異度が高いHIV検査とは、「HIVに感染していない人を正しく陰性と判定する可能性が高い」、あるいは「本来HIVに感染していない人を間違って陽性と判定する可能性が低い」ということになります。

しかし現実は特異度の高いHIV検査で陽性となった場合必ずしも全てが真の陽性とは言えません、なぜなら特異度100%のHIV検査は存在しないからです。

従っていくら特異度の高いHIV検査でもニセの陽性反応は存在します。

2018年6月19日火曜日

お見舞い申し上げます

2018年6月18日に大阪府北部を震源とした地震により、被害に遭われました皆様とそのご家族様及びご関係の方々に対しまして心よりお見舞い申し上げます。

皆様が一日も早く日常生活を取り戻すことが出来ますように心よりお祈り申し上げます。

2018年6月6日水曜日

もっと知ろうHIV検査-4.感度と特異度-その1.感度とは-

【HIV検査の感度とは何】

HIV検査の有用性を評価する指標として感度と特異度がありますが、感度及び特異度は特定の疾患(この場合HIVを例にとって話を進めます)について、その検査がHIV感染の有無をどの程度正確に判定できるかを示す定量的な指標ということになります。

そして感度とは、HIV感染者中の検査陽性者を検出する割合を言います。

従って、HIV検査の感度が高いということは、HIV感染者の大部分が検査陽性になることを意味しています。

要するに検査の感度が高ければ、HIV感染者の中で検査陰性になるもの、すなわち偽陰性者が少ないということになります。

感度が高いHIV検査は、HIV感染者のほとんど見逃すことがなく、HIV感染者の発見率が高い検査といえるのです。

逆に、感度が低いHIV検査はHIVに感染していたとしても陰性と判定される可能性が高いことになります。

HIV感染者を見逃すリスクの高い感度の低い検査は、HIVスクリーニング検査として利用できません。

【誤解しやすい点】

※感度の低いHIV検査は、HIVに感染していない人に対しても陽性になると考えられがちですが、感度が低いHIV検査は、HIVの感染を見つける能力が低いため陽性にはなりにくいのです※

【感度の高い検査を使用する理由】

一般的にスクリーニングに使用されるHIV検査は、陽性者を見逃さないために感度を高くしていることからどうしても僞陽性反応(ニセの陽性反応)の出現頻度は高くなってしまいます。

HIVスクリーニング検査は、多くの検査者の中からHIVの感染者を見つける検査ですから、感染者を見逃さないために検査の感度を高くしています。

HIV感染者をスクリーニングの時点で見逃すと以後見つけることは不可能となります、そのためには僞陽性反応が出現しても許されることになるわけです。

よってスクリーニング検査で陽性となっても、僞陽性反応の可能性が否定出来ないことから即HIVに感染しているとは言えないのです。

真のHIV感染者かニセの感染者の判断は、確認検査をする必要があるわけです。

【感度の高いHIV検査が陽性となったときの注意点】

陽性=HIV感染とは言えません、確認検査をして陽性とならない限りニセの陽性反応ということになります。

【HIVスクリーニング検査で偽陽性反応を出ないようにできないのか】

HIVスクリーニング検査は、HIV感染者を見逃さないように検査の感度を非常に高くしていますから当然のごとく僞陽性反応は出現してしまいます。

僞陽性反応が出ないように検査の感度を低くすると、今度は真のHIV感染者を見逃すことになってしまいます。

HIVスクリーニング検査で真のHIV感染者を見逃さないためには、検査の感度を高くすることが必要となります、感度を高くすれば当然のことながら僞陽性反応は出現することになります。

