血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2020年12月6日日曜日

検査に対する疑問点-3.溶血した血液は検査には使用できないのか?-

 【溶血はとは】

赤血球の細胞膜が物理的または化学的、生物学的など様々な要因によって損傷を受けて、壊れることにより赤血球の中にあるヘモグロビンが細胞の外で出ることを言います。

溶血することにより赤血球は壊れて死滅してしまいます。

赤血球より出たヘモグロビンにより血清または血漿は赤くなります。

溶血の度合いにより赤みの色調は異なります。

【溶血は検査にどの様な影響を与えるのか】

赤血球が壊れると、細胞内に含まれる赤色の色素、ヘモグロビンが漏れ出し赤くみえます。

溶血していても検査はできますが、溶血は赤血球などが壊れて細胞の中のいろんな成分が出てきた証拠なので採血項目によっては影響を受ける場合があります。

【溶血によって真の値より数値が高くなる検査】

ビリルビン、尿酸、総蛋白、カリウム、LDH、GOT、GPT、アルドラーゼ、鉄、葉酸などが該当します。

【溶血によって真の値より数値が低くなる検査】

ALP、ハプトグロビン、インスリン、BNPなどは赤血球から漏出したタンパク分解酵素により分解されるため、これらの値は低値になります。

【採血した血液が溶血した場合はどうするのか】

溶血による影響が疑われる検査結果は、注意をはらい保留する必要があることから、新たに採血し直す必要があります。

【溶血のない血液】

血液を遠心分離した上層部の血清の色調は、黄色の透明な状態となります。


【溶血したした血液】

血液を遠心分離した上層部の血清の色調は、赤くなります。

【採血時に起こる溶血の原因】

1.血管が細く血液の出が悪く採血に時間が長くと物理的溶血が起こる。

2.採血者の技術不足で採血時間が長くなると物理的溶血が起こる。

これらの血液は溶血していることから、再度採血して溶血していない血液を検査に使用することが正しい検査の値を得るためには大切です。


2020年11月29日日曜日

検査に対する疑問点-2.真陰性と偽陰性-

 【真陰性とは】

ある種の感染症検査で、感染していなくて陰性となる事を言います。

【偽陰性とは】

ある種の感染症検査で、感染しているにも関わらず検査が陰性となる事を言います。

真陰性は、感染していないので陰性となって当然で、確認検査や追加検査を実施する必要はありません。

しかし、偽陰性の場合は再度検査をする必要があります。

【偽陰性の起こる原因】

1)検査が正しく行われなかった場合。

2)検体の採取と取り扱い、保存の不備

3)検査が陽性となる時期の前に検査を受けた場合

検体中の抗体やウイルスの量が少なく検出できずに検査が陰性となる。

【偽陰性を回避するには】

1)検査を指示書通り正しく実施する。

2)それぞれの検査に適した採血方法で採血する。

3)それぞれの検査に適した最適な時期に検査を受ける。

※1)、2)は医療機関側の問題ですから、検査を受けるものとしては正しく実施してもらうしか対応はありません※

※3)については検査を受ける時期を正しく認識して検査を受ける必要があります、これは検査を受ける側の認識にかかってきます※

2020年11月22日日曜日

検査に対する疑問点-1.疑陽性と偽陽性の違い-

 検査を受ける時に疑問に思われることを簡単に解説し、その疑問を解決していきます。

疑問点を明確にして検査を受ける際の心配なことや疑問を解決していきましょう。

第1回目は、疑陽性と偽陽性の違いです。

検査を受けた時、特に感染症検査で「この人は疑陽性」、「私は偽陽性だった、どうしょう」などと聞かれることがあったり、ご自身経験されたことがあると思いますので、この点について解説していきます。

疑陽性と偽陽性は、どちらも発音すると同じ「ぎようせい」なのですが意味は全く違います。

それではどう違うのでしょうか?

疑陽性の「疑」は疑いですから「陽性の疑いがある」(陽性判定基準を満たさず、免疫がついたとは言い切れない)、すなわち「疑わしい状態」ということです。

偽陽性の「偽」は偽りですから、「偽り、間違い、あやまちでの陽性」(本当は陰性であるにも関わらず陽性結果となること)という意味となります。

この偽陽性の起こる原因は、特定できる場合と全く原因不明の場合があります。

これらが発生したときの対応としては、

1.同日に同じ検査法を再度実施する。

1)陰性の場合・・陰性と判定する。

2)陽性の場合・・陽性と判定し確認検査を行う。

2.同日異なる検査法で検査を実施する。

1)陰性の場合・・陰性と判定する。

2)陽性の場合・・陽性と判定し確認検査を行う。

3.日を改めて新たに採血し直して、同じ検査法を実施する。

1)陰性の場合・・陰性と判定する。

2)陽性の場合・・陽性と判定し確認検査を行う。

4.日を改めて新たに採血し直して、異なる検査方を実施する。

1)陰性の場合・・陰性と判定する。

2)陽性の場合・・陽性と判定し確認検査を行なう。

2020年11月15日日曜日

インフルエンザについて-3.インフルエンザワクチンの予防効果-

 18~64歳の健康成人については、70~85%程度のインフルエンザ感染が予防できたという報告があります。

子供や65歳以上の高齢者では予防できる割合がもう少し低いと報告されており、数10%から70%程度予防できたという報告が見られます。

ワクチンを接種していてもインフルエンザ感染がゼロになるわけではありません。

ワクチンに使用したインフルエンザの株とその年に流行したインフルエンザの株が異なれば、当然感染予防効果は低くなりますが、予想が外れても50~60%の予防効果があったと報告されています。

