血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2020年1月12日日曜日

正しく知ろうインフルエンザ-3.抗インフルエンザウイルス薬-

2020年1月現在、抗インフルエンザウイルス薬は、内服薬としてタミフル・ゾフルーザ、吸入薬としてはイナビル・リレンザなどが使用されています。

2018年のインフルエンザ流行シーズン、一度の内服で効果が得られるとのことで、ゾフルーザが話題になりましたが、このゾフルーザが効かない耐性ウイルスの出現が問題になっています。

【インフルエンザの治療開始時期と方法】

抗インフルエンザウイルス薬は、患者の状態や年齢などに合わせて選択されます。

また、インフルエンザ治療薬とは別の薬が処方される場合もあります。

これは肺炎や気管支炎を合併したり、重症化させたりしないための抗生物質、熱を下げる解熱剤、その他、鼻水や咳がある場合に症状を抑えるための薬などでず、これらの薬はインフルエンザウイルスに直接作用はしませんが、症状を改善させたり、合併症防止のために必要に応じて処方されます。

インフルエンザの時の発熱に対しては、医師が解熱剤を必要と判断した場合はアセトアミノフェンが処方されます。

解熱剤には多くの種類がありますが、誤った使い方をすると悪化の恐れや脳炎発症のリスクがあります。

※必ず受診して医師の指示のもとに解熱剤を使用する必要があります、素人判断で解熱剤を使用してはいけません※

市販薬もしくは処方薬であっても以前に他の病気に対して処方された解熱鎮痛薬などは、絶対に服用しないことです。

本来、抗インフルエンザ薬を飲まなくても多くの場合は安静にしていれば数日で症状は軽快に向かいます。

1歳以下の子供は抗インフルエンザ薬ではなく、漢方薬で対応することもあるようです。

【インフルエンザ治療薬の効果】

インフルエンザ治療薬は、発症から48時間以内に服用を開始すると、発熱などの症状が1~2日間短くなりますが、症状が出てから時間がたって服用し始めても(発症後48時間以降)十分な効果が得られません。

【インフルエンザ治療中の注意点】

インフルエンザになると急に走り出す・部屋から飛び出そうとする・ウロウロするなどの異常行動がみられる場合があります。

過去にこうした異常行動が抗インフルエンザウイルス薬の服用後に起こったと報告があったため、これらの異常行動は薬の服用が原因という見解もありましたが、 これまでの調査結果などからは、抗インフルエンザ薬と異常行動との因果関係は明らかにはなっていません。

むしろ、インフルエンザウイルスに感染すると、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無やその種類に関係なく、同じような異常行動を起こすことが報告されています。

インフルエンザ罹患時には、薬の服用の有無に関わらず異常行動に対しての注意が必要となります。

事故につながるような異常行動は発熱から2日以内に現れることが多いと報告されています。

異常行動による事故を防ぐために、発熱から数えて少なくとも2日間は大人が見守り、患者を一人にしないように気を配る必要があります。

こうした事故の割合は、就学以降~未成年の男子で多くなっていますので特に注意が必要となります。

2020年1月2日木曜日

正しく知ろうインフルエンザ-2.インフルエンザ検査の正しい受け方-

【インフルエンザ検査を受けるタイミング】

インフルエンザの治療薬(抗インフルエンザ薬)は、発症から48時間以内に投与(内服か吸入)しないと効果がないことから、通常は受診したその場で感染の判定ができる「迅速抗原検出キット」を使用して検査を行います。

一般的に検査キットの陽性率は、発症後 0~12 時間で70~80%、13~24 時間で 70~90%と言われていますので、理論的には12時間以上経過すればキットで検知できるウイルス量が得られることから陽性となる確率は高くなります。

また抗インフルエンザウイルス薬の投与が発症から 48時間以内であることを考慮すると、検査を受けるタイミングは発症後(発熱後)12時間から48時間の間が最適と考えられています。

【受けるタイミングを間違うとどうなるのか】

検査を受けるのが早すぎるとインフルエンザウイルスの量がまだ少なく、陰性となり診断がつかない場合もあります。

インフルエンザに感染すると体内でウイルスが増殖しますが、そのピークは発症から48時間です。

治療薬はウイルスの増殖を抑える薬なので、48時間以内に投与しないと効果がないのはそのためです。

発症から12時間以上経過すれば必ずインフルエンザなら必ず陽性になるということでもありませんし、逆に12時間以内ならインフルエンザでも全く検査が陽性にならないということでもありません。

可能性として12時間以内でも陽性になることはいくらでもあります。

※従って検査結果だけで判断するのではなく、患者の状態を観察して判断する必要があります※

【迅速診断キットとは】

綿棒のようなものでのどや鼻の奥をこすって組織を採取し、そこにインフルエンザウイルスがいるかどうかで陰性・陽性を判断する非常にシンプルな検査法です。

判定に要する時間も15分(キットによって判定時間は3~15分以内)もかからずとても使い勝手がよく、受ける患者さんのほうも待ち時間も少なくて済むというメリットがあります。

日本国内でも血液の鉄人の知る限り20種類の迅速診断キットが販売されており、ほとんどのキットがはインフルエンザウイルスのタイプもA型かB型かの判断ができます。

【その他のインフルエンザ検査法】

1. 血清抗体検査

血液で調べる血清抗体検査があります。

この検査はインフルエンザが発症して1週間以内の時期の血液と、治った時期の計2回、採血を行い、インフルエンザウイルスに対する抗体ができているかどうか検査を行うものですが、検査結果が分かるまでには、約2週間かかることが多いことから、治療のタイミングを逃してしまうことからして現在、この検査はほとんど行われていません。

2. ウイルス分離検査

ウイルス分離検査と呼ばれる方法です。

この検査は発症してから約72時間以内を目安に、喉や鼻の奥などを拭った液からウイルスだけを分離して検査を行う方法です。

ウイルスの種類などが詳しく分かり、感度もとても高いのですが、高度な技術を要し、ごく限られた機関でしか行われていないので一般的には行われませんし、結果が出るまでには1週間前後かかり、やはり治療のタイミングを逃すことになります。