僞陽性反応が出現しても確認検査があり、ニセの陽性者か真の陽性者の区別は可能です。

HIVスクリーニング検査は、真の感染者を見逃さないためにも検査の感度は高くする必要があるのです。

【確認事項】

今回HIV検査の感度のことを解説しましたが、このことはHIV検査を適切な時期に受けて言えることです。

いくら感度の高い検査でも受ける時期が早すぎると、HIVに感染していたとしても陰性となってしまいます。

これは受ける時期が早く検査で見つかる十分なHIV抗体が体内にできていないからです。

※次回は感度とトレードオフの関係にある特異度について解説いたします※

2018年5月24日木曜日

心臓疾患についてー6.心室細動ー

心室細動とは心室筋肉が組織だった興奮ができずに、有効な収縮ができなくなり、血液を送り出すことが出来なくなる状態を言います。

要するに心臓の部位のうち血液を全身に送り出す「心室」が細かく震える不整脈なのです。

心臓の筋肉が痙攣するように震え、収縮と拡張を正常に繰り返せなくなるため、やがて心臓の動きが止まってしまいます。

心室細動が起きると脳や心臓に血液が供給されなくなり、発症から6秒で意識を失い、3分で脳が重いダメージを受け、適切な処置が行わなければ死に至ります。

【心室細動の起こる原因】

心筋梗塞、心筋症など心臓の働きが悪くなっている人や、重症の心不全、大動脈弁狭窄症といった心臓の病気がある人に起きます。

血縁者に不整脈で突然死した人がいる場合は注意が必要です。

【心室細動の症状】

脈拍喪失、意識消失、全身痙攣、無呼吸ないしあえぎ呼吸が起こります。

整脈が長く続くと、動悸、息切れ、そして「吐き気」といった症状が現れます。

【心室細動の検査】

心電図、ホルター心電図、心エコー検査などがありますが、症状が出ないと検査に異常が見られません。

従って心室細動が起きていたということは、後から明らかになることが多いことから、日頃から心臓の異常があれば速やかに専門医を受診することです。

【心室細動の治療】

心室細動を正常な脈に戻すには、自動体外式除細動器(AED)を使い電気ショックを与え、心臓のけいれんを解除する「電気的除細動」を一刻も早く行う必要があります。

一度心室細動に至ったものが自然に正常の心拍に戻ることは極めて稀で、救命のためにはほとんどの場合電気ショックが必要となります。

およそ5分で死に至る心室細動は救急車の到着を待っていると死に至ります。

従って救命のためには周囲の人たちが直ちに「BLS(Basic Life Support)」といわれる一次救命措置を行う必要があります。

※一時救急処置とは、急に倒れたり、呼吸停止を起こした人に対してその場に居合わせた人が救急隊や医師の到着までに行う応急手当を言います※

大勢の助けを呼び、皆で手分けをしてAEDを探し、人工呼吸や心臓マッサージを始めます。

救急車の到着までに的確な一次救命措置を行えるかが救命率を上げることに繋がります。

要するに心臓の動きが再開し、脳への十分な血流が再開されるまでの時間が短いほど、確実に救命率が上がります。

【心室細動の心房細動違い】

心房が血液を送り出す働きを失っても、心臓の血液拍出は保たれますが、心室がこの働きを失うと心臓停止の状態となります。

心室細動は心臓停止と同じことであり即死に結びつきます。

 ところで、心房細動は不整脈の中でもよくみられるものであり、女性の場合ですと、閉経期以後になってみられる頻度が高くなります。

【心室細動が起こりやすい時間帯】

特に「朝の9時前後」は心室細動が起こりやすい時間帯といわれています。

その理由は朝は交感神経が働き、血圧が上昇して拍動が早くなるので、心臓に負担がかかりやすくなるためです。

中高年や心臓に病気のある人は、朝の運動はできるだけ控えたほうが無難です。

2018年5月14日月曜日

心臓疾患についてー5.狭心症ー

狭心症とは、心臓の筋肉である心筋への酸素供給が低下して供給される酸素が不足するために胸部に一時的な痛みや圧迫感が起きる病気を言います。

【狭心症の起こる原因】

冠動脈に動脈硬化が進むと血管の内側にコレステロールなどが沈着して壁が厚くなり、やがては血液の通りみちが狭くなります。

動脈硬化は加齢とともに誰にも起こりますが、それが病気にまで進む詳しいしくみは解明されていません。

現在知られている冠動脈に病気を起こしやすくする原因としては、代表的なものとして高血圧・高脂血症・糖尿病・肥満・喫煙・ストレスなどがあります。

いずれも食事や運動などの生活習慣が、その発症・進行に大きく関与しています。

【狭心症の症状】

は胸骨の後ろの圧迫感や痛みとして感じられますが、多くの人はこの感覚を痛みというよりも不快感や押しつぶされるような感覚と表現します。

【狭心症の検査】

狭心症の診断は、殆どの場合が患者当人の症状の訴えに基づいて下されます。

心電図検査では、発作と発作の間には、ときに狭心症の発作中でさえ、ほとんど異常が認められず、広範囲の冠動脈疾患がある患者ですら異常が認められない場合があります。

発作中は、心拍数がわずかに増えて血圧が上がるため、聴診器で心拍の変化を確認できることがあります。

ホルター心電計による24時間心電図モニタリングでは、症候性または無症候性の虚血や異型狭心症(典型的には安静時に発生します)を意味する異常を検出することが可能となります。

その他の検査としては、負荷試験、心エコー検査、冠動脈造影検査などがあります。

【狭心症の治療】

基本的にはまず、冠動脈疾患の進行を遅らせるか、回復に向かわせるために、危険因子に対処することから始めます。

即ち高血圧や高コレステロール血症などの危険因子は、速やかに治療します。

禁煙は不可欠となります。

治療薬としては、ベータ遮断薬、硝酸薬(ニトログリセリンおよび長時間作用型硝酸を含む)、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、抗血小板薬の5種類が用いられます。

要するに血管の緊張をできるだけ緩め、心臓の負担を減らし、血液を固まりにくくしておくというのが基本となるわけです。

カテーテルという細い管を直接冠動脈の入り口まで挿入し、この針金をガイドにしてバルーンを狭窄部まで持っていき、バルーンを膨らませて狭窄を押し広げ拡張させ、狭くなった冠動脈をバルーンで押し広げたあとに、コイル状の金属のステントを留置するカテーテル・インターベンションを行います。

また、薬物治療やカテーテル・インターベンションを実施できない場合には、冠動脈バイパス術を実施します。

これは閉塞した冠動脈には手をつけず、身体の他の部分の血管を使って狭窄部分の前と後ろをつなぐ別の通路(バイパス)を作成して、狭窄部を通らずに心筋に血液が流れる道をつくります。

バイパスに用いる血管は、足の大伏在静脈、胸の中で心臓の近くにある左右内胸動脈、胃のそばにある右胃大網動脈などを使用します。

【狭心症と心筋梗塞の違い】

狭心症は冠動脈の血管が狭くなり、心臓へ送る血液の量が少なくなってるものをいいます。

心筋は死なずに生きています。

心筋梗塞は冠動脈の血管が完全に閉塞して、心臓への血液供給が大幅に減少し心筋が壊死してしまうものをいいます。

そして詰まった血管の先には血が流れないため、心筋が壊死して心臓が動かなくなってしまいます。

2018年5月1日火曜日

心臓疾患についてー4.心筋梗塞ー

心筋梗塞は、冠動脈が完全にふさがり心筋に血液が流れなくなった状態を言います。

冠動脈が完全にふさがり心筋に血液が流れなくなると心筋が壊死し、重症の場合は死に至ることもあります。

【冠動脈とは?】

心臓があたかも冠をかぶったように、心臓の周りを走行している血管が冠動脈で心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給しており、左右に1本ずつ計2本あります。

