血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2019年9月10日火曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点-3.HIV-PCR検査でHIV-2は見つけられない!!-

ここで言うHIV-PCR検査とは、リアルタイムPCR検査のことです。

NATは血液センター専用の検査で献血された血液の検査を行う検査法で、医療機関でHIV検査として受けることはできません。

※NATは、HBV・HCV・HIV-1・HIV-2を同時に検出ことが可能です※

【HIV-PCR検査はHIV-2を見つけることはできない!!】

2019年9月現在、日本国内で販売されているHIV-PCR検査は、3種類ありますがいずれもHIV-2を検出することはできません。

【HIV-2をHIV-PCR検査で検査できないのか】

HIV-PCR検査でHIV-2の検査を実施しているのは、限られた施設で研究目的で検査を行っていますので、一般の医療機関では受けることはできません。

【現在我が国で利用されているHIV-1のPCR検査】

1.TaqMan HIV-1「オート」

2.アキュジーン m-HIV-1

3.アプティマR HIV-1

これら3製品のHIV-1のPCR検査の感度・特異性はほとんど同じですが、いずれの製品もHIV-2を見つけることはできません。

TaqMan HIV-1「オート」が我が国で最初に発売されたことから、採用数はTaqMan HIV-1「オート」が一番多いです。

【各メーカはHIV-1のPCR検査でHIV-2を検査できる製品を開発販売する予定はないのか】

一時期TaqMan HIV-1「オート」でHIV-2の検査ができるキットの販売が一部で報じられましたが、現在は立ち消えとなっています。

【一部の医療機関でHIV-PCR検査でHIV-2の検査を引き受けているということが巷で噂されていますがその真偽は】

血液の鉄人が知る限りでは、一般の医療機関でHIV-PCR検査でHIV-2の検査を引き受けている施設はないと認識しています。

仮に引き受けている施設があれば、どのような検査法で、どのような施設に検査を依頼しているかを確かめる必要があります。

2019年9月1日日曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点-2.クラミジア抗体検査-

血液によるクラミジア・トラコマティス抗体検査を受けるときには注意が必要です!!

【クラミジア抗体の種類と体内にできる時期】

クラミジア・トラコマティスに感染した場合は、感染後ほぼ1週間後にクラミジアIgM抗体ができますが、治療・無治療にかかわらずこのIgM抗体は速やかに消失します(およそ2ケ月以内)。

クラミジアIgM抗体検査は新生児感染の判断の時に実施しますが、成人の場合はIgM抗体の値の上昇が不十分であることと、健康保険が適応されていないので検査として利用されていないのが現実です。

このことから医療機関においては成人ではクラミジア・トラコマティス抗体検査は、IgA抗体とIgG抗体検査しか実施されていません。

クラミジア・トラコマティスに感染すると、抗クラミジアIgG抗体がおよそ1ケ月後には陽性となり数年間は陽性の状態が続き平均4年後に陰性となります。

一方IgA抗体は、IgG抗体に遅れて5~6週間で陽性となり、数年間持続しおよぞ3年で陰性となります。

【クラミジア抗体とクラミジア抗原検査もしくは核酸増幅検査との結果の食い違い】

感染直後に検査した場合にはクラミジア抗原もしくは核酸増幅検査が陽性であっても,IgG抗体及びIgA抗体が陰性のこともあり、IgG抗体陽性、IgA抗体陰性と事がよく経験されます。

要するに抗原検査もしくは核酸増幅検査と抗体検査の結果が一致しない症例が多く存在するわけです。

抗体検査と抗原検査の一致率は30%と低い事に加えて、IgG抗体およびIgA抗体陽性例には現在の感染と過去の感染が含まれており、治療が必要な場合か、治療が不要な場合かの鑑別ができません。

かつては抗IgA抗体が陽性の場合は、クラミジアの“活動性感染”を示すと誤って表現されたため、新しい感染があるときだけに抗IgA抗体が陽性となりあたかも感染が存在する場合にだけ陽性になるかのように誤解されたことがありました。

要するにクラミジア・トラコマティス抗体は“感染があるとき”と,感染が終息した場合の“感染の既往”があることを示すにすぎない場合があることをよく理解することが必要です。