3. PCRを用いた検査

PCRを用いたインフルエンザの検査がありますが、これは鼻やのどの奥からとった拭い液を検体として、インフルエンザの遺伝子を検出する方法です。

遺伝子レベルでウイルスを検出するので、非常に正確で細かいウイルスの型や構造までわかり、たとえば新型ウイルスであるかどうかなどの判定まで行えます。

しかし、この検査も高度な技術を要するので、公的な検査機関などで行われることが多く、市中病院やクリニックなどで行われることはほとんどありません。

【検査費用】

一般的なインフルエンザ検査にかかる費用は、診察料に薬代も含めて4,000~5,000円程度(3割負担の場合)になることが多いです。

【48時間以内の検査、治療開始が重要とされる理由】

インフルエンザは、急激な発熱、全身倦怠感(だるさ)、筋肉痛、関節痛などのつらい症状だけでなく、重症化して肺炎や急性脳症などの合併症を起こす危険があることと、感染力が強く周囲の人に感染させやすい特徴もあります。

このため、抗インフルエンザウイルス薬の服用で治療を迅速に行い、なるべく軽症で済ませ、さらに周囲への影響も少なくすることが大切なのです。

インフルエンザウイルスは発症して48時間までに増殖し、症状が悪化しますが、発症後48時間までに抗インフルエンザウイルス薬を服用することでウイルスの増殖が抑えられ、症状が重くなるのを防いだり、周りへの感染の影響も少なくすることができるのです。

発症後48時間以降では、抗インフルエンザウイルス薬を服用しても、増殖したウイルスの勢いを抑えることはできなくなってしまいます。


2020年1月1日水曜日

新年のご挨拶

謹んで新春のお慶びを申し上げます。

旧年中は当サイトをご利用いただきありがとうございました。

本年も皆様方のお役に立てるよう頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。

血液の鉄人

2019年12月27日金曜日

正しく知ろうインフルエンザ-1.インフルエンザとは-

2019年11月13日、国立感染症研究所より、インフルエンザの流行入りが発表されました。

過去20年間で2番目に早い流行入りです。

今回から数回に渡りインフルエンザについて詳しく解説していきます。

【インフルエンザとは】

インフルエンザとはインフルエンザウイルスによって引き起こされる上気道炎症状・呼吸器症状を呈する急性感染症です。

季節性インフルエンザには、A型、B型、C型 の3種類が存在し、A型によるインフルエンザが全体の95%を占め、残りはほとんどがB型によるもので、C型インフルエンザは発生数が少なく主に小児にみられますが、典型的なインフルエンザの症状を引き起こしません。

流行を引き起こすインフルエンザウイルスの株は常に少しずつ変化していて、毎年、前年とは多少異なるインフルエンザウイルスが登場することによって以前に効果的だったワクチンが効かなくなります。

【感染経路】

ウイルスは、感染者のくしゃみやせきで周りに飛び散った飛沫を吸い込んだり、感染者の鼻の分泌物に直接触れたりすることで感染します。

【潜伏期間】

症状は感染後1~4日に突然生じます。

【症状】

悪寒が生じ、続いて発熱、筋肉痛、頭痛、のどの痛み、せき、鼻水、全身のだるさが生じます。

症状の大半は2~3日で治まりますが、発熱は5日目まで続くことがあります。

せき、脱力、発汗、疲労感が数日間、ときには数週間続きます。

気道に軽い刺激を感じ、激しい運動や長い運動ができなくなることがあり、軽い喘鳴(ぜんめい)が完全に消失するまで6~8週間もかかることがあります。

2019年12月23日月曜日

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症

クロストリディオイデス・ディフィシル感染症とは、グラム陽性の偏性嫌気性菌であるクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile infection:CDI)によって引き起こされる感染症で抗菌薬関連下痢症/腸炎を引き起こします。

抗菌薬使用歴のない患者でクロストリディオイデス・ディフィシル感染症を認めることもあります。

【クロストリディオイデス・ディフィシル】

ディフィシル菌は、ヒトや動物の腸内に住む常在菌であり、健康な成人の大便からは2~15%の頻度で検出されます。これに対し、健康な乳幼児の大便には15~70%の高い頻度でこの菌がみられ、毒素も高い濃度で検出されますが、不思議なことに臨床症状はまったく認められません。これについてはさまざまな要因が議論されていますが、いまだ明確にはされていません。

この最近の特徴としては、芽胞を形成することから酸素が存在する環境や乾燥した環境でも死滅することなく生きていることです。

院内感染の原因細菌としてしばしば院内アウトブレイクを引き起こします。

病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生が見られることがあります。

【感染経路】

クロストリジウム-ディフィシルで汚染された器物が病院・老人施設等の施設内で感染を広げた例としては、共用していたポータブルトイレ、新生児用の風呂桶、電話機、直腸用電子体温計の持ち手部分、呼び出しスイッチ、トイレの電気スイッチなどがあります。

【潜伏期間】

はっきりと確定されておらず、1週間未満、2~3日程度で発病することもありますし、抗生物質による治療終了や退院から発病までの期間が長期に亘ることもあります。

【症状】

下痢や腹痛を引き起こしますが、軽症例がほとんどですが、重症となり腸閉塞・消化管穿孔・敗血症を引き起こし死亡する場合もあります。

血液の検査では、白血球数増加(40%)や低アルブミン血症(76%)を認めることもあります。
【どのような人に発症するのか】

クロストリジウム-ディフィシル感染症は、すべての年齢層で見られますが、65歳以上の老人での発生が多く、老人に限らず、免疫機能が低下している人たちでの発生が多いです。

最近2~3ケ月以内に他の感染症を治療するために抗生物質を使用していることが、クロストリジウム-ディフィシル感染症を誘発する最も主要な要因です。

【治療方法】

クロストリジウム-ディフィシルは、多くの抗生物質が無効です。

誘因となっていると思われる抗生物質や抗がん剤等の使用を中止します。

抗生物質の中止後2~3日以内に23%の患者でクロストリジウム-ディフィシル感染症の症状が改善するとされています。

中止後2~3日で下痢等の症状が改善しない場合や重篤な場合は、メトロニダゾールやバンコマイシンといったクロストリジウム-ディフィシルに有効な抗生物質による内服治療を行います。

【予防法】

病院・老人施設等における入院患者・入居者等での集団発生を防ぐためには、手洗いの徹底により、患者・医療従事者・介護者がクロストリジウム-ディフィシルを他の人へと運ばないことが大切です。

医療従事者・介護者は入院患者・入居者等との接触の前後で石ケンと流水での手洗いを徹底する必要があります。

※アルコールによる手の消毒は、クロストリジウム-ディフィシルの芽胞には無効です※

※芽胞:一部の細菌が形づくる、極めて耐久性の高い細胞構造を言い、そして極めて高い耐久性を有し劣悪な環境で通常の細菌が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能です※

