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2025年9月21日日曜日

感染症速報-24.なぜ冬でもないのにインフルエンザが流行しているの?-

 例年、インフルエンザは冬に流行する感染症として知られています。

しかし、今年は9月に入っても感染者数が増加しており、地域によっては学級閉鎖や集団感染が相次いでいるというニュースに驚いている方も多いのではないでしょうか。

なぜ冬を待たずにインフルエンザが流行しているのか、最新の医学的・疫学的知見から分析し、その理由を解説します。

◎医学的・疫学的分析:なぜ今年の流行は早いのか?

通常、インフルエンザが冬に流行する主な理由は、ウイルスが低温・乾燥した環境でより長く生存し、飛沫が空気中に漂いやすくなるためでまた、冬は免疫力を低下させやすい要因(寒さ、疲労など)が増えることも関係しています。

しかし、今年の流行が異例の早さで始まっている背景には、複数の要因が複合的に絡み合っていると考えられます。

1.コロナ禍による免疫の変化 🦠

過去3年間のコロナ禍において、私たちはマスク着用や手指消毒、ソーシャルディスタンスといった厳格な感染対策を徹底してきた結果、インフルエンザウイルスに接触する機会が減り、多くの人がインフルエンザに対する集団免疫を十分に持たない状態となりました。

医学的には、この「免疫の空白期間」が、現在の流行拡大の大きな要因とされています。

2.ウイルスの変異と感染力の強さ 🧬

インフルエンザウイルスは常に少しずつ形を変えて(抗原変異)います。

これにより、一度感染しても再び感染する可能性があるのです。

今年の流行株は、これまでの株よりも感染力が強い傾向にあるという分析もあり、免疫を持たない人々の中で急速に広まった可能性があります。

3.南半球での流行状況と人の移動 ✈️

日本では夏にあたる時期に、南半球(特にオーストラリアなど)では冬を迎え、インフルエンザが流行します。

国際的な人の移動が活発になった現在、南半球で流行したウイルスが日本に持ち込まれ、それが免疫を持たない人々の間で一気に広まったという疫学的な見解も有力です。

◎今私たちが取るべき対策とは◎

今回のインフルエンザ流行は、冬のピークを待つことなく対策を講じる必要性を示しています。

基本的な感染対策の再徹底として、

・手洗い・うがい:帰宅時や食事の前など、こまめな手洗い。

・マスクの着用:公共交通機関や人が密集する場所では、感染拡大を防ぐためにマスクを着用するのが有効です。

・換気:室内の空気を定期的に入れ替え、乾燥を防ぎましょう。

・インフルエンザワクチンの接種:インフルエンザワクチンは、発症を予防するだけでなく、万が一感染しても重症化を防ぐ効果があります。

例年の流行ピークは1〜2月ですが、今年は早めに接種を検討することが推奨されています。

【まとめ】

今年のインフルエンザの流行は、コロナ禍による集団免疫の低下、ウイルスの特性、そして国際的な人の移動が複雑に絡み合った結果と言えます。

これは単なる季節外れの流行ではなく、新しい感染症の流行パターンを示唆しているのかもしれません。

私たち一人ひとりが危機感を持ち、適切な予防策を講じることが、これ以上の感染拡大を防ぐ鍵となります。

2025年9月18日木曜日

感染症速報-23.国内でエムポックスの重症型「クレード1」初確認:医学的考察と最新情報-

 日本国内で、より重症化しやすいとされるエムポックスの「クレード1」の感染者が初めて確認されました。


この事例は、単なる感染症のニュースを超え、世界的な流行状況と日本の公衆衛生体制における重要な課題を浮き彫りにしています。


◎エムポックスの「クレード1」と「クレード2」:ウイルスの違いと重症度


エムポックスウイルスには、主に2つの主要な系統(クレード)が存在します。


1.クレード1(旧コンゴ盆地クレード): 感染力が比較的強く、致死率が8〜10%と高いとされています。このタイプは主に中部アフリカの風土病として知られていました。


2.クレード2(旧西アフリカクレード): 感染力や致死率がクレード1よりも低く、致死率は1%未満とされています。2022年以降、世界的に大流行したエムポックスのほとんどがこのタイプでした。


