血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2013年11月6日水曜日

ヘリコバクター・ビロリ抗原検査

ヘリコバクター・ピロリ(以下H.Pと略します)は、1983年、ロビン・ウォレンとバリー・マーシャルによって胃炎患者の胃粘膜から分離され、現在では胃・十二指腸潰瘍、胃炎、胃癌等の疾患にH.Pの感染が深く関与している事が知られています。

H.Pはグラム陰性のらせん菌で数本の鞭毛を持ち、大きさは2~5ミクロン程度の大きさで、強いウレアーゼを産生して、アンモニアで自らの周辺の胃酸を中和(pH6~8)し、胃に感染し強い胃酸の中でも生き続けることが出来ます。

H.Pに感染すると、慢性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こすだけではなく、胃癌や、MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などの発生に繋がることが報告されている他、特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹などの胃外性疾患の原因となることが明らかにされています。

細菌の中でヒト悪性腫瘍の原因と成りうることが明らかになっている唯一の病原体です。

【テストメイト ラピッド ピロリ抗原】

わかもと製薬が開発し、日本ベクトン・ディッキンソンが発売している糞便中のヘリコバクター・ピロリ抗原に特異的に反応するモノクローナル抗体を用いた、イムノクロマトグラフィー法を原理とする糞便中ヘリコバクター・ピロリ抗原検出用試薬です。

本品は固相化抗体、標識抗体ともモノクローナル抗体を使用し、特異性が優れています。

【検査の原理】

イムノクロマトグラフィー法により便中のH.P抗原を検出します。

希釈した便検体を反応シートの試料滴下部位に滴下し、検体中にH.P抗原が存在すると、反応シート中の赤色標識抗体と結合し、免疫複合体を形成し、この免疫複合体は毛細管現象により移動し、反応シート上の固相化された捕捉抗体に捕捉され、赤色判定ラインを形成します。

一方、免疫複合体を形成しなかった赤色標識抗体は、固相化されたコントロール抗体に捕捉されて赤色コントロールラインを形成することにより、検査の正確性の指標となります。

これらの赤色ラインを目視で確認し、検体中のH.P抗原の有無を判定します。

【検査の注意点】

専用容器に採便して、可能な限り早く提出します。

提出が遅れる場合は、2~10℃(冷蔵庫)に保存して直ぐに提出する必要があります。

【判定法】

1.判定窓にコントロールラインと判定ラインを認めた場合:H.P抗原陽性

2.判定窓にコントロールラインを認め、判定ラインが認められなかった場合:H.P抗原陰性

3.判定窓に判定ラインのみを認めた場合:再検査(検査ミス、試薬の劣化)

4.判定窓にラインが認められなかった場合:(検査ミス、試薬の劣化)

【H.Pの治療】

H.Pが胃の中に存在することが確認されれば、H.Pの除菌を実施します。

2013年10月30日水曜日

便潜血反応検査

【検査目的】

大腸ガンを診断する検査のひとつです。

大腸ガンは大腸の下部から出血を伴うので、便に血液が混入することが多いので、便中の血液(人のヘモグロビン)を調べることにより、大腸での出血の有無を確認することが出来ます。


【便の採取方法】

1. 便の量は少なすぎても多すぎてもよくないので、説明書に記載された量を採便する必要があります。

2.採便容器の説明書の通り採便すると、適量(平均6.0mg前後)が採取できます。

3.便が適量でないと陽性が陰性となったり、陰性が陽性となる場合があります。 

4.便中のヘモグロビンの安定性は、室温(25℃)前後で約1週間ですから、採便後直ぐに提出する必要があります。

5.採便は基本的に二本法で行います。

大腸からは毎日出血しているとは限りません。

その為に日にちを変えて採便を2回する必要があります。

即ち二本法とは二回(異なる日)に採便し検査する方法です。

出血は必ずしも継続的ではないため、一本法では陰性になる確率が高いために、多くの医療機関では二本法を採用しています。

二本法を行うことで一本法よりも大腸出血の発見率が高くなります。 


【問題点】

上部消化管(食道・胃・十二指腸など)からの出血の影響を受けず、大腸ガンなどによる大腸出血の診断に有用ですが、痔などの肛門出血や大腸ガン以外の病気(大腸ポリープ・大腸炎など)でも陽性となる場合があります。