※近年多用されているアルコールによる手の消毒は、特に下痢症の原因となるクロストリジウム-ディフィシルやノロウイルスなどには無効である点に留意する必要があります※

環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムが有効です。

健康体の人は、通常、クロストリジウム-ディフィシル感染症にはなりにくいです。

大切なことは特に、トイレの後や食事の前には、石ケンを使用して流水で手をよく洗うことです。

【流行の実態】

2010年2月、埼玉県内の病院で入院患者12人(31~91歳)が集団感染し、うち1人(71歳男性)が死亡しています。

下痢等が見られた他の患者については重症化していません。

米国においては、毎年、約50万人前後のクロストリジウム-ディフィシル感染症の患者が発生していると推計されており、毎年約15,000~20,000人の患者が死亡していると推計されています。

【検査】

1.便中のクロストリジウム-ディフィシル毒素検査により診断する。

2.イムノクロマト法を利用した検査キットで、糞便中の本菌の存在とトキシンを調べることができる。

グルタミン酸デヒドロゲナーゼは、この菌が産生する酵素であることから、糞便中にこの酵素が存在すればクロストリジウム-ディフィシルが糞便中に存在することになります。

トキシン産生性については、トキシンAとトキシンBの両方を見つけることが出来ます。

判定

・グルタミン酸デヒドロゲナーゼ陰性かつトキシン陰性・・・クロストリジウム-ディフィシルは存在しない。

・グルタミン酸デヒドロゲナーゼ陽性かつトキシン陽性・・・クロストリジウム-ディフィシルが存在。

・ルタミン酸デヒドロゲナーゼ陽性でトキシン陰性・・・偽陰性。

3.トキシンB遺伝子検査

感度・特異度ともに高い検査法で、自動機器を使って全自動検査が出来ます。

2019年12月9日月曜日

血液型について-6.マラリアと血液型の関係について-

血液型と疾患の関係は昔から多く論じられてきましたが、生化学的に証明されたものはなく大部分は数字を使用したこじつけ的なものです。

寄生虫と関連を持つ血液型については、これを生化学的に裏付けるものがあります。

数ある血液型の中のひとつのDuffy(ダフィー)式血液型は、三日熱マラリア原虫の感染に対して抵抗性があることが証明されています。

Duffy式血液型とは、Fy(a)とFy(b)のふたつの抗原から成り立っていて、Fy(a)とFy(b)には遺伝的優劣はありません。

この血液型の表現型は、Fy(a+b+)、Fy(a+b-)、Fy(a-b+)、Fy(a-b-)の四型からなり、Fy(a)とFy(b)の両方の抗原を持たないFy(a-b-)の人は三日熱マラリア原虫には感染しません。
しかしFy(a)とFy(b)を持つFy(a+b+)、Fy(a+b-)、Fy(a-b+)の人は、三日熱マラリア原虫に感染します。

Fy(a-b-)は非常にまれな表現型で、白人と日本人の発現頻度はほぼゼロです。

アフリカ系黒人ではFy(a-b-)の発現頻度は、68%と高頻度です。

北アメリカ大陸在住のアメリカ・インディアンにもFy(a-b-)の人は存在し、やはり三日熱マラリア原虫の感染に対して抵抗性があることが確認されています。

このDuffy式血液型と三日熱マラリア原虫の関係は、特定の地域においては自然淘汰の重要な要因であったものと考えられています。

Fy(a-b-)型はアフリカのサブサハラの三日熱マラリア流行地に遺伝的起源を持つ人に非常に多いのに対して、それ以外の地域に起源を持つ人にはほとんど存在しません。

タンパク分解酵素を使用して赤血球上のFy(a)抗原とFy(b)抗原を壊すと三日熱マラリア原虫は赤血球に感染しなくなることから、Fy(a)抗原とFy(b)抗原には三日熱マラリア原虫が感染する受溶体が組み込まれていることが明らかにされています。

要するに三日熱マラリア原虫は、赤血球上にあるFy(a)抗原とFy(b)抗原から赤血球の中に入り込み感染するということです。

【追加事項】

マラリア原虫には、熱帯熱マラリア原虫・卵形マラリア原虫・四日熱マラリア原虫・三日熱マラリア原虫の四種類がありますが、Duffy式血液型と関係があるのは三日熱マラリア原虫です。

2019年11月28日木曜日

血液型について-5.後天性獲得B(acquired B)について-

ABO式血液型は時には理解しづらい現象を引き起こします。

今回は本来A型である人がAB型に変化する事例を紹介します。

直腸・結腸癌の患者の状態が悪くなるとA型患者が後天的にB型抗原を獲得して一見AB型様の反応を示す現象が起こることがあります。

後天性獲得Bは、直腸・結腸癌の癌患者が細菌感染を起こした時に、A抗原が少し変異してB様抗原になって抗Bと弱く反応しAB型と判定されます。

直腸・結腸癌の患者の状態が改善されるに従い後天性獲得BのB型は少しずつなくなり、本来のA型に戻ります。

直腸・結腸癌の患者の状態が改善されずに不幸にも死亡した患者は、後天性獲得Bのままであることが多いことが経験されています。

後天性獲得Bは、A型の人がなり、O型の人が後天性獲得Bになることはありません。

この後天性獲得BのB型抗原はヒト由来及び動物免疫由来の抗B判定血清で起こりますが、モノクロ-ナル抗体由来の抗B血液型判定用血清とは反応しません。

※モノクローナル抗体とは、単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体※

※ヒト由来及び動物免疫由来抗体は、複数の抗原で免疫されてできたもので、ポリクローナル抗体と呼ばれる※

現在のABO式血液型判定にはヒト由来及び動物免疫由来判定用血清はほとんど使用されることなく、大部分がモノクローナル抗体由来の判定用血清を使用していることから後天性獲得Bは検出されなくなってきています。

モノクローナル抗体由来の判定用血清の使用が主流になったことから、後天性獲得Bは消えてなくなったということになります。

血液の鉄人も40年以上前に63歳の女性の直腸がん患者が後天性獲得Bとなった症例を経験しています。

2019年11月18日月曜日

血液型について-4.白血病によるA型の変化-

ABO式血液型は、一生不変であることは周知の事実ですが、ある種の疾患によつて稀に変化することがあります。

そう白血病になるとA型が変化することがあるんです。

白血病の末期になると、A型があたかも0型のように、あるいは完全に0型に変化することがあります。

しかし、白血病が寛解するともとのA型に戻り、悪化すると再び0型に変化します。

※寛解とは、病気が永続的であるか一時的であるかを問わず症状が好転またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態を言います※

