血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2017年8月15日火曜日

血液凝固機能検査ー1.プロトロンビン時間ー

プロトロンビン時間(PT:Prothrombin Time)とは、血液中の止血作用を担う凝固因子の働きを調べる検査です。

プロトロンビン時間は、凝固外因系共通の検査で凝固第Ⅰ・Ⅱ・Ⅴ・Ⅶ・Ⅹ因子の総合的活性を反映しています。

【検査の目的】

血液凝因子は12あります。

血管内で働くものを内因系と呼び、血管外で働くものを外因系と呼びますが、プロトロンビン時間は外因系の凝固因子の異常を見つけるために行なわれる検査です。

外因系の凝固因子はタンパクで肝臓で合成されることから、肝硬変や肝臓がんなどにより、肝臓のたん白合成能力が低下すると、プロトロンビン時間は長くなることから、肝機能検査のひとつとしても検査されます。

心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症が起こった場合や、心臓の手術の時には抗凝固剤を用いますが、過剰に投与すると血液が固まらなくなる危険があることから、抗凝固剤の使用適量を調べるための指標としても検査されます。

【検査原理】

プロトロンビンは血液凝固因子の第II因子で、トロンボプラスチンという物質を加えると固まります、そのことから血漿にトロンボプラスチンを加え、固まるまでの時間を測定したものが、プロトロンビン時間(PT)です。

【検査方法】

自動分析器により測定します。

【基準値】

秒数:10~15秒

プロトロンビン活性値:80~120%

プロトロンビン比(検体凝固時間/対照凝固時間):0.9~1.1

プロトロンビン時間 国際標準比(PT-INR)1.0

※検査に使用する機器により基準値は施設ごとで異なる場合があります※

【異常値】

プロトロンビン時間の延長・・・まず第Ⅶ因子欠乏異常症などの先天的な病気、肝炎や肝硬変など肝細胞障害、心不全、悪性腫瘍、ビタミンK欠乏症、プロトロンビン欠乏症などの病気が疑われます。

プロトロンビン時間の短縮・・・凝固因子などの製剤を投与している、血栓症、妊娠、生理的変動

※プロトロンビン時間が短縮している場合は一般的には症状はありません※


【異常が認められた時には】

活性化部分トロンボプラスチン時間など、ほかの血液凝固に関する検査を実施します。

肝硬変などの肝臓病の場合には、ほかの肝機能検査を合わせて実施します。

【プロトロンビン時間の検査の注意点】

プロトロンビン時間の検査は、困難な点が多く、数値の変動が比較的多い検査ですから一回だけの検査結果だけで異常値が出ても、すぐには異常とは判断できませんので、再検査の必要があります。

心臓病などの血栓症予防として抗凝固剤を服用していると、凝固時間が延長しますから検査の前にその情報を得ておく必要があります。

2017年8月3日木曜日

性行為感染症についてー6.梅毒の流行が依然として収まらない!!ー

梅毒診療の専門家は、患者が増えるにつれて非典型例(梅毒特有の症状を呈さない症例)も増えてくるとし、「見逃しを防ぐために、どの診療科においても梅毒抗体検査のルーチン化が肝要」と指摘しています。

梅毒を見た医師が少ないことや、正しい検査の受け方や解釈を分からない医師が多いことから、かなりの梅毒患者が見逃されているとの指摘もあります。

国立感染症研究所のIDWR速報データ(2017年第28週)によると、7月10日? 7月16日までの1週間で梅毒の報告数が61人だった。2017年累計では2880人となり、半年ですでに、昨年1年間(4518人)の60%を超えています。

 都道府県別では、2017年第28週までの累計で、東京都が905人と最多となっている。大阪が378人、愛知県が169人、神奈川県が163人、福岡県が136人、埼玉県が110人と続いている。島根県が0人だった以外、全ての都道府県から報告されており、地域的な広がりも見せています。

以下に2007年から2017年までの患者数を示しますが、患者の増加は衰える気配は一向にありません。

2007   719人
2008   839人
2009   691人
2010   621人
2011   827人
2012   883人
2013  1220人
2014  1661人
2015  2660人
2016  4518人
2017  2880人※(2017年7月16日時点)

