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2019年8月20日火曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点 -1.咽頭淋菌検査-

数回に分けて性行為感染症の検査を受ける際の注意点について解説していきます。

これを読まれて各種検査の注意点を理解いただき、正しく検査を受けられることを願っております。

第一回目は、咽頭淋菌検査についてです。

最近オーラルセックスで咽頭に淋菌が感染する人が増加しています。

人の口腔内には、日常的に非病原性菌の常在菌であるナイセリア属が判明しているだけで11種も存在しています。

病原性のある淋菌も実はこのナイセリア属なのです。

【注意点】

淋菌咽頭感染検査には、淋菌の性器検査に利用されるPCR法は使用することは出来ません!!

【何故淋菌咽頭感染検査にはPCR法は使用不可なのか】

遺伝子増幅法であるPCR法は、病原性のないナイセリア属と交差反応を示すため、この病原性のないナイセリア属の細菌を淋菌と間違えて検出してしまい、淋菌に感染していなくても陽性となってしまうのです。

いわゆる"偽陽性反応(ニセの反応)"が起こるわけです、そのために淋菌の性器感染検査に使用される遺伝子増幅法であるPCR法は咽頭感染の検査には適していません。

よく咽頭に淋菌感染が認められて治療を幾らしても検査が陰性とならないということを聞きますが、これは検査に遺伝子増幅法であるPCR法をしたために淋菌でない非病原性のナイセリア属を検出していることからいくら抗生物質で治療してもPCR検査が陽性となっている結果です。

医師の中には咽頭淋菌の検査に遺伝子増幅法であるPCR法を使用できないことを知らない医師もいることは事実です。

【咽頭淋菌検査は何を受ければよいのか】

咽頭淋菌感染の検査は、ナイセリア属と交差反応をしめさないSDA法(StrandDisplacement Amplification)または、TMA法(Transcription Mediated Amplificatio)による検査を受ける必要があります。

本当に咽頭に淋菌が感染しているかどうかの検査は、SDA法やTMA法検査を受けないと分かりません、PCR検査を受けてはいけません。

※性器への淋菌感染症検査は、PCR検査は感度・精度ともに優れた検査法です※

いくら優秀な検査法でも使い方を間違えば誤った結果が得られて、治療に支障をきたしてしまいます。

咽頭淋菌検査SDA法

咽頭淋菌検査TMA法



2019年8月12日月曜日

HIV郵送検査を利用する際の信頼できる条件とは

自宅にいながら簡単に利用できるHIV郵送検査を利用する人はここ数年で著しく増加しています。

HIV郵送検査が多くの人に利用される理由としては、

1.保健所での検査は受ける日時が限定されて自分の都合に合わせて受けられない。
※行政特有の検査をしてやっているという風潮が未だに是正されていない※

2.プライバシーが保護されていない。

3.実施している検査法がどのようなものかが明確にされていない。

次にHIV郵送検査の問題点について考えてみましょう。

HIV郵送検査は便利な半面、検査の信頼度が会社によって大きく異なるという問題点が存在していることは事実です。

安心して受けられるHIV郵送検査とはどの様な条件なのかを以下に分析してみます。

1.検査結果が他の人に知られることがない(検査を受けた人のプライバシーが完全に保護されているかどうか)

2.第三者による検査精度チェックが定期的に行われている。
※検査の信頼性が高く保たれている必要があります※
※言い換えれば精度管理が適切に行われ、信頼できる検査であるという第三者の証明がなされている事が必要です※

3.HIVやその他の感染症の基本的な知識など必要な情報がわかりやすく提供されている。

4.検査方法や検査結果についての相談窓口が開設されていて、いつでも相談や問い合わせができ、的確なアドバイスが受けられる。

5.検査が陽性となった場合の対応が適切になされている。
※確認検査を受けられる医療機関に関する情報や連携システムが構築されている※
※陽性や僞陽性反応になった時の丁寧な迅速対応がなされている必要があります※