インフルエンザの流行タイプが外れても全く効果がないというのは間違いなのです。

インフルエンザは通常、初冬から春先にかけて毎年流行します。現在、Aソ連型(H1N1)、A香港型(H3N2)、B型の3種類が同時あるいは混在して、毎年それぞれが少しずつ変異しながら流行しています。

その流行株の予測は世界的には、WHOの専門家会議で次のシーズンに向けたインフルエンザワクチンに用いる候補株が毎年2回選定されます。

日本においてはWHOの推奨株と国内での流行状況などから予測を行い、ワクチンの製造に適した株を選択し、毎年5~6月頃に次のシーズン(その年の冬~)のワクチン株が決定されます。

その予測率は毎年高くなってますが、完全には予測することは不可能です。

【2020年のインフルエンザ流行の現状】

2020年全国的にも感染者はほとんど発生していません。

この理由としては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策が影響していると考えられています。

日本国内においては、COVID-19の感染拡大を防ぐため、3密(密閉、密集、密接)を避ける行動に加えて、マスク着用や手指消毒・手洗いの励行、さらに日常生活でのフィジカルディ・スタンス(物理的身体的距離)確保などの対策が推し進められて来た結果がインフルエンザの流行防止にも効果を示しているとの考え方です。

※※新型コロナウイルス感染防止対策として、2m以上の対人距離を呼びかける「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」という言葉が定着しつつありますが、この言葉は「人と人との社会的なつながりを断たなければならないとの誤解を招きかねず、社会的孤立が生じさせる」おそれがあることから、世界保健機関(WHO)では「身体的、物理的距離の確保」を意味する「フィジカル・ディスタンス(物理的身体的的距離)」に言い換えるよう推奨しています※※

当サイトでもソーシャル・ディスタンスを使用せずにフィジカル・ディスタンスを使用致します。


2020年11月8日日曜日

インフルエンザについて-2.予防接種健康被害救済制度-

 ワクチンの予防接種は、私達個人や社会を感染症から守るために大切な予防的な方法です。

しかし、ほかの医薬品や食品などと同様に副作用が起こるリスクはゼロではなく、とてもまれですが健康に被害をおよぼすことがあります。

そのため、予防接種によって健康被害を受けた方に対して公的な救済制度が設けられています、これが予防接種健康被害救済制度です。

予防接種健康被害救済制度に付いて以下に簡単に解説しますと、

予防接種法の定期接種によらない任意の接種については、ワクチンを適正に使用したにもかかわらず発生した副反応により、健康被害が生じた場合は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(平成14年法律第192号)による医薬品副作用被害救済制度又は生物由来製品感染等被害救済制度の対象となります。 

即ち予防接種を受けた、ある原因があって、ある出来事がおこったとき、その原因と結果の関係を因果関係といいます。

ワクチン接種と健康被害との間に因果関係が認められた場合、つまりワクチン接種が原因で健康被害がおきたと認められた場合に救済給付が実施されます。

給付の種類には、

①医療機関での治療に要した医療費や医療手当(医療を受けるために要した諸費用)

②障害が残った場合の障害児養育年金または障害年金

③死亡時の葬祭料および一時金、遺族年金がありますが、各制度によって給付額は異なります。

ここ注意しなければならないことは、国内未承認ワクチン(いわゆる輸入ワクチン)に対しては、輸入業者が独自の補償制度を設定している場合もありますが、これらの公的な制度は適応されないことです。

