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2019年6月18日火曜日

性行為感染症アラカルト-4.淋菌感染症-

淋菌感染症は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)の感染によって引き起こされる性行為感染症です。

淋菌は弱い菌で、患者の粘膜から離れると数時間で感染性を失い、日光、乾燥や温度の変化、消毒剤で簡単に死滅することから性交やオーラルセックス以外で感染することは極めて稀です。

【感染経路】

殆どがコンドームなしの性行為やオーラルセックスで感染します。

【感染場所】

男性の場合は尿道、女性の場合は膣。

最近の性の多様化から男女とも咽頭や肛門への感染も多く報告されています。

【潜伏期間】

2~9日の潜伏期を経て特に男性には症状が現れやすいですが、女性の場合は症状がない場合が多く認められます。

【淋菌の感染確率】

1回の性行為による感染伝播率は約30%と言われています。

【症状】

男性の多くの場合膿性の分泌物が尿道から排泄され、排尿時に疼痛を生ずる。

しかし最近では、男性の場合でも昔からの淋菌感染症特有の症状が現れることは少なくなり、尿道からの膿性の分泌物が出ることなく粘液性の分泌物であったり、排尿時の疼痛もなく無症状に経過することが多く報告されています。

女性では男性より症状が軽くて自覚されないまま経過することが多く、上行性に炎症が波及していくことがあり、骨盤炎症性疾患、卵管不妊症、子宮外妊娠、慢性骨盤痛を引き起こします。

その他、男女ともに咽頭や直腸の感染では症状が自覚されないことが多く、これらの部位も感染源となっています。

【検査】

市販キットとしては酵素免疫法(EIA法)・液相ハイブリダイゼーション法・PCR法・LCR 法があり、特にPCR法やLCR法は検出感度が非常に高く、分泌物と尿が検査の保険適用で検査を受けることができます。

酵素免疫法と液相ハイブリダイゼーション法は分泌物のみ保険適用となっている。

淋菌は死滅しやすい細菌で培養には特に注意が必要となります。

淋菌感染症では血清診断法は、信頼性が乏しく検査としての有用性は低い。

【治療】

スペクチノマイシン(筋注)、セフィキシム(経口)、オフロキサシン(経口)、ビブラマイシン(経口)などが一般的に使用されている。

セフトリアキソン(静注)も有効な抗生剤ですが、我が国では現在保険適用とはなっていない。

※特に淋菌性尿道炎に対する治療においては、抗生物質を内服するより注射薬の十分量を1回のみ投与し淋菌を確実に除菌する単回投与療法が推奨されています※

症状が全くなくなっても副作用が出ない限り抗生物質は医師に処方された分をきちんと服用しきることが大切で、途中で自己判断で服薬を中止すると再び淋菌が勢いを盛り返し完治しない可能性があります。

近年、ニューキノロン系薬に対して抵抗性を示す淋菌が増加してきています。

【日本人の感染実態】

男性の場合20歳代前半の年齢層に多く、10歳代後半の罹患率は20歳代後半より高い傾向が見られます。

女性においては男性に比べより若い世代に感染者が分布していて、男性と同様にその罹患率は年々上昇傾向にあります。

※女性の数が男性より極端に少ない理由としては、女性は自覚症状に乏しく受診の機会が少ないことも要因の一つと考えられています※

【感染予防】

コンドームを正しく使用することで感染予防が可能と言われています。

感染部位がコンドームに覆われない部位にあった場合にはその感染部位から感染してしまう可能性があることから、いくらコンドームを正しく使用しても感染予防はできません。

淋菌に一度感染しても免疫は得られず何度でも再感染します。

【HIV感染との関連性】

淋菌に感染して性器粘膜や尿道の粘膜がただれていることから、HIVの感染リスクが極めて高くなることが報告されています。

2019年6月11日火曜日

性行為感染症アラカルト-3.保険適応されているクラミジア・トラコマチスの核酸増幅検査-

現在我が国で保険適応されているクラミジア・トラコマチスの核酸増幅検査を以下に紹介します。

1.TMA法(Transcription mediated Amplification)

製品名 アプティマCombo2 クラミジア/ゴノレア

製造発売元 富士レビオ

検査に使用する検体:男性尿道擦過物・子宮頚管擦過物・男性尿・咽頭擦過物・うがい液

2.SDA法(Strand Displacement Amplification)

製品名 BDプローテック クラミジア・トラコマチス ナイセリア・ゴノレア

製造発売元 日本ベクトン・ディッキンソン

検査に使用する検体:男性尿道擦過物・子宮頚管擦過物・男性尿・咽頭擦過物

3.TaqMan PCR法

製品名 コバス4800システムCT/NG

製造発売元 ロッシュ・ダイアグノスタィックス

検査に使用する検体:子宮頚管擦過物・男性尿・咽頭うがい液

4.Real-timePCR法

製品名 アキュジーンm-CT/NG

製造発売元 アボットジャパン

検査に使用する検体:男性尿道擦過物・子宮頚管擦過物・男性尿・膣擦過物

5.PCR法

製品名 ジーンキューブ クラミジア・トラコマチス/ナイセリア・ゴノレア

製造発売元 東洋紡

検査に使用する検体:子宮頚管擦過物・男性尿

6.TRC法(Transcription Reverse-transcription Concerted Raction)