少なくとも以上の条件が満たされていないHIV郵送検査は、受けるべきではありません。

また、HIV郵送検査は自己責任で受けるという認識も忘れてはなりません。

2019年8月2日金曜日

性行為感染症アラカルト-9.第3期梅毒-

第3期(または晩期梅毒とも言います)は、適切な治療を行わなかった患者が感染時点から5~30年をかけて徐々に進行し臓器の破壊性病変を引き起こしたものを言います。

治療を受けていない人の約3分の1に発生し、症状は軽いものから極めて重篤なものまで様々です。

そして神経梅毒・心血管梅毒・ゴム腫梅毒に分類されます。

神経梅毒は、早期神経梅毒と後期神経梅毒に分類されます。

一昔前に比べて現代の医療の発展により第3期(または晩期)の症例は極めて稀となっています。

【感染力】

この時期は第三者に梅毒トレポネーマを感染させることはありません。

【梅毒検査】

当然TP検査は陽性となりますが、STS検査は陰性か弱陽性となります。


2019年7月24日水曜日

性行為感染症アラカルト-8.潜伏梅毒-

潜伏梅毒とは、各種梅毒血清反応が陽性で、梅毒特有の臨床的症状が認められないものを言います。

【潜伏梅毒の梅毒検査】

1.STS検査が陽性で、TP検査が陰性の場合は生物学的僞陽性反応が疑われるので、再度日にちを開けて採血し検査をする必要があります。

2.STS検査とTP検査の両方が陽性の場合潜伏梅毒と考えれます。

3.TP検査のみ陽性の場合は、陳旧梅毒の可能性がありますが、再度確認検査をする必要があります。

【潜伏梅毒の頻度とその種類】

梅毒トレポネーマ感染後1年以内の潜伏梅毒はおよそ25%の患者で見られ、第2期梅毒の再発を起こすことから、"早期潜伏梅毒"と言います。

それ以降の梅毒を"後期潜伏梅毒"と言います。

これは第1期及び第2期梅毒の時点で適切な治療を行わなかった場合、3分の2以上の患者が潜伏梅毒に移行します。

潜伏梅毒に移行した患者の25%前後が4年以内(多くは1年以内)に第2期梅毒の症状が再燃します。

そして潜伏梅毒になった患者のおよそ3分の1が晩期梅毒に移行してしまいます。

梅毒トレポネーマの感染力は時間経過と共に衰え、感染成立後4年以降は性行為による感染はないといわれています。

しかし後期潜伏梅毒の時期では、母胎から胎児に感染し先天梅毒を発症する可能性はあることからして注意が必要となります。

【潜伏梅毒は治療しないでよいのか】

潜伏梅毒の患者は梅毒治療を行わなくても、70%は晩期梅毒には移行しないことが知られていますが、自然治癒は疑問視されています。

残りの30%の患者は晩期梅毒に移行します。

※現代医療では多くの人が梅毒以外の感染症で抗生物質の投与を受ける機会が多く、梅毒トレポネーマに感染しているにもかかわらず気づかずに他の疾患で抗生物質の投与を受け、その結果として潜伏梅毒の段階で治癒している可能性があります※

※このことから先進国で晩期梅毒がまれであることが説明出来ます※

2019年7月16日火曜日

性行為感染症アラカルト-7.第2期梅毒-

第2期梅毒の症状としては、第1期梅毒の症状が出た後の4~10週後に発熱や皮疹が出現します。

皮疹は第2期梅毒患者の70%に認められ、梅毒患者全体の90%以上に認められる代表的なものです。

皮疹は3~10mm程度の斑丘疹状紅斑を呈し、色はピンク・褐色・赤色で全身に発生し、一般的には痒みも痛みもありません。

この発疹はしばしば手のひらや足の裏に現れ、発疹はすぐ消えることもあれば、何ケ月も続くこともあります。

治療をしなくても、発疹はやがて消えますが、数週間、または数カ月経ってから再発することがあります。

頭皮に発疹ができると、髪の毛が斑状に抜け落ちていわゆる虫食い状態になります。

その他粘膜疹や扁平コンジロームも出来てきます。

扁平コンジロームは、外陰部や肛門などの粘膜や皮膚が接触する部分に好発し、ダイズ大の扁平隆起性の腫瘤で表面から浸出液が出ることが多く、この浸出液に多量の梅毒トレポネーマが含まれていることからこれに接触することにより簡単に感染してしまいます。