したがって血液によるクラミジア抗体を調べることによって正確な感染の判断はできないことと、治癒判定もできないことを認識しておく必要があります。

【クラミジア初感染による抗体の変動】

クラミジアの初感染では、感染後まずIgM抗体がおよそ3週以降に上昇し、続いてIgG抗体、IgA抗体がさらに2~3週遅れて上昇します。

一般的にはIgM抗体は通常約数ヵ月で消失しますがIgG抗体やIgA抗体はいったん上昇しピークをむかえた後数ヵ月から年余にわたって漸減していきます。

IgA抗体はIgG抗体に比べて早期に低下します。

【クラミジア再感染による抗体の変動】

再感染ではIgG抗体、IgA抗体が2~3週で比較的急激に上昇しますが通常IgM抗体は上昇しません、まれに上昇した場合でも低値であることかほとんどです。

もともと一般成人においても,IgG抗体は感染既往として約60%の人が保有していることから抗体保有を急性感染症と誤解しない必要があります、

またIgM、IgA、IgG抗体を持っていてもこれは感染抗体で、感染予防抗体(中和抗体)でないことから感染防御にはならず何度でも感染します。

【クラミジア抗体の種類と判定】

・IgA抗体とIgGの抗体両方の抗体が陰性の場合・・・感染は無し
※但し抗原検査や核酸増幅検査が陽性の場合は感染あり※

・IgA抗体陽性でIgG抗体が陰性の場合・・・最近の感染が疑われる

・IgA抗体が陰性でIgG抗体が陽性の場合・・・過去の感染で治療の必要なし。
※但し抗原検査が陽性の場合は感染あり※
※過去に十分な治療を受けていなければ感染を100%否定することはできない※

・IgA抗体とIgG抗体の両方の抗体が陽性の場合・・・感染していることから治療の必要あり

【クラミジア抗体検査は信頼性が低い】

1.治療によってクラミジアが完全に体内からいなくなった治癒後にも、IgG抗体だけでなくIgA抗体も陽性となることから、現在感染しているのか、治癒後なのかが正確に判断できません。

2.クラミジア抗体検査が陽性で、尿や粘膜からの検査を受け直した結果、現在クラミジアの感染はなく、過去に感染して治っていて治療の必要のない事例が多く見られます。
※偽の陽性反応が多く見られる※ 

3.血液でクラミジア抗体検査を受けても結局、通常の尿検査や粘膜検査を再度受け直す必要があることからして、クラミジアの血液検査を受けることはお勧めできません。

4.正確に感染判断をするには最初から抗原検査や核酸増幅検査検査を受けることをお勧めします。

2019年8月20日火曜日

各種性行為感染症の検査を受ける際の注意点 -1.咽頭淋菌検査-

数回に分けて性行為感染症の検査を受ける際の注意点について解説していきます。

これを読まれて各種検査の注意点を理解いただき、正しく検査を受けられることを願っております。

第一回目は、咽頭淋菌検査についてです。

最近オーラルセックスで咽頭に淋菌が感染する人が増加しています。

人の口腔内には、日常的に非病原性菌の常在菌であるナイセリア属が判明しているだけで11種も存在しています。

病原性のある淋菌も実はこのナイセリア属なのです。

【注意点】

淋菌咽頭感染検査には、淋菌の性器検査に利用されるPCR法は使用することは出来ません!!

【何故淋菌咽頭感染検査にはPCR法は使用不可なのか】

遺伝子増幅法であるPCR法は、病原性のないナイセリア属と交差反応を示すため、この病原性のないナイセリア属の細菌を淋菌と間違えて検出してしまい、淋菌に感染していなくても陽性となってしまうのです。

いわゆる"偽陽性反応(ニセの反応)"が起こるわけです、そのために淋菌の性器感染検査に使用される遺伝子増幅法であるPCR法は咽頭感染の検査には適していません。

よく咽頭に淋菌感染が認められて治療を幾らしても検査が陰性とならないということを聞きますが、これは検査に遺伝子増幅法であるPCR法をしたために淋菌でない非病原性のナイセリア属を検出していることからいくら抗生物質で治療してもPCR検査が陽性となっている結果です。