女性では月経血が混ざっても陽性となります。

早期の大腸ガンでは陰性となることが多い。

【判定】

陽性(+): 検査上、大腸からの出血が認められる。

※必ずしも大腸ガンがあるとは言えませんので、大腸内視鏡などの精密検査を行い、出血の原因を確認する必要があります。    

陰性(-): 検査上、大腸からの出血は認められない。

※出血が認められないだけで、大腸ガンがないとはいえません。

【おまけ】
 
便潜血検査の偽陰性率(見逃してしまう可能性)

進行ガン 約10%

早期ガン 約50%

便潜血検査のガン的中率(陽性の人が癌である確率) 約3%

2013年10月22日火曜日

臨床検査のパニック値について

【パニックの定義】

パニック値とは、"生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値"で直ちに治療を開始すれば救命することが出来ますが、その診断は臨床的な診察だけでは困難で検査によってのみ可能です。

【パニック値の設定と運用】

パニック値の設定項目と設定値は、各施設によって臨床医との協議によって設定されています。

検査を実施してパニック値が認められると、迅速・確実に臨床医に伝達され、臨床医は迅速に対応することになります。

パニック値として臨床医に迅速・確実報告すべき項目は限定されています。

【パニック値設定の事例】

クレアチニン  3.0以上

ナトリウム   120以下及び160以上

カリウム    2.5以下及び6.0以上

カルシウム   6.0以下及び12.0以上

AST       1000以上

ALT              1000以上

血糖値     50以下及び350以上

白血球数    1500以下及び20000以上

血小板数    30000以下及び1000000以上

※紹介したパニック値は、ほんの一例で各医療機関によって異なりますので、このパニック値がすべではありませんので、目安として参考に留める程度としておいて下さい。

2013年10月15日火曜日

臨床検査の極端値とは

【極端値の定義】

稀にしか見られない検査値で、統計学的には0.5~1.0パーセントタイル値以下、および99.0~99.5パーセントタイル値以以上とされています。

【極端値が起きる原因】

1.検体採取条件などのに起因する場合

2.分析前誤差などのに起因する場合

3.検査過誤などのに起因する場合


【極端値に対する対応】

再度の検査や、再度採血をし直し検査を行うなど、検査データの統計的処理で解決可能となります。

【極端値の解釈】

極端値の中には、患者の生命が危ぶまれるパニック値も含まれていますが、極端値を呈する患者が,必ずしも生命が危ぶまれるほど危険な状態にあるとは限りません。

また、検査項目によってもこれは言えることです。

※パニック値について、次回解説いたします※

2013年10月9日水曜日

臨床検査の基準値とは

臨床検査で参考にする基準値は,統計学的に算出した数値範囲を用いています。

臨床的検査学的に異常を示さず病気がなく健康な人の集団を健常者とし、その健常者の測定結果を集計すると左右対称の山型になります。

このうちの極端に高い数値2.5%と低い2.5%を除き,この平均値をはさんだ健常者の95%が含まれる範囲を基準値とします。

要するに検査を受けた人が病気であるのか、病気でないのかを、大まかに解釈する時に参考にする数値が基準値です。

健常者の95%が基準値の範囲内に収まりますが、疾患の徴候がない健康な人でも基準値から外れることがあり、反対に、検査値が基準範囲に収まっている人でも臨床的な症状を示す場合もあります。

その為、かつては『正常値』と呼ばれていましたが、統計的な平均値は現在では『基準値』と呼ばれています。

疫学的な統計データに基づく基準値は、正常範囲に収まる個人の多様性や個別差を十分にカバーすることが出来ませんので、正確な診断には基準値との比較だけではなく、医師による個別的な診察が必要となります。

また、定期的に健康診断を受けていると、疫学的な統計データに基づく基準値とは異なる"自分固有の基準値"が算出されるので、これを記録しておくことにより、自分自身の日頃の基準値を知ることが出来ますから、自分の体調の変化や病気の有無は"自分固有の基準値"との比較で判断する事ができます。