今回、日本で確認されたのは、より危険性が高いとされるクレード1で、アフリカへの渡航歴を持つ20代の女性の症例です。


この事実は、感染症が地理的な境界を容易に越える現代において、ウイルスの系統解析(ゲノム解析)が公衆衛生管理に不可欠であることを示しています。


◎世界的な状況と日本の課題


2022年以降、世界中でエムポックスの流行が拡大し、日本国内でも散発的に症例が報告されてきました。


これまでの国内事例はすべてクレード2によるものであり、今回のクレード1の確認は、日本の医療機関や公衆衛生当局にとって新たな脅威となります。


ウガンダでのアウトブレイク: 2024年に入り、ウガンダではクレード1による大規模な流行が発生しており、多数の死者が出ています。


この背景には、現地の医療体制の脆弱性やワクチンの供給不足などが指摘されています。


日本で確認された症例も、こうした地域からの輸入例と考えられます。


 今回の事例は、水際対策の重要性だけでなく、海外からの入国者に対する健康監視、そして医療機関での適切な鑑別診断体制の必要性を改めて示しています。


◎ 医療従事者への注意喚起と今後の展望


エムポックスの初期症状は、発熱や発疹であり、他のウイルス感染症と見分けがつきにくい場合がありそのため、医療従事者は、渡航歴のある患者に対して、エムポックスの可能性を鑑別診断に含めることが重要となります。


・潜伏期間: エムポックスの潜伏期間は通常5〜21日で今回の症例では、アフリカへの渡航歴があることが感染源特定の鍵となりました。


・治療とワクチン: エムポックスには、対症療法が主に行われますが、重症例に対しては抗ウイルス薬「テコビリマット」が使用されることがありまた、ワクチンによる予防も有効ですが、クレード1への対応となると、ワクチンや治療薬の十分な備蓄、そして医療機関での迅速な対応プロトコルが求められます。


今回のクレード1の国内初確認は、パンデミックへの警戒を緩めてはならないというメッセージを強く発信しています。


厚生労働省や国立感染症研究所は、引き続き国際的な動向を注視し、情報共有と監視体制を強化していく必要があります。


※2025年9月6日、世界保健機関(WHO)は感染症の「エムポックス」、これまでの「サル痘」の感染者が減少しているとして、およそ1年前から出していた緊急事態の宣言を終了すると発表しました※


これは時期早々で、あまりにも現実を直視していない判断と私は思います。


 

2025年9月14日日曜日

感染症速報-22.自分だけは大丈夫」と思っていませんか?性感染症の患者数が急増している背景とは-

 最近、ニュースなどで性感染症(STD)、特に梅毒の患者数が急増しているという話題を耳にされたことと思います。

梅毒トレポネーマに感染するのは「自分は関係ない」「自分だけは大丈夫」と思っている人もいるかもしれませんが、実は誰にでも起こりうる問題です。

今回は、その背景を医学的・疫学的な観点からわかりやすく解説し、あなた自身の健康を守るためのヒントをお伝えします。

◎なぜ梅毒の患者数は増えているのか?

厚生労働省の発表によると、2021年以降、梅毒の患者数は右肩上がりに増加しており、特に20代~50代の男性と20代の女性で顕著でその背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。

1. 性行為の多様化とコンドーム使用率の低下

SNSやマッチングアプリの普及により、性的な出会いの機会が増加し、性行為へのハードルが下がったことが一因に加えて、性感染症予防の基本であるコンドームの使用率が低下していると多くの専門家が指摘しており、これにより感染リスクが高まっています。

2. 症状の気づきにくさ

梅毒は、感染初期には自覚症状がほとんどないか、あってもすぐに消えてしまうことがあります。

そのため、自分が感染していることに気づかないまま、他者に感染させてしまうケースが少なくありません。

症状がなくても感染している可能性があるため、「自分は大丈夫」という過信が感染拡大につながっているのです。

3. 潜在的な患者数の増加

梅毒は、医師が診断した場合に保健所への届出が義務づけられています。

メディアで梅毒の増加が報じられたことで、検査を受ける人が増え、結果としてこれまで見つかっていなかった潜在的な患者が発見されるようになったという側面もあります。

これは、実際の患者数が届出数よりもはるかに多い可能性を示唆しています。

◎あなたの健康を守るためにできること

性感染症は、早期に発見して治療すれば完治するものが多いです。しかし、放置すると深刻な合併症を引き起こす可能性があり、特に梅毒は神経や心臓にまで影響を及ぼすことがあります。