医師の中には咽頭淋菌の検査に遺伝子増幅法であるPCR法を使用できないことを知らない医師もいることは事実です。

【咽頭淋菌検査は何を受ければよいのか】

咽頭淋菌感染の検査は、ナイセリア属と交差反応をしめさないSDA法(StrandDisplacement Amplification)または、TMA法(Transcription Mediated Amplificatio)による検査を受ける必要があります。

本当に咽頭に淋菌が感染しているかどうかの検査は、SDA法やTMA法検査を受けないと分かりません、PCR検査を受けてはいけません。

※性器への淋菌感染症検査は、PCR検査は感度・精度ともに優れた検査法です※

いくら優秀な検査法でも使い方を間違えば誤った結果が得られて、治療に支障をきたしてしまいます。

咽頭淋菌検査SDA法

咽頭淋菌検査TMA法



2019年8月12日月曜日

HIV郵送検査を利用する際の信頼できる条件とは

自宅にいながら簡単に利用できるHIV郵送検査を利用する人はここ数年で著しく増加しています。

HIV郵送検査が多くの人に利用される理由としては、

1.保健所での検査は受ける日時が限定されて自分の都合に合わせて受けられない。
※行政特有の検査をしてやっているという風潮が未だに是正されていない※

2.プライバシーが保護されていない。

3.実施している検査法がどのようなものかが明確にされていない。

次にHIV郵送検査の問題点について考えてみましょう。

HIV郵送検査は便利な半面、検査の信頼度が会社によって大きく異なるという問題点が存在していることは事実です。

安心して受けられるHIV郵送検査とはどの様な条件なのかを以下に分析してみます。

1.検査結果が他の人に知られることがない(検査を受けた人のプライバシーが完全に保護されているかどうか)

2.第三者による検査精度チェックが定期的に行われている。
※検査の信頼性が高く保たれている必要があります※
※言い換えれば精度管理が適切に行われ、信頼できる検査であるという第三者の証明がなされている事が必要です※

3.HIVやその他の感染症の基本的な知識など必要な情報がわかりやすく提供されている。

4.検査方法や検査結果についての相談窓口が開設されていて、いつでも相談や問い合わせができ、的確なアドバイスが受けられる。

5.検査が陽性となった場合の対応が適切になされている。
※確認検査を受けられる医療機関に関する情報や連携システムが構築されている※
※陽性や僞陽性反応になった時の丁寧な迅速対応がなされている必要があります※