この現象は自血病の病状が悪化するのに正比例して本来のA型がよリー層O型に近づきます。

また、この現象は白血病の種類に関係なく発現するが、すべての白血病患者に発現するとは限りません。

B型がO型に、AB型がO型に変化することも報告されていますが、何故かA型の変化が圧倒的に多いのが現実です。

白血病が誘引となってABO式血液型が変化する原因については、諸説があり確定的なことは解明されていません。

血液の鉄人もA型の白血病患者の血液型がO型に変化した事例を数例経験しています。

2019年11月11日月曜日

血液型について-3.AB型とO型の親からAB型の子供は生まれるのか??!!-

ABO式血液型は、例外なくメンデルの遺伝の法則に従つて遺伝するために親子鑑定に応用されてきました。

ところが"両親のいずれかがAB型の時には、0型の子供は生まれることはなく"、また"両親のいずれかが0型の時には、AB型は生まれない"との原則に例外があることが1966年に発見された。

1966年、大阪府赤十字血液センターの山口英夫博士(2019年死去)らは、0型とAB型の両親から家族3名全員がAB型の家系を発見しました。

このAB型の血清学的性質従来のAB型とは異なり、A型およびB型抗原は普通のAB型の反応よりかなり弱いものでこの遺伝学的背景は従来のメンデルの遺伝の法則によつては到底説明出来ませんでした。

その後、多くの研究者により同様の家系が発見されるに至つて、このメンデルの遺伝の法則に基づかない遺伝様式も説明可能となりました。

山口らは、この特殊な遺伝をする血液型を“Cis AB(シスAB)"と命名しました。

ABO式血液型の遺伝は、A遺伝子とB遺伝子は異なつた染色体に乗つて遺伝しますが、“CisAB"はA遺伝子とB遺伝子が同一染色体に乗つて遺伝するためにこのような異例の遺伝様式をしたわけです。

普通のAB型は"trans AB(トランスAB)"と呼ばれ遺伝子型はA/Bと表記されますが、この特殊な遺伝子型をA2B3/0と表記します。

普通はAB型とO型の両親からは、A型とB型が生まれAB型は生まれません。

普通のAB型の遺伝の場合:A/BとO/O→A/OとB/OなりA型とB型が生まれAB型は生まれません。

CisABの遺伝の場合は、A2B3/0とO/O→A2B3/0とO/OとなりAB型が生まれます。

この“Cis AB"の発現頻度は00012%と非常に稀なために、遺伝様式がメンデルの遺伝によることがないことから親子鑑定にも大きな影響を与えたり、産婦人科による新生児の取り違え騒動に発展することがあるので注意が必要です。

血液の鉄人もCisABの家系を数家系見つけていますが、産婦人科による新生児の取り違えや家系騒動となった事例を経験しています。

この血液が発見された当時は、興味あることにこの“ClsAB"の家系は徳島県と石川県に多く見られていましたが、現在は人の往来が多様化されたためにこの傾向は見られなくなっています。

2019年11月1日金曜日

重症熱性血小板減少症候群

重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:SFTS)は、SFTSウイルスを保有しているマダニに咬まれることにより感染するダニ媒介感染症で、感染症法では四類感染症に位置付けられています。

【SFTSウイルスとは】

SFTSウイルスは2011年に中国より報告されたマダニ媒介性の新興ウイルス感染症で、国内SFTSウイルス自体は,以前から国内に存在していたと考えられていましたが,平成25年1月に初めての症例が確認され,現在までに,全国では24府県で475例(うち69例で死亡)の症例が確認されています(2019年9月25日現在)。

【感染経路】

主にSFTSウイルスを保有するマダニに刺咬されることで感染する。

 【潜伏期】

6~14日

【臨床症状】

発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)を主張とし、ときに、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などを伴い、血液所見では、血小板減少(10万/μL未満)、白血球減少(4000/μL未満)、血清酵素(AST、ALT、LDH)の上昇が認められる。

【致死率】

10~30%程度。

【診断】

血液、血清、咽頭拭い液、尿から病原体や病原体遺伝子の検出、 血清から抗体の検出。

【治療】

特効薬はなく対症療法しか存在していません。

【予防】

草の茂ったマダニの生息する場所に入る場合には、長袖、長ズボンを着用し、肌の露出を極力さけ、マダニに咬まれない予防措置を講じる

【日本に存在するマダニ】

日本には、命名されているものだけで47種のマダニが生息するとされていますが、これまでに実施された調査の結果、複数のマダニ種(フタトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニ)からSFTSウイルスの遺伝子が検出されて、日本国内ではフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニがヒトへの感染に関与しています。

【ペットから感染する可能性は】

SFTSウイルスに感染して重症熱性血小板減少症候群に類似する症状を呈したネコに噛まれて重症熱性血小板減少症候群を発症した患者が確認されています(第92回日本感染症学会発表.2018年)。

同様にSFTSウイルスに感染して重症熱性血小板減少症候群様症状を呈したイヌとの接触により重症熱性血小板減少症候群を発症した患者も確認されています(第92回日本感染症学会発表.2018年)。

これらはまれな例ですが、ペツトや野良猫などからの感染も気をつける必要があります。

ペットに付いているマダニに触れたからといって感染することはありませんが、マダニに咬まれれば、その危険性はありますので、ペットのマダニは獣医師に相談して駆除する必要があります。

2019年10月23日水曜日

糖尿病と膵臓がんの関係

【膵臓の働き】

膵臓という臓器は、極めて重要な臓器で、胃酸で酸性になった食べ物を中和する"膵液"を分泌して消化を促す働きをする、インスリンやグルカゴンなど血糖値を調節するホルモンを分泌して全身のバランスを保つふたつの働きをする大切な臓器です。

膵臓は、胃の裏側の体の深部に位置し消化液を運ぶ膵管が張り巡らされています。

【糖尿病と膵臓がんは関係ある??!!】

膵臓がん患者の26%は糖尿病患者というデータがあります。

糖尿病患者の場合、男性では膵臓がんの発症リスクが健康な人に比べ2.1倍、女性で1.5倍高いとというデータがあります。

【膵臓がんの原因とは】

膵臓がんの原因のほとんどが膵炎です。

膵炎は、血液中に糖分が増えることで起こります。

【膵臓がんの予防】

以上のことからして糖尿病を予防するような食事や運動などで生活習慣を改善するように日頃から心がけることが、膵臓がんの予防になるということなのです。

膵臓がんはがんのなかでも、発見しにくく発見されたときにはすでに手遅れのケースが多いことから、「早期発見がしにくい」「転移しやすい」「治癒が難しい」「生存率が低い」と、四つの悪条件がそろったがんと言えます。

