血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2018年5月24日木曜日

心臓疾患についてー6.心室細動ー

心室細動とは心室筋肉が組織だった興奮ができずに、有効な収縮ができなくなり、血液を送り出すことが出来なくなる状態を言います。

要するに心臓の部位のうち血液を全身に送り出す「心室」が細かく震える不整脈なのです。

心臓の筋肉が痙攣するように震え、収縮と拡張を正常に繰り返せなくなるため、やがて心臓の動きが止まってしまいます。

心室細動が起きると脳や心臓に血液が供給されなくなり、発症から6秒で意識を失い、3分で脳が重いダメージを受け、適切な処置が行わなければ死に至ります。

【心室細動の起こる原因】

心筋梗塞、心筋症など心臓の働きが悪くなっている人や、重症の心不全、大動脈弁狭窄症といった心臓の病気がある人に起きます。

血縁者に不整脈で突然死した人がいる場合は注意が必要です。

【心室細動の症状】

脈拍喪失、意識消失、全身痙攣、無呼吸ないしあえぎ呼吸が起こります。

整脈が長く続くと、動悸、息切れ、そして「吐き気」といった症状が現れます。

【心室細動の検査】

心電図、ホルター心電図、心エコー検査などがありますが、症状が出ないと検査に異常が見られません。

従って心室細動が起きていたということは、後から明らかになることが多いことから、日頃から心臓の異常があれば速やかに専門医を受診することです。

【心室細動の治療】

心室細動を正常な脈に戻すには、自動体外式除細動器(AED)を使い電気ショックを与え、心臓のけいれんを解除する「電気的除細動」を一刻も早く行う必要があります。

一度心室細動に至ったものが自然に正常の心拍に戻ることは極めて稀で、救命のためにはほとんどの場合電気ショックが必要となります。

およそ5分で死に至る心室細動は救急車の到着を待っていると死に至ります。

従って救命のためには周囲の人たちが直ちに「BLS(Basic Life Support)」といわれる一次救命措置を行う必要があります。

※一時救急処置とは、急に倒れたり、呼吸停止を起こした人に対してその場に居合わせた人が救急隊や医師の到着までに行う応急手当を言います※

大勢の助けを呼び、皆で手分けをしてAEDを探し、人工呼吸や心臓マッサージを始めます。

救急車の到着までに的確な一次救命措置を行えるかが救命率を上げることに繋がります。

要するに心臓の動きが再開し、脳への十分な血流が再開されるまでの時間が短いほど、確実に救命率が上がります。

【心室細動の心房細動違い】

心房が血液を送り出す働きを失っても、心臓の血液拍出は保たれますが、心室がこの働きを失うと心臓停止の状態となります。

心室細動は心臓停止と同じことであり即死に結びつきます。

 ところで、心房細動は不整脈の中でもよくみられるものであり、女性の場合ですと、閉経期以後になってみられる頻度が高くなります。

【心室細動が起こりやすい時間帯】

特に「朝の9時前後」は心室細動が起こりやすい時間帯といわれています。

その理由は朝は交感神経が働き、血圧が上昇して拍動が早くなるので、心臓に負担がかかりやすくなるためです。

中高年や心臓に病気のある人は、朝の運動はできるだけ控えたほうが無難です。

2018年5月14日月曜日

心臓疾患についてー5.狭心症ー

狭心症とは、心臓の筋肉である心筋への酸素供給が低下して供給される酸素が不足するために胸部に一時的な痛みや圧迫感が起きる病気を言います。

【狭心症の起こる原因】

冠動脈に動脈硬化が進むと血管の内側にコレステロールなどが沈着して壁が厚くなり、やがては血液の通りみちが狭くなります。

動脈硬化は加齢とともに誰にも起こりますが、それが病気にまで進む詳しいしくみは解明されていません。

現在知られている冠動脈に病気を起こしやすくする原因としては、代表的なものとして高血圧・高脂血症・糖尿病・肥満・喫煙・ストレスなどがあります。

いずれも食事や運動などの生活習慣が、その発症・進行に大きく関与しています。

【狭心症の症状】

は胸骨の後ろの圧迫感や痛みとして感じられますが、多くの人はこの感覚を痛みというよりも不快感や押しつぶされるような感覚と表現します。

【狭心症の検査】

狭心症の診断は、殆どの場合が患者当人の症状の訴えに基づいて下されます。

心電図検査では、発作と発作の間には、ときに狭心症の発作中でさえ、ほとんど異常が認められず、広範囲の冠動脈疾患がある患者ですら異常が認められない場合があります。

発作中は、心拍数がわずかに増えて血圧が上がるため、聴診器で心拍の変化を確認できることがあります。

ホルター心電計による24時間心電図モニタリングでは、症候性または無症候性の虚血や異型狭心症(典型的には安静時に発生します)を意味する異常を検出することが可能となります。

その他の検査としては、負荷試験、心エコー検査、冠動脈造影検査などがあります。

【狭心症の治療】

基本的にはまず、冠動脈疾患の進行を遅らせるか、回復に向かわせるために、危険因子に対処することから始めます。

即ち高血圧や高コレステロール血症などの危険因子は、速やかに治療します。

禁煙は不可欠となります。

治療薬としては、ベータ遮断薬、硝酸薬(ニトログリセリンおよび長時間作用型硝酸を含む)、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、抗血小板薬の5種類が用いられます。

要するに血管の緊張をできるだけ緩め、心臓の負担を減らし、血液を固まりにくくしておくというのが基本となるわけです。

カテーテルという細い管を直接冠動脈の入り口まで挿入し、この針金をガイドにしてバルーンを狭窄部まで持っていき、バルーンを膨らませて狭窄を押し広げ拡張させ、狭くなった冠動脈をバルーンで押し広げたあとに、コイル状の金属のステントを留置するカテーテル・インターベンションを行います。

また、薬物治療やカテーテル・インターベンションを実施できない場合には、冠動脈バイパス術を実施します。

これは閉塞した冠動脈には手をつけず、身体の他の部分の血管を使って狭窄部分の前と後ろをつなぐ別の通路(バイパス)を作成して、狭窄部を通らずに心筋に血液が流れる道をつくります。

バイパスに用いる血管は、足の大伏在静脈、胸の中で心臓の近くにある左右内胸動脈、胃のそばにある右胃大網動脈などを使用します。

【狭心症と心筋梗塞の違い】

狭心症は冠動脈の血管が狭くなり、心臓へ送る血液の量が少なくなってるものをいいます。

心筋は死なずに生きています。

心筋梗塞は冠動脈の血管が完全に閉塞して、心臓への血液供給が大幅に減少し心筋が壊死してしまうものをいいます。

そして詰まった血管の先には血が流れないため、心筋が壊死して心臓が動かなくなってしまいます。

2018年5月1日火曜日

心臓疾患についてー4.心筋梗塞ー

心筋梗塞は、冠動脈が完全にふさがり心筋に血液が流れなくなった状態を言います。

冠動脈が完全にふさがり心筋に血液が流れなくなると心筋が壊死し、重症の場合は死に至ることもあります。

【冠動脈とは?】

心臓があたかも冠をかぶったように、心臓の周りを走行している血管が冠動脈で心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給しており、左右に1本ずつ計2本あります。