1. 正しい知識を身につける

性感染症の感染経路や症状、予防法について正しい知識を持つことが第一歩です。

2. コンドームを正しく使用する

性行為の際には、最初から最後までコンドームを正しく使用することが最も有効な予防策です。

3. 定期的な検査を受ける

少しでも感染の可能性がある行為をしてしまった場合は、症状がなくても検査を受けることが重要です。

性感染症は、自覚症状がないまま進行することが多いため、不安な場合は迷わず検査を受けましょう。

保健所や医療機関で匿名・無料で検査を受けられるところもあります。

「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信は、あなたの健康を危険にさらすかもしれません。

大切な自分自身のため、そしてパートナーのためにも、性感染症について正しく理解し、適切な行動をとることが求められます。

この情報が、あなたの健康を守る一助となれば幸いです。

あなたは、ご自身の性的な健康について、どのような考えを持っていますか?


2025年9月11日木曜日

感染症速報-21.ワクチンの「シェディング」でコロナ感染?-

 ワクチンの「シェディング」でコロナ感染? 専門家が解説する、その真実と科学的根拠について解説いたしますのでお付き合い下さい。

新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの生活を一変させ感染の波が落ち着いた今も、SNSではさまざまな情報が飛び交い、その中には科学的根拠のない「デマ」も含まれています。

特に、**「ワクチンを打った人から、打っていない人にワクチンの成分がうつり、体調不良を引き起こす」という、いわゆる「シェディング」**の言説が拡散されています。

この話は本当なのでしょうか?

今回は、専門家の見解と最新の医学的知見を基に、この言説の真偽と、私たちが知っておくべき正しい情報について解説します。

◎「シェディング」とは本来どういう意味か?

まず、医学的に「シェディング(shedding)」という言葉が意味するのは、感染者の体内からウイルスが放出されることで例えば、インフルエンザに感染した人が咳やくしゃみでウイルスをまき散らすことや、麻疹(はしか)に感染した人が発疹や呼吸器からウイルスを放出することなどがこれに当たります。

つまり、ワクチン接種によって体から何かが放出され、他者に影響を与えるという文脈で使われるのは、本来の意味とは全く異なります。

◎mRNAワクチンは「シェディング」を起こさない

結論から言うと、新型コロナのmRNAワクチンや、自己増幅型(レプリコン)ワクチンで「シェディング」は起こりません。

その理由は、これらのワクチンの仕組みにあります。

これらのワクチンは、生きたウイルスを体内に入れる**「生ワクチン」**とは全く異なります。

生ワクチンは、毒性を弱めたウイルスそのものを接種するため、ごくまれにワクチンを接種した人から排出されたウイルスによって他者が感染するリスクがゼロではありません。

しかし、これはロタウイルスやポリオといった一部の生ワクチンに限られた話です。

◎体内で作られるのは「スパイクタンパク質」

mRNAワクチンやレプリコンワクチンが体内で作るものは、ウイルスの表面にある**「スパイクタンパク質」**の設計図(mRNA)でこの設計図を基に私たちの細胞がスパイクタンパク質を作り、それに対して免疫が働きます。

重要なのは、このスパイクタンパク質は感染能力を持たないということです。

大阪大学の宮坂昌之医師も述べているように、ワクチン接種者から他者に感染能力のあるウイルス粒子や、健康に悪影響を及ぼすような物質が放出されることは、科学的にあり得ません。

◎科学的根拠に基づいた判断のために◎

では、なぜこのような言説が広まるのでしょうか?

