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2024年11月10日日曜日

前立腺癌について-5.新しい前立腺癌検査『ミュータスワコーS2,3PSAi50』-

『ミュータスワコーS2,3PSAi50』は、迅速測定が可能な全自動蛍光免疫測定装置「ミュータスワコー i50」の専用試薬で、富士フイルム和光純薬と国立大学法人弘前大学が共同で開発したものです。

PSA検査で前立腺癌が疑われる患者に対する二次スクリーニング検査に本製品を活用することで、F/T%PSAを用いた従来の検査法と比較して、前立腺癌と良性疾患の識別精度が向上します。

詳細は以下を参照してください。

【参考資料】

『ミュータスワコーS2,3PSAi50』

「S2,3PSA%検査(前立腺特異抗原(PSA)レクチン結合分画比)」は、2024年2月1日付けで保険適用され、国産で初めて保険適用された前立腺がん腫瘍マーカー検査として、臨床現場で使用可能となりました。

前立腺癌に罹患するとPSAに結合している糖鎖の構造が変化し、健常者や良性疾患では糖鎖構造としてα2,6 結合型シアル酸を持つ PSA(S2,6PSA)が多く、前立腺癌では糖鎖構造が変異してα2,3 結合型シアル酸を持つPSA(S2,3PSA)が増加します。 

S2,3PSA%は次の式のとおり、S2,6PSAとS2,3PSAの総和に占めるS2,3PSAの割合です。

PSA 4~10ng/mL のグレーゾーンにおいて、S2,3PSA%はF/T(%)PSAより前立腺癌と良性前立腺疾患の鑑別に有用と報告されています。 

トータルPSA 4~10ng/mLのグレーゾーンの患者を対象とした2次スクリーニングにおいても、本法は前立腺肥大症と前立腺癌の識別に有用であることが分かりました。

S2,3PSA%検査の導入により、前立腺癌診断の特異度が向上し、不要な針生検の低減が期待されます。

前立腺癌の患者では、糖鎖構造が変異することで、PSA(S2,3PSA)の割合が多くなります。

そのため、S2,6PSAとS2,3PSAの総和に占めるS2,3PSAの割合(S2,3PSA%)をみることで、 前立腺癌と前立腺肥大症との識別が有用であると示されています。

前立腺癌が強く疑われる人で,前立腺癌特異抗体(PSA)が4.0ng/mL以上かつ10.0ng/mL以下である場合に確定診断目的で実施します。

基準値  38.0%未満

一般的に、PSA 検査値が4ng/mL 以上となると精密検査の受診対象となりますが、特にPSA検査値4~10 ng/mL の「グレーゾーン」と呼ばれる領域では 70%程度が実際はがんではなかったという疫学データが報告されています。

この検査を利用することにより、より正確に前立腺癌を検出できることと、前立腺癌確認のための苦痛の伴う不必要な針生検を回避でき患者に余計な負担をかけることがなくなります。。


2024年11月3日日曜日

前立腺癌について-4.S2,6PSAとS2,3PSAの違い-

 【S2,6PSAについて】


S2,6PSAは、前立腺特異抗原(PSA)というタンパク質の糖鎖構造の種類の一つでPSAは、前立腺に存在するタンパク質で、血液中にもわずかに存在し前立腺癌になると、このPSAの値が上昇することが知られています。