左の冠動脈はさらに大きく2つに分かれて、左前下行枝と左回旋枝に分かれています。

特に左の冠動脈が、血液を送り出す心臓の部屋に酸素や栄養を与えているので、より重要度が高い血管なのです。

【心筋梗塞の起こる原因】

冠動脈の血流がほとんど流れなくなり、酸欠と栄養不足から心筋の一部が壊死するほど悪化した状態をいいます。

心筋梗塞は、動脈内にできたコレステロールが蓄積してできた動脈硬化病巣(プラーク)が破綻し、その破綻部に血栓ができることで起こります。

現代医学においてもこのプラークの破綻がどういう場合に、どういったタイミングで起こるかはしっかりとは解明されていません。

【心筋梗塞の症状】

胸の中央、または左胸部に鉛のかたまりをのせたような重苦しい強い痛みが起こり、そして焼けつくような激しい痛みで、肩や背中、首などにも痛みが放散します。

痛みは30分以上長く続くのが特徴です。

冷や汗や吐き気、呼吸困難を伴うこともあります。

【心筋梗塞の検査】

心臓専門のコンピュータ断層撮影(CT)を用いて、冠動脈の性状をある程度診ることができるようになりましたが、心筋梗塞が将来発症するかどうかを診断するは出来ません。

今まで体験したことがない胸痛や圧迫されるような胸苦しさが起きた時には、迷わず早めに検査を受ける事が大切です。

痛みを覚えない心筋梗塞もありますし、軽い症状でおさまる場合もありますので自分自身が自ら感じる症状の強さと病気の重症度は、必ずしも一致しません。

そのことからして何らかの異常症状があったり、その症状が繰り返して起こる場合にはその症状の強弱に関わらず早期の専門病院への相談・受診をすべきです。

我慢をせずに119番に電話をし救急車を呼んで病院に行くことをおすすめします。

病院へ行くまでの時間が長くかかればかかるほど、病態は悪くなりますので、早期発見、早期治療が病状の深刻化を避けるために最も大切です。

【心筋梗塞の治療】

心筋梗塞で死亡した半数以上が、発症から1時間以内に集中していますので、不幸にも病院に到着する前に亡くなる場合が多いのが現実です。

死亡原因のほとんどが、心室細動と呼ばれる不整脈のためです。

心室細動とは、心臓の血液を全身に送り出す心室がブルブルと細かく震えて(細動)、血液を送り出せなくなり心臓が停止します。

心室細動と呼ばれる不整脈の危険性があり、心筋梗塞が疑われる場合は、ただちに救急車を呼んで、一刻も早く受診をすることが重要なのです。

閉塞した冠動脈を再び開通させる「再灌流療法」を迅速かつ確実にすることが、心筋梗塞に対する治療が鍵となります。

要するに血液の供給を再開させることによって、閉塞したままでは壊死する心筋を助けられるのからです。

発症から6時間以内に「再灌流療法」を実施し、成功すれば最も有効となりますが、発症から12時間以内であれば有用性が高いとされています。

【おまけ】

心筋梗塞や狭心症をまとめて「虚血性心疾患」といいます。

虚血とは血液がない状態を意味します、つまり心臓に十分血液がいきわたっていない状態を言います。

心臓の筋肉である心筋に血液を送り酸素と栄養素を供給する冠動脈が、動脈硬化等で狭くなったり、血管がけいれんを起こしたりすることで、血液が十分に心筋にいきわたらなくなったとき、心臓は酸欠状態即ち虚血状態となり、胸痛等の症状として現れるのです。

2018年4月22日日曜日

心臓疾患についてー3.心房中隔欠損症ー

心房中隔とは心臓の右心室、左心房、左心室の四つの部屋の内の、右心房と左心房の間を隔てる筋肉の壁のことで、心房中隔欠損とはこの壁に穴(欠損)が開いている状態を言います。

胎児の時には全ての人は穴が空いています、この穴は卵円孔と呼ばれ、通常は生まれて数時間後には自然に血液の交通がなくなり、ただのくぼみ(卵円窩)になって無くなります。

しかし心房中隔欠損の患者は生まれた後もこの穴が穴として残っています。

【心房中隔欠損症の症状】

心房中隔欠損症の場合は、動脈血の一部が欠損孔を通って左心房から右心房に流れ、再び肺循環に入ってしまうことら、右心房や右心室の負担が増え、特に肺への血流が増加することで肺うっ血、肺高血圧を引き起こします。

肺血管の血圧が高くなり、呼吸困難などの心不全症状、不整脈などの症状に伴い合併症として心房細動、心不全、肺高血圧などが起こります。

肺高血圧が重症化すると手術ができなくなります。

【心房中隔欠損症の検査】

聴診、胸部X線写真、心電図といった健康診断で通常行われる検査で心疾患が疑われた場合、循環器専門医に心臓超音波検査を受ければ確定診断がつきます。

【心房中隔欠損症の治療】

心不全症状が起きてきた場合には、利尿剤やジゴキシンといった内科的治療で心臓への負担を軽減します。

不整脈を合併する場合には不整脈をおさえる抗不整脈薬を使用したり、また血栓症を予防するため血液をさらさらにする抗凝固療法を行います。

閉鎖術には大きく二通りあります。

1.カテーテル治療・・・ふとももの付け根の太い血管から、折り畳みの傘のような装置を挿入して閉じる。

2.手術・・・直接穴を縫い合わせて閉じる方法。

2018年4月11日水曜日

心臓疾患についてー2.心臓弁膜症ー

心臓弁膜症とは、心臓にある弁に何らかの障害が起き正しく機能せず、本来の役割を果たせなくなる病気を言います。

心臓弁膜症には、大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症等があります。

弁膜症には、弁がかたく開きにくくなる"狭窄症"と、弁が閉じにくくなり血液が逆流する"閉鎖不全症"とがありますか、狭窄と閉鎖不全症が同時に起こるケースもあります。

【心臓弁膜症の起こる原因】

先天性と後天性(リウマチ熱、動脈硬化、心筋梗塞、組織変性など)があり、原因を特定できないものも多くあります。

加齢により大動脈弁に動脈硬化と同じような変化が起きて硬くなり、うまく開かなくなる「大動脈弁狭窄症」や、弁の組織が弱くなって起きる「僧帽弁閉鎖不全」が増加しています。