口の中には両側の軟口蓋に沿って広がる乳白色の粘膜斑が出来ます。

この粘膜斑はちょうど蝶が羽を広げているのに似ていることからも"バタフライ・アピアランス(butterfly appearance)"と呼ばれます。

またこの時期には全身のリンパ節が腫れますが、特に上腕骨の滑車上リンパ節の腫れは梅毒の特徴的な腫れです。

その他の症状としては、微熱・倦怠感・咽頭炎・食欲不振・体重減少・筋肉痛・関節痛などがあります。

この時期の血液検査では、感染者の半数以上に肝機能障害が現れ、アルカリホスファターゼが高値になりますが、血清ビリルビン値は上昇しないという特徴的な検査所見を呈します。

また、一部の患者には胃に浸潤性または潰瘍性病変を引き起こすことから、しばしば悪性リンパ腫と間違われることがあります。

肛門性交を行う人は直腸にも病変が見られます。

結膜炎・角膜炎・虹彩毛様体炎・網膜炎・視神経炎を発症することがありますが、これを放置すれば失明する危険性があります。

【検査】

この時期にはSTS検査やTPHA及びFAT-absなどのTP検査も陽性となります。

2019年7月9日火曜日

NAT検査とリアルタイムPCRの違いとは

よくNAT検査とリアルタイムPCRの違いを質問されますから、今回はこの違いについて解説致します。

1.NAT検査とは

NAT(Nucleic acid Amplification Test )とは、日本赤十字社が輸血用血液製剤の安全性確保の一環として実施している各種病原体の検査のひとつで、HBV、HCV、HIV-1/-2を同時に検査できる核酸増幅検査のことです。

検査は血液中のウイルス遺伝子を構成する核酸(DNAまたはRNA)の一部を約1億倍に増幅して検出する極めて感度と特異性の高い検査方法です。

検出感度は以下のとおりです。

・HBV 平均検出感度  3.2IU/mL
・HCV 平均検出感度 12.4IU/mL
・HIV-1 Group M 平均検出感度 41.8IU/mL
・HIV-1 Group O 平均検出感度 93.7 copies/mL
・HIV-2 平均検出感度 2.0 copies/mL

※血液センター専用の輸血用血液専用の検査ですから、HIV感染の判断検査と医療機関で受けることは出来ません※

2.リアルタイムPCR検査

以下の二種類があります。

1)コバス  taqMan HIV-1「オート」

【販売メーカ】

ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

 健康保険の名称は『HIV-1核酸増幅定量精密検査』です。

【検査成績の記録】

検出範囲は、40~1.0×10の七乗コピー/mLです。

以下の三種類に分けて記載されます。

1.測定上限を超えた場合・・・検査結果は【>1.0×1.0×10の七乗コピー/mL  検出  陽性】

2.測定範囲内・・・検査結果は【○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出  陽性】

3.測定限界未満でウイルスが存在する時・・・検査結果は【<○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出 陽性】

4.測定限界未満でウイルスが存在しない時・・・検査結果は【<○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出せず  陰性】

2) アキュジーン m-HIV-1

【販売メーカ】

アボット社が販売しています。

健康保険の名称は『HIV-1核酸増幅定量精密検査』です。

【最小検出感度】

検体量0.6ml→40コピー/ml

検体量0.5ml→75コピー/ml

検体量0.2ml→150コピー/ml

両方の検査とも自動機器を使用して全自動で検査を行います。

感度、特異性、検出可能なHIV-1はTaqMan HIV-1「オート」とアキュジーン m-HIV-1は同じ。

日本での普及率は、日本国内では、TaqMan HIV-1「オート」が先行販売されたことから、後発販売となったアキュジーン m-HIV-1の普及率は低いのが現状です。