梅毒はコンドームを使用しても完全には感染予防が出来ず、オーラルセックスでも簡単に感染しますから、オーラルセックスを含めて不安な行為を一度でもしてしまった場合は、必ず梅毒検査を受けることです。

梅毒流行の影にHIV流行があることを忘れてはなりません。

2017年7月18日火曜日

性行為感染症についてー5.口腔咽頭梅毒-

【口腔咽頭梅毒の症状とは】

梅毒トレポネーマに感染後、およそ3週間後に接触部位の口唇・舌・扁桃に1~2cm大の表面が平滑で暗褐色の大豆大の結節が出来る。

これを初期硬結と言い、初期硬結は数日経過すると周辺が隆起し表面に潰瘍のある硬い硬結すなわち硬性下疳となり、ほぼ1週間後にこの潰瘍は消えてしまいます。

※初期硬結は殆どの場合痛みも痒みもありません※

【口腔咽頭梅毒は見逃されている】

口腔咽頭梅毒の口腔咽頭病変の場合、ほとんどの人は口腔外科や歯科などを受診しますが口腔外科や歯科に梅毒患者が来ることは殆どないことと、医師自身が口腔咽頭梅毒の診察経験がないことからして診察した医師が「梅毒」を疑う事はまずなく、見逃している事例が多くあると考えられています。

結局は梅毒検査を受けないと感染がわからないということになります。

性交渉の際にオーラルセックスを行う人は各年齢階層に存在し、調査の結果では7割以上で行われており、その際にコンドームを使用するのは2割程度という調査報告があります。

そのことからしてオーラルセックスにより口腔咽頭梅毒も増加の傾向にあります。


2017年7月4日火曜日

性行為感染症についてー4.先天性梅毒-

先天性梅毒の増加が懸念されています。

先天性梅毒とは、妊娠中、または出産時に梅毒トレポネーマに感染する事を言います。

梅毒トレポネーマに感染し妊娠中に治療を受け、完治した妊婦から生まれてくる新生児では、母親の持つTP抗体が胎盤を通過して胎児に移行します。

その為梅毒トレポネーマに感染していなくても先天性梅毒に匹敵するほとせの高いTP抗体が認められます。

妊婦に活動性の梅毒があって、梅毒トレポネーマが胎盤を通過して胎児に感染し、所謂先天性梅毒として生まれて来るのでなければ、新生児での受動免疫(母親からの抗体をもらう)による梅毒陽性反応であることからこの陽性反応は3ケ月、遅くても6ケ月以内に陰性化します。

ところが、新生児の梅毒検査の陽性反応が、受動免疫による陽性反応なのか、梅毒トレポネーマに感染していての陽性反応かの区別を即座に下すことは極めて困難です。

TP検査によって、治療の必要ない受動免疫による陽性反応か、治療の必要な先天性梅毒の区別は極めて大切なことです。

胎盤を通過して胎児に移行する抗体は、TP抗体のIgG抗体で、IgM抗体は移行しないことから、新生児のIgM抗体の検査をすることにより、先天生梅毒か受動免疫の区別をすることが出来ます。

IgM-FTA-abs検査を実施することにより、先天生梅毒か受動免疫の区別をすることが出来ます。

新生児のIgM-FTA-absが陽性の場合は、その新生児は梅毒トレポネーマの感染を受けて、新生児自身が産生したIgM抗体を持つことから先天性梅毒と診断できます。

先天性梅毒を防ぐためには、母子健康法で義務付けられた妊婦検査は必ず受けるようにしましょう。

妊婦検査で仮に梅毒と診断された場合もペニシリンを投与して治療を行い、妊娠中に適切な治療を受ければ、99%以上の割合で、先天性梅毒を予防することができます。

2017年6月21日水曜日

性行為感染症についてー3.梅毒性ぶどう膜炎-

梅毒性ぶどう膜炎は、梅毒トレポネーマに感染した結果、眼に引き起こされる病気で、
第1期では,眼瞼下疳・結膜下疳、第2期では視神経炎・虹彩毛様体炎を引き起こしその結果急激な視力低下が起こります。