製品名 TRCReady CT/NG

製造発売元 東ソー

検査に使用する検体:男性尿道擦過物・子宮頚管擦過物・男性尿・咽頭擦過物・うがい液

上記核酸増幅検査は、感度特異度共に極めて高くクラミジア・トラコマティスと共に淋菌も検出可能です。

特に男性の検査の場合、痛みの伴う尿道にスワブ(綿棒のようなもの)を挿入して尿道の擦過物を採取しての検査の必要がなく、初尿での検査が可能となったことです。

【注意】

核酸増幅検査はクラミジア・トラコマティスの検査としては、極めて感度特異性の高い検査ですが、咽頭の淋菌検査に使用すると咽頭内常在の非病原性と交差反応を起こし、偽陽性反応を引き起こすことから咽頭の淋菌感染には使用できません。

2019年6月4日火曜日

性行為感染症アラカルト-2.クラミジア・トラコマチス感染症 その2-

【検査】

1) クラミジア抗原の検出

現在クラミジアに感染しているかどうかがわかります。

2)即日検査

【男性】 採尿による検査

※クラミジアの感染がその日に判明することから、多くの施設で検査されていますが即日検査は精度が落ちることから、翌日~翌々日に結果報告が出るPCR検査等の検査を受けることをお勧めいたします※

【女性】

子宮口ぬぐい液や膣分泌液による検査。

3)血中クラミジア抗体(IgA、IgG検査)

男女とも血液で検査が可能ですが、以下のような欠点があります。

1.クラミジアが完全に体の中からいなくなって治癒後にも、IgG抗体だけでなくIgA抗体も陽性となることから、現在感染しているのか、治癒後なのかが正確に判断できません。

2.クラミジア抗体検査が陽性で、尿や粘膜からの検査を受け直した結果、現在クラミジアの感染はなく、過去に感染して治っていて、治療の必要のない事例が多く見られます。

3.血液でクラミジア抗体検査を受けても結局、通常の尿検査や粘膜検査を再度受け直す必要があることからして、クラミジアの血液検査を受けることはお勧めできません。

4.正確に感染判断をするには最初から尿検査や粘膜検査を受けることをお勧めします。

5)PCR検査

患部分泌物や尿およびうがい液検体中のクラミジア・トラコマチスを遺伝子診断法(リアルタイムPCR法)により迅速、高感度に検出する方法で極めて高感度で検出できます。

【治療】

男性でも女性でも、抗生剤の内服による治療となります。

(1) アジスロマイシン単回内服

(2) クラリスロマイシン・ミノサイクリン・ドキシサイクリンなどの7~14日間の内服

・有効率は90%前後となり100%ではないため、治癒したかどうかの確認検査が必要となります。

・服用中に飲酒をすると治癒率は下がります。

・内服中でも新しい交渉を持つと再感染する可能性があります。

・精巣上体炎や前立腺炎などの尿道以外の臓器にも感染が広がっている時は、(1)(2)を併用したりすることもあります。

【治癒の確認】

クラミジア抗原の検出によってクラミジア感染が診断された場合は、治療後にクラミジア抗原の消失を確認する必要があります。

治癒確認の抗原検査は薬剤投与後およそ3週間程度の間隔をおいて再検査し、クラミジア抗原が陰性となれば治癒判定とします。

【日本人の感染実態】

クラミジアは性行為感染症の中で最も多い感染症で、最近の報告では18~19歳の女性の10人に3人、20代では20人に3人が感染しているという統計調査があります。

風俗で働いている女性では、クラミジアの血清抗体が約9割陽性であったとの報告があり、さらに子宮頸管からクラミジアが60%程見つかったとの報告もありることから、風俗での感染拡大が指摘されています。

更に女性の感染者の5人に4人までが自覚症状がないことから、感染に気づくことがありません。

クラミジアは性器だけに感染するのではなく、咽頭に感染します、特に最近の性の多様化から、一般の若年者の性器や喉への感染が増加しています。

要するに一昔前までは性器感染がほとんどでしたが、近年の性行動が多様化し、男女とも咽頭への感染が増加してきているのもひとつの特徴です。


【感染予防】

コンドームなどの使用による性器粘膜の接触を伴わない行為や、お風呂場や空気感染などの間接的な感染はまずありません。

従ってコンドームの正しい使用で感染は防げます。

【HIV感染との関連性】

クラミジア感染により性器粘膜がただれることから、HIVへの感染率が通常の数十倍になるという統計もあるので、検査する際は併せてHIV検査もすることをお勧めします。

2019年5月28日火曜日

性行為感染症アラカルト-2.クラミジア・トラコマチス感染症 その1-

クラミジア・トラコマチス感染症は、クラミジア・トラコマチスが引き起こす性行為感染症のひとつです。

クラミジア・トラコマチスはトラコーマを引き起こす病原体で一昔前まではトラコーマを引き起こす眼感染症でしたが、現在では性行為感染症の病原体として知られています。

クラミジアは、性行為感染症の中で最も多い性行為感染症で、最近の報告では18歳から19歳の女性の10人に3人が、20代では20人に3人が感染しているという調査報告があります。

