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2025年12月4日木曜日

季節性インフルエンザ特集-4.⚠️ インフルエンザ急性脳炎の増加に関する5つの重要ポイント-

 1. 流行拡大に伴う急性脳炎の急増と懸念

現状の傾向: インフルエンザの流行が拡大するのに伴い、インフルエンザを原因とする急性脳炎(脳症)の報告例が急増しています。

疫学的動向: 今シーズン(2025/26)は、インフルエンザの定点当たり報告数が警報レベル(30)を超えた時期(第46週)とほぼ同時期に、急性脳炎の報告数も第45週に14件と急増しました。

これは昨シーズン(2024/25)のパターンと類似しており、今後さらに患者数が増加する可能性が強く懸念されます。

統計的な位置づけ: 第45週時点の累積報告数30件は、近年のシーズンと比較しても多い部類に入ります。


2. インフルエンザ急性脳炎の臨床的特徴

好発年齢: 2025/26シーズンの報告例(第45週時点)では、**10歳未満が全体の66.7%**を占め、低年齢層で最も多く発生しています。

平均年齢は11.5歳と、過去のシーズン(2023/24シーズン11.3歳)とほぼ同水準です。

注意すべき点: 報告例は低年齢層に集中していますが、50代、60代、70代といった成人・高齢者層からも報告があり、全年齢層で発症のリスクがあることに注意が必要です。

原因ウイルス: 今シーズンは、急性脳炎例の96.7%がインフルエンザA型によるものと特定されており、A型ウイルスが重症化に大きく関与していることが示唆されます。


3. 流行ウイルス亜型の変化と死亡例の関連

流行亜型: 過去のシーズン(2024/25)ではA/H1pdm亜型が主流でしたが、今シーズン(2025/26)はA/H3亜型が主流となっています。

ウイルス型の影響: この主流となる亜型の違いが、これまでの報告時死亡例の発生状況に影響を与えている可能性が指摘されています。今シーズンは第45週時点までに報告時死亡例は確認されていませんが、警戒が必要です。

医学的背景: インフルエンザ急性脳炎・脳症は、ウイルスの直接的な感染だけでなく、**宿主(患者)側の過剰な免疫応答(サイトカインストームなど)**によって引き起こされる重篤な病態と考えられています。


4. 入院患者の増加と重症化の懸念

入院患者の動向: インフルエンザによる入院患者の届出数は、流行拡大に伴い月を追うごとに急増しています(9月287例、10月994例、11月前半2354例)。

重症化の指標: 入院患者の概況(第46週)では、ICU入室例、人工呼吸器の利用例、頭部検査例(急性脳炎・脳症の疑いを含む)がそれぞれ増加しており、これはインフルエンザ重症例の増加を強く示唆しています。

臨床的対応: これらのデータから、医療現場ではインフルエンザ患者、特に小児や基礎疾患を持つ患者に対して、重症化の兆しを可能な限り早期に把握し、急性脳炎・脳症などの致死的合併症への迅速な対応が求められています。


5. 医療現場への要請と予防の重要性

早期診断と治療: インフルエンザ流行拡大期においては、インフルエンザ急性脳炎の発症者数の増加を念頭においた診療が不可欠です。

重症化のサイン(意識障害、けいれん、異常行動など)を見逃さず、迅速な鑑別診断と治療(抗ウイルス薬の早期投与など)が求められます。

予防対策: 最も重要な対策は、インフルエンザワクチンの接種による発症および重症化の予防です。

一般の方へ: インフルエンザに罹患した場合、特に小児で異常な言動や意識レベルの変化が見られた場合は、単なる高熱とは考えず、直ちに医療機関を受診することが、急性脳炎・脳症の予後を改善するために重要です。

2025年12月2日火曜日

季節インフルエンザ特集-3.👃 フルミスト(経鼻生インフルエンザワクチン)の医学的ポイント-

 1. ワクチンの種類と特徴

フルミストは、日本で今シーズンから本格導入された経鼻投与型の生ワクチンです。

・投与経路:注射ではなく、鼻にスプレーするため、注射の痛みがなく、特に小児にとって大きなメリットです。

・免疫応答:鼻粘膜でウイルスが増殖し、主に粘膜免疫(IgA抗体)と全身性の免疫(IgG抗体)の両方を誘導します。この粘膜での免疫応答が、実際の感染防御において重要と考えられています。