【主な心臓弁膜症とその症状】

1.僧帽弁閉鎖不全症

左心室から全身に送り出される血液の一部が、左心房に逆流してしまう状態で、全身へ送り出す血液量が減り、左心房は拡張します。

急性発症の場合は、急激な肺高血圧、肺うっ血による呼吸困難が現れます。

慢性的な場合は無症状な場合が多いですが、左心室の機能の低下とともに息切れや呼吸困難が現れます。

僧帽弁狭窄症と同様に、「心房細動」という不整脈を高頻度で合併します。

2.僧帽弁狭窄症

僧帽弁口の狭窄によって左心房から左心室へ血液が流れが悪くなり、左心房やその上流にある肺に負担がかかり、心不全症状が引き起こされます。

僧帽弁の狭窄が進行すると肺うっ血が起こり、肺水腫も現れるようになります。

こうした症状は、「心房細動」という不整脈が起こるとより悪化します。

3.大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁の性質が硬化し、血液の通過できる面積が狭くなる病気です。

その為に左心室から大動脈へ送られる血流が妨げられ、左心室への負担が大きくなります。

最初は症状は伴わず進行していきますが、左心室の機能が低下するにつれ、息苦しくなったり、狭心痛や心不全症状が現れます。

4.大動脈弁狭窄症

左心室から大動脈へ送られる血流が妨げられ、左心室への負担が大きくなり、その結果
無症状の期間が長く続きますが、狭窄の程度が進み心臓の余力がなくなって初めて様々な症状が出るようになります

狭心痛、失神、体を動かした時の息切れや夜間発作性呼吸困難が現れたときには重症化していることがほとんどです。

平均余命は、狭心痛の出現から5年、失神からは3年、心不全発症後からは2年といわれています

。突然死の危険性もある怖い病気です。

5.三尖弁閉鎖不全症

三尖弁とは、右心房と右心室の間にある房室弁です。

上大静脈、下大静脈から右心房へと還流してきた静脈血がこの三尖弁を通過して拡張期に右心室に流入しますが、右心室から肺動脈へ血液を送り出す際、右心房へ血液が逆流してしまう状態です。

上大静脈、下大静脈に血液のうっ滞が生じ、顔面や下肢のむくみ、肝臓の腫大、おなかの張りなどの症状が出ます。

原因としては、他の弁の異常にともなって三尖弁の接合が悪くなるケースが多く見られます。

【心臓弁膜症の検査】

心臓弁膜症がどの程度すすんでいるかは、X線撮影や心電図、超音波検査などを行って判断します。

【心臓弁膜症の治療】

内科的治療と外科的治療があります。

内科的治療としては、心臓の収縮力を高める、肺うっ血を軽減する、血管を広げて心臓の負担を軽減するなどの薬物治療があります。

外科的治療としては、障害を起こしている弁を切除し、新たに人工弁を取り付ける「弁置換術」と、弁の悪いところをだけを修復する「弁形成術」と二通りの手法があります。

2018年3月30日金曜日

心臓疾患についてー1.種類と症状ー

心臓疾患は、日本人の死因の第2位となっています。

初回は体表的な疾患を紹介します。

1.心臓弁膜症

心臓にある弁に何らかの障害が起き正しく機能せず、本来の役割を果たせなくなる病気です。

弁の開きが悪くなり血液の流れが妨げられる「狭窄」と、弁の閉じ方が不完全なために血液が逆流してしまう「閉鎖不全」があります。

2.心房中隔欠損症

右心房と左心房を隔てる壁を心房中隔と言い、この心房中隔に穴が空いた病気。

3.心筋梗塞

虚血性心疾患のうちのひとつで、心臓の筋肉細胞に酸素や栄養を供給している冠動脈血管に閉塞や狭窄などが起きて血液の流量が下がり、心筋が虚血状態になり壊死する病気。

4.狭心症

心臓の筋肉である心筋に酸素を供給している冠動脈に動脈硬化が起こり一過性の心筋の虚血のための胸痛・胸部圧迫感などの主症状を呈する虚血性心疾患のひとつ。

5.胸部大動脈瘤

大動脈が胸部(胸郭)を通過する部分の壁に膨らみが生じた状態のことです。

真性大動脈瘤の多くは破裂しない限り無症状で、大きくなっていくと周囲の組織を圧迫して、胸部大動脈瘤なら咳、血痰、胸痛、背中の痛みが、腹部大動脈瘤なら腰痛や腹痛などがみられます。

6.心房細動

心房が細かく動き心房が痙攣したようになり、血液をうまく心臓から全身に送れなくなる病気です。

7.心室細動

心室が1分間に300回以上不規則に震えるように痙攣する状態のことで、これが起こると脳に血液を送れなくなるため意識を失い、死に至る緊急事態となります。

できるだけ早く電気的除細動により心臓の周期的な拍動を取り戻すことが必要とされます。

心筋梗塞や、心筋症の人で出やすくなります。

2018年3月19日月曜日

糖尿病について-3.J-DOIT3試験-

【J-DOIT3試験とは】

J-DOIT3試験とはジェイ・ドゥイットスリーと呼ばれ、Japan Diabetes Optimal Integrated Treatment study for 3 major risk factors of cardiovascular diseases の略称です。

J-DOIT3試験は,血糖(HbA1c),血圧,脂質の統合的強化療法を標準療法と比較した大規模医師主導試験で、デンマークで実施されたSteno-2試験の日本版試験といえるものです。

日本で行われた大規模臨床試験「J-DOIT3」の最新の成果が、9月にポルトガルのリスボンで開催された第53回欧州糖尿病学会(EASD 2017)で発表されています。

J-DOIT3試験は,対象患者数が2542人と多く長期の追跡(中央値8.5年)も行われていることから近年のライフスタイルや医療環境の改善によるイベント発生率の低下が大きく貢献しているものと考えられています。

【J-DOIT3試験の方法】

糖尿病患者を以下の二つのグループに分けて検討を行っています。

1.従来治療群

糖尿病ガイドラインに沿った治療を実施

2.強化治療群

・HbA1c 6.2%未満

・血圧 120/75mmHg未満

・LDLコレステロール 80mg/dl

【試験結果】

従来治療群及び強化治療群共に合併症発生率は低く押さえられていますが、強化治療群は従来治療群よりも合併症の発症率を19%も減らすことが出来ています。

【合併症の低下率】

・脳卒中 58%

・糖尿病腎症 32%

・糖尿病網膜症 14%

と合併症を大きく減らす効果が明らかになっています。

【J-DOIT3試験の結果からして今後の治療法は】

血糖値だけでなく血圧やコレステロール値を下げる治療法が今後積極的に行われるようになってきています。

2018年3月6日火曜日

糖尿病について-2.合併症-

糖尿病で恐いのは全身くまなく現れる合併症です。

高血糖が続くと、体のいたるところで血管が詰まったり破れたりすることで、さまざまな合併症が起こります。

三大合併症として知られる"糖尿病網膜症"・"糖尿病腎症"・"糖尿病神経障害"は、いずれも細小血管障害で、糖尿病発病から5年で神経障害、7~8年で網膜症、10~13年で腎症が出現するとの統計結果があります。

