クロストリディオイデス・ディフィシル感染症とは、グラム陽性の偏性嫌気性菌であるクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile infection:CDI)によって引き起こされる感染症で抗菌薬関連下痢症/腸炎を引き起こします。
抗菌薬使用歴のない患者でクロストリディオイデス・ディフィシル感染症を認めることもあります。
【クロストリディオイデス・ディフィシル】
ディフィシル菌は、ヒトや動物の腸内に住む常在菌であり、健康な成人の大便からは2~15%の頻度で検出されます。これに対し、健康な乳幼児の大便には15~70%の高い頻度でこの菌がみられ、毒素も高い濃度で検出されますが、不思議なことに臨床症状はまったく認められません。これについてはさまざまな要因が議論されていますが、いまだ明確にはされていません。
この最近の特徴としては、芽胞を形成することから酸素が存在する環境や乾燥した環境でも死滅することなく生きていることです。
院内感染の原因細菌としてしばしば院内アウトブレイクを引き起こします。
病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生が見られることがあります。
【感染経路】
クロストリジウム-ディフィシルで汚染された器物が病院・老人施設等の施設内で感染を広げた例としては、共用していたポータブルトイレ、新生児用の風呂桶、電話機、直腸用電子体温計の持ち手部分、呼び出しスイッチ、トイレの電気スイッチなどがあります。
【潜伏期間】
はっきりと確定されておらず、1週間未満、2~3日程度で発病することもありますし、抗生物質による治療終了や退院から発病までの期間が長期に亘ることもあります。
【症状】
下痢や腹痛を引き起こしますが、軽症例がほとんどですが、重症となり腸閉塞・消化管穿孔・敗血症を引き起こし死亡する場合もあります。
血液の検査では、白血球数増加(40%)や低アルブミン血症(76%)を認めることもあります。
【どのような人に発症するのか】
クロストリジウム-ディフィシル感染症は、すべての年齢層で見られますが、65歳以上の老人での発生が多く、老人に限らず、免疫機能が低下している人たちでの発生が多いです。
最近2~3ケ月以内に他の感染症を治療するために抗生物質を使用していることが、クロストリジウム-ディフィシル感染症を誘発する最も主要な要因です。
【治療方法】
クロストリジウム-ディフィシルは、多くの抗生物質が無効です。
誘因となっていると思われる抗生物質や抗がん剤等の使用を中止します。
抗生物質の中止後2~3日以内に23%の患者でクロストリジウム-ディフィシル感染症の症状が改善するとされています。
中止後2~3日で下痢等の症状が改善しない場合や重篤な場合は、メトロニダゾールやバンコマイシンといったクロストリジウム-ディフィシルに有効な抗生物質による内服治療を行います。
【予防法】
病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生を防ぐためには、手洗いの徹底により、患者・医療従事者・介護者がクロストリジウム-ディフィシルを他の人へと運ばないことが大切です。
医療従事者・介護者は入院患者・入居者等との接触の前後で石ケンと流水での手洗いを徹底する必要があります。
※アルコールによる手の消毒は、クロストリジウム-ディフィシルの芽胞には無効です※
※芽胞:一部の細菌が形づくる、極めて耐久性の高い細胞構造を言い、そして極めて高い耐久性を有し劣悪な環境で通常の細菌が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能です※
※近年多用されているアルコールによる手の消毒は、特に下痢症の原因となるクロストリジウム-ディフィシルやノロウイルスなどには無効である点に留意する必要があります※
環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムが有効です。
健康体の人は、通常、クロストリジウム-ディフィシル感染症にはなりにくいです。
大切なことは特に、トイレの後や食事の前には、石ケンを使用して流水で手をよく洗うことです。
【流行の実態】
2010年2月、埼玉県内の病院で入院患者12人(31~91歳)が集団感染し、うち1人(71歳男性)が死亡しています。
下痢等が見られた他の患者については重症化していません。
米国においては、毎年、約50万人前後のクロストリジウム-ディフィシル感染症の患者が発生していると推計されており、毎年約15,000~20,000人の患者が死亡していると推計されています。
【検査】
1.便中のクロストリジウム-ディフィシル毒素検査により診断する。
2.イムノクロマト法を利用した検査キットで、糞便中の本菌の存在とトキシンを調べることができる。
グルタミン酸デヒドロゲナーゼは、この菌が産生する酵素であることから、糞便中にこの酵素が存在すればクロストリジウム-ディフィシルが糞便中に存在することになります。
トキシン産生性については、トキシンAとトキシンBの両方を見つけることが出来ます。
判定
・グルタミン酸デヒドロゲナーゼ陰性かつトキシン陰性・・・クロストリジウム-ディフィシルは存在しない。
・グルタミン酸デヒドロゲナーゼ陽性かつトキシン陽性・・・クロストリジウム-ディフィシルが存在。
・ルタミン酸デヒドロゲナーゼ陽性でトキシン陰性・・・偽陰性。
3.トキシンB遺伝子検査
感度・特異度ともに高い検査法で、自動機器を使って全自動検査が出来ます。