2. 主要な副反応とその頻度

経鼻生ワクチンの副反応は、主に局所反応として現れます。

・鼻症状の頻度:接種後に約60%の方が鼻水や鼻づまりを経験することが報告されています(日本小児科学会)。これは、弱毒化されたウイルスが鼻粘膜で増殖し、免疫システムが働く過程で生じる局所的な炎症反応と考えられています。

・この症状は軽度で、多くは数日間で自然に軽快します。

なお、プラセボ(生理食塩水など)を投与した場合でも約50%が鼻症状を経験するというデータもあり、特に風邪をひきやすい小児では、必ずしもすべてがワクチン由来ではない可能性もあります。

・全身症状:発熱などの全身症状は1~10%程度と低く、通常は2~3日で軽快します


3. ワクチンの有効性

フルミスト(経鼻インフルエンザワクチン)は、小児においてインフルエンザに対する一定の有効性が期待されています。

・特に、注射の不活化ワクチンが主に全身性の免疫(IgG)を作るのに対し、経鼻ワクチンは**感染の初期段階である鼻腔・気道での粘膜免疫(IgA)**を強く誘導するため、感染防御効果が高い可能性があります。

・接種回数は、通常、注射の不活化ワクチンと同じく、接種歴や年齢に応じて1回または2回接種となりますが、日本人小児での臨床試験では1回接種での有効性も期待されています(最終的な接種回数は医師の判断が必要です)。


4. 副反応への理解と対処

接種後の軽い鼻水・鼻づまりは想定内の反応であり、「軽い鼻風邪症状」と捉えても差し支えありません。

・鼻症状と効果の関連:鼻水の量や症状の程度と、ワクチンが獲得される効果の高さが比例するわけではありません。

・注意すべき症状:以下の症状が見られる場合は、ワクチンの副反応以外の感染症の可能性も含め、速やかにかかりつけ医を受診してください。

高熱が続く(通常2~3日で解熱)

1週間以上、強い鼻症状が続く

呼吸が苦しそう(喘鳴や多呼吸など)


4. 副反応への理解と対処

接種後の軽い鼻水・鼻づまりは想定内の反応であり、「軽い鼻風邪症状」と捉えても差し支えありません。

鼻症状と効果の関連:鼻水の量や症状の程度と、ワクチンが獲得される効果の高さが比例するわけではありません。

注意すべき症状:以下の症状が見られる場合は、ワクチンの副反応以外の感染症の可能性も含め、速やかにかかりつけ医を受診してください。

高熱が続く(通常2~3日で解熱)

1週間以上、強い鼻症状が続く

呼吸が苦しそう(喘鳴や多呼吸など)


5. 接種の適応と選択

インフルエンザワクチンは、お子さんの健康状態を考慮して、かかりつけ医と相談の上で選択することが重要です。

メリット:注射の痛みを避けたいお子さんには非常に良い選択肢です。

・接種が難しい場合:

喘息などの基礎疾患があるお子さんでは、経鼻生ワクチンではなく、注射タイプの不活化ワクチンが選択されることがあります。

その他、特定の疾患や薬剤の使用状況によっては接種できない場合があります(禁忌事項)。

2025年11月30日日曜日

季節性インフルエンザ特集-2.🔬 インフルエンザ迅速抗原検査:最適なタイミングと注意点-

 1. 検査の基本と限界:偽陰性の存在

・検査法: 主流なのは、抗原抗体反応を利用した**イムノクロマト法(迅速抗原検査)**でこれは簡便で短時間で結果が得られる利点があります。

・偽陰性の問題: この検査の最大の限界は、インフルエンザに罹患していても陰性と判定される**「偽陰性」**が一定数存在することでこれは、検査の検出感度(ウイルスを見つけ出す能力)に限界があるために発生します。

・発症直後や症状が乏しい場合:約60%が偽陰性となる可能性があります。

・最適なタイミング(後述)でさえも:約25%が偽陰性となる可能性があります。


2. 最適な検査のタイミング

・推奨時間帯: 発症(発熱や咳などの症状出現)から12時間以降、48時間以内が最適な検査のタイミングです。

・医学的根拠: この時間帯が、鼻腔や咽頭に存在するウイルス量が最も多くなり、検査キットがウイルス抗原を検出できる確率(陽性になる確率、すなわち検査の精度)が最大になるためです。


3. 発症直後の検査が不確実な理由

・時間経過の重要性: 症状が出始めてすぐ(特に発症から6時間以内)に検査を受けると、体内のウイルスがまだ十分に増殖しておらず、検査に使う検体中のウイルス量が少ないため、偽陰性となる可能性が極めて高くなります。