しかし、実際は合併症の発症の順序や発症までの期間はあくまでも統計結果であり、人それぞれ合併症の現れる期間は異なることから必ずしもこのようになるとは限りません。

1.糖尿病腎症

血糖値が高い状態が20年ほど続くと、腎臓が機能しなくなり人工透析の適応となります。
透析は週に3回、各4時間行う必要があり、腎臓を移植しない限り、透析は一生続ける必要があります。

透析を受けているのは現在約32万人で毎年5,000人のペースで増加中という統計結果があります。

2.糖尿病神経障害

神経細胞に血液が届かなくなり、全身の神経に障害が起こり、発汗異常や立ちくらみ、便通異常、男性の場合は勃起障害も起こります。

ほんの軽い傷や水虫により足が腐り切断しなればならなくなります。

毎年およそ2万人が足を切断しています。

3.糖尿病性網膜症

初期のうちは自覚症状がないことから気づくことは稀です。

ある程度病状が進行すると、目のかすみ、視力障害、眼底出血による突然の視力低下などが起こり、放置すれば失明することもあります。

要するに血行障害から眼底の血管がつまり、視力の低下から、悪化すると失明状態になる訳です。

中途失明の原因の第1位は糖尿病によるものです。

失明する例は最近では年間3000人(約5人に1人)で、現在わが国における成人の失明原因の第1位となっています。

初期の段階では血糖を正常にコントロールすることで改善されますので、検診で糖尿病と診断された場合、内科はもちろん定期的に眼科を定期的に受診する必要があります。

失明を防ぐために光凝固法、レーザー凝固法、冷凍凝固法などで網膜症の進展を遅らせることができます。

その他の合併症

1)心筋梗塞

糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて心筋梗塞になるリスクが3倍ほど高いという統計結果があります。

突然胸の中央あたりに激痛が走り、30分以上、場合によっては何時間も痛みが続き意識を失う事があります。

梗塞が起こる場所によっては10分ほどで死に至る事があります。

2)脳梗塞

糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて脳梗塞になるリスクが男性で2.2倍、女性では3.6倍も高いという統計結果があります。

※糖尿病の治療では、可能な限り初期の段階で血糖コントロールを開始することにより大血管障害や細小血管障害などの糖尿病合併症のリスクを回避する上で極めて重要となります※

2018年2月26日月曜日

糖尿病について-1.日本における糖尿病患者の現状-

糖尿病についてシリーズで解説していきます。

日本人はインスリンをつくる能力が低い民族であるといわれています。

そのため、軽い肥満や少しの運動不足でも、糖尿病になりやすい事が知られています。

糖尿病とは、"血糖値が高い状態が続く病気"で それ自体は大した病気ではありませんが、何と言っても恐いのは合併症です。

血糖値が高い状態が続くと、体のいたるところで血管が詰まったり破れたりすることが原因で、さまざまな合併症が起こります。

糖尿病は、血糖値が病的に高い状態をさす病名であり、"インスリン依存型"と"インスリン非依存型"の2つのタイプがあります。

1.インスリン依存型は、先天的にインスリンが不足するために高血糖になるタイプで「1型糖尿病」と呼ばれ、多くは児童期に発症します。

2.インスリン非依存型はインスリンは分泌されているにも関わらず、その働きが悪いために糖をエネルギーに変えることができず高血糖となる成人に多いタイプで、「2型糖尿病」と呼ばれます。

日本人の糖尿病患者のほとんどが「2型糖尿病」です。

【日本における糖尿病の現状】

厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」には以下のように解説されています。

糖尿病が強く疑われる人の割合は、12.1%であり、男女別にみると男性16.3%、女性9.3% である。

糖尿病の可能性を否定できない人の割合は12.1%であり、男女別にみると男性12.2%、女性12.1%である。

更に糖尿病が強く疑われる者は約1000万人と推計され、平成9年以降増加傾向にある。

また、糖尿病の可能性を否定できない人も約1000万人と推計され、平成9年以降増加していたが、平成19年以降減少して来ている。

【日本における糖尿病の治療現状】

糖尿病が強く疑われる人の内、現在治療を受けている人の割合は76.6%で、男女別にみると男性で78.7%、女性で74.1%で男女とも有意に増加している。

性・年齢階級別にみると、40歳代男性では治療を受けている割合が他の年代よりも低い傾向が見られます。

【日本における糖尿病患者数】

厚生労働省の「患者調査」によると、糖尿病の患者数は316万6000人となり、前回(2011年)調査の270万から46万6,000人増えて過去最高となっています。

2018年2月20日火曜日

人獣共通感染症-7.細菌性人獣共通感染症としてのエルシニア・エンテロコリチカー

エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)は、豚、犬、猫などの腸管や自然環境中にいる細菌です。

シカ、イノシシ、ネズミなどの野生動物、犬や猫などのペットの糞便、河川水などから見つかっています。

エルシニア・エンテロコリチカは、1939年に胃腸炎の原因菌として発見され、その後発生頻度が低いことから忘れられていましたが、1970 年代になって豚肉の汚染と関連して注目を浴び、米国では年間 3000~20000人の患者発生があると推定されています。

ヒトに対して病原性を示す血清型の分布調査で、健康なブタ、イヌ、ネコ、 ネズミなどが保菌しており、これから飲食物への汚染が感染経路と考えられています。

食中毒の起炎菌として有名ですが、ペットや動物からも感染する人獣感染症としても注目されています。

【菌の性状】

0~4度の冷蔵庫内の温度でも増殖可能です。

このように寒冷に強いため、エルシニアは"好冷菌"と呼ばれることもあります。

【症状】

臨床症状は腹痛や下痢などの胃腸炎症状が主なもので、発熱、頭痛など、風邪のような症状を伴うこともあります。

右下腹部痛(特徴的)・吐き気・嘔吐などの症状から虫垂炎と診断されてしまう場合もあります。

【検査】

エルシニア感染症の確定診断には、糞便からエルシニア菌の検出が必要となります。

下痢便には多くのエルシニア菌が存在するので、選択培地で直接分離することが可能で、分離培地にはSS寒天、マッコンキー寒天、CIN 寒天などを用います。

患者の初期血清と回復期血清でエルシニア菌に対する血液中の抗体価を測定します。

エルシニア菌の分離ができず、抗体価の上昇が認められた場合でも、本感染症が強く疑われます。

【治療】

自然治癒傾向が高いので、食事制限をし、水分を多めに取る以外は特別な治療は必要ありません。

たまに重症化する事がありますが、この場合は抗菌剤を使用します。

トリメトプリンサルファメトキサゾール(ST合剤)、セフォタキシム、フルオトキノロンなどが効果があるとされています。

【予防】

1.この菌は低温でも増殖しますから、冷蔵庫を過信しない。

冷凍された食品中でも、長期にわたって生存可能ですので注意が必要です。

2.生の肉や、加熱不十分な肉は、食べない。

3.生水を飲まない。

4.料理前、食事前は、手をよく洗う

5.ペットや動物と接触した後、生の肉を扱った後、トイレの後は良く手を洗う。

6.肉用のまな板と他の食材用のまな板とは区別する。

7.ペットの糞は衛生的に処理する。

【献血とエルシニア】

エルシニアに感染した場合血液中にエルシニアが入り込んでいますから献血はできません。
エルシニアの含まれた血液は4~6度で保存しても菌は死ぬことはなく増殖しています。