例えば今回検査を受けて得られ検査値と、前回の検査値に大きな変化が見られる場合などには、何らかの体調の変化や病気の徴候を疑う必要性があるということになります。

【注意事項】

基準値は検査方法、機器の種類、試薬の種類などによって、微妙にことなりますから、病院や医学書より多少に異なりますから、基準値の数値は絶対的なものではありません。

基準値内で数値が動くことは、心配ないことですから、気にする必要はありません。

2013年10月3日木曜日

アレルギー検査について-8.アレルギー血液検査の問題点-

アレルギー検査を受けて、異常な数値が出ることがあります。

これは何を意味しているのでしょうか?

1.数値は高くなっていても問題となる症状が出ていないことがあります。
 この場合は、問題にならない場合もあります。

2.逆に、数値は低くてもなんらかの症状が出ていることがあります。

これは注意が必要となります。

特に、MAST33のような即時型のアレルギー検査は要注意です。

 【事例】

例えば、牛乳を飲んだ場合で考えてみますと、

即時型検査では、数値が低く問題ないように見えても遅延型検査を受けると高い数値になっていることがあります。

これは、即時型の検査だけではアレルギーの存在を見逃すことがあるということです。

このような状態の人は多く存在します。

この原因としては日本で遅延型のアレルギー検査が始まったのはつい最近で分からなかったからにほかなりません。

従ってアレルギー検査は即日型検査だけでなく、遅延型検査も受けておく必要があるということになります。

【まとめ】

1.アレルギー検査を受けておくことによりアレルギーの原因となる物質を特定しておきそれを避ける事が可能となる。
特にピーナッツやソバ、エビ、カニなどによる即日型アレルギーの防止に役立つ。

2.いま出ている症状の原因を特定して、その治療を行う。

3.異常値が出ても、何の症状も問題もない場合がある時は、あまり気にする必要はない。

4.アレルギー検査の結果は、絶対的な検査ではなく、気に留めておくだけの場合もあることを認識して受けることです。

2013年9月23日月曜日

アレルギー検査について-7.アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン検査-

アレルゲン刺激性遊離ヒスタミン検査(HRT :Histamine Release Test)は、 (好塩基球) ヒスタミン遊離試験とも呼ばれています。

血液中から分離した好塩基球という白血球の一種にアレルゲンを添加し、 そのとき放出されたヒスタミンの量を測定し、アレルゲンに対する反応性を調べます。

この検査は、特異的IgE抗体と結合した好塩基球が原因アレルゲンと反応して、 アレルギー症状を引き起こす原因物質であるヒスタミンを遊離したかどうかを検査するので、 同じin vitro(イン・ビトロ:試験管内での検査)の検査でありながら、特異的IgE検査よりも生体内の反応をより的確に反映するという特徴があります。

血液を調べるため、アナフィラキシーショックなどの危険性がある負荷試験よりも安全に実施ができます。

【どのような場合に検査をするのか】

食物を負荷することで強い症状(アナフィラキシーショック)を誘発するリスクが高いと思われる患者の場合は、 負荷試験を行わずに抗原診断の補助検査として使用できます。

特に汗アレルギーの患者に、アトピー性皮膚炎の原因特定に利用できます。

アトピー性皮膚炎の患者では、"ヒト汗抗原"に対して陽性を示す患者さんがおよそ80%存在すると言われています。

従ってアトピー性皮膚炎では、自分の汗に過敏に反応し、皮膚症状が悪化すると言われていましたが、 最近の研究によって"ヒト汗"のアレルゲンの正体は、健常人にも常在するカビの一種が産生する蛋白である事分かりました。

【検査の種類】

1.HRT乳幼児期用食物:卵白、オボムコイド、オバルブミン、牛乳、小麦

2.HRT学童・成人期用食物:ソバ、ピーナッツ、エビ、カニ、ゴマ

3.HRTアトピー性皮膚炎:ヒト汗、ヤケヒョウヒダニ、ネコ上皮、イヌ皮屑、カンジダ