・臨床的対応: 発症直後に受診し陰性だった場合でも、医師の判断により、時間を空けて(例:12時間後)の再検査や、臨床症状に基づいた診断的治療が選択されることがあります。


4. 治療効果を最大化するための受診

・治療薬の開始: インフルエンザ治療薬(抗インフルエンザウイルス薬)は、発症から48時間以内に服用を開始することで最も高い効果を発揮します。

・診断の意義: 迅速抗原検査で陽性診断を得ることは、この治療薬を確実に開始するために重要ですから治療のタイミングを逃さないためにも、発症後12~48時間以内の受診・診断が極めて重要となります。


5. 重症化リスクと医療機関受診の優先

・症状が重い場合: 高熱、強い倦怠感、呼吸困難など、症状が重い場合や重症化のリスクが高い方(小児、高齢者、基礎疾患のある方など)は、検査のタイミングに関わらず、直ちに医療機関を受診すべきです。

・最終的な判断: 市販の検査キットで自己検査を行う場合でも、検査結果の解釈や最終的な診断、適切な治療方針の決定は、必ず医療機関の医師の指示に従う必要があります。


2025年11月29日土曜日

季節性インフルエンザ特集-1.🚨 インフルエンザが「流行注意報」レベルに迫る:現状と今すぐ取るべき対策-

 現在、季節性インフルエンザの患者数が全国的に急増し、本格的な流行シーズンに突入しています。

特に、都市圏を中心に非常に高いレベルで感染が拡大しています。


1. 📈 全国の状況:流行が加速し「注意報」に迫る

インフルエンザの流行は過去に例を見ないスピードで加速しています。

・全国平均の急増: 1つの定点医療機関あたりの患者報告数は、51.12(前週37.73)に急増しこれは、10週連続での増加であり、流行の勢いが止まらないことを示しています。

※季節性インフルエンザの警戒レベルとは、定点医療機関からの報告数に基づき、地域ごとのインフルエンザの流行状況を示す指標で具体的には、注意報レベルは「1定点あたり10人/週」を超えた場合、警報レベルは「1定点あたり30人/週」を超えた場合に発令され、流行の拡大や継続を知らせるものです※


2. 📍 地域別リスク:全国レベルで警報レベルに突入

地域によっては、既に深刻な感染拡大が見られています。

警報レベルに達していない地域は、鳥取県、徳島県、高知県、佐賀県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の7県のみで、これらの県も程なく警報レベルに突入すると考えられています。

※2025年11月23日時点※


3. 🦠 医学的懸念:急増がもたらす重大なリスク

患者数の急増が医学的に意味するリスクは以下の3点です。

・重症化リスクの増加: 感染者数が増えるほど、高齢者、乳幼児、妊婦、基礎疾患を持つ方などの「ハイリスク層」が感染しやすくなります。その結果、インフルエンザ脳症や重症肺炎といった致死的な合併症を引き起こすリスクが飛躍的に高まります。

・医療体制の逼迫(ひっぱく): 短期間に患者が医療機関に集中すると、外来がパンクし、救急搬送の受け入れ困難や、本来行うべき他の重症患者への対応が遅れるなど、医療崩壊に近い状態になる懸念があります。

・ツインデミックの現実化: 現在のインフルエンザ流行期は、新型コロナウイルス(COVID-19)やその他の呼吸器感染症(RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど)の流行と重なり合う「ツインデミック」(同時流行)が現実のものとなっています。症状だけで区別が難しく、医療現場での迅速な診断や治療の判断(トリアージ)が極めて複雑になります。


4. 💡 今すぐ取るべき具体的な対策【最優先事項】

感染拡大を防ぎ、ご自身とご家族を守るために、以下の対策を徹底してください。

・予防接種の最優先: まだインフルエンザワクチンを接種していない方は、可能な限り早く接種を検討してください。接種から効果が出るまでに約2週間かかります。発症予防効果はもちろん、重症化や死亡を防ぐ効果が最も期待できます。

