血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2018年1月8日月曜日

人獣共通感染症-2.細菌性人獣共通感染症としてのネコひっかき病-

細菌性人獣共通感染症としては、炭疽、ペスト、結核 、パスツレラ症、サルモネラ症、リステリア症、カンピロバクタ症 レプトスピラ病、ライム病、細菌性赤痢、エルシニア・エンテロコリティカ感染症、野兎病、鼠咬症、ブルセラ症などがあります。

今回はネコひっかき病について紹介します

グラム陰性菌のバルトネラ・ヘンセラ菌(Bartonella henselae)によって引き起こされる人獣共通感染症のひとつです。

バルトネラ・ヘンセラ菌は猫に対しては全く病原性はなく、長い間、この菌を保有するネコは保菌状態になっており、18ヶ月以上も感染が続くこともあります。

ネコからルコへの菌の伝播にはネコノミが関与しており、ネコの血を吸って感染したネコノミは、体内で菌を増殖させ糞便として排泄されそれがネコの歯あるいは爪に付着します。

そのネコに咬まれたり引っかかれたりすることによって人間の傷に感染します。

日本ではネコの9~15%が菌を保有しているとの報告があります。

犬からも抗体が検出され、犬やサルからの感染報告もあります。

感染したネコの血液を吸ったネコノミが人間を刺す事による感染例も報告されています。

人の猫ひっかき病は日本では全国調査がされていないために患者数は不明ですが、おそらく全国で年間2万人程度であろうと言われています。

【症状】

菌の侵入した箇所が数日から4週間程の度潜伏期間後に虫刺されの様に赤く腫れます。

痛みのあるリンパ節腫脹、37℃程度の発熱、倦怠感、関節痛などが代表的な症状で、まれに重症化する事があります。

肝膿瘍を合併することがあり、免疫不全の人や、免疫能力の落ちた高齢者では重症化して麻痺や脊髄障害を引き起こすこともあります。

【治療法】

特に治療を行わなくても、自然に治癒することも多ですが、治癒するまでに数週間から数ヶ月もかかることもあります。

エリスロマイシン、ドキシサイクリン、シプロフロキサシン等が有効とされていますが、多くの症例でその効果は認められていません。

予防ワクチンはありません。

【検査】

1.関節蛍光抗体法(Indirect Fluorescence Assay:IFA)

血清診断としては,バルトネラ・ヘンセラ菌体を抗原とする間接蛍光抗体法が用いられる。

陽性・・・IgM抗体が1:16希釈以上,IgG抗体が1:128希釈以上で特異的な蛍光が見られる

2.抗体検査

単一血清でIgG抗体価が1:256以上、ペア血清で4倍以上のIgG抗体価の上昇、IgM抗体が陽性、のいずれかを認めれば陽性診断とする。

3.PCR法検査

臨床材料中のバルトネラ・ヘンセラ菌の遺伝子を検出する方法が迅速診断上有用な検査法です。

【注意】

最近のペットブームによりイヌやネコがペットが家族の一員として、ヒトがペットと濃密な接触をするが多くなっています。

動物を飼う場合には猫ひっかき病等の動物とヒトの間で起こる人獣共通感染症に対する知識を持つことは家族の健康とペットの健康を守る上で大切なことです。

2018年1月2日火曜日

人獣共通感染症-1.分類-

人獣共通感染症(ズーノーシス:zoonosis)とは、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染または寄生する病原体により生じる感染症のことを言います。

人獣共通感染症は、以下のように分類されます。

1.単純型(ダイレクトズーノーシス:Direct zoonosis)

同種の脊椎動物間で感染し、感染動物から直接あるいは媒介動物を介して機械的に感染するタイプです。

1)動物からヒトへと伝播する(Zooanthroponoses)

2)ヒトから動物へと伝播する(Anthropozoonoses)

3)ヒトと動物の双方に伝播する(Amphixenoses)