その背景には、新型コロナウイルスに関する情報の多さと、それに伴う不確実性への不安があると考えられます。

しかし、不安だからこそ、私たちは公的機関や専門家が提供する信頼性の高い情報に目を向ける必要があります。

厚生労働省や日本感染症学会などの公式ウェブサイトでは、ワクチンの有効性や安全性について、国内外の研究結果に基づいた正確な情報が公開されています。

例えば、最新のオミクロン株対応のワクチンは、入院リスクを40〜70%も減らすという報告がありますし、日本ワクチン学会理事長の中野貴司医師が指摘するように、特に高齢者にとって、新型コロナに感染した場合の死亡リスクはインフルエンザよりもはるかに高いのが現状です。

確かにワクチンには副反応のリスクもゼロではありませんが、重症化や死亡、そして後遺症のリスクを下げるというベネフィット(利益)を天秤にかけることが重要です。

◎迷ったときはかかりつけ医に相談を◎

「ワクチンを接種すべきか?」という判断は、一人ひとりの健康状態や生活環境によって異なります。

SNS上の不確かな情報に惑わされるのではなく、まずは厚生労働省のウェブサイトや、信頼できる医療機関の情報にアクセスしてみましょう。

そして、最終的な判断に迷ったときは、遠慮せずにかかりつけの医師に相談してください。

あなたの健康状態を最もよく知る専門家が、あなたにとって最適な選択肢を一緒に考えてくれるはずです。

正しい知識は、不安を和らげ、より良い未来を選ぶための最大の武器となります。


2025年9月7日日曜日

感染症速報-20.「今年は異例の年」なぜ? 早くもインフルエンザが猛威をふるう!!-

 例年であれば11月頃から流行が始まるインフルエンザ。

しかし、今年は9月に入ってまもなく、全国各地で感染が報告され、学校の休校や学級閉鎖が相次いでいます。

一体なぜ、こんなに早い時期からインフルエンザが流行しているのでしょうか?


◎異例の速さで広がるインフルエンザ◎

今年のインフルエンザの流行は、これまでとは一線を画しています。

例年よりも2ヶ月ほど早く、すでに「流行シーズン入り」を発表した地域もあります。

あるクリニックの院長によると、例年の夏はインフルエンザの患者が月に2〜3人程度だったのが、今年はその3〜4倍に増えているとのこと。

この事態は、まさに「異例の年」と呼べるでしょう。

大学生が感染して高熱を出すケースや、家族全員がわずか数日のうちに感染する家庭内感染も発生しており、その感染力の強さがうかがえます。

◎なぜインフルエンザは例年より早く流行しているのか?◎

この異例の事態の背景には、いくつかの要因が考えられます。

1. 同時流行による受診機会の増加

今年は、新型コロナウイルスに加え、溶連菌や百日咳といった他の感染症も流行しています。

これにより、発熱などの症状で医療機関を受診する人が増えています。

多くのクリニックでは、一度の検査でコロナとインフルエンザを同時に調べられるキットを使用することが多く、その結果、例年よりも早い段階でインフルエンザの感染者が見つかっている可能性があります。

2. 異常な暑さによる体力の低下

今年の夏は記録的な暑さとなり、夏バテで抵抗力が落ちている人が多いと考えられ免疫力が低下した状態でウイルスにさらされると、感染しやすくなります。

3. エアコンと換気不足

長時間にわたるエアコンの使用も、ウイルスの拡散に影響を与えている可能性があります。

ウイルスは、室温が下がると活動力を長時間保つことができます。

また、暑さのために窓を閉め切り、換気が不十分になっている家庭や施設が多いことも、ウイルスの滞留を招き、感染拡大の一因となっていると見られています。

◎これからの対策は?◎

インフルエンザの早期流行は、これからの季節に備えて、改めて感染対策の重要性を再認識する機会となります。

・マスクの着用: 人が集まる場所ではマスクを着用しましょう。

・手洗い・うがい: 外出後や食事前には、手洗いとうがいを徹底しましょう。

・換気の徹底: エアコンを使う際も、こまめに窓を開けるなどして換気を行いましょう。

・「三密」の回避: 密集、密接、密閉を避けることで、感染リスクを減らせます。

今年のインフルエンザは、例年以上に注意が必要です。

これらの対策をしっかりと行い、自分自身と大切な人を守りましょう。


2025年8月31日日曜日

感染症速報-20.止まらない新型コロナ、なぜ? 複雑な理由を徹底解説!-

 皆さん、こんにちは。

新型コロナウイルス感染症が流行し始めてから、すでに数年が経過しワクチンも治療薬も登場し、社会のあり方も大きく変わりました。

しかし、いまだに感染の波は繰り返し押し寄せ、「なぜこのウイルスはなくならないんだろう?」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。