・基本的な感染対策の徹底:手洗い: 外出先からの帰宅時や調理・食事の前は、石鹸と流水で30秒以上の手洗いを徹底します。

・マスク: 混雑した屋内や公共交通機関を利用する際は、不織布マスクを正しく着用します。

・換気: 1時間に数回、数分間、窓を開けて室内の空気の入れ替えを行いましょう。


5. 💊 発症時の対応:早期治療の徹底

インフルエンザは治療開始のタイミングが非常に重要です。

・早めの受診: 発熱、強い倦怠感、関節痛など、インフルエンザが疑われる症状が出た場合は、必ず医療機関に連絡してから受診してください。

・早期治療の重要性: 抗インフルエンザウイルス薬は、発症から48時間以内に服用を開始することで最も効果を発揮します。重症化リスクが高い方は、特にこの時間を厳守することが予後を大きく左右します。

・自己判断を避ける: 症状が出た際は自己判断せず、医師の指示に従って検査や治療を進めてください。


2025年11月27日木曜日

RSウイルス-1.📝 RSウイルス(RSV)感染症の要点-

1.ほとんどが軽症だが、生涯再感染するウイルス

RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus: RSV)は、呼吸器の感染症を引き起こすウイルスです。

ほとんどの人が2歳までに一度感染し、成人や年長児では鼻水や咳など軽い風邪に似た症状で済むことが多いです。

一度感染しても免疫が不完全なため、生涯を通じて何度も再感染を繰り返すのが特徴です。

2.乳幼児、特に低月齢児で重症化リスクが非常に高い

特に生後6ヶ月未満の乳幼児は重症化しやすく、細気管支炎や肺炎を引き起こします。

喘鳴(ゼーゼー)、呼吸困難、無呼吸発作などが起こり、入院が必要になるケースがあります。

3.重症化しやすいハイリスク者

生後間もない乳児に加え、低出生体重児、心臓や肺に基礎疾患がある小児、免疫機能が低下している高齢者は特に重症化しやすいことが知られています。

4.感染力が強く、飛沫と接触で広がる

感染者の咳やくしゃみによる飛沫感染と、ウイルスが付着した物を触って目鼻口を触る接触感染によって広がります。

感染力が非常に強いため、保育園などでの集団感染に注意が必要です。

5.画期的な予防戦略:妊婦ワクチン(母子免疫)の導入

RSVには特効薬がなく治療は対症療法が中心ですが、予防法が進展しています。

特に画期的なのが、妊婦へのワクチン接種による予防です。接種でできた抗体が胎盤を通じて胎児に移行し、生後すぐの乳児の重症化を防ぐ「母子免疫」を付与します。

この妊婦ワクチンは、2026年4月から日本で定期接種が開始される方針です。


2025年11月25日火曜日

感染症速報 41.🦠百日咳の現状と薬剤耐性菌の問題:最新の日本国内状況-

 1.百日咳の流行状況

2025年11月9日時点で患者数は、85476人と報告されています。

百日咳は百日咳菌という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。

百日咳菌が体内に入ると、気道の粘膜に感染して毒素を放出し、激しい咳の発作を引き起こします。特に乳児やワクチン未接種の子どもは感染しやすく、重症化のリスクも高くなります。

※「百日咳」という名称は、強い咳が治まるまでに100日ほどかかることがあるという特徴に由来します※

患者の多くは10代以下の子どもで、特に乳児ではけいれんや呼吸停止、肺炎、脳症による死亡例も報告されています。

百日咳の症状の特徴は、数週間から数か月続く慢性的な咳です。

特に子どもの場合は、咳のあとに息を吸うと「ヒュー」と音が鳴ったり、激しい咳の後に嘔吐するケースも見られ、百日咳菌が作り出す毒素には抗生物質が効かないため、咳が長引き始めると治療が難しくなることもままあります。

百日咳の特有の咳は、「コンコンコン」と連続する激しい咳の後に、「ヒュー」という笛のような音を立てて息を吸い込む発作(レプリーゼ)が特徴です※


2. 薬剤耐性菌の増加

国立感染症研究所などの調査(2023年7~9月)により、患者から検出された百日ぜき菌の約8割が抗菌薬の継続がない「薬剤耐性菌」でした。

この耐性菌の遺伝子型は、2022年に中国で流行した型と近いことがわかっています。

耐性菌は、訪問日外国人など国内に認められた可能性が指摘されています。


3.治療への影響

新型コロナウイルス対策で人々の百日ぜき菌への免疫が弱まり、感染しやすくなっています。

薬剤耐性菌の増加により、従来の抗菌薬(アジスロマイシン、クラリスロマイシンなどマクロライド系)が効きにくくなり治療が困難な状況となっています。

※耐性菌対策としては2種類の抗菌薬を配合したST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合剤)が第2選択薬として推奨されています※