その為1ケ月以内に発熱を伴う食中毒と見られる激しい下痢をした人は献血はできません。

輸血を介したエルシニア・エンテロコリティカの感染についてわが国では報告例がありませんが、米国では死亡の危険率は輸血1単位当たりおよそ900万の1と推定されています。
米国においては1987~1988年に4例の輸血に関連したエルシニア・エンテロコリチカ菌血症の報告があり、1989年1月~1991年2月にさらに6例の報告があります。

6名の患者はいずれも輸血開始後50分以内に発熱,血圧低下をきたし,内1名は10分以内に激烈な下痢をおこし、6名中4名は12時間~37日の間に死亡しています。

現在、スクリーニングに適した信頼性のある検査法は存在していません。

米国において1987~1988年に4例の輸血に関連したエルシニア・エンテロコリチカ菌血症の報告されていますが,1989年1月~1991年2月にさらに6例の報告があり6名の患者はいずれも輸血開始後50分以内に発熱,血圧低下を起こし,内1名は10分以内に激烈な下痢が起こり、6名中4名は12時間~37日の間に死亡しています。

2018年2月12日月曜日

人獣共通感染症-6.細菌性人獣共通感染症としてのサルモネラ症

サルモネラ感染症の原因菌はサルモネラ(サルモネラ・エンテリティディスなど)によって引き起こされます。

サルモネラはおよそ2,000種類以上の血清型に細分されており、チフス性疾患をおこすチフス菌およびパラチフス菌も含まれるが、ここではヒトに胃腸炎、つまり食中毒の原因となるサルモネラについて解説いたします。

サルモネラ菌は自然界のあらゆるところに生息し、家畜、ペット、鳥類、爬虫類、両生類が保菌し食中毒ならびに人畜共通感染症の重要な原因細菌のひとつです。

国内では、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)での感染報告が多く、国内で飼育されているカメ類のサルモネラ保菌率は18%、その他トカゲ類で75%、ヘビ類で90%であるとの報告があります

サルモネラ感染症は、近年ではペットの犬や猫をはじめ爬虫類や両生類から人へ感染した事例が多数報告されています。


【症状】

潜伏期間は、5~72時間(平均12時間)です。

小児から高齢者まで幅広い年齢層で発症しますが、小児や高齢者はわずかな菌量でも感染してしまいます。

人への感染は、主として成人では急性胃腸炎を引き起こします。

小児や高齢者が感染した場合には、症状がより重篤化し、菌血症を併発しやすくなります。

サルモネラ菌に感染した犬・猫をはじめ小動物では、一般的に急性胃腸炎として嘔吐、下痢、食欲不振、元気消失が認められ、特徴的な所見はほとんどないので見過ごされることが多いので注意が必要です。


【検査】

新鮮な糞便を分離・同定、抗生物質の感受性試験などを実施します。

サルモネラの特異的な迅速診断法は2018年現在存在しません。

【治療】

アンピシリン(ABPC )、ホスホマイシン(FOM )、およびニューキノロン薬に限られます。

【予防】

サルモネラの予防は原因食品、特に食肉および鶏卵の低温保存管理、またそれらの調理時および調理後の汚染防止が基本となりますが、ペット等からの感染も無視できません。

サルモネラ菌は、動物の消化管に保菌されており糞便から人の口に入り感染する場合も多いので、動物に触れた後は必ず早めに手をよく洗う必要があります。

ペットとの不用かつ安易な濃厚な接触(餌の口移しなど)をしない。

サルモネラ菌は、色々な消毒剤が有効です。

消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、逆性石けん液(ベンザルコニウム塩化物液)など、市販されているほとんどの消毒剤が有効です。

2018年2月4日日曜日

人獣共通感染症-5.細菌性人獣共通感染症としてのコリネバクテリウム・ウルセランス感染症

犬や猫などから人間にうつるとされる人獣共通感染症「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」による死者が2018年1月14日国内で初めて確認されました。

国立感染症研究所調べによりますと、国内では2001年から2017年11月末までに25例の発生が確認されています。

【感染経路】

コリネバクテリウム・ウルセランス感染症は、家畜やペットの動物が持つ「コリネバクテリウム・ウルセランス菌」に感染することで起きる人獣共通感染症です。

コリネバクテリウム・ウルセランスはジフテリア菌に類縁なグラム陽性の短桿菌で、おもに家畜などの動物に常在しており、ウシの乳房炎の原因となることがあります。

人から人に感染することはほとんどありません。

【症状】

症状としては、基本的にジフテリアと類似した臨床症状を示します。

喉の痛みや咳など風邪の症状が出て、重症化すると呼吸困難などで死亡することもあります。

【検査】

患者の体液を培養し、病原菌を単離、同定するか、PCRを用いて検査する。

【治療法】

マクロライド系抗菌薬が有効とされています。

【予防法】

人での国内感染事例の多くは犬や猫からの感染であることが確認されていることから、この菌に感染した動物と接する場合には注意が必要となります。

感染した動物は、くしゃみや鼻汁などの風邪に似た症状や皮膚病を示すことがあり、動物間で感染が拡大することも報告されていますので注意が必要となります。

無症状の保菌動物の存在も報告されています。

日常生活において過度に神経質になるのではなく、一般的な衛生管理として動物と触れあった後は手洗いを確実に行うことなどにより、感染のリスクを低減することが可能となります。

【感染対策】

国内では、人に対する定期の予防接種の対象である3種混合(最近では4種混合)ワクチンにジフテリアトキソイド(ワクチン)が含まれていますので、このワクチンはコリネバクテリウム・ウルセランス感染症に対しても有効であると考えられています。

2018年1月26日金曜日

人獣共通感染症-4.細菌性人獣共通感染症としてのカプノサイトファーガ・カニモルサス感染症-

舌を噛みそうな人獣共通感染症ですが、ご一読下さい。

カプノサイトファーガ・カニモルサス(Capnocytophaga canimorsus)は通性嫌気性グラム陰性の桿菌で、人獣共通感染症の病原体で、イヌやネコ口腔内に常在しています。