【S2,6PSAとS2,3PSAの違い】


S2,6PSA:主に健康な前立腺や良性の前立腺肥大症で多く見られるPSAの糖鎖構造です。


S2,3PSA:主に前立腺癌で多く見られるPSAの糖鎖構造です。


要するにS2,6PSAは「良性のPSA」、S2,3PSAは「悪性のPSA」と捉えることができます。


【S2,6PSA検査を受けるの意義】


1.前立腺癌の診断補助


S2,6PSAとS2,3PSAの割合を比較することで、前立腺癌の可能性をより正確に評価することができます。


2.不必要な針生検の減少


S2,6PSAの割合が高い場合、前立腺癌の可能性が低いと判断でき、不必要な針生検を避けることができる場合があります。


S2,6PSA検査を受ける場合


1.PSA検査で異常が見られた場合


PSAの値が基準値を超えている場合や、年齢や症状から前立腺癌が疑われる場合に、S2,6PSA検査が勧められることがあります。


2.前立腺癌のリスクが高い場合


家族に前立腺癌の患者がいるなど、前立腺癌のリスクが高いと判断される場合にも、S2,6PSA検査を受けることがあります。


【S2,6PSA検査を受ける際の注意点】


1.絶対的な診断方法ではない


S2,6PSA検査は、前立腺癌の診断補助であり、最終的な診断は、病理組織検査など他の検査結果を総合的に判断して行われます。


2.保険適用について


S2,6PSA検査は、保険適用となる場合と、自費となる場合があります。検査を受ける前に、医療機関にご確認ください。


【まとめ】


S2,6PSA検査は、S2,3PSA検査と合わせて、前立腺癌の診断精度を向上させるために用いられる検査です。


PSA検査の結果が気になる場合は、医師にご相談ください。


2024年10月27日日曜日

前立腺癌について-3.新しい前立腺癌の診断検査 S2,3PSAとは?-

 S2,3PSAは、前立腺癌の診断に役立つ新しい検査です。

【S2,3PSAとは?】

PSA(前立腺特異抗原)とは、前立腺に存在するタンパク質で、血液中にもわずかに存在し前立腺癌になるとPSAの値が上昇することがあります。

一方S2,3PSAとは、PSAの糖鎖構造の種類の一つで、前立腺癌ではこの種類のPSAが増加する傾向があります。

S2,3PSA%とは、血液中のPSAのうち、S2,3PSAが占める割合でこの割合が高いほど、前立腺癌の可能性が高くなります。

【S2,3PSA検査の意義】

前立腺癌の早期発見に役立ちます、PSA検査だけでは前立腺癌と良性の前立腺肥大症を区別するのが難しい場合がありますが、S2,3PSA検査を併用することで、より正確に診断することができます。

患者に負担を与える不必要な針生検が減少します。

PSA検査の値が高くてもS2,3PSA検査で前立腺癌の可能性が低いと判断された場合は、針生検をせずに済む可能性があります。

S2,3PSA検査の結果は、治療方針の決定にも役立ちます。

【S2,3PSA検査を受ける場合】

1.PSA検査で異常が見られた場合

PSAの値が基準値を超えている場合や、年齢や症状から前立腺癌が疑われる場合に、S2,3PSA検査が勧められることがあります。

2.前立腺癌のリスクが高い場合

家族に前立腺癌の患者がいるなど、前立腺癌のリスクが高いと判断される場合にも、S2,3PSA検査を受けることを勧められることもあります。

【S2,3PSA検査の注意点】S2,3PSA検査の注意点

1.絶対的な診断方法ではない

S2,3PSA検査は、前立腺癌の診断補助であり、最終的な診断は、病理組織検査など他の検査結果を総合的に判断して行われます。

2.保険適用について

S2,3PSA検査は、保険適用となる場合と、自費となる場合がありますので、検査を受ける前に医療機関にご確認ください。

S2,6PSAは、前立腺がんの診断において重要なバイオマーカーとされ、健常者や良性疾患で多く見られます。

【どのような人が検査を受けるのか】

前立腺癌が強く疑われる人で,前立腺癌特異抗体(PSA)が4.0ng/mL以上かつ10.0ng/mL以下である場合に確定診断目的で行う。

【判定】

基準値  38.0%未満

※一般的なデータとして、PSA 検査値が4ng/mL 以上となると精密検査の受診対象となりますが、特にPSA検査値4~10 ng/mL の「グレーゾーン」と呼ばれる領域では 70%程度が実際はがんではなかったという疫学データが報告されています※