第3期では瞳孔異常・視神経炎・網脈絡膜炎を引き起こし、視力低下が起こります。

第4期には視神経萎縮を合併します。

梅毒トレポネーマ感染による眼疾患はここ30数年来、2~3例しか発生していませんでしたが、ここ数年来増加しつつあるとの報告がなされています。

これはここ数年来の梅毒患者の増加に比例しているものと考えられます。

梅毒性ぶどう膜炎の症状としては後極部に限局した病変が見られ、硝子体混濁を伴いやすく、視神経乳頭炎など網膜血管炎を合併するなどの特徴があるとされていますが、角膜実質炎,硝子体炎,視神経炎や瞳孔異常などを引き起こすこともあります。

しかし現実はその症状は極めて多彩で、眼所見からだけの診断は困難で梅毒血清反応検査を行うことが必要となります。

要するに眼所見だけで梅毒を疑うことは極めて困難なのです。

眼梅毒の患者のおよそ40%は、神経梅毒を合併していることからして腰椎穿刺を施行する必要があるのと、HIVの検査も全例に対して行うべきとされています。

何故ならHIV感染者では発症が急速であることと、治療に対する反応が遅いなど、HIV感染者でない者と臨床像が異なると報告されています。

急激な視力低下、かすみ眼をきっかけに受診し、梅毒性ぶどう膜炎を指摘される場合が多く発生しています。

不安な行為の後、急激な視力低下、かすみ眼が起こるようになった場合は、眼科を受診することと梅毒検査を受けることをおすすめします。

治療法としてはステロイド点眼を行い、梅毒に対する全身的な治療(ペニシリン投与)をを行います。

現在の梅毒による眼疾患の増加の裏には、HIV感染者の増加が危惧されています。

2017年6月12日月曜日

性行為感染症についてー2.硬性下疳と軟性下疳の違いー梅毒トレポネーマに感染後に出る症状の落とし穴ー

梅毒トレポネーマに感染すると、3週間前後に梅毒トレポネーマが侵入した場所(性器や肛門、唇、咽頭など)に痛みのない小豆程度の大きさの赤いしこりが出来ます。

これを"硬性下疳"と言います。

硬性下疳は潰瘍で、この潰瘍は痛みがないのが特徴です。

触ると字の如く軟骨様の硬さがあり、硬性下疳の潰瘍の表面をこすって刺激し出てくる分泌液には多量の梅毒トレポネーマが存在し感染源となります。

硬性下疳に触れることにより梅毒トレポネーマに感染します。

硬性下疳を放置しておくと崩れてただれたようになりますが、何もしなくても直ぐに消失することから何もなかったと勘違いし感染を見逃すことになります。

その後梅毒トレポネーマはリンパ管を通って移動し、太ももの付け根などのリンパ節が腫れますが、この場合もやはり痛みは殆どありません。

鼠径部のリンパ節が、片側または両側ともに痛みもなく,また化膿することもなく腫れてきます。

痛みがないことからこれを"無痛性横痃(むつうせいおうげん)"と言います。

※無痛性横痃を"よこね"とも言います※

これが第1期です。

梅毒トレポネーマ感染による第1期の症状は、治療しなくても1月前後で消失することから感染のことは忘れてしまうことになります。

そして感染のことを忘れかけた3ケ月後頃には、梅毒トレポネーマは全身に広まり、全身の皮膚や粘膜にバラ色の発疹が出来ます。

これを"バラ疹"と言います。

このバラ疹は、手足の裏から全身に広がり、顔面にも現れる事もあります。

やはりこのバラ疹も治療しなくても1ヶ月程度で殆どの場合消失してしまいます。

これが第2期です。

第2期の症状も何もしなくても殆どの場合消失してしまいますが、梅毒トレポネーマは体内に存在し梅毒は進行し第3期、第4期へと進行していきます。

梅毒感染の落とし穴はここにあります!!