左の冠動脈はさらに大きく2つに分かれて、左前下行枝と左回旋枝に分かれています。

特に左の冠動脈が、血液を送り出す心臓の部屋に酸素や栄養を与えているので、より重要度が高い血管なのです。

【心筋梗塞の起こる原因】

冠動脈の血流がほとんど流れなくなり、酸欠と栄養不足から心筋の一部が壊死するほど悪化した状態をいいます。

心筋梗塞は、動脈内にできたコレステロールが蓄積してできた動脈硬化病巣(プラーク)が破綻し、その破綻部に血栓ができることで起こります。

現代医学においてもこのプラークの破綻がどういう場合に、どういったタイミングで起こるかはしっかりとは解明されていません。

【心筋梗塞の症状】

胸の中央、または左胸部に鉛のかたまりをのせたような重苦しい強い痛みが起こり、そして焼けつくような激しい痛みで、肩や背中、首などにも痛みが放散します。

痛みは30分以上長く続くのが特徴です。

冷や汗や吐き気、呼吸困難を伴うこともあります。

【心筋梗塞の検査】

心臓専門のコンピュータ断層撮影(CT)を用いて、冠動脈の性状をある程度診ることができるようになりましたが、心筋梗塞が将来発症するかどうかを診断するは出来ません。

今まで体験したことがない胸痛や圧迫されるような胸苦しさが起きた時には、迷わず早めに検査を受ける事が大切です。

痛みを覚えない心筋梗塞もありますし、軽い症状でおさまる場合もありますので自分自身が自ら感じる症状の強さと病気の重症度は、必ずしも一致しません。

そのことからして何らかの異常症状があったり、その症状が繰り返して起こる場合にはその症状の強弱に関わらず早期の専門病院への相談・受診をすべきです。

我慢をせずに119番に電話をし救急車を呼んで病院に行くことをおすすめします。

病院へ行くまでの時間が長くかかればかかるほど、病態は悪くなりますので、早期発見、早期治療が病状の深刻化を避けるために最も大切です。

【心筋梗塞の治療】

心筋梗塞で死亡した半数以上が、発症から1時間以内に集中していますので、不幸にも病院に到着する前に亡くなる場合が多いのが現実です。

死亡原因のほとんどが、心室細動と呼ばれる不整脈のためです。

心室細動とは、心臓の血液を全身に送り出す心室がブルブルと細かく震えて(細動)、血液を送り出せなくなり心臓が停止します。

心室細動と呼ばれる不整脈の危険性があり、心筋梗塞が疑われる場合は、ただちに救急車を呼んで、一刻も早く受診をすることが重要なのです。

閉塞した冠動脈を再び開通させる「再灌流療法」を迅速かつ確実にすることが、心筋梗塞に対する治療が鍵となります。

要するに血液の供給を再開させることによって、閉塞したままでは壊死する心筋を助けられるのからです。

発症から6時間以内に「再灌流療法」を実施し、成功すれば最も有効となりますが、発症から12時間以内であれば有用性が高いとされています。

【おまけ】

心筋梗塞や狭心症をまとめて「虚血性心疾患」といいます。

虚血とは血液がない状態を意味します、つまり心臓に十分血液がいきわたっていない状態を言います。

心臓の筋肉である心筋に血液を送り酸素と栄養素を供給する冠動脈が、動脈硬化等で狭くなったり、血管がけいれんを起こしたりすることで、血液が十分に心筋にいきわたらなくなったとき、心臓は酸欠状態即ち虚血状態となり、胸痛等の症状として現れるのです。

2018年4月22日日曜日

心臓疾患についてー3.心房中隔欠損症ー

心房中隔とは心臓の右心室、左心房、左心室の四つの部屋の内の、右心房と左心房の間を隔てる筋肉の壁のことで、心房中隔欠損とはこの壁に穴(欠損)が開いている状態を言います。

胎児の時には全ての人は穴が空いています、この穴は卵円孔と呼ばれ、通常は生まれて数時間後には自然に血液の交通がなくなり、ただのくぼみ(卵円窩)になって無くなります。

しかし心房中隔欠損の患者は生まれた後もこの穴が穴として残っています。

【心房中隔欠損症の症状】

心房中隔欠損症の場合は、動脈血の一部が欠損孔を通って左心房から右心房に流れ、再び肺循環に入ってしまうことら、右心房や右心室の負担が増え、特に肺への血流が増加することで肺うっ血、肺高血圧を引き起こします。

肺血管の血圧が高くなり、呼吸困難などの心不全症状、不整脈などの症状に伴い合併症として心房細動、心不全、肺高血圧などが起こります。

肺高血圧が重症化すると手術ができなくなります。

【心房中隔欠損症の検査】

聴診、胸部X線写真、心電図といった健康診断で通常行われる検査で心疾患が疑われた場合、循環器専門医に心臓超音波検査を受ければ確定診断がつきます。

【心房中隔欠損症の治療】

心不全症状が起きてきた場合には、利尿剤やジゴキシンといった内科的治療で心臓への負担を軽減します。

不整脈を合併する場合には不整脈をおさえる抗不整脈薬を使用したり、また血栓症を予防するため血液をさらさらにする抗凝固療法を行います。

閉鎖術には大きく二通りあります。

1.カテーテル治療・・・ふとももの付け根の太い血管から、折り畳みの傘のような装置を挿入して閉じる。

2.手術・・・直接穴を縫い合わせて閉じる方法。

2018年4月11日水曜日

心臓疾患についてー2.心臓弁膜症ー

心臓弁膜症とは、心臓にある弁に何らかの障害が起き正しく機能せず、本来の役割を果たせなくなる病気を言います。

心臓弁膜症には、大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症等があります。

弁膜症には、弁がかたく開きにくくなる"狭窄症"と、弁が閉じにくくなり血液が逆流する"閉鎖不全症"とがありますか、狭窄と閉鎖不全症が同時に起こるケースもあります。

【心臓弁膜症の起こる原因】

先天性と後天性(リウマチ熱、動脈硬化、心筋梗塞、組織変性など)があり、原因を特定できないものも多くあります。

加齢により大動脈弁に動脈硬化と同じような変化が起きて硬くなり、うまく開かなくなる「大動脈弁狭窄症」や、弁の組織が弱くなって起きる「僧帽弁閉鎖不全」が増加しています。

【主な心臓弁膜症とその症状】

1.僧帽弁閉鎖不全症

左心室から全身に送り出される血液の一部が、左心房に逆流してしまう状態で、全身へ送り出す血液量が減り、左心房は拡張します。

急性発症の場合は、急激な肺高血圧、肺うっ血による呼吸困難が現れます。

慢性的な場合は無症状な場合が多いですが、左心室の機能の低下とともに息切れや呼吸困難が現れます。

僧帽弁狭窄症と同様に、「心房細動」という不整脈を高頻度で合併します。

2.僧帽弁狭窄症

僧帽弁口の狭窄によって左心房から左心室へ血液が流れが悪くなり、左心房やその上流にある肺に負担がかかり、心不全症状が引き起こされます。

僧帽弁の狭窄が進行すると肺うっ血が起こり、肺水腫も現れるようになります。

こうした症状は、「心房細動」という不整脈が起こるとより悪化します。

3.大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁の性質が硬化し、血液の通過できる面積が狭くなる病気です。