感染症研究所の専門家は「感染した菌が耐性菌かどうかはすぐに分からないが、全国で認められているため、治療時には耐性菌の可能性も考慮する必要がある」と指摘しています。


4. まとめ

百日咳は現在日本国内で大流行中で、特に子どもや乳児の重症化リスクが懸念されています。

薬剤耐性菌の割合が非常に高くなっており、治療が正しいため、早期の診断と適切な治療選択が重要です。

百日咳の予防には、ワクチン接種が最も効果的でワクチン接種を受けることで、百日咳にかかるリスクを80~85%程度減らせます。


2025年11月23日日曜日

感染症速報 40.🏥 2025年インフルエンザ流行:医学的・疫学的分析まとめ-

 全国の状況(第46週:11月10日〜16日)

・全国の拠点医療機関からの患者報告数は145,526人。

・定点当たりの報告数(定数)は37.73人/週。

・決定点当たり報告数が高い都道府県上位5位

宮城県– 80.02人/週

埼玉県– 70.01人/週

福島県– 58.54人/週

岩手県– 55.90人/週

神奈川県– 55.12人/週


1. 「無熱性インフルエンザ」の増加と医学的背景

医師も驚く「発熱がない陽性者」の存在は、医学的には「不顕性感染(症状が出ない)」や「軽症例」の一種ですが、背景には以下の要因が推測されます。

◎免疫の記憶と交差免疫: 過去の感染やワクチンにより、ウイルスを完全に防げなくても、激しい炎症反応(高熱)を抑え込んでいる可能性があります。

◎高齢者の免疫応答低下: 高齢者は免疫反応が弱く、熱が出にくい(Afebrile)傾向があります。

◎リスク: 「熱がない=ただの風邪」と自己判断しやすく、無自覚な「スーパー・スプレッダー(感染源)」としてウイルスを広げてしまうリスクが疫学的に最も懸念されます。強いだるさ(倦怠感)があれば、熱がなくても検査が必要です。


2. 「ワクチンの空白期間(Vaccine Gap)」を突いた流行

疫学的に見て、今回の流行の最大の問題はタイミングです。

◎抗体獲得のタイムラグ: インフルエンザワクチンは接種後、抗体ができるまで約2週間かかります。流行が11月上旬に警報レベル(定点30人超)に達したことで、多くの人が**「ワクチンを打つ前」または「打ったが抗体が未完成」の状態でウイルスに暴露**されています。

◎集団免疫の未成立: 学校行事(運動会など)と重なり、集団免疫が成立する前にクラスターが発生したことが、急速な拡大の主因です。


3. 主流株「A型香港型(H3N2)」の重症化リスク

記事にある「A型香港型」は、一般的に感染力が強く、症状が重くなりやすい傾向があります。

◎臨床的特徴: B型やA型ソ連型(H1N1)に比べ、高熱や全身症状が出やすく、特に入院リスクが高い株として知られています。

◎進化の速さ: 香港型は変異しやすく、ワクチンの予測株と実際の流行株がズレることもありますが、重症化予防効果は期待できるため、今からでも接種の意義はあります。


4. 小児の「異常行動」と神経学的リスク

「ベランダからの転落」という痛ましい事例が報告されていますが、これはインフルエンザ特有の**「異常行動」**への警戒が必要です。

◎インフルエンザ脳症の前兆: 異常行動(急に走り出す、飛び降りようとする、意味不明なことを言う)は、高熱が出た直後(発症から2日以内)に多く見られます。

◎薬剤との関連: かつてタミフル等の影響が疑われましたが、現在は**「薬を飲んでいなくてもウイルス自体の影響で起こりうる」**というのが医学的なコンセンサスです。


◎対策: 少なくとも発症から2日間は、小児・未成年を一人にしない見守りが必須です。


5. 気候変動と社会的要因による「季節性の喪失」

専門家が指摘する通り、疫学的な前提条件が変化しています。

◎温暖化の影響: 秋でも気温が下がらず人の活動が活発なまま推移し、接触機会が減りません。

◎インバウンドとグローバル化: 南半球(冬に流行)からのウイルス持ち込みや、年中流行している熱帯地域との往来により、インフルエンザの「冬の病気」という季節性が薄れ、通年化のリスクが高まっています。


💡 結論とアドバイス

今回の流行は「早い・熱がない人もいる・感染力が強い」という特徴があり「熱がないから大丈夫」という従来の判断基準を捨て、「急な強いだるさ」や「周囲の流行状況」を重視した行動が必要です。