即ち第1期でも2期でも、何もしなくても症状は消えてしまうことにあります。

また、症状の出ない無症候性梅毒もあります。

最近流行している梅毒は、無症候性梅毒が多いと報告されています。

梅毒に感染しても第1期、第2期の症状は放置しても消失することから感染に気づくことがなく、知らず知らずに第三者に感染させてしまい流行が広がっています。

また、梅毒患者増加の裏にはHIV感染者の増加が隠れていることを忘れてはなりません。



従って梅毒トレポネーマ感染の判断は、症状から判断することは難しく、適切な時期(STS検査は不安な行為から4週以降・TP検査は不安な行為から6週以降)に梅毒検査を受けるしかありません。

2017年6月2日金曜日

性行為感染症についてー1.硬性下疳と軟性下疳の違いー

【軟性下疳とは】

軟性下疳菌(ヘモフィルス・デュクレイ)の感染により、性器部に出来物を形成する性行為感染症のひとつです。

現在日本においては感染者は非常に少なく、東南アジアやアフリカに多い性行為感染症です。

最近では両羽先の東南アジアや南アフリカで感染し、帰国後に感染が判明するというケースが稀に見られます。

海外旅行で羽目をはずし、感染しこれを日本国内に持ち込む可能性は十分あり、このことから国内流行が懸念されています。

出来物の中身は膿で、放置すれば痛みは強くなり、潰れやすいから、すぐに潰瘍になってしまいます。

男性の場合は、包皮、カリ、亀頭、睾丸に膿のある米粒大のコブができ、痛みを伴い、触るとすぐ潰れ潰瘍になりますが、男性の半数は潰瘍がひとつしかできません。

女性の場合、ほとんどが大陰唇に膿のある米粒大のコブができ、痛みも伴い、触るとすぐ潰れ潰瘍になりますが、女性の半数以上は潰瘍が4つ以上出来ることが多いです。

しかし、男女ともに潰瘍からの膿が付着して周囲に潰瘍が多発することもあります。

初発症状出現後2週間内外に鼠径部リンパ節が赤く腫れて化膿することがあり、有痛性横痃(おうげん) とよばれている股の付根のリンパ腺が腫れます。

男性、女性、ともに同じような症状が出ます。

※性器に強い痛みを伴う壊疽性潰瘍が生じることや、鼠径リンパ節の化膿性炎症が起きることが特徴的です※

軟性下疳は激しい痛みを伴うため感染者は性行為はまず出来ません。

潜伏期間が短いため、パートナーへ感染することはめったにありませんし、発症するのも早く、梅毒やクラミジアと違ってすぐに発見されます。

軟性下疳では潰瘍が出来、感染防御バリアが完全に破壊されることからHIV感染のリスクが極めて高くなります。

従って症状が治まった後には必ずHIVの検査を受ける必要があります。

【硬性下疳】

梅毒トレポネーマに感染して10~90日、平均で21日前後で感染した箇所に赤い丘疹(盛り上がった発疹)として現れるものを言います。

硬性下疳は痛みがないのが特徴です。

硬性下疳は急速に潰瘍(えぐれたような傷)となり、潰瘍から出る浸出液にはたくさんの梅毒トレポネーマが存在しています。

この浸出液に性器や傷のある皮膚が触れるといとも簡単に感染してしまいます。

硬性下疳は1~51週間前後出現していますが、そのうち消失してなくなってしまいます。

しかし、硬性下疳(chancre)が消失しても、決して治ったわけではなく、適切な治療が行われなければ、梅毒の第二期へと進行します。

まとめ

【軟性下疳と硬性下疳の違い】

※軟性下疳は激しい痛みがある※

※硬性下疳は痛みはない※

何度も申し上げていますが、2017年6月現在も梅毒の流行が収まっていません。

梅毒トレポネーマに感染すると、性器粘膜が爛れてHIVに感染するリスクが数十倍から数百倍高くなります。

梅毒トレポネーマに感染する可能性のある行為をすれば、必ず梅毒検査を受けることです。

梅毒の流行は、HIV感染者の増加に深く関係しています。