【感染経路】

イヌやネコに咬まれたり、ひっ掻かれたりすることで感染・発症します。

免疫機能の低下した方において重症化する傾向があります。

動物による咬傷事故等の発生数に対し、実際報告されている患者数は非常に少ないことから、本病は極めて稀にしか発症しないと考えられています。

※犬の咬傷事故については、保健所に報告されたものだけでも年間6000件以上もあり、報告に至らないものを含めるとさらに多く発生していると考えられます※

菌の感染力は弱く、今のところ人から人への感染の報告もないようです。

【症状】

発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などです。

重症化すると、敗血症や髄膜炎を起こし、播種性血管内凝固症候群(DIC)や敗血性ショック、多臓器不全に進行して死に至ることがあります。

重症化した場合、敗血症になった患者の約30%が、髄膜炎になった患者の約5%するとの医学統計があります。

【検査】

患者の体液を培養し、病原菌を単離、同定するか、PCRを用いて検査する。
 
【国内での患者の発生状況】

日本においては、これまで重症化した患者の文献報告例が14例あります。

患者の年齢は、40歳代~90歳代と中高年齢が多く、糖尿病、肝硬変、全身性自己免疫疾患、悪性腫瘍などの基礎疾患が見られます。

感染原因は、イヌの咬傷6例、ネコの咬傷・掻傷6例、不明2例となっています。

その内6人(内訳は50代1人、60代3人、70代1人、90代1人)が死亡しています。

なお、近年この感染症報告が多いのは、臨床現場で本病が認知されてきたためと言われています。

【海外での患者の発生状況】

1976年に最初に報告されています。

その後、現在までに世界中で約250人の患者が報告されています。

【治療法】

早期に抗菌薬等による治療を開始することが重要で、ペニシリン系、テトラサイクリン系抗菌薬が一般的に推奨されています。

カプノサイトファーガ-カニモルサスにはβラクタマーゼを産生する菌株もあるので、ペニシリン系の抗菌剤を用いる際にはβラクタマーゼ阻害剤との合剤などその影響を受けにくい抗菌剤を選択する必要があります。

【予防法】

イヌやネコに触れたり、その排泄物を処理した後は、手洗いやうがいを確実にする。

イヌやネコへ口移しで餌を与えない、キッスなど濃厚な接触をしない。

咬まれたり、引っ掻かれるなどして、発熱や頭痛など体調の悪化が認められた時は、早く医師による診断と治療を受ける。

【注意】

脾臓摘出者、アルコール中毒、糖尿病などの慢性疾患、免疫異常疾患、悪性腫瘍にかかっている人や、高齢者など、免疫機能が低下している方は、重症化しやすいので注意が必要です。

2018年1月15日月曜日

人獣共通感染症-3.細菌性人獣共通感染症としてのパスツレラ症-

パスツレラ症は、パスツレラ属(Pasteurella)菌を原因菌とする日和見感染症です。

パスツレラは、フランスの化学者・細菌学者のルイ-パスツール(1822~1895年)に因んでの命名されています。

日本国内では、2002年にネコから感染した95歳の女性が死亡した症例が文献的に報告された国内初の症例で、私の知る限りでは以後これまでに5例の死亡例を含む14例が報告されています。

この14例の内訳は、イヌからの感染が7例、ネコからの感染が6例、不明1例となっています。

近年、日本ではパスツレラ症の患者発生が増えていますが、この要因としてはイヌやネコに咬まれて感染する感染症として患者数が多いことと考えられています。

【症状】

パスツレラ菌の感染後、30分~2日で皮膚症状、呼吸器症状が現れます。

イヌやネコ咬まれたり、引っ掻かれたりしたあと、傷ができたところが腫れ、化膿する症状が主で呼吸器系の疾患、骨髄炎、外耳炎等の局所感染、敗血症、髄膜炎等の全身重症感染症を引き起こし最悪死亡することもあります。

傷口から精液様の臭いのする浸出液が排液されるのが特徴です。

高齢者、糖尿病患者、免疫不全患者等の基礎疾患を持つ人が特に感染しやすく、重症化の例も多く視られます。

【パスツレラ菌の保菌動物】

イヌの約75%、ネコのほぼ100%(爪70%)がパスツレラ菌を口腔内常在菌として保有しています。

【動物の症状】

イヌやネコでは一般に無症状です。
    
【検査と診断】

パスツレラ症では特徴的な症状が無いため、受診時の注意点としてどの診療科を受診してもイヌやネコとの接触があることを申告する必要があります。

細菌鑑別培地にマッコンキ-寒天培地を第一選択肢とすべきですべきで、BTB寒天培地にはパスツレラ菌以外の細菌が発育することからしてBTB寒天培地は使用すべきではありません。

PCR法を用いた培養サンプルからの直接的なパスツレラ菌遺伝子の検出も可能です。

【治療法】

高齢者、基礎疾患のある患者、咬・掻傷等では抗生物質の早期投与が重要となります。

早期に適切な薬剤を選別し、初期治療を十分に行う必要があります。

多くの抗生剤が有効であり、ペニシリン系、テトラサイクリン系、クロラムフェニコール、セファロスポリン系に高い感受性を示し有効です。

グリコペプチド系のバンコマイシン、リンコマイシン系のクリンダマイシンには高い耐性が認められるため使用は適切ではありません。

【感染予防対策】

ペットとしてのイヌやネコとの濃密な接触が増える昨今、パスツレラ菌の感染も増加することが心配されていますが、この病気は口移し等の過剰な接触を行わないこと、動物からの受傷に気をつけることにより防止できます。

2018年1月8日月曜日

人獣共通感染症-2.細菌性人獣共通感染症としてのネコひっかき病-

細菌性人獣共通感染症としては、炭疽、ペスト、結核 、パスツレラ症、サルモネラ症、リステリア症、カンピロバクタ症 レプトスピラ病、ライム病、細菌性赤痢、エルシニア・エンテロコリティカ感染症、野兎病、鼠咬症、ブルセラ症などがあります。

今回はネコひっかき病について紹介します

グラム陰性菌のバルトネラ・ヘンセラ菌(Bartonella henselae)によって引き起こされる人獣共通感染症のひとつです。

バルトネラ・ヘンセラ菌は猫に対しては全く病原性はなく、長い間、この菌を保有するネコは保菌状態になっており、18ヶ月以上も感染が続くこともあります。

ネコからルコへの菌の伝播にはネコノミが関与しており、ネコの血を吸って感染したネコノミは、体内で菌を増殖させ糞便として排泄されそれがネコの歯あるいは爪に付着します。

そのネコに咬まれたり引っかかれたりすることによって人間の傷に感染します。

日本ではネコの9~15%が菌を保有しているとの報告があります。

犬からも抗体が検出され、犬やサルからの感染報告もあります。

感染したネコの血液を吸ったネコノミが人間を刺す事による感染例も報告されています。

人の猫ひっかき病は日本では全国調査がされていないために患者数は不明ですが、おそらく全国で年間2万人程度であろうと言われています。

【症状】

菌の侵入した箇所が数日から4週間程の度潜伏期間後に虫刺されの様に赤く腫れます。

痛みのあるリンパ節腫脹、37℃程度の発熱、倦怠感、関節痛などが代表的な症状で、まれに重症化する事があります。

肝膿瘍を合併することがあり、免疫不全の人や、免疫能力の落ちた高齢者では重症化して麻痺や脊髄障害を引き起こすこともあります。

【治療法】

特に治療を行わなくても、自然に治癒することも多ですが、治癒するまでに数週間から数ヶ月もかかることもあります。

エリスロマイシン、ドキシサイクリン、シプロフロキサシン等が有効とされていますが、多くの症例でその効果は認められていません。

予防ワクチンはありません。

【検査】

1.関節蛍光抗体法(Indirect Fluorescence Assay:IFA)