【膵臓がんは治るのか】

医学の進歩に伴い多くのがんは治る病気となりつつありますが、膵臓がんだけは例外で、5年生存率はステージ1で40.1%、ステージ4になると1.5%、全症例で9.2%と極めて予後の悪いがんといえます。

更に最近では、膵臓がん罹患者数も死亡者数も年々しつつあります。

【何故膵臓がんは見つけにくいのか】

膵臓がんの90%以上が、膵管の細胞にできるので発見しづらい原因となっています。

更に悪いことには膵臓がんは、特徴的な自覚症状がほとんどなく、腹痛、黄疸、腰や背中の痛み、食欲不振、体重減少などの症状が現れますが、これらの症状は他の疾患でも現れることからついつい膵臓がんを見をとしてしまうことになります。

症状が進行してから発見されたときには、すでに手遅れとなっています。

進行した場合、症状としては、が挙げられますが、胃炎や膵炎の場合も同じ症状になります。

【膵臓がんの検査】

膵臓は肝臓と同様に「沈黙の臓器」と呼ばれ、よほどがんが進行しないと検査に至らないのです。

エコー検査(超音波検査)でも、胃や腸のなかにあるガスや体内脂肪の影響で診断しにくいのが現実です。

ふだんから健康に気を使い、定期的に人間ドックを受けていたにもかかわらず、膵臓がんは発見されず、自覚症状が出てから精密検査をし初めて膵臓がん診断される人が殆どで、このような場合膵臓がんが発見されたときにはかなり進行していて、手遅れが多いのが現実です。

最近では、CT=Computed Tomography(コンピューター断層撮影)が膵臓がんの早期発見に比較的有効とされていますが、撮影のために使用する造影剤には副作用リスクがあり検査を受ける際には注意が必要となります。

更に有効な検査としては、MRI=Magnetic Resonance Imaging(磁気共鳴画像)を利用したMRCP=Magnetic Resonance Cholangiopancreatography(磁器共鳴胆管膵管造影検査)という検査がありますが、自覚症状がなく、膵臓がんの疑いがないのにこれを受ける人はまずいません。

最近で注目されているより高度な検査方法としてERCP=Endoscopic Retrograde Colangiopancreatography(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)やEUS:=Endoscopic Ultrasonography(超音波内視鏡)がありますが、実施している医療機関が少ないうえ、費用が高額であることからほとんど利用されていません。

2019年10月14日月曜日

謹んで台風19号(ハギビス) により被災された皆様にお見舞い申し上げます。

この度の台風19号(ハギビス) により被災された皆様ならびにそのご家族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

皆様の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

2019年10月8日火曜日

血液型について-2.ABO式血液型と体質関係-

血液型と病気の関連性については1980年代には、異常なほど論議されましたが2000年に世界で特に権威のある学術雑誌のひとつと評価されているイギリスの科学雑誌『Nature』に、"胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が確認できるが、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものは無い"と総説が掲載され終止符が打たれました。

この論文の発表後今日まで数多くの発表がなされてきましたが、ストレス抵抗性や病気のリスクなどの健康面へ影響があるという科学的に証明された報告は一部しか存在していまん。

2000年にNatureに掲載された総説では、"胃腸管に関するいくつかの形質に弱い相関が確認できるが、血液型と疾患の相関については再現性よく示されたものはない"という、ABO式血液型と体質関係を否定する内容であった。

ABO式血液型以外の血液型では、特定の血液型のみある種の病気に感染しないというものがいくつか報告されていますので次回から紹介いたします。

また一生涯変化しない血液型がある種の疾患によって、変化することも知られていますので、これも順次紹介いたします。

2019年10月1日火曜日

血液型について-1.ABO式血液型と性格に関係-

結論から言いますと、科学的にはABO式血液型と性格に関係はありません!!

血液型と性格の関連性について論じる国は、日本とその影響を受けた韓国、台湾といった一部地域だけであり、それ以外の地域では血液型と性格を関係づける習慣はありません。

我が国においての血液型と性格との関連性があるとの主張は、大正期から昭和初期に古川竹二教授が発表した「血液型による気質の研究」(1927年)、「血液型と気質」(1932年)、昭和46(1971)年に発売された能見正比古氏の著書「血液型でわかる相性」などがあります。

ただしこれらのいずれの著書でも統計上の分析や結果に不備があったり、追検査で十分な証明ができなかったりしたことで、学説として認められていません。

古川学説は、最終的には1933年日本法医学会総会において正式に否定されています。

特に1971年以降、大きな影響力を持った能見正比古(1925~1981)と能見俊賢(1948~2006)の親子が提唱したのは血液型人間学であり、新たな学問であるかのように提唱していますが、能見正比古の死後、1980年代には日本の心理学側からこれを否定した研究結果が登場するようになっています。

血液型によって人の性格を判断することは、相手を不快や不安な状態にさせる言動となり、これは"ブラッドタイプ・ハラスメント"と呼ばれ、近年になり社会問題として取り上げられるようになってきています。

企業の採用試験の応募用紙に血液型の記入欄があったため、改善するよう労働局から指導された企業も現実に存在しています。

厚生労働省は「血液型は職務能力や適性とは全く関係ない」といっていますが、未だに血液型による職務能力や適性がまことしやかに論じられていることは事実です。

血液型による性格分類は、科学的に正しいとは認められていませんが、1970年代から2000年代前半にかけて、多くのテレビや書籍が根拠なく分類を広めたため、いまだに血液型と性格の関連性を信じている人も少なからず存在していることも事実です。

2019年9月20日金曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点-4.イムノクロマト法を利用したHIV検査は偽陽性反応が出現しやすい-

イムノクロマト法を利用したHIV検査は、迅速抗体検査と迅速抗原抗体検査があります。

迅速抗体検査としては、ダイナスクリーンがあります。

迅速抗原抗体検査としては、エスプラインHIV Ag/Abとダイナスクリーン・HIV Comboのふたつがあります。

【イムノクロマト法の欠点】

判定ラインの色調(ラインの濃度)を肉眼で判定することから、どうしても判定者の主観に左右されてしまいます、その結果神経質的に判定すればどうしても薄くラインが有ると判定し偽陽性反応が出現しやすくなる検査法と言えます。