などに細分されます。

具体例としては狂犬病、結核、ブルセラ症 、サルモネラ菌、炭疽、オウム病、腎症候性出血熱、細菌性赤痢、アメーバ赤痢、旋毛虫症、カンジダ症、ブドウ球菌症などが知られています。

2.循環型(サイクロズーノーシス:Cyclo-zoonosis)

病原体が感染するためには、複数の脊椎動物を必要とするタイプでこの型には寄生虫が多く含まれます。

実例をあげますと、アニサキス症、エキノコックス症、有鉤条虫症、無鉤条虫症などが知られています。

3.異型型(メタズーノーシス:Meta-zoonosis)

脊椎動物と無脊椎動物の間で感染が成立するタイプです。

実例をあげますと、アルボウイルス感染症、発疹熱、日本住血吸虫症、肝吸虫症、リーシュマニア症などが知られています。

4.腐生型(サプロズーノーシス:Sapro-zoonosis)

病原体が発育・増殖する場として、有機物・植物・土壌などの動物以外の環境を必要とするタイプです。

実例をあげますと、クリプトコッカス症、トキソカラ症、アスペルギルス症、ボツリヌス症、ウェルシュ菌食中毒などが知られています。

5.混合型

上記4型が組み合わされたタイプです。

実例をあげますと肝蛭症、ダニ麻痺症などが知られています。

2018年1月1日月曜日

2018年新年のご挨拶

恭賀新年

昨年中はご利用いただきありがとうございます。

本年も皆様方のお役に立てる情報を発信していきますので、よろしくご利用の程お願い申し上げます。

2017年12月18日月曜日

性行為感染症についてー8.梅毒診断と梅毒治療について(その2.梅毒完治の確定)ー

1)RPR検査が陰性または、抗体価が8倍以下となる

2)梅毒特有の症状の消失

注意点

※TP抗体が一度体の中に出来てしまうと、体内の梅毒トレポネーマを完全に駆除してもTP検査は一生涯陽性のままとなります※

※このことからしてTP検査を梅毒治療の目安の検査には利用出来ません※

3.梅毒治療の過ち

梅毒に対しての知識の乏しい医師は、以下の過ちを犯す事がままあります。

1.治療判定にTP検査を使用して陰性になるまで、延々と抗生物質を投与する。

※幾ら抗生物質を投与してもTP検査は陰性にはなりません※

2.RPR検査が陰性となるまで延々と抗生物質を投与する。

抗生物質の投与により体内のトレポネーマが駆除されても、RPR検査が陰性とならない場合もあります。

抗体価が8倍以下に固定されれば、梅毒は完治したと判定します。

※RPR法の測定値がゼロになるまで、完治ではないとするのは間違いです※

2017年12月6日水曜日

性行為感染症についてー8.梅毒診断と梅毒治療について(その1.梅毒診断)ー

梅毒と確定診断するには以下の要素を満たす必要があります。

1)STS検査のRPR法が陽性で、抗体価が16倍以上

2)TPHA等のTP検査が陽性

※梅毒特有の症状が見られその患部から梅毒トレポネーマが証明される場合はこの限りではありません※

○生物学的偽陽性反応(BFP)とは

梅毒トレポネーマに感染していなくてもSTS検査が陽性となる場合を言います。

STS 法では、カルジオリピン‐レシチンというリン脂質に対する抗体を検出しています。リン脂質は細胞質などの成分として生物界に広く分布しています。

そのため、梅毒以外の疾患でもリン脂質に対する抗体が産生され、反応が陽性となることがあります。
これを生物学的偽陽性(BFP)といいます。

BFP を呈する代表的な疾患としては、膠原病、慢性肝疾患、結核や HIV 感染症などをあ
げることができます。さらには、妊婦や高齢者などでも偽陽性となることがあります。