2024年10月20日日曜日

前立腺癌について-2.PSA(前立腺特異抗原:prostate-specific antigen)検査の問題点とは-

 PSA検査(前立腺特異抗原検査)には、次のような問題点があります。

1.過剰診断や過剰治療のリスクがある

2.前立腺がんの確定診断には、前立腺生検などの精密検査が必要で、身体に負担がかかる

3.前立腺がんがないのに陽性を示す偽陽性の可能性がある

4.検診では発見できないがんが存在する

【PSA検査の基準値】

・4ng/mL以下が正常範囲

・4.1~10ng/mLがグレーゾーン

・4.1~10ng/mL以上だと前立腺がんの確率が高くなります。

【PSA値が高くなる原因】

前立腺がん、前立腺肥大症、前立腺の炎症などが考えられます。

また、前立腺以外の病気によっても高くなる。

【PSA検査を受ける意義】

・PSA検査を受けることで、前立腺がんによる死亡率が低下することを示す研究結果もあれば、死亡率減少効果に関する科学的証拠がないとする研究結果もあります。

・PSA検査を受けることで、臨床的に重要ではないがんが発見され、過剰な治療を受けることによる不利益が存在することも無視できません。

【PSA検査を検診で受けることを何故推奨されないのですか?】

最近、厚労省の研究班がPSA検診は推奨しないと公表していますが、これは「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診(住民検診)として実施することは勧められないということにほかなりません。

【重要なこと】

1.PSA検査は、前立腺がんの可能性を調べる検査であって、前立腺がんの確定診断を下す検査ではありません。

2.PSA検査は、前立腺がん以外の病気でも高い値を示すことがあるため、高値になったとしても必ずしも前立腺がんとは限りません。

3.前立腺肥大症、尿閉、前立腺炎などの前立腺以外の病気によっても高くなることから、PSA検査があてにならないと考えられています。

4.前立腺への刺激を与えるような行為、たとえば射精や長期間の車の運転、前立腺マッサージなどでも高くなります。

※PSA検査の値が高くても正確な診断をするには、前立腺の組織を取って調べるか、直腸内検診、あるいはCT検査が必要となります※


続く

2024年10月14日月曜日

前立腺癌について-1.前立腺癌とは-

【前立腺とは】 


前立腺は男性のみにある臓器で、精液の一部となる前立腺液をつくっています。


前立腺液には、PSA(前立腺特異抗原:prostate-specific antigen)というタンパク質が含まれてほとんどのPSAは前立腺から精液中に分泌されますが、ごく一部は血液中に取り込まれます。


【前立腺癌とは】


前立腺の細胞が何らかの原因で異常に増殖することにより起こる病気で、悪性腫瘍の1つで多くの場合比較的ゆっくり進行し、早期に発見して適切な治療を行えば、高い確率で治癒が望めます。


早期発見し適切な治療を受ければ、ステージⅠ・Ⅱで100%、ステージⅢで99.2%と良好な予後が期待されますが、気づかずに治療しないでステージⅣとなるとリンパ節や骨に転移し5年生存率は53.4%と著しく悪くなることから、早期発見が必要となります。


【前立腺癌患者数】


前立腺癌患者数は、2019年に日本全国で94,748人で日本人男性で最も罹患数が多い癌とされています。


2023年の男性の前立腺がんの罹患数は約9万8,600人です。


前立腺癌にかかる人数は、1年間で男性10万人中154人程度で、高齢になるほど高くなります。


前立腺癌はもともと欧米に多く、日本は欧米の1/10~1/20の罹患率とされていましたが近年では日本でも前立腺癌の罹患数が増加しています。


【日本人に前立腺癌が多くなった原因】


近年の食生活の欧米化に伴い、動物性脂肪を多く摂ることに比例して前立腺癌発症に何らかの影響を及ぼしていると考えられています。


また、PSA検査によって早い時期に癌を見つけることが可能となったことも前立腺癌患者の増加の一因になっていると考えられています。

続く

2024年10月6日日曜日

インフルエンザ4価ワクチンとは?