その為に左心室から大動脈へ送られる血流が妨げられ、左心室への負担が大きくなります。

最初は症状は伴わず進行していきますが、左心室の機能が低下するにつれ、息苦しくなったり、狭心痛や心不全症状が現れます。

4.大動脈弁狭窄症

左心室から大動脈へ送られる血流が妨げられ、左心室への負担が大きくなり、その結果
無症状の期間が長く続きますが、狭窄の程度が進み心臓の余力がなくなって初めて様々な症状が出るようになります

狭心痛、失神、体を動かした時の息切れや夜間発作性呼吸困難が現れたときには重症化していることがほとんどです。

平均余命は、狭心痛の出現から5年、失神からは3年、心不全発症後からは2年といわれています

。突然死の危険性もある怖い病気です。

5.三尖弁閉鎖不全症

三尖弁とは、右心房と右心室の間にある房室弁です。

上大静脈、下大静脈から右心房へと還流してきた静脈血がこの三尖弁を通過して拡張期に右心室に流入しますが、右心室から肺動脈へ血液を送り出す際、右心房へ血液が逆流してしまう状態です。

上大静脈、下大静脈に血液のうっ滞が生じ、顔面や下肢のむくみ、肝臓の腫大、おなかの張りなどの症状が出ます。

原因としては、他の弁の異常にともなって三尖弁の接合が悪くなるケースが多く見られます。

【心臓弁膜症の検査】

心臓弁膜症がどの程度すすんでいるかは、X線撮影や心電図、超音波検査などを行って判断します。

【心臓弁膜症の治療】

内科的治療と外科的治療があります。

内科的治療としては、心臓の収縮力を高める、肺うっ血を軽減する、血管を広げて心臓の負担を軽減するなどの薬物治療があります。

外科的治療としては、障害を起こしている弁を切除し、新たに人工弁を取り付ける「弁置換術」と、弁の悪いところをだけを修復する「弁形成術」と二通りの手法があります。

2018年3月30日金曜日

心臓疾患についてー1.種類と症状ー

心臓疾患は、日本人の死因の第2位となっています。

初回は体表的な疾患を紹介します。

1.心臓弁膜症

心臓にある弁に何らかの障害が起き正しく機能せず、本来の役割を果たせなくなる病気です。

弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流してしまう「閉鎖不全」があります。

2.心房中隔欠損症

右心房と左心房を隔てる壁を心房中隔と言い、この心房中隔に穴が空いた病気。

3.心筋梗塞

虚血性心疾患のうちのひとつで、心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給している冠動脈血管に閉塞や狭窄などが起きて血液の流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死する病気。

4.狭心症

心臓の筋肉である心筋に酸素を供給している冠動脈に動脈硬化が起こり一過性の心筋の虚血のための胸痛・胸部圧迫感などの主症状を呈する虚血性心疾患のひとつ。

5.胸部大動脈瘤

大動脈が胸部(胸郭)を通過する部分の壁に膨らみが生じた状態のことです。

真性大動脈瘤の多くは破裂しない限り無症状で、大きくなっていくと周囲の組織を圧迫して、胸部大動脈瘤なら咳、血痰、胸痛、背中の痛みが、腹部大動脈瘤なら腰痛や腹痛などがみられます。

6.心房細動

心房が細かく動き心房が痙攣したようになり、血液をうまく心臓から全身に送れなくなる病気です。

7.心室細動

心室が1分間に300回以上不規則に震えるように痙攣する状態のことで、これが起こると脳に血液を送れなくなるため意識を失い、死に至る緊急事態となります。

できるだけ早く電気的除細動により心臓の周期的な拍動を取り戻すことが必要とされます。

心筋梗塞や、心筋症の人で出やすくなります。

2018年3月19日月曜日

糖尿病について-3.J-DOIT3試験-

【J-DOIT3試験とは】

J-DOIT3試験とはジェイ・ドゥイットスリーと呼ばれ、Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases の略称です。

J-DOIT3試験は,血糖(HbA1c),血圧,脂質の統合的強化療法を標準療法と比較した大規模医師主導試験で、デンマークで実施されたSteno-2試験の日本版試験といえるものです。

日本で行われた大規模臨床試験「J-DOIT3」の最新の成果が、9月にポルトガルのリスボンで開催された第53回欧州糖尿病学会(EASD 2017)で発表されています。

J-DOIT3試験は,対象患者数が2542人と多く長期の追跡(中央値8.5年)も行われていることから近年のライフスタイルや医療環境の改善によるイベント発生率の低下が大きく貢献しているものと考えられています。

【J-DOIT3試験の方法】

糖尿病患者を以下の二つのグループに分けて検討を行っています。

1.従来治療群

糖尿病ガイドラインに沿った治療を実施

2.強化治療群

・HbA1c 6.2%未満

・血圧 120/75mmHg未満

・LDLコレステロール 80mg/dl

【試験結果】

従来治療群及び強化治療群共に合併症発生率は低く押さえられていますが、強化治療群は従来治療群よりも合併症の発症率を19%も減らすことが出来ています。

【合併症の低下率】

・脳卒中 58%

・糖尿病腎症 32%

・糖尿病網膜症 14%

と合併症を大きく減らす効果が明らかになっています。

【J-DOIT3試験の結果からして今後の治療法は】

血糖値だけでなく血圧やコレステロール値を下げる治療法が今後積極的に行われるようになってきています。

2018年3月6日火曜日

糖尿病について-2.合併症-

糖尿病で恐いのは全身くまなく現れる合併症です。

高血糖が続くと、体のいたるところで血管が詰まったり破れたりすることで、さまざまな合併症が起こります。

三大合併症として知られる"糖尿病網膜症"・"糖尿病腎症"・"糖尿病神経障害"は、いずれも細小血管障害で、糖尿病発病から5年で神経障害、7~8年で網膜症、10~13年で腎症が出現するとの統計結果があります。