血清診断としては,バルトネラ・ヘンセラ菌体を抗原とする間接蛍光抗体法が用いられる。

陽性・・・IgM抗体が1:16希釈以上,IgG抗体が1:128希釈以上で特異的な蛍光が見られる

2.抗体検査

単一血清でIgG抗体価が1:256以上、ペア血清で4倍以上のIgG抗体価の上昇、IgM抗体が陽性、のいずれかを認めれば陽性診断とする。

3.PCR法検査

臨床材料中のバルトネラ・ヘンセラ菌の遺伝子を検出する方法が迅速診断上有用な検査法です。

【注意】

最近のペットブームによりイヌやネコがペットが家族の一員として、ヒトがペットと濃密な接触をするが多くなっています。

動物を飼う場合には猫ひっかき病等の動物とヒトの間で起こる人獣共通感染症に対する知識を持つことは家族の健康とペットの健康を守る上で大切なことです。

2018年1月2日火曜日

人獣共通感染症-1.分類-

人獣共通感染症(ズーノーシス:zoonosis)とは、ヒトとそれ以外の脊椎動物の両方に感染または寄生する病原体により生じる感染症のことを言います。

人獣共通感染症は、以下のように分類されます。

1.単純型(ダイレクトズーノーシス:Direct zoonosis)

同種の脊椎動物間で感染し、感染動物から直接あるいは媒介動物を介して機械的に感染するタイプです。

1)動物からヒトへと伝播する(Zooanthroponoses)

2)ヒトから動物へと伝播する(Anthropozoonoses)

3)ヒトと動物の双方に伝播する(Amphixenoses)

などに細分されます。

具体例としては狂犬病、結核、ブルセラ症 、サルモネラ菌、炭疽、オウム病、腎症候性出血熱、細菌性赤痢、アメーバ赤痢、旋毛虫症、カンジダ症、ブドウ球菌症などが知られています。

2.循環型(サイクロズーノーシス:Cyclo-zoonosis)

病原体が感染するためには、複数の脊椎動物を必要とするタイプでこの型には寄生虫が多く含まれます。

実例をあげますと、アニサキス症、エキノコックス症、有鉤条虫症、無鉤条虫症などが知られています。

3.異型型(メタズーノーシス:Meta-zoonosis)

脊椎動物と無脊椎動物の間で感染が成立するタイプです。

実例をあげますと、アルボウイルス感染症、発疹熱、日本住血吸虫症、肝吸虫症、リーシュマニア症などが知られています。

4.腐生型(サプロズーノーシス:Sapro-zoonosis)

病原体が発育・増殖する場として、有機物・植物・土壌などの動物以外の環境を必要とするタイプです。

実例をあげますと、クリプトコッカス症、トキソカラ症、アスペルギルス症、ボツリヌス症、ウェルシュ菌食中毒などが知られています。

5.混合型

上記4型が組み合わされたタイプです。

実例をあげますと肝蛭症、ダニ麻痺症などが知られています。

2018年1月1日月曜日

2018年新年のご挨拶

恭賀新年

昨年中はご利用いただきありがとうございます。

本年も皆様方のお役に立てる情報を発信していきますので、よろしくご利用の程お願い申し上げます。

2017年12月18日月曜日

性行為感染症についてー8.梅毒診断と梅毒治療について(その2.梅毒完治の確定)ー

1)RPR検査が陰性または、抗体価が8倍以下となる

2)梅毒特有の症状の消失

注意点

※TP抗体が一度体の中に出来てしまうと、体内の梅毒トレポネーマを完全に駆除してもTP検査は一生涯陽性のままとなります※

※このことからしてTP検査を梅毒治療の目安の検査には利用出来ません※

3.梅毒治療の過ち

梅毒に対しての知識の乏しい医師は、以下の過ちを犯す事がままあります。

1.治療判定にTP検査を使用して陰性になるまで、延々と抗生物質を投与する。

※幾ら抗生物質を投与してもTP検査は陰性にはなりません※

2.RPR検査が陰性となるまで延々と抗生物質を投与する。

抗生物質の投与により体内のトレポネーマが駆除されても、RPR検査が陰性とならない場合もあります。

抗体価が8倍以下に固定されれば、梅毒は完治したと判定します。

※RPR法の測定値がゼロになるまで、完治ではないとするのは間違いです※

2017年12月6日水曜日

性行為感染症についてー8.梅毒診断と梅毒治療について(その1.梅毒診断)ー

梅毒と確定診断するには以下の要素を満たす必要があります。

1)STS検査のRPR法が陽性で、抗体価が16倍以上

2)TPHA等のTP検査が陽性

※梅毒特有の症状が見られその患部から梅毒トレポネーマが証明される場合はこの限りではありません※

○生物学的偽陽性反応(BFP)とは

梅毒トレポネーマに感染していなくてもSTS検査が陽性となる場合を言います。

STS 法では、カルジオリピン‐レシチンというリン脂質に対する抗体を検出しています。リン脂質は細胞質などの成分として生物界に広く分布しています。

そのため、梅毒以外の疾患でもリン脂質に対する抗体が産生され、反応が陽性となることがあります。
これを生物学的偽陽性(BFP)といいます。

BFP を呈する代表的な疾患としては、膠原病、慢性肝疾患、結核や HIV 感染症などをあ
げることができます。さらには、妊婦や高齢者などでも偽陽性となることがあります。

STS検査が陽性の場合には、必ずTP検査を実施して陽性であることを確認する必要があります。

※生物学的偽陽性反応の場合は、RPR法の抗体価が8倍を超えることはほとんどありません※

○非病原性トレポネーマによるTP検査の偽陽性反応

稀にTP検査でも梅毒トレポネーマに感染していなても、非病原性トレポネーマによる交差反応によってTP検査が陽性となることがあります。

○TP検査のみ陽性の場合の注意点

抗生物質の治療によって既に完治している場合でもTP検査は陰性とはならず、陽性のままとなります。

これを陳旧性梅毒と言います。

※陳旧性梅毒とは既に治癒しているが血清反応のみ陽性の場合を言います※

※陳旧性梅毒は感染力がないため治療対象とはなりません※

2017年11月22日水曜日

性行為感染症についてー7.2017年11月現在梅毒患者4800人を超える!!ー

国立感染症研究所発行の『感染症週報』第19巻 第44号 2017年11月17日発行によりますと、2017年に入って11月5日までで梅毒患者は計4813人となっています。