少なくとも以上の条件が満たされていないHIV郵送検査は、受けるべきではありません。

また、HIV郵送検査は自己責任で受けるという認識も忘れてはなりません。

2019年8月2日金曜日

性行為感染症アラカルト-9.第3期梅毒-

第3期(または晩期梅毒とも言います)は、適切な治療を行わなかった患者が感染時点から5~30年をかけて徐々に進行し臓器の破壊性病変を引き起こしたものを言います。

治療を受けていない人の約3分の1に発生し、症状は軽いものから極めて重篤なものまで様々です。

そして神経梅毒・心血管梅毒・ゴム腫梅毒に分類されます。

神経梅毒は、早期神経梅毒と後期神経梅毒に分類されます。

一昔前に比べて現代の医療の発展により第3期(または晩期)の症例は極めて稀となっています。

【感染力】

この時期は第三者に梅毒トレポネーマを感染させることはありません。

【梅毒検査】

当然TP検査は陽性となりますが、STS検査は陰性か弱陽性となります。


2019年7月24日水曜日

性行為感染症アラカルト-8.潜伏梅毒-

潜伏梅毒とは、各種梅毒血清反応が陽性で、梅毒特有の臨床的症状が認められないものを言います。

【潜伏梅毒の梅毒検査】

1.STS検査が陽性で、TP検査が陰性の場合は生物学的僞陽性反応が疑われるので、再度日にちを開けて採血し検査をする必要があります。

2.STS検査とTP検査の両方が陽性の場合潜伏梅毒と考えれます。

3.TP検査のみ陽性の場合は、陳旧梅毒の可能性がありますが、再度確認検査をする必要があります。

【潜伏梅毒の頻度とその種類】

梅毒トレポネーマ感染後1年以内の潜伏梅毒はおよそ25%の患者で見られ、第2期梅毒の再発を起こすことから、"早期潜伏梅毒"と言います。

それ以降の梅毒を"後期潜伏梅毒"と言います。

これは第1期及び第2期梅毒の時点で適切な治療を行わなかった場合、3分の2以上の患者が潜伏梅毒に移行します。

潜伏梅毒に移行した患者の25%前後が4年以内(多くは1年以内)に第2期梅毒の症状が再燃します。

そして潜伏梅毒になった患者のおよそ3分の1が晩期梅毒に移行してしまいます。

梅毒トレポネーマの感染力は時間経過と共に衰え、感染成立後4年以降は性行為による感染はないといわれています。

しかし後期潜伏梅毒の時期では、母胎から胎児に感染し先天梅毒を発症する可能性はあることからして注意が必要となります。

【潜伏梅毒は治療しないでよいのか】

潜伏梅毒の患者は梅毒治療を行わなくても、70%は晩期梅毒には移行しないことが知られていますが、自然治癒は疑問視されています。

残りの30%の患者は晩期梅毒に移行します。

※現代医療では多くの人が梅毒以外の感染症で抗生物質の投与を受ける機会が多く、梅毒トレポネーマに感染しているにもかかわらず気づかずに他の疾患で抗生物質の投与を受け、その結果として潜伏梅毒の段階で治癒している可能性があります※

※このことから先進国で晩期梅毒がまれであることが説明出来ます※

2019年7月16日火曜日

性行為感染症アラカルト-7.第2期梅毒-

第2期梅毒の症状としては、第1期梅毒の症状が出た後の4~10週後に発熱や皮疹が出現します。

皮疹は第2期梅毒患者の70%に認められ、梅毒患者全体の90%以上に認められる代表的なものです。

皮疹は3~10mm程度の斑丘疹状紅斑を呈し、色はピンク・褐色・赤色で全身に発生し、一般的には痒みも痛みもありません。

この発疹はしばしば手のひらや足の裏に現れ、発疹はすぐ消えることもあれば、何ケ月も続くこともあります。

治療をしなくても、発疹はやがて消えますが、数週間、または数カ月経ってから再発することがあります。

頭皮に発疹ができると、髪の毛が斑状に抜け落ちていわゆる虫食い状態になります。

その他粘膜疹や扁平コンジロームも出来てきます。

扁平コンジロームは、外陰部や肛門などの粘膜や皮膚が接触する部分に好発し、ダイズ大の扁平隆起性の腫瘤で表面から浸出液が出ることが多く、この浸出液に多量の梅毒トレポネーマが含まれていることからこれに接触することにより簡単に感染してしまいます。

口の中には両側の軟口蓋に沿って広がる乳白色の粘膜斑が出来ます。

この粘膜斑はちょうど蝶が羽を広げているのに似ていることからも"バタフライ・アピアランス(butterfly appearance)"と呼ばれます。

またこの時期には全身のリンパ節が腫れますが、特に上腕骨の滑車上リンパ節の腫れは梅毒の特徴的な腫れです。

その他の症状としては、微熱・倦怠感・咽頭炎・食欲不振・体重減少・筋肉痛・関節痛などがあります。

この時期の血液検査では、感染者の半数以上に肝機能障害が現れ、アルカリホスファターゼが高値になりますが、血清ビリルビン値は上昇しないという特徴的な検査所見を呈します。

また、一部の患者には胃に浸潤性または潰瘍性病変を引き起こすことから、しばしば悪性リンパ腫と間違われることがあります。

肛門性交を行う人は直腸にも病変が見られます。

結膜炎・角膜炎・虹彩毛様体炎・網膜炎・視神経炎を発症することがありますが、これを放置すれば失明する危険性があります。

【検査】

この時期にはSTS検査やTPHA及びFAT-absなどのTP検査も陽性となります。