逆に大雑把な人が判定すれば、薄い判定ラインを見逃すこともあります。

しかし、判定を厳格に見すぎての偽陽性反応が圧倒的に多いのが現実です。

【イムノクロマト法の偽陽性反応の出現率】

100人検査をすればおよそ3~5人の偽陽性反応が出現します。

※抗体検査より抗原抗体検査の方が偽陽性率が高い傾向にあります。

現実かなりの人が偽陽性反応に泣かされています。

【なぜイムノクロマト法の偽陽性反応の出現率が高いのか】

1.陽性を見逃さないように検出感度を高くしている。

2.肉眼で判定することから検査者の主観が入りやすい。

3.反応時間を過ぎてからの判定ラインに出現したラインを陽性と判定する。

※決められた反応時間を経過してから出現したラインは、陽性と判定しない※

4.全血を使用しての検査は、血液の赤い色が判定を誤らす可能性が高くなる。

2019年9月10日火曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点-3.HIV-PCR検査でHIV-2は見つけられない!!-

ここで言うHIV-PCR検査とは、リアルタイムPCR検査のことです。

NATは血液センター専用の検査で献血された血液の検査を行う検査法で、医療機関でHIV検査として受けることはできません。

※NATは、HBV・HCV・HIV-1・HIV-2を同時に検出ことが可能です※

【HIV-PCR検査はHIV-2を見つけることはできない!!】

2019年9月現在、日本国内で販売されているHIV-PCR検査は、3種類ありますがいずれもHIV-2を検出することはできません。

【HIV-2をHIV-PCR検査で検査できないのか】

HIV-PCR検査でHIV-2の検査を実施しているのは、限られた施設で研究目的で検査を行っていますので、一般の医療機関では受けることはできません。

【現在我が国で利用されているHIV-1のPCR検査】

1.TaqMan HIV-1「オート」

2.アキュジーン m-HIV-1

3.アプティマR HIV-1

これら3製品のHIV-1のPCR検査の感度・特異性はほとんど同じですが、いずれの製品もHIV-2を見つけることはできません。

TaqMan HIV-1「オート」が我が国で最初に発売されたことから、採用数はTaqMan HIV-1「オート」が一番多いです。

【各メーカはHIV-1のPCR検査でHIV-2を検査できる製品を開発販売する予定はないのか】

一時期TaqMan HIV-1「オート」でHIV-2の検査ができるキットの販売が一部で報じられましたが、現在は立ち消えとなっています。

【一部の医療機関でHIV-PCR検査でHIV-2の検査を引き受けているということが巷で噂されていますがその真偽は】

血液の鉄人が知る限りでは、一般の医療機関でHIV-PCR検査でHIV-2の検査を引き受けている施設はないと認識しています。

仮に引き受けている施設があれば、どのような検査法で、どのような施設に検査を依頼しているかを確かめる必要があります。

2019年9月1日日曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点-2.クラミジア抗体検査-

血液によるクラミジア・トラコマティス抗体検査を受けるときには注意が必要です!!

【クラミジア抗体の種類と体内にできる時期】

クラミジア・トラコマティスに感染した場合は、感染後ほぼ1週間後にクラミジアIgM抗体ができますが、治療・無治療にかかわらずこのIgM抗体は速やかに消失します(およそ2ケ月以内)。

クラミジアIgM抗体検査は新生児感染の判断の時に実施しますが、成人の場合はIgM抗体の値の上昇が不十分であることと、健康保険が適応されていないので検査として利用されていないのが現実です。

このことから医療機関においては成人ではクラミジア・トラコマティス抗体検査は、IgA抗体とIgG抗体検査しか実施されていません。

クラミジア・トラコマティスに感染すると、抗クラミジアIgG抗体がおよそ1ケ月後には陽性となり数年間は陽性の状態が続き平均4年後に陰性となります。

一方IgA抗体は、IgG抗体に遅れて5~6週間で陽性となり、数年間持続しおよぞ3年で陰性となります。

【クラミジア抗体とクラミジア抗原検査もしくは核酸増幅検査との結果の食い違い】

感染直後に検査した場合にはクラミジア抗原もしくは核酸増幅検査が陽性であっても,IgG抗体及びIgA抗体が陰性のこともあり、IgG抗体陽性、IgA抗体陰性と事がよく経験されます。

要するに抗原検査もしくは核酸増幅検査と抗体検査の結果が一致しない症例が多く存在するわけです。

抗体検査と抗原検査の一致率は30%と低い事に加えて、IgG抗体およびIgA抗体陽性例には現在の感染と過去の感染が含まれており、治療が必要な場合か、治療が不要な場合かの鑑別ができません。

かつては抗IgA抗体が陽性の場合は、クラミジアの“活動性感染”を示すと誤って表現されたため、新しい感染があるときだけに抗IgA抗体が陽性となりあたかも感染が存在する場合にだけ陽性になるかのように誤解されたことがありました。

要するにクラミジア・トラコマティス抗体は“感染があるとき”と,感染が終息した場合の“感染の既往”があることを示すにすぎない場合があることをよく理解することが必要です。

したがって血液によるクラミジア抗体を調べることによって正確な感染の判断はできないことと、治癒判定もできないことを認識しておく必要があります。

【クラミジア初感染による抗体の変動】

クラミジアの初感染では、感染後まずIgM抗体がおよそ3週以降に上昇し、続いてIgG抗体、IgA抗体がさらに2~3週遅れて上昇します。

一般的にはIgM抗体は通常約数ヵ月で消失しますがIgG抗体やIgA抗体はいったん上昇しピークをむかえた後数ヵ月から年余にわたって漸減していきます。

IgA抗体はIgG抗体に比べて早期に低下します。

【クラミジア再感染による抗体の変動】

再感染ではIgG抗体、IgA抗体が2~3週で比較的急激に上昇しますが通常IgM抗体は上昇しません、まれに上昇した場合でも低値であることかほとんどです。

もともと一般成人においても,IgG抗体は感染既往として約60%の人が保有していることから抗体保有を急性感染症と誤解しない必要があります、

またIgM、IgA、IgG抗体を持っていてもこれは感染抗体で、感染予防抗体(中和抗体)でないことから感染防御にはならず何度でも感染します。

【クラミジア抗体の種類と判定】

・IgA抗体とIgGの抗体両方の抗体が陰性の場合・・・感染は無し
※但し抗原検査や核酸増幅検査が陽性の場合は感染あり※

・IgA抗体陽性でIgG抗体が陰性の場合・・・最近の感染が疑われる

・IgA抗体が陰性でIgG抗体が陽性の場合・・・過去の感染で治療の必要なし。
※但し抗原検査が陽性の場合は感染あり※
※過去に十分な治療を受けていなければ感染を100%否定することはできない※