今回のブログでは、この難題を、ウイルスの特性、人間の社会、そして最新の医学的な知見を交えて、わかりやすく解説していきます。

【ウイルスの変異と社会の相互作用:終わらないパンデミックの核心】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がなぜなくならないのか?その答えは、このウイルスが持つ**「特殊な性質」と、私たちの社会が「どのように対応してきたか」**が複雑に絡み合っているからです。

1. 免疫をかいくぐるウイルスの「変身能力」

新型コロナが世界中に広がったことで、多様な人々の間で感染が繰り返されました。ワクチンを接種した人、何度も感染した人、そしてまだ一度も感染していない人…。

このような多様な「免疫状況」を持つ宿主(人や動物)が大量に存在することは、ウイルスにとって**「免疫を回避する変異株」を生み出す絶好の機会となります。

ウイルスの突然変異はランダムに起こりますが、抗体やワクチンによって獲得された免疫を持つ人の中では、その免疫をすり抜ける能力を持つ変異株だけが生き残り、増殖しやすくなるからです。

これが、まるでウイルスの進化を加速させるかのように、次々と新たな変異株(例:最近流行しているNB.1.8.1、通称「ニンバス」**)が出現する主な理由の一つです。

【2. 人以外の「宿主」が感染を維持する】

新型コロナウイルスが厄介なのは、人間だけでなく、ミンクや猫、シカなど他の動物にも感染することです。

これらの動物の間でウイルスが広がり、ヒトとの間で感染のリンクを形成することで、たとえ人間社会での感染が一時的に収束しても、再びヒトへと感染するリスクが残り続けます。

これは、ウイルスを完全に撲滅することが極めて難しい理由の一つです。

【3. 「経済」と「感染対策」のバランス】

世界中で、厳しいロックダウンや行動制限によって感染を抑え込もうとする初期の戦略から、「ある程度の被害は受け入れ、社会経済活動を回していく」方向へとシフトしました。

マスク着用や換気の徹底といった基本的な感染対策が以前より行われにくくなったことで、特に感染対策が手薄になりがちな冬場や屋内での活動が増える季節に、ウイルスが再び勢力を増すことにつながっています。

◎感染は防げなくても、重症化は防ぐ時代へ◎

これまでの新型コロナ感染やワクチン接種によって得られる**「感染防御の抗体」**は、残念ながら数ヶ月で減衰するとされています(個人差あり)。

しかし、重要なのはここからです。

私たちの体には、ウイルスの細胞内への侵入を防ぐ抗体とは別に、感染した細胞を破壊して重症化を防ぐ**「T細胞応答」**という免疫システムがあります。

このT細胞による重症化を防ぐ免疫は、抗体よりも長く維持されることが分かっています。

このため、感染者数自体は増える傾向にあっても、重症化する人の割合は以前に比べて低くなっています。

これにより、無症状や軽症の患者さんが増え、彼らが社会活動を続けることで、感染の連鎖が止まらないという側面もあります。

しかし、これは「新型コロナと共存する」上で非常に重要なポイントです。

◎◎私たちが目指すべき「持続可能な対策」とは◎◎

新型コロナを地球上から完全に消し去ることは、現時点では極めて困難ですが、私たちがこのウイルスと共存しながら社会を維持していくために、できることはたくさんあります。

・ワクチンの進化と継続的な接種:免疫逃避能力を持つ変異株に対応した新しいワクチンの開発と、定期的な接種による質の高い免疫の維持。

・早期診断と早期治療:感染が判明した後の早期の治療開始は、症状の悪化を防ぐだけでなく、後遺症のリスク低減にもつながります。

・後遺症患者へのサポート:長期にわたる後遺症に苦しむ人々への包括的な医療支援と社会的なサポート。

そして、今後私たちが直面するかもしれない新たな感染の波に備えるために、「公衆衛生当局による早期警戒アラート」が鍵となります。

感染が拡大し始めた初期の段階で、市民に注意喚起を行い、感染そのものを減らす「予防医学」的なアプローチを強化することが、医療資源への負荷を減らし、社会機能を維持するために非常に重要になってくるでしょう。