以下に参考サイトを紹介しておきます。

厚生労働省-1-

厚生労働省-2-

2020年11月1日日曜日

インフルエンザについて-1.インフルエンザワクチンの副反応-

新型コロナウイルスの流行している現在、インフルエンザの流行も危惧されています。

数回に渡りインフルエンザについて解説していきたいと思いますので、お付き合いください。

感染症に対する免疫をつけるためにワクチンを接種した際に、免疫がつく以外の反応がみられることがありますが、これを副反応といいます。

比較的多くみられる副反応には、接種した場所が赤くなる(発赤)、腫れる(腫脹)、痛み(疼痛)等があります。

この副反応は接種をした人の10~20%に起こりますが、まず2~3日で収まります。

また全身の反応としては、発熱、頭痛、悪寒、倦怠感などが接種を受けた人の5~10%に起こることがありますが、これも通常2~3日で収まります。

以上は軽い副反応ですが、まれにショック、アナフィラキシー様症状(発疹、じんましん、発赤、掻痒感、呼吸困難等の副反応が起こることもあります。

重い副反応の出現頻度は、およそ100万人に1人とされています。

ワクチン接種後のショックやアナフィラキシー様副反応の殆どは、接種後30分以内に起こりますから、接種後は医療機関で30分は安静にして様子を見る必要があります。

日本国内でのインフルエンザワクチン接種による死亡例は、残念ながら毎年数例起こっています。

副反応検討部会において専門家による評価を行ったところ、死亡とワクチン接種の直接の明確な因果関係があるとされた症例は認められていません。

死亡した人のほとんどが、基礎疾患等がある高齢者であったことがわかっています。

インフルエンザワクチンワクチンを接種する際には、熱がある時は当然できませんが、基礎疾患がある人は、いろいろな外的要因により、病気の状態が悪化する可能性もありますので、必要に応じて、主治医及び専門性の高い医療機関の医師に対し、接種の適否について意見を求め、接種の適否を慎重に判断してください。

※接種できない体温とは、接種当日37.5℃以上の熱がある場合※

※よくインフルエンザワクチンを接種してインフルエンザを発症したということが囁かれますが、インフルエンザワクチンは不活化ワクチンですから、ワクチンに含まれるインフルエンザウイルスはウイルスとしての働きはないので、ワクチン接種によってインフルエンザを発症することはありえません。

※不活化ワクチンは、インフルエンザウイルスの感染性を失わせ、免疫をつくるのに必要な成分を取り出して作ったもの※

【韓国での死亡例について】

2020年韓国でのインフルエンザ予防接種で死者が多く発生していますが、この原因は現在わかっていません。

※2020年10月29日時点で72人の死亡※

2020年日本国内におけるインフルエンザ接種での死亡例は報告されていません。


2020年10月25日日曜日

アレルギー検査について-9.食物アレルギー検査は何抗体で検査をするのか?-

最近新型コロナウイルスについての解説に偏る傾向にありますから、今回は新型コロナウイルスの解説は一旦休みアレルギー検査について解説させていただきますので、お付き合いください。 

食物アレルギーについて最近は多くの人が関心を持つようになってきていますが、食物アレルギー検査について正しい知識を持たれている人が少ないのが現実です。

さてそれでは食物アレルギーの検査は何抗体を検査するのがお分かりですか?

結論から申し上げますと食物アレルギー検査は、血液でIgE抗体を調べます。

巷度はIgG抗体を調べて、これが高い数値を示すから除去食(じょきょしょく)する傾向がありますがこれはのは間違いです。

※除去食とはアレルゲンとなる食品を使わないで作る食事のことを言います※

食べ物の除去食を考える上で食べ物に対するIgG抗体を検査することは、日本だけでなく、欧州も米国でも、一般に推奨されていません。

日本アレルギー学会の〔学会見解〕血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起を参照してみてください。

【学会見解の全文】

 学 会 見 解 

 血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起

 米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では、食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています。

その理由として、以下のように記載されています。

すなわち、①食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体である。②食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しない。③血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけである。④よって、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもある。

以上により、日本アレルギー学会は日本小児アレルギー学会の注意喚起を支持し、食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。

 平成27年2月25日

 一般社団法人日本アレルギー学会

 理事長 斎藤博久

※参考URL:https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=51

そもそもIgG抗体とは、感染症から感染するのを防ぐ抗体なのです。

アレルギーが悪化しているかどうかを調べる抗体はIgG抗体ではなく"IgE抗体"なのです。

例えて言いますと小麦アレルギーのある人は小麦に対する"IgE抗体"が高くなります。

4つあるIgG抗体のなかでも特にIgG4抗体は、食物アレルギーが改善してきているときに上がる抗体として研究目的で行われています。

※IgG抗体は、IgG1、IgG2、IgG3。IgG4の4種類のIgGのサブクラスがあり、IgG1はIgGの65%程度、IgG2は25%程度、IgG3は7%程度、IgG4は3%程度存在しています※

例えば、食物に対するIgG4抗体は、『症状が出ない量で少しずつ、アレルギーになっている食べ物を食べていると、食べられる量が増えていく』ことがわかっています。

その際に、IgE抗体はいったん上昇して、その後下がってきます。

一方でIgG4抗体は、一貫して上がっていくのです。

食物に対するIgG4抗体は、その食物が食べられるようになってきているかどうかの指標として使われています。

IgE抗体は、アレルギーが悪化しているときの指標して使われます。

そして

IgG4抗体は、すでに食べられている場合に上がりやすい値なのです。

普段から食べている食物なので、陽性であることが当たり前なのですから、"IgG4抗体が陽性"だから除去の指標をするのは間違っているのです。

しかし、『現実IgG4抗体の値が高いから除去しましょうと言われると心配だから除去しなければ』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは除去する必要はありません。

今まで食べられている食物をあえて除去をすることはないのです。