・IgA抗体とIgG抗体の両方の抗体が陽性の場合・・・感染していることから治療の必要あり

【クラミジア抗体検査は信頼性が低い】

1.治療によってクラミジアが完全に体内からいなくなった治癒後にも、IgG抗体だけでなくIgA抗体も陽性となることから、現在感染しているのか、治癒後なのかが正確に判断できません。

2.クラミジア抗体検査が陽性で、尿や粘膜からの検査を受け直した結果、現在クラミジアの感染はなく、過去に感染して治っていて治療の必要のない事例が多く見られます。
※偽の陽性反応が多く見られる※ 

3.血液でクラミジア抗体検査を受けても結局、通常の尿検査や粘膜検査を再度受け直す必要があることからして、クラミジアの血液検査を受けることはお勧めできません。

4.正確に感染判断をするには最初から抗原検査や核酸増幅検査検査を受けることをお勧めします。

2019年8月20日火曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点 -1.咽頭淋菌検査-

数回に分けて性行為感染症の検査を受ける際の注意点について解説していきます。

これを読まれて各種検査の注意点を理解いただき、正しく検査を受けられることを願っております。

第一回目は、咽頭淋菌検査についてです。

最近オーラルセックスで咽頭に淋菌が感染する人が増加しています。

人の口腔内には、日常的に非病原性菌の常在菌であるナイセリア属が判明しているだけで11種も存在しています。

病原性のある淋菌も実はこのナイセリア属なのです。

【注意点】

淋菌咽頭感染検査には、淋菌の性器検査に利用されるPCR法は使用することは出来ません!!

【何故淋菌咽頭感染検査にはPCR法は使用不可なのか】

遺伝子増幅法であるPCR法は、病原性のないナイセリア属と交差反応を示すため、この病原性のないナイセリア属の細菌を淋菌と間違えて検出してしまい、淋菌に感染していなくても陽性となってしまうのです。

いわゆる"偽陽性反応(ニセの反応)"が起こるわけです、そのために淋菌の性器感染検査に使用される遺伝子増幅法であるPCR法は咽頭感染の検査には適していません。

よく咽頭に淋菌感染が認められて治療を幾らしても検査が陰性とならないということを聞きますが、これは検査に遺伝子増幅法であるPCR法をしたために淋菌でない非病原性のナイセリア属を検出していることからいくら抗生物質で治療してもPCR検査が陽性となっている結果です。

医師の中には咽頭淋菌の検査に遺伝子増幅法であるPCR法を使用できないことを知らない医師もいることは事実です。

【咽頭淋菌検査は何を受ければよいのか】

咽頭淋菌感染の検査は、ナイセリア属と交差反応をしめさないSDA法(StrandDisplacement Amplification)または、TMA法(Transcription Mediated Amplificatio)による検査を受ける必要があります。

本当に咽頭に淋菌が感染しているかどうかの検査は、SDA法やTMA法検査を受けないと分かりません、PCR検査を受けてはいけません。

※性器への淋菌感染症検査は、PCR検査は感度・精度ともに優れた検査法です※

いくら優秀な検査法でも使い方を間違えば誤った結果が得られて、治療に支障をきたしてしまいます。

咽頭淋菌検査SDA法

咽頭淋菌検査TMA法



2019年8月12日月曜日

HIV郵送検査を利用する際の信頼できる条件とは

自宅にいながら簡単に利用できるHIV郵送検査を利用する人はここ数年で著しく増加しています。

HIV郵送検査が多くの人に利用される理由としては、

1.保健所での検査は受ける日時が限定されて自分の都合に合わせて受けられない。
※行政特有の検査をしてやっているという風潮が未だに是正されていない※

2.プライバシーが保護されていない。

3.実施している検査法がどのようなものかが明確にされていない。

次にHIV郵送検査の問題点について考えてみましょう。

HIV郵送検査は便利な半面、検査の信頼度が会社によって大きく異なるという問題点が存在していることは事実です。

安心して受けられるHIV郵送検査とはどの様な条件なのかを以下に分析してみます。

1.検査結果が他の人に知られることがない(検査を受けた人のプライバシーが完全に保護されているかどうか)

2.第三者による検査精度チェックが定期的に行われている。
※検査の信頼性が高く保たれている必要があります※
※言い換えれば精度管理が適切に行われ、信頼できる検査であるという第三者の証明がなされている事が必要です※

3.HIVやその他の感染症の基本的な知識など必要な情報がわかりやすく提供されている。

4.検査方法や検査結果についての相談窓口が開設されていて、いつでも相談や問い合わせができ、的確なアドバイスが受けられる。

5.検査が陽性となった場合の対応が適切になされている。
※確認検査を受けられる医療機関に関する情報や連携システムが構築されている※
※陽性や僞陽性反応になった時の丁寧な迅速対応がなされている必要があります※