新型コロナとの戦いは、まだ終わりが見えないかもしれません。

しかし、ウイルスの特性を理解し、社会全体で効果的な対策を継続していくことが、このパンデミックを乗り越える唯一の道なのです。


2025年8月24日日曜日

感染症速報-20."カミソリを飲んだ"ような痛み…新型コロナ「ニンバス」が流行-

現在、新型コロナウイルスの患者数が増加傾向にあり、特にオミクロン株から派生した「ニンバス」(NB.1.8.1)と呼ばれる変異株が流行の中心となっています。

このニンバス株は、**「カミソリを飲み込んだような」**と表現されるほど強烈なのどの痛みが特徴とされており、ガラスの破片が刺さるような痛みや、血痰を伴うケースも報告されています。


【なぜ「ニンバス」はのどの痛みが強いのか?】

この激しいのどの痛みの原因について、医学的な考察と最新の情報を交えて解説します。

近年の研究では、新型コロナウイルスが感染する細胞やその感染経路、免疫反応に関する理解が深まっています。

従来の株と比較して、ニンバス株は上気道(のどや鼻)でより活発に増殖する能力が高いと考えられています。

このため、ウイルスがのどの粘膜細胞に大量に感染し、細胞の破壊や強い炎症反応を引き起こすことが、激しい痛みの原因と推測されます。

炎症反応は、体内の免疫細胞がウイルスと闘う過程で起こります。

炎症性サイトカイン(情報伝達物質)が放出され、これが痛みの感覚を増幅させることがわかっています。

ニンバス株は、この炎症反応をより強く引き起こす性質を持っているのかもしれません。


【酷暑が感染拡大に影響する理由】

猛暑が続く中、なぜ新型コロナの感染が拡大しているのでしょうか?

◎換気の不足: エアコンを使用するため窓を閉め切りがちになり、室内の換気が不十分になります。密閉された空間では、ウイルスが空気中に滞留しやすく、感染リスクが高まります。

◎免疫力の低下: 暑さによる睡眠不足や食欲不振、また熱中症対策のためのこまめな水分補給が不足することで、体が疲弊し、免疫力が低下します。免疫力が落ちると、ウイルスへの抵抗力が弱まり、感染しやすくなります。

◎マスク着用の困難さ: 猛暑の中でのマスク着用は熱中症のリスクを高めるため、着用を控える人も増えています。

マスクはウイルスの飛沫を防ぐ効果的な手段ですが、着用率の低下が感染拡大の一因となっている可能性があります。


【"熱がない"からと油断しないで!】

「喉は痛いけど、熱がないからコロナじゃない」と考える人もいますが、これは誤った認識です。

特にニンバス株では、発熱がないケースや、37℃台前半の微熱で終わるケース、あるいは熱が短時間で上がったり下がったりするケースが多く見られます。

発熱がないからといって、新型コロナを否定することはできません。


【受診のタイミングと治療薬について】

「もしかしてコロナ?」と感じたら、どのようなタイミングで受診すれば良いのでしょうか。

◎受診を検討するタイミング: 「刺すような強いのどの痛み」や「激しい倦怠感」「関節痛」など、普段とは違う強い症状が出始めたら受診を検討しましょう。

◎ベストなタイミング: 症状が出てから半日〜1日後に受診することで、迅速な検査と診断が可能になり、適切な治療薬の選択肢を提示してもらえます。

※特に基礎疾患がある人は重症化リスクが高くなることから、早めの受診が重要です※

◎つらい時は迷わず受診: 症状があまりにもつらく、日常生活に支障をきたす場合は、時期を問わずすぐに医療機関を受診してください。

◎現在、新型コロナの治療薬には、重症化を予防する海外の薬や、ゾコーバのようにウイルスの増殖を抑えて症状を改善させる薬がありますがこれらの薬は妊婦や授乳中の女性、12歳未満の小児には使えなかったり、他の薬との飲み合わせに注意が必要な場合も多いため、医師と相談して慎重に判断する必要があります。


【まとめ】

再び感染が拡大している新型コロナ、特に「ニンバス」株による強烈なのどの痛みは、これまでのコロナとは異なる特徴です。

「もしかしてコロナかも?」と感じた時は、「熱がないから大丈夫」と安易に自己判断せず、早めに医療機関に相談することが大切です。

手洗いやうがい、場面に応じたマスクの着用など、基本的な感染対策を改めて徹底し、この厳しい夏を乗り切りましょう。