STS検査が陽性の場合には、必ずTP検査を実施して陽性であることを確認する必要があります。

※生物学的偽陽性反応の場合は、RPR法の抗体価が8倍を超えることはほとんどありません※

○非病原性トレポネーマによるTP検査の偽陽性反応

稀にTP検査でも梅毒トレポネーマに感染していなても、非病原性トレポネーマによる交差反応によってTP検査が陽性となることがあります。

○TP検査のみ陽性の場合の注意点

抗生物質の治療によって既に完治している場合でもTP検査は陰性とはならず、陽性のままとなります。

これを陳旧性梅毒と言います。

※陳旧性梅毒とは既に治癒しているが血清反応のみ陽性の場合を言います※

※陳旧性梅毒は感染力がないため治療対象とはなりません※

2017年11月22日水曜日

性行為感染症についてー7.2017年11月現在梅毒患者4800人を超える!!ー

国立感染症研究所発行の『感染症週報』第19巻 第44号 2017年11月17日発行によりますと、2017年に入って11月5日までで梅毒患者は計4813人となっています。

これは42年ぶりに4000人を超えた昨年2016年1年間の4518人をすでに上回っています。

これまで患者が多かった東京、大阪などの大都市以外の地方でも患者が増え続けています。

都道府県別では、

東京 1487人

大阪 672人

愛知 293人

神奈川 277人

兵庫県 170人

福岡県 197人

岡山県 143人

また、昨年15人だった熊本は57人と3倍超に急増しています。

さらに広島112人、香川59人、青森58人、山口21人と、いずれも昨年の2倍を超えています。

梅毒患者は、女性は20代に多く、男性では20~40代に多い傾向が見られます。

これは性産業に従事する若い女性やその客となる男性の間で感染が広がり、感染した男性が家庭内に持ち込み主婦の間にも流行が広がっています。

梅毒に関しては、医師が梅毒患者と診断した場合には、届出を7日以内に行わなければならないことから、保健所に届けられた患者数のみですから、現実は感染していても気づかず検査を受けていない人や診察で見逃された人などもっと多くの患者が存在しているはずです。

※『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』により医師は届け出る義務がある※

梅毒の流行は全国的になっていますので、感染する可能性のある行為をした場合には、必ず梅毒検査を受けることです。

梅毒検査の受け方(検査の種類・受ける時期・判定基準)等は当ブログに解説してありますから、良くお読み下さい。

2017年11月12日日曜日

血液凝固機能検査ー4.FDP ー

FDP(Fibrinogen Degradation Products)とは、線溶によってフィブリノーゲンやフィブリンが分解されてできる分解産物で、線溶系検査として実施されています。

【検査の目的】

1.播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)や血栓症を疑うときやその経過観察や治療観察として

※以後播種性血管内凝固症候群はDICと呼びます※

2.線溶や凝固の亢進状態を疑う時

【検査法】

ラテックス凝集法

【基準値】

5.0μg/dl 以下

※基準値は検査方法や測定方法、測定機器、用いる試薬、単位などにより異なります※

【高い値を示す時に考えられること】

・DIC、血栓症、心疾患(狭心症、心筋梗塞)、肝疾患(肝炎、肝硬変など)、悪性腫瘍、大動脈瘤、手術後 など

・肝疾患の場合、肝硬変などにより、肝機能が低下すると、肝臓でFDPを処理する能力が低下し、血液中にFDPが溜まってしまうことから高値を示します。

・DIC、血栓症の場合、血管内で血栓が多発し、体内では血栓を溶解するように働くため、結果的にフィブリンが分解された代謝産物であるFDPの増加が起こります。

・治療目的などでウロキナーゼを投与するとFDPが増加します、これは、ウロキナーゼはプラスミノーゲンをプラスミンに活性化する活性化因子のためで、ウロキナーゼの投与により、プラスミンが過剰に活性化されてフィブリノーゲンを分解するためです。

【検査する際の注意点】

FDPを検査するときは抗線溶剤を添加して採血します。

FDPはフィブリノゲンと類似していることから交差反応を示すため血漿では検査できませんので血清で検査します。