インフルエンザワクチンの4価ワクチンとは、その名の通り4種類のインフルエンザウイルスに対応したワクチンです。

※インフルエンザ4価ワクチンは、インフルエンザウイルスA型株(H1N1株とH3N2株)とB型株(山形系統株とビクトリア系統株)の4種類を培養して製造されているインフルエンザワクチン※

1.A型株

・A/ビクトリア/4897/2022(IVR-238)(H1N1)pdm09

・A/ダーウィン/9/2021(SAN-010)(H3N2)


2.B型株

・B/オーストリア/1359417/2021(BVR-26)(B/ビクトリア系統)

・B/プーケット/3073/2013(B/山形系統)


【なぜ4種類になったのか】

インフルエンザウイルスは、毎年少しずつ形を変えていきます(変異)。

このため、ワクチンに含まれるウイルス株も、流行が予想される種類に合わせて毎年更新されます。

4価ワクチンでは、A型インフルエンザウイルスが2種類(H1N1とH3N2)、B型インフルエンザウイルスが2種類(山形系統とビクトリア系統)の計4種類に対応することで、より幅広い種類のインフルエンザウイルスから身を守ることができるようになるわけです。。


【3価ワクチンとの違い】

3価ワクチンは、B型インフルエンザウイルスが1種類しか含まれていなかったために、流行するB型インフルエンザウイルスの種類によっては、効果が低くなる可能性がありました。

4価ワクチンは、B型インフルエンザウイルスが2種類含まれているため、より多くの種類のB型インフルエンザウイルスに対応でき、より効果が期待できるようになっています。


【4価ワクチンのメリット】

より幅広いインフルエンザに対応できる 4種類のインフルエンザウイルスに対応することで、より多くの種類のインフルエンザから身を守ることができます。

インフルエンザにかかってしまうと、高熱や咳、筋肉痛などの症状が出ることがありますが、特に高齢者や基礎疾患のある方は、重症化のリスクが高まります。

しかし4価ワクチンを接種することで、重症化を防ぐ効果が期待できます。

【4価ワクチンを受ける際の注意点】

副反応 他のワクチンと同様に、接種後に発熱や痛み、倦怠感などの副反応が出る場合があります。

度のワクチンもそうですが、インフルエンザワクチンは100%効果があるわけではありません。

ワクチンを接種しても、インフルエンザにかかってしまう可能性はゼロではありません。

【まとめ】

インフルエンザ4価ワクチンは、より多くの種類のインフルエンザウイルスに対応できるため、より効果的にインフルエンザ予防ができるワクチンです。

インフルエンザの流行前に接種することが推奨されています。

※インフルエンザワクチンにもメリットとデメリットがありますので、これらをよく理解した上に接種を受ける受けないは、ご自身で判断してください※

2024年9月30日月曜日

新しいインフルエンザワクチン

 毎年インフルエンザの予防ワクチンは、事前に流行するインフルエンザ株を予想して製造されます。

昨シーズンに流行・分離されたウイルス株から、そのシーズンに流行が予想されるウイルスに合わせて毎年インフルエンザワクチン株が決定・製造されています。

先日、今年度のインフルエンザワクチン株が決定し、昨年の3価から、新しく4価ワクチンに変更になりました。

これまでの3価インフルエンザワクチン製造株は、

A/H1N1pdm09・A/H3N2とB型1種の3種類(3価)が含まれ、このうちB型株については、山形系統あるいはビクトリア系統のどちらか一方のワクチン株を選定していました。

近年のインフルエンザの流行は、A(H1N1)pdm09およびA(H3N2)に加えてB型である山形系統とビクトリア系統の混合流行が続いていることからしてWHOも2013年シーズン(南半球向け)から4価ワクチン向けにB型2系統からそれぞれワクチン株を推奨しています。

米国においては2013/14シーズンから4価ワクチンが製造承認され、世界の動向は4価ワクチンへと移行してきています。

このことから、わが国においても4価ワクチン導入の是非を検討し(インフルエンザワクチン株選定のための検討会議)、2015-16シーズンよりA/H1N1pdm09、A/H3N2、に加えてB/山形系統およびB/ビクトリア系統の4価ワクチンとしました。


※さらに詳しく知りたい方は、厚生労働省「平成27年度インフルエンザワクチン株選定理由」をご確認ください※

平成27年度インフルエンザワクチン株選定理由