しかし、実際は合併症の発症の順序や発症までの期間はあくまでも統計結果であり、人それぞれ合併症の現れる期間は異なることから必ずしもこのようになるとは限りません。

1.糖尿病腎症

血糖値が高い状態が20年ほど続くと、腎臓が機能しなくなり人工透析の適応となります。
透析は週に3回、各4時間行う必要があり、腎臓を移植しない限り、透析は一生続ける必要があります。

透析を受けているのは現在約32万人で毎年5,000人のペースで増加中という統計結果があります。

2.糖尿病神経障害

神経細胞に血液が届かなくなり、全身の神経に障害が起こり、発汗異常や立ちくらみ、便通異常、男性の場合は勃起障害も起こります。

ほんの軽い傷や水虫により足が腐り切断しなればならなくなります。

毎年およそ2万人が足を切断しています。

3.糖尿病性網膜症

初期のうちは自覚症状がないことから気づくことは稀です。

ある程度病状が進行すると、目のかすみ、視力障害、眼底出血による突然の視力低下などが起こり、放置すれば失明することもあります。

要するに血行障害から眼底の血管がつまり、視力の低下から、悪化すると失明状態になる訳です。

中途失明の原因の第1位は糖尿病によるものです。

失明する例は最近では年間3000人(約5人に1人)で、現在わが国における成人の失明原因の第1位となっています。

初期の段階では血糖を正常にコントロールすることで改善されますので、検診で糖尿病と診断された場合、内科はもちろん定期的に眼科を定期的に受診する必要があります。

失明を防ぐために光凝固法、レーザー凝固法、冷凍凝固法などで網膜症の進展を遅らせることができます。

その他の合併症

1)心筋梗塞

糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて心筋梗塞になるリスクが3倍ほど高いという統計結果があります。

突然胸の中央あたりに激痛が走り、30分以上、場合によっては何時間も痛みが続き意識を失う事があります。

梗塞が起こる場所によっては10分ほどで死に至る事があります。

2)脳梗塞

糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて脳梗塞になるリスクが男性で2.2倍、女性では3.6倍も高いという統計結果があります。

※糖尿病の治療では、可能な限り初期の段階で血糖コントロールを開始することにより大血管障害や細小血管障害などの糖尿病合併症のリスクを回避する上で極めて重要となります※

2018年2月26日月曜日

糖尿病について-1.日本における糖尿病患者の現状-

糖尿病についてシリーズで解説していきます。

日本人はインスリンをつくる能力が低い民族であるといわれています。

そのため、軽い肥満や少しの運動不足でも、糖尿病になりやすい事が知られています。

糖尿病とは、"血糖値が高い状態が続く病気"で それ自体は大した病気ではありませんが、何と言っても恐いのは合併症です。

血糖値が高い状態が続くと、体のいたるところで血管が詰まったり破れたりすることが原因で、さまざまな合併症が起こります。

糖尿病は、血糖値が病的に高い状態をさす病名であり、"インスリン依存型"と"インスリン非依存型"の2つのタイプがあります。

1.インスリン依存型は、先天的にインスリンが不足するために高血糖になるタイプで「1型糖尿病」と呼ばれ、多くは児童期に発症します。

2.インスリン非依存型はインスリンは分泌されているにも関わらず、その働きが悪いために糖をエネルギーに変えることができず高血糖となる成人に多いタイプで、「2型糖尿病」と呼ばれます。

日本人の糖尿病患者のほとんどが「2型糖尿病」です。

【日本における糖尿病の現状】

厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」には以下のように解説されています。

糖尿病が強く疑われる人の割合は、12.1%であり、男女別にみると男性16.3%、女性9.3% である。

糖尿病の可能性を否定できない人の割合は12.1%であり、男女別にみると男性12.2%、女性12.1%である。

更に糖尿病が強く疑われる者は約1000万人と推計され、平成9年以降増加傾向にある。

また、糖尿病の可能性を否定できない人も約1000万人と推計され、平成9年以降増加していたが、平成19年以降減少して来ている。

【日本における糖尿病の治療現状】

糖尿病が強く疑われる人の内、現在治療を受けている人の割合は76.6%で、男女別にみると男性で78.7%、女性で74.1%で男女とも有意に増加している。

性・年齢階級別にみると、40歳代男性では治療を受けている割合が他の年代よりも低い傾向が見られます。

【日本における糖尿病患者数】

厚生労働省の「患者調査」によると、糖尿病の患者数は316万6000人となり、前回(2011年)調査の270万から46万6,000人増えて過去最高となっています。

2018年2月20日火曜日

人獣共通感染症-7.細菌性人獣共通感染症としてのエルシニア・エンテロコリチカー

エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)は、豚、犬、猫などの腸管や自然環境中にいる細菌です。

シカ、イノシシ、ネズミなどの野生動物、犬や猫などのペットの糞便、河川水などから見つかっています。

エルシニア・エンテロコリチカは、1939年に胃腸炎の原因菌として発見され、その後発生頻度が低いことから忘れられていましたが、1970 年代になって豚肉の汚染と関連して注目を浴び、米国では年間 3000~20000人の患者発生があると推定されています。