少なくとも以上の条件が満たされていないHIV郵送検査は、受けるべきではありません。

また、HIV郵送検査は自己責任で受けるという認識も忘れてはなりません。

2019年8月2日金曜日

性行為感染症アラカルト-9.第3期梅毒-

第3期(または晩期梅毒とも言います)は、適切な治療を行わなかった患者が感染時点から5~30年をかけて徐々に進行し臓器の破壊性病変を引き起こしたものを言います。

治療を受けていない人の約3分の1に発生し、症状は軽いものから極めて重篤なものまで様々です。

そして神経梅毒・心血管梅毒・ゴム腫梅毒に分類されます。

神経梅毒は、早期神経梅毒と後期神経梅毒に分類されます。

一昔前に比べて現代の医療の発展により第3期(または晩期)の症例は極めて稀となっています。

【感染力】

この時期は第三者に梅毒トレポネーマを感染させることはありません。

【梅毒検査】

当然TP検査は陽性となりますが、STS検査は陰性か弱陽性となります。


2019年7月24日水曜日

性行為感染症アラカルト-8.潜伏梅毒-

潜伏梅毒とは、各種梅毒血清反応が陽性で、梅毒特有の臨床的症状が認められないものを言います。

【潜伏梅毒の梅毒検査】

1.STS検査が陽性で、TP検査が陰性の場合は生物学的僞陽性反応が疑われるので、再度日にちを開けて採血し検査をする必要があります。

2.STS検査とTP検査の両方が陽性の場合潜伏梅毒と考えれます。

3.TP検査のみ陽性の場合は、陳旧梅毒の可能性がありますが、再度確認検査をする必要があります。

【潜伏梅毒の頻度とその種類】

梅毒トレポネーマ感染後1年以内の潜伏梅毒はおよそ25%の患者で見られ、第2期梅毒の再発を起こすことから、"早期潜伏梅毒"と言います。

それ以降の梅毒を"後期潜伏梅毒"と言います。

これは第1期及び第2期梅毒の時点で適切な治療を行わなかった場合、3分の2以上の患者が潜伏梅毒に移行します。

潜伏梅毒に移行した患者の25%前後が4年以内(多くは1年以内)に第2期梅毒の症状が再燃します。

そして潜伏梅毒になった患者のおよそ3分の1が晩期梅毒に移行してしまいます。

梅毒トレポネーマの感染力は時間経過と共に衰え、感染成立後4年以降は性行為による感染はないといわれています。

しかし後期潜伏梅毒の時期では、母胎から胎児に感染し先天梅毒を発症する可能性はあることからして注意が必要となります。

【潜伏梅毒は治療しないでよいのか】

潜伏梅毒の患者は梅毒治療を行わなくても、70%は晩期梅毒には移行しないことが知られていますが、自然治癒は疑問視されています。

残りの30%の患者は晩期梅毒に移行します。

※現代医療では多くの人が梅毒以外の感染症で抗生物質の投与を受ける機会が多く、梅毒トレポネーマに感染しているにもかかわらず気づかずに他の疾患で抗生物質の投与を受け、その結果として潜伏梅毒の段階で治癒している可能性があります※

※このことから先進国で晩期梅毒がまれであることが説明出来ます※

2019年7月16日火曜日

性行為感染症アラカルト-7.第2期梅毒-

第2期梅毒の症状としては、第1期梅毒の症状が出た後の4~10週後に発熱や皮疹が出現します。

皮疹は第2期梅毒患者の70%に認められ、梅毒患者全体の90%以上に認められる代表的なものです。

皮疹は3~10mm程度の斑丘疹状紅斑を呈し、色はピンク・褐色・赤色で全身に発生し、一般的には痒みも痛みもありません。

この発疹はしばしば手のひらや足の裏に現れ、発疹はすぐ消えることもあれば、何ケ月も続くこともあります。

治療をしなくても、発疹はやがて消えますが、数週間、または数カ月経ってから再発することがあります。

頭皮に発疹ができると、髪の毛が斑状に抜け落ちていわゆる虫食い状態になります。

その他粘膜疹や扁平コンジロームも出来てきます。

扁平コンジロームは、外陰部や肛門などの粘膜や皮膚が接触する部分に好発し、ダイズ大の扁平隆起性の腫瘤で表面から浸出液が出ることが多く、この浸出液に多量の梅毒トレポネーマが含まれていることからこれに接触することにより簡単に感染してしまいます。

口の中には両側の軟口蓋に沿って広がる乳白色の粘膜斑が出来ます。

この粘膜斑はちょうど蝶が羽を広げているのに似ていることからも"バタフライ・アピアランス(butterfly appearance)"と呼ばれます。

またこの時期には全身のリンパ節が腫れますが、特に上腕骨の滑車上リンパ節の腫れは梅毒の特徴的な腫れです。

その他の症状としては、微熱・倦怠感・咽頭炎・食欲不振・体重減少・筋肉痛・関節痛などがあります。

この時期の血液検査では、感染者の半数以上に肝機能障害が現れ、アルカリホスファターゼが高値になりますが、血清ビリルビン値は上昇しないという特徴的な検査所見を呈します。

また、一部の患者には胃に浸潤性または潰瘍性病変を引き起こすことから、しばしば悪性リンパ腫と間違われることがあります。

肛門性交を行う人は直腸にも病変が見られます。

結膜炎・角膜炎・虹彩毛様体炎・網膜炎・視神経炎を発症することがありますが、これを放置すれば失明する危険性があります。

【検査】

この時期にはSTS検査やTPHA及びFAT-absなどのTP検査も陽性となります。

2019年7月9日火曜日

NAT検査とリアルタイムPCRの違いとは

よくNAT検査とリアルタイムPCRの違いを質問されますから、今回はこの違いについて解説致します。

1.NAT検査とは

NAT(Nucleic acid Amplification Test )とは、日本赤十字社が輸血用血液製剤の安全性確保の一環として実施している各種病原体の検査のひとつで、HBV、HCV、HIV-1/-2を同時に検査できる核酸増幅検査のことです。

検査は血液中のウイルス遺伝子を構成する核酸(DNAまたはRNA)の一部を約1億倍に増幅して検出する極めて感度と特異性の高い検査方法です。

検出感度は以下のとおりです。

・HBV 平均検出感度  3.2IU/mL
・HCV 平均検出感度 12.4IU/mL
・HIV-1 Group M 平均検出感度 41.8IU/mL
・HIV-1 Group O 平均検出感度 93.7 copies/mL
・HIV-2 平均検出感度 2.0 copies/mL

※血液センター専用の輸血用血液専用の検査ですから、HIV感染の判断検査と医療機関で受けることは出来ません※

2.リアルタイムPCR検査

以下の二種類があります。

1)コバス  taqMan HIV-1「オート」

【販売メーカ】

ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社

 健康保険の名称は『HIV-1核酸増幅定量精密検査』です。

【検査成績の記録】

検出範囲は、40~1.0×10の七乗コピー/mLです。

以下の三種類に分けて記載されます。

1.測定上限を超えた場合・・・検査結果は【>1.0×1.0×10の七乗コピー/mL  検出  陽性】

2.測定範囲内・・・検査結果は【○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出  陽性】

3.測定限界未満でウイルスが存在する時・・・検査結果は【<○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出 陽性】

4.測定限界未満でウイルスが存在しない時・・・検査結果は【<○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出せず  陰性】

2) アキュジーン m-HIV-1

【販売メーカ】

アボット社が販売しています。

健康保険の名称は『HIV-1核酸増幅定量精密検査』です。

【最小検出感度】

検体量0.6ml→40コピー/ml

検体量0.5ml→75コピー/ml

検体量0.2ml→150コピー/ml

両方の検査とも自動機器を使用して全自動で検査を行います。

感度、特異性、検出可能なHIV-1はTaqMan HIV-1「オート」とアキュジーン m-HIV-1は同じ。

日本での普及率は、日本国内では、TaqMan HIV-1「オート」が先行販売されたことから、後発販売となったアキュジーン m-HIV-1の普及率は低いのが現状です。

※TaqMan HIV-1「オート」とアキュジーン m-HIV-1は、共にHIV-2は検出できません※