※TaqMan HIV-1「オート」とアキュジーン m-HIV-1は、共にHIV-2は検出できません※

2019年7月2日火曜日

性行為感染症アラカルト-6.第1期梅毒-

性行為感染症は減少傾向にあるのにもかかわらず、梅毒だけは2015年から急激に増加しています。

2019年6月16日現在2959人の患者が報告されています。

この数字は医療機関から保健所に届けられただけの数字ですから、実際この数倍の患者が存在していると推計されています。

何故梅毒が増加しているかについては、種々取り沙汰されていますが、その原因は未だはっきりしていません。

【梅毒とは】

梅毒トレポネーマによって引き起こされる性行為感染症です。

コンドームでの感染予防は完全ではありませんが、当然使用して感染予防をする必要があります。

性行為だけでなく、キスを含めたオーラルセックスでも簡単に感染してしまいます。

【第1期梅毒の症状】

梅毒トレポネーマに感染するとおよそ3週間後に、感染した部位に初期硬結・硬性下疳が出来るが、一般的に痛みなどはなく無症候状態で経過します。

陰部に病変があるときには、鼠径リンパ節が左右対称に腫れますが痛みはありません、これを"無痛性横痃(むつうせいおうげん)"と言います。

※"無痛性横痃(むつうせいおうげん)"は、一般的には"よこね"と言われています※

これらの症状は治療をしなくても自然に消滅しますが、体内には梅毒トレポネーマが存在し、第三者に感染させてしまいます。

この時期が特に感染力が強いことから、梅毒の流行阻止には第1期梅毒の症状が現れた時に治療を開始することが重要とされています。

最近の梅毒は、昔の梅毒に比べて典型的な第1期梅毒の症状を起こさないものが多く報告されています。

【第1期梅毒の検査方法】

この時期は、血液中に産生されたカルジオリピン抗体もTP抗体の量も少なく、STS検査もTP検査も陰性となるリスクが極めて高く検査の信頼性は低いです。

1.パーカーインキ法

硬性下疳の潰瘍の表面をこすって刺激したあとに出てくる分泌液には多量の梅毒トレポネーマが含まれていることから、分泌液をパーカーインクで染めて、光学顕微鏡で分泌液中の梅毒トレポネーマを検査する方法が一番手っ取り早い検査法ですが、最近ではこの方法で検査をする医師が少なくなってきています。

2.暗視野顕微鏡検査

また、暗視野顕微鏡で分泌液中の梅毒トレポネーマを調べる検査法もあります。

※パーカーインク法や暗視野顕微鏡検査は、医師や検査技師の技術や病変部位の梅毒トレポネーマの数に依存していることにくわえ、非病原性トレポネーマとの鑑別が難しく精度が低い検査法です※

3.IgM-FTA-abs検査

この時期信頼性の高い検査法は、IgM-FTA-absです。

梅毒トレポネーマに感染した初期には、IgM抗体が先に出来て、その後IgG抗体が出来ます。

このIgM抗体は、梅毒に感染後1週間程度で身体中にできることから、IgM-FTA-abs検査は梅毒に感染後1週間で受ければ 信頼出来る結果が得られます。

従って梅毒トレポネーマに感染後1ケ月を経過して、IgM-FTA-abs検査を受けると血液中のIgM抗体が減少していることから 偽陰性反応を起こすことがあります。

このIgM抗体は、梅毒に感染後1週間程度で身体中にできることから、IgM-FTA-abs検査は梅毒に感染後1週間で受ければ 信頼出来る結果が得られます。

そのことからして、早く感染の診断を下したい時に利用される検査法です。

よくIgM-FTA-absを受けるところがわからない、医師に検査を受けたいと言って医師がIgM-FTA-absの事を知らない、 この医療機関では検査をしていないなどと言われて受けることが出来ないという相談を受けますが、IgM-FTA-absは全国どこでも検査は受けられます。

自施設で検査をしていなくても全国どこでも検査専門の会社に検査を依頼して受けることは出来ます。

梅毒は皮膚科が専門診療科となりますから、皮膚科を受診することです。

皮膚科専門医は、IgM-FTA-absのことを正しく理解していますから問題なく受けることが出来ます。