ヒトに対して病原性を示す血清型の分布調査で、健康なブタ、イヌ、ネコ、 ネズミなどが保菌しており、これから飲食物への汚染が感染経路と考えられています。

食中毒の起炎菌として有名ですが、ペットや動物からも感染する人獣感染症としても注目されています。

【菌の性状】

0~4度の冷蔵庫内の温度でも増殖可能です。

このように寒冷に強いため、エルシニアは"好冷菌"と呼ばれることもあります。

【症状】

臨床症状は腹痛や下痢などの胃腸炎症状が主なもので、発熱、頭痛など、風邪のような症状を伴うこともあります。

右下腹部痛(特徴的)・吐き気・嘔吐などの症状から虫垂炎と診断されてしまう場合もあります。

【検査】

エルシニア感染症の確定診断には、糞便からエルシニア菌の検出が必要となります。

下痢便には多くのエルシニア菌が存在するので、選択培地で直接分離することが可能で、分離培地にはSS寒天、マッコンキー寒天、CIN 寒天などを用います。

患者の初期血清と回復期血清でエルシニア菌に対する血液中の抗体価を測定します。

エルシニア菌の分離ができず、抗体価の上昇が認められた場合でも、本感染症が強く疑われます。

【治療】

自然治癒傾向が高いので、食事制限をし、水分を多めに取る以外は特別な治療は必要ありません。

たまに重症化する事がありますが、この場合は抗菌剤を使用します。

トリメトプリンサルファメトキサゾール(ST合剤)、セフォタキシム、フルオトキノロンなどが効果があるとされています。

【予防】

1.この菌は低温でも増殖しますから、冷蔵庫を過信しない。

冷凍された食品中でも、長期にわたって生存可能ですので注意が必要です。

2.生の肉や、加熱不十分な肉は、食べない。

3.生水を飲まない。

4.料理前、食事前は、手をよく洗う

5.ペットや動物と接触した後、生の肉を扱った後、トイレの後は良く手を洗う。

6.肉用のまな板と他の食材用のまな板とは区別する。

7.ペットの糞は衛生的に処理する。

【献血とエルシニア】

エルシニアに感染した場合血液中にエルシニアが入り込んでいますから献血はできません。
エルシニアの含まれた血液は4~6度で保存しても菌は死ぬことはなく増殖しています。

その為1ケ月以内に発熱を伴う食中毒と見られる激しい下痢をした人は献血はできません。

輸血を介したエルシニア・エンテロコリティカの感染についてわが国では報告例がありませんが、米国では死亡の危険率は輸血1単位当たりおよそ900万の1と推定されています。
米国においては1987~1988年に4例の輸血に関連したエルシニア・エンテロコリチカ菌血症の報告があり、1989年1月~1991年2月にさらに6例の報告があります。

6名の患者はいずれも輸血開始後50分以内に発熱,血圧低下をきたし,内1名は10分以内に激烈な下痢をおこし、6名中4名は12時間~37日の間に死亡しています。

現在、スクリーニングに適した信頼性のある検査法は存在していません。

米国において1987~1988年に4例の輸血に関連したエルシニア・エンテロコリチカ菌血症の報告されていますが,1989年1月~1991年2月にさらに6例の報告があり6名の患者はいずれも輸血開始後50分以内に発熱,血圧低下を起こし,内1名は10分以内に激烈な下痢が起こり、6名中4名は12時間~37日の間に死亡しています。

2018年2月12日月曜日

人獣共通感染症-6.細菌性人獣共通感染症としてのサルモネラ症

サルモネラ感染症の原因菌はサルモネラ(サルモネラ・エンテリティディスなど)によって引き起こされます。

サルモネラはおよそ2,000種類以上の血清型に細分されており、チフス性疾患をおこすチフス菌およびパラチフス菌も含まれるが、ここではヒトに胃腸炎、つまり食中毒の原因となるサルモネラについて解説いたします。

サルモネラ菌は自然界のあらゆるところに生息し、家畜、ペット、鳥類、爬虫類、両生類が保菌し食中毒ならびに人畜共通感染症の重要な原因細菌のひとつです。

国内では、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)での感染報告が多く、国内で飼育されているカメ類のサルモネラ保菌率は18%、その他トカゲ類で75%、ヘビ類で90%であるとの報告があります

サルモネラ感染症は、近年ではペットの犬や猫をはじめ爬虫類や両生類から人へ感染した事例が多数報告されています。


【症状】

潜伏期間は、5~72時間(平均12時間)です。

小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しますが、小児や高齢者はわずかな菌量でも感染してしまいます。

人への感染は、主として成人では急性胃腸炎を引き起こします。

小児や高齢者が感染した場合には、症状がより重篤化し、菌血症を併発しやすくなります。

サルモネラ菌に感染した犬・猫をはじめ小動物では、一般的に急性胃腸炎として嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失が認められ、特徴的な所見はほとんどないので見過ごされることが多いので注意が必要です。


【検査】

新鮮な糞便を分離・同定、抗生物質の感受性試験などを実施します。

サルモネラの特異的な迅速診断法は2018年現在存在しません。

【治療】

アンピシリン(ABPC )、ホスホマイシン(FOM )、およびニューキノロン薬に限られます。

【予防】

サルモネラの予防は原因食品、特に食肉および鶏卵の低温保存管理、またそれらの調理時および調理後の汚染防止が基本となりますが、ペット等からの感染も無視できません。

サルモネラ菌は、動物の消化管に保菌されており糞便から人の口に入り感染する場合も多いので、動物に触れた後は必ず早めに手をよく洗う必要があります。

ペットとの不用かつ安易な濃厚な接触(餌の口移しなど)をしない。

サルモネラ菌は、色々な消毒剤が有効です。

消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、逆性石けん液(ベンザルコニウム塩化物液)など、市販されているほとんどの消毒剤が有効です。

2018年2月4日日曜日

人獣共通感染症-5.細菌性人獣共通感染症としてのコリネバクテリウム・ウルセランス感染症

犬や猫などから人間にうつるとされる人獣共通感染症「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」による死者が2018年1月14日国内で初めて確認されました。

国立感染症研究所調べによりますと、国内では2001年から2017年11月末までに25例の発生が確認されています。

【感染経路】

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症は、家畜やペットの動物が持つ「コリネバクテリウム・ウルセランス菌」に感染することで起きる人獣共通感染症です。