これは42年ぶりに4000人を超えた昨年2016年1年間の4518人をすでに上回っています。

これまで患者が多かった東京、大阪などの大都市以外の地方でも患者が増え続けています。

都道府県別では、

東京 1487人

大阪 672人

愛知 293人

神奈川 277人

兵庫県 170人

福岡県 197人

岡山県 143人

また、昨年15人だった熊本は57人と3倍超に急増しています。

さらに広島112人、香川59人、青森58人、山口21人と、いずれも昨年の2倍を超えています。

梅毒患者は、女性は20代に多く、男性では20~40代に多い傾向が見られます。

これは性産業に従事する若い女性やその客となる男性の間で感染が広がり、感染した男性が家庭内に持ち込み主婦の間にも流行が広がっています。

梅毒に関しては、医師が梅毒患者と診断した場合には、届出を7日以内に行わなければならないことから、保健所に届けられた患者数のみですから、現実は感染していても気づかず検査を受けていない人や診察で見逃された人などもっと多くの患者が存在しているはずです。

※『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』により医師は届け出る義務がある※

梅毒の流行は全国的になっていますので、感染する可能性のある行為をした場合には、必ず梅毒検査を受けることです。

梅毒検査の受け方(検査の種類・受ける時期・判定基準)等は当ブログに解説してありますから、良くお読み下さい。

2017年11月12日日曜日

血液凝固機能検査ー4.FDP ー

FDP(Fibrinogen Degradation Products)とは、線溶によってフィブリノーゲンやフィブリンが分解されてできる分解産物で、線溶系検査として実施されています。

【検査の目的】

1.播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation:DIC)や血栓症を疑うときやその経過観察や治療観察として

※以後播種性血管内凝固症候群はDICと呼びます※

2.線溶や凝固の亢進状態を疑う時

【検査法】

ラテックス凝集法

【基準値】

5.0μg/dl 以下

※基準値は検査方法や測定方法、測定機器、用いる試薬、単位などにより異なります※

【高い値を示す時に考えられること】

・DIC、血栓症、心疾患(狭心症、心筋梗塞)、肝疾患(肝炎、肝硬変など)、悪性腫瘍、大動脈瘤、手術後 など

・肝疾患の場合、肝硬変などにより、肝機能が低下すると、肝臓でFDPを処理する能力が低下し、血液中にFDPが溜まってしまうことから高値を示します。

・DIC、血栓症の場合、血管内で血栓が多発し、体内では血栓を溶解するように働くため、結果的にフィブリンが分解された代謝産物であるFDPの増加が起こります。

・治療目的などでウロキナーゼを投与するとFDPが増加します、これは、ウロキナーゼはプラスミノーゲンをプラスミンに活性化する活性化因子のためで、ウロキナーゼの投与により、プラスミンが過剰に活性化されてフィブリノーゲンを分解するためです。

【検査する際の注意点】

FDPを検査するときは抗線溶剤を添加して採血します。

FDPはフィブリノゲンと類似していることから交差反応を示すため血漿では検査できませんので血清で検査します。

2017年10月17日火曜日

出血時間検査は必要か??!!

出血時間については当ブログ(『出血時間』)でも紹介していますが、今回は"出血時間検査は必要か??!!"について解説してみたいと思います。


出血時間は一次止血を反映する検査として知られており、出血性素因のスクリーニング検査として手術前検査などで実施される事が多のが実情です。

しかし以前から検査手技に関わる問題点が指摘されており、感度や再現性が低いとされているのも事実です。

また出血時間の結果と術中・術後の出血量との相関が乏しいとする見解もあり、術前検査の意義が疑問視されています。

この検査では、いつも一定した測定値が得られるとは限らないため、最近では血小板数や血漿を用いた凝固検査(プロトロンビン時間や活性化部分トロンボプラスチン時間)で、その能力を推定する方向にあります。

【出血時間検査を実施する理由】

出血時間の延長する病態は、以下の三つがあります。

1.血小板数の低下
2.血小板機能の低下
3.血管壁の脆弱性の存在

1の血小板数が低下している場合には、出血時間は延長しているに決まっているので、あえて出血時間をすることはまずありません。

2の血小板数が正常であるにもかかわらず、血小板機能が低下している病態は少なくありません。

この場合には、血小板機能の低下をスクリーニングする検査が出血時間ということになります。

3の血管壁脆弱性の存在は、たとえばオスラー病などですが、この病気は極めて稀で血液内科においても数年に1例遭遇するか否かですのであえて出血時間で見つける為に実施することはありません。

【出血時間検査は必要なのか】

従来術前検査に出血時間は不可欠の検査とされてきましたが、術前検査に出血時間が必要かどうかは、専門家の間でも意見が分かれています。

術前検査として出血時間は不要と考える専門家の意見は、出血時間と手術関連出血量は全く関連しないというものです。

このことを証明した論文が実際に存在します。

逆に術前検査として出血時間は必須と考える場合は、隠れvon Willebrand病が相当するあるという考え方からvon Willebrand病を見逃さないために実施するという考え方です。

しかしvon Willebrand病をスクリーニングするのは出血時間とAPTTですが、APTT検査が正常になってしまう軽症~中等症von Willebrand病があることからして出血時間とAPTTの両者でスクリーニングした方がより安心という考え方です。

【出血検査の現状】

術前ルーチン検査として漫然と出血時間検査を実するのではなく、出血のリスクがあるか否かは術前の診察・問診で見極めて必要性があると判断した場合に出血時間とその他の追加試験を実施する様になりつつあります。

現実管理人の知る医療機関の90%以上で出血時間検査を廃止しています。




2017年10月7日土曜日

血液凝固機能検査ー3.D-ダイマー ー

D-ダイマー (D-dimer) はフィブリンがプラスミンによって分解される際の生成物で、 血液検査において血栓症の判定に用いられます。

【検査の目的】

主に深部静脈血栓症(deep veinthrombosis:DVT)と肺血栓塞栓症
(pulmonarythromboembolism:PE)というふたつの関連しあう血栓症が疑われる患者の評価において臨床的有用性があります。

※深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症はほとんどセットの病気ですので、深部静脈血栓症を発症したら、ほとんどの場合、肺血栓塞栓症を合併症で引き起こしますからこのふたつは併せて"静脈血栓塞栓症(Venous thrombosis:VTE)"と呼ばれています※

【検査法】

3.2%のクエン酸ナトリウム液0.2mL入り容器に血液1.8mLを正確に入れ、全量2.0mLにしてよく混和後、1,500×g、15分間、冷却(2~4℃)遠心分離し得られたクエン酸血漿を使用します。

ラテックスの粒子にFDPが反応する物質を結合させてた検査試薬を採取したクエン酸血漿を加え、FDPが集まってきてかたまりをつくる反応で測定します。

ラテックス凝集反応を利用した検査です。

【基準値】

150ng/ml以下

※測定キットは10数種類が市販されており、基準値はそれぞれの検査キットで異なる※

【検査結果の判定】

高値・・・DIC(播種性血管内凝固症候群)、深部静脈血栓症(DVT)、肺血栓塞栓(PE)、悪性腫瘍、肝硬変症、大動脈瘤、手術後、妊娠中、血液凝固亢進状態など

低値・・・臨床的意義は少ない

【おまけ】

Dダイマーは多くの場合、血液中のFDPと同時に測定します。