コリネバクテリウム・ウルセランスはジフテリア菌に類縁なグラム陽性の短桿菌で、おもに家畜などの動物に常在しており、ウシの乳房炎の原因となることがあります。

人から人に感染することはほとんどありません。

【症状】

症状としては、基本的にジフテリアと類似した臨床症状を示します。

喉の痛みや咳など風邪の症状が出て、重症化すると呼吸困難などで死亡することもあります。

【検査】

患者の体液を培養し、病原菌を単離、同定するか、PCRを用いて検査する。

【治療法】

マクロライド系抗菌薬が有効とされています。

【予防法】

人での国内感染事例の多くは犬や猫からの感染であることが確認されていることから、この菌に感染した動物と接する場合には注意が必要となります。

感染した動物は、くしゃみや鼻汁などの風邪に似た症状や皮膚病を示すことがあり、動物間で感染が拡大することも報告されていますので注意が必要となります。

無症状の保菌動物の存在も報告されています。

日常生活において過度に神経質になるのではなく、一般的な衛生管理として動物と触れあった後は手洗いを確実に行うことなどにより、感染のリスクを低減することが可能となります。

【感染対策】

国内では、人に対する定期の予防接種の対象である3種混合(最近では4種混合)ワクチンにジフテリアトキソイド(ワクチン)が含まれていますので、このワクチンはコリネバクテリウム・ウルセランス感染症に対しても有効であると考えられています。

2018年1月26日金曜日

人獣共通感染症-4.細菌性人獣共通感染症としてのカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症-

舌を噛みそうな人獣共通感染症ですが、ご一読下さい。

カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)は通性嫌気性グラム陰性の桿菌で、人獣共通感染症の病原体で、イヌやネコ口腔内に常在しています。

【感染経路】

イヌやネコに咬まれたり、ひっ掻かれたりすることで感染・発症します。

免疫機能の低下した方において重症化する傾向があります。

動物による咬傷事故等の発生数に対し、実際報告されている患者数は非常に少ないことから、本病は極めて稀にしか発症しないと考えられています。

※犬の咬傷事故については、保健所に報告されたものだけでも年間6000件以上もあり、報告に至らないものを含めるとさらに多く発生していると考えられます※

菌の感染力は弱く、今のところ人から人への感染の報告もないようです。

【症状】

発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などです。

重症化すると、敗血症や髄膜炎を起こし、播種性血管内凝固症候群(DIC)や敗血性ショック、多臓器不全に進行して死に至ることがあります。

重症化した場合、敗血症になった患者の約30%が、髄膜炎になった患者の約5%するとの医学統計があります。

【検査】

患者の体液を培養し、病原菌を単離、同定するか、PCRを用いて検査する。
 
【国内での患者の発生状況】

日本においては、これまで重症化した患者の文献報告例が14例あります。

患者の年齢は、40歳代~90歳代と中高年齢が多く、糖尿病、肝硬変、全身性自己免疫疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患が見られます。

感染原因は、イヌの咬傷6例、ネコの咬傷・掻傷6例、不明2例となっています。

その内6人(内訳は50代1人、60代3人、70代1人、90代1人)が死亡しています。

なお、近年この感染症報告が多いのは、臨床現場で本病が認知されてきたためと言われています。

【海外での患者の発生状況】

1976年に最初に報告されています。

その後、現在までに世界中で約250人の患者が報告されています。

【治療法】

早期に抗菌薬等による治療を開始することが重要で、ペニシリン系、テトラサイクリン系抗菌薬が一般的に推奨されています。

カプノサイトファーガ-カニモルサスにはβラクタマーゼを産生する菌株もあるので、ペニシリン系の抗菌剤を用いる際にはβラクタマーゼ阻害剤との合剤などその影響を受けにくい抗菌剤を選択する必要があります。

【予防法】

イヌやネコに触れたり、その排泄物を処理した後は、手洗いやうがいを確実にする。

イヌやネコへ口移しで餌を与えない、キッスなど濃厚な接触をしない。

咬まれたり、引っ掻かれるなどして、発熱や頭痛など体調の悪化が認められた時は、早く医師による診断と治療を受ける。

【注意】

脾臓摘出者、アルコール中毒、糖尿病などの慢性疾患、免疫異常疾患、悪性腫瘍にかかっている人や、高齢者など、免疫機能が低下している方は、重症化しやすいので注意が必要です。

2018年1月15日月曜日

人獣共通感染症-3.細菌性人獣共通感染症としてのパスツレラ症-

パスツレラ症は、パスツレラ属(Pasteurella)菌を原因菌とする日和見感染症です。

パスツレラは、フランスの化学者・細菌学者のルイ-パスツール(1822~1895年)に因んでの命名されています。

日本国内では、2002年にネコから感染した95歳の女性が死亡した症例が文献的に報告された国内初の症例で、私の知る限りでは以後これまでに5例の死亡例を含む14例が報告されています。

この14例の内訳は、イヌからの感染が7例、ネコからの感染が6例、不明1例となっています。

近年、日本ではパスツレラ症の患者発生が増えていますが、この要因としてはイヌやネコに咬まれて感染する感染症として患者数が多いことと考えられています。

【症状】

パスツレラ菌の感染後、30分~2日で皮膚症状、呼吸器症状が現れます。

イヌやネコ咬まれたり、引っ掻かれたりしたあと、傷ができたところが腫れ、化膿する症状が主で呼吸器系の疾患、骨髄炎、外耳炎等の局所感染、敗血症、髄膜炎等の全身重症感染症を引き起こし最悪死亡することもあります。

傷口から精液様の臭いのする浸出液が排液されるのが特徴です。

高齢者、糖尿病患者、免疫不全患者等の基礎疾患を持つ人が特に感染しやすく、重症化の例も多く視られます。

【パスツレラ菌の保菌動物】

イヌの約75%、ネコのほぼ100%(爪70%)がパスツレラ菌を口腔内常在菌として保有しています。

【動物の症状】

イヌやネコでは一般に無症状です。
    
【検査と診断】

パスツレラ症では特徴的な症状が無いため、受診時の注意点としてどの診療科を受診してもイヌやネコとの接触があることを申告する必要があります。

細菌鑑別培地にマッコンキ-寒天培地を第一選択肢とすべきですべきで、BTB寒天培地にはパスツレラ菌以外の細菌が発育することからしてBTB寒天培地は使用すべきではありません。

PCR法を用いた培養サンプルからの直接的なパスツレラ菌遺伝子の検出も可能です。

【治療法】

高齢者、基礎疾患のある患者、咬・掻傷等では抗生物質の早期投与が重要となります。

早期に適切な薬剤を選別し、初期治療を十分に行う必要があります。

多くの抗生剤が有効であり、ペニシリン系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール、セファロスポリン系に高い感受性を示し有効です。

グリコペプチド系のバンコマイシン、リンコマイシン系のクリンダマイシンには高い耐性が認められるため使用は適切ではありません。

【感染予防対策】

ペットとしてのイヌやネコとの濃密な接触が増える昨今、パスツレラ菌の感染も増加することが心配されていますが、この病気は口移し等の過剰な接触を行わないこと、動物からの受傷に気をつけることにより防止できます。

2018年1月8日月曜日

人獣共通感染症-2.細菌性人獣共通感染症としてのネコひっかき病-

細菌性人獣共通感染症としては、炭疽、ペスト、結核 、パスツレラ症、サルモネラ症、リステリア症、カンピロバクタ症 レプトスピラ病、ライム病、細菌性赤痢、エルシニア・エンテロコリティカ感染症、野兎病、鼠咬症、ブルセラ症などがあります。

今回はネコひっかき病について紹介します

グラム陰性菌のバルトネラ・ヘンセラ菌(Bartonella henselae)によって引き起こされる人獣共通感染症のひとつです。

バルトネラ・ヘンセラ菌は猫に対しては全く病原性はなく、長い間、この菌を保有するネコは保菌状態になっており、18ヶ月以上も感染が続くこともあります。

ネコからルコへの菌の伝播にはネコノミが関与しており、ネコの血を吸って感染したネコノミは、体内で菌を増殖させ糞便として排泄されそれがネコの歯あるいは爪に付着します。

そのネコに咬まれたり引っかかれたりすることによって人間の傷に感染します。

日本ではネコの9~15%が菌を保有しているとの報告があります。

犬からも抗体が検出され、犬やサルからの感染報告もあります。

感染したネコの血液を吸ったネコノミが人間を刺す事による感染例も報告されています。

人の猫ひっかき病は日本では全国調査がされていないために患者数は不明ですが、おそらく全国で年間2万人程度であろうと言われています。

【症状】

菌の侵入した箇所が数日から4週間程の度潜伏期間後に虫刺されの様に赤く腫れます。

痛みのあるリンパ節腫脹、37℃程度の発熱、倦怠感、関節痛などが代表的な症状で、まれに重症化する事があります。

肝膿瘍を合併することがあり、免疫不全の人や、免疫能力の落ちた高齢者では重症化して麻痺や脊髄障害を引き起こすこともあります。

【治療法】

特に治療を行わなくても、自然に治癒することも多ですが、治癒するまでに数週間から数ヶ月もかかることもあります。

エリスロマイシン、ドキシサイクリン、シプロフロキサシン等が有効とされていますが、多くの症例でその効果は認められていません。

予防ワクチンはありません。

【検査】

1.関節蛍光抗体法(Indirect Fluorescence Assay:IFA)

血清診断としては,バルトネラ・ヘンセラ菌体を抗原とする間接蛍光抗体法が用いられる。

陽性・・・IgM抗体が1:16希釈以上,IgG抗体が1:128希釈以上で特異的な蛍光が見られる

2.抗体検査

単一血清でIgG抗体価が1:256以上、ペア血清で4倍以上のIgG抗体価の上昇、IgM抗体が陽性、のいずれかを認めれば陽性診断とする。

3.PCR法検査

臨床材料中のバルトネラ・ヘンセラ菌の遺伝子を検出する方法が迅速診断上有用な検査法です。

【注意】

最近のペットブームによりイヌやネコがペットが家族の一員として、ヒトがペットと濃密な接触をするが多くなっています。

動物を飼う場合には猫ひっかき病等の動物とヒトの間で起こる人獣共通感染症に対する知識を持つことは家族の健康とペットの健康を守る上で大切なことです。

2018年1月2日火曜日

人獣共通感染症-1.分類-

人獣共通感染症(ズーノーシス:zoonosis)とは、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染または寄生する病原体により生じる感染症のことを言います。

人獣共通感染症は、以下のように分類されます。

1.単純型(ダイレクトズーノーシス:Direct zoonosis)

同種の脊椎動物間で感染し、感染動物から直接あるいは媒介動物を介して機械的に感染するタイプです。

1)動物からヒトへと伝播する(Zooanthroponoses)

2)ヒトから動物へと伝播する(Anthropozoonoses)

3)ヒトと動物の双方に伝播する(Amphixenoses)

などに細分されます。

具体例としては狂犬病、結核、ブルセラ症 、サルモネラ菌、炭疽、オウム病、腎症候性出血熱、細菌性赤痢、アメーバ赤痢、旋毛虫症、カンジダ症、ブドウ球菌症などが知られています。

2.循環型(サイクロズーノーシス:Cyclo-zoonosis)

病原体が感染するためには、複数の脊椎動物を必要とするタイプでこの型には寄生虫が多く含まれます。

実例をあげますと、アニサキス症、エキノコックス症、有鉤条虫症、無鉤条虫症などが知られています。

3.異型型(メタズーノーシス:Meta-zoonosis)

脊椎動物と無脊椎動物の間で感染が成立するタイプです。

実例をあげますと、アルボウイルス感染症、発疹熱、日本住血吸虫症、肝吸虫症、リーシュマニア症などが知られています。

4.腐生型(サプロズーノーシス:Sapro-zoonosis)

病原体が発育・増殖する場として、有機物・植物・土壌などの動物以外の環境を必要とするタイプです。

実例をあげますと、クリプトコッカス症、トキソカラ症、アスペルギルス症、ボツリヌス症、ウェルシュ菌食中毒などが知られています。

5.混合型

上記4型が組み合わされたタイプです。

実例をあげますと肝蛭症、ダニ麻痺症などが知られています。

2018年1月1日月曜日

2018年新年のご挨拶

恭賀新年

昨年中はご利用いただきありがとうございます。

本年も皆様方のお役に立てる情報を発信していきますので、よろしくご利用の程お願い申し上げます。