更に世界中で感染が問題となっています。

【感染経路】

性交・オーラルセックス・キスなどにより粘膜に感染する。

【感染確率】

クラミジアは感染力が非常に強く、感染者との1回の性交渉で50%以上の感染するとの報告があります。

【感染場所】

感染部位は、男性は尿道、女性は膣内に感染し、咽頭や直腸には男女ともに感染する。

相手が咽頭感染している場合通常の口づけでは感染する可能性は低いが、ディープキスの場合は感染率が高くなる。

クラミジアの感染は、クラミジアが存在する場所に接触することによって感染しますので、性器に感染していても口中にクラミジアがいなければキスで感染することはありません。

【潜伏期間】

感染して1~3週間後に症状が現れる。

【症状】

1.男性

比較的サラッとした尿道分泌物や軽い排尿痛が出現します。

痛みや激しいかゆみなどの症状があれば病院を受診し治療が行われますが殆どの場合、全く無症状のない場合が多いことから感染に気付くことはまずありません。

尿道にクラミジア感染がある場合、咽頭からクラミジアが検出される割合は4~13%と報告されています。

2.女性

おりものが増える事がありますが、自覚症状が殆どないことからやはり感染に気付くことはまずありません。

感染機会後1~3週間後で、帯下が多少増加する子宮頸管炎を発症し、放置すると卵巣や卵管の周りに癒着を起こし、子宮付属器炎や骨盤腹膜炎を発症します。

この場合下腹部痛が見られることもありますが、女性でも無症候感染が半数以上で見られ、知らないうちに卵管周囲の癒着を起こし、将来の子宮外妊娠や不妊症の原因となることもあるので注意が必要です

喉頭感染では喉が痛くなり痰が増えたりしますが、やはり無症状のことが多く感染に気付くことはまずありません。

子宮頸管からクラミジアが見つかった場合、咽頭からクラミジアが検出される割合は10~25%と報告されています。

※海外では咽頭クラミジアの感染は、男女差は認められませんが、日本では女性の方が咽頭クラミジアの感染は多い傾向にあります※

2019年5月21日火曜日

性行為感染症アラカルト-1.膣トリコモナス症-

性行為感染症についての正しい知識としての症状・検査法・予防法・注意点などを習得して感染予防に役立つように解説していきます。

初回は膣トリコモナス症について解説していきます。

単細胞生物であるトリコモナス原虫は,腟トリコモナス,口腔トリコモナス,腸トリコモナスが知られており,それぞれの形態学的な区別は難しく感染部位に特異的な性質をもっています。

性行為によって生殖器に感染し,また明らかな病原性をもっているものは腟トリコモナスだけで、膣トリコモナスが引き起こす人の性行為感染症のひとつです。

【感染経路】

殆どがコンドームなしの性行為で感染しますが、下着やタオル、便座や、出産時に母から感染する可能性もあります。

【感染場所】

男性の場合は尿道、女性の場合は膣と尿道。

【潜伏期間】

感染して10日前後で症状が現れる。

【症状】

膣炎・子宮頸管炎・尿道炎を引き起こし、悪臭を伴う、黄白色の泡沫状の帯下、性交・排尿時の不快感、掻痒感、灼熱感、下腹部の痛みなどが発現する。

男性の場合殆どが無症状ですが、稀に尿道にかゆみを感じたり、排尿・射精時に軽い痛みを感じたりする場合もあります。

男性の場合治療せずに放置していると、前立腺癌のリスクを高めると言われています。

またトリコモナスに感染している男性は前立腺炎を有しているケースが多いという報告があります

女性の場合は、最悪、不妊症や早産等の原因となり、妊娠中に女性が感染すると、早期破水や早産を引き起こすことがあります。

膣炎ではトリコモナスだけが原因ではなく,臭いの原因となる嫌気性菌や大腸菌、球菌の増殖による混合感染の形態をとることが一般的で,膣炎の病態,臨床症状はこの混合感染によって起きています。

【検査】

男性の場合は、尿沈渣や前立腺分泌物中に運動する虫体の存在を顕微鏡で調べる。

※男子の尿からは培養法による検査を行う必要がある※

女性の場合は、膣から綿棒で粘膜を採り、スライドグラス上に塗布しギムザ染色を行って顕微鏡で調べる。

核酸増幅法TMA(Transcription Mediated Amplification)法を用いた,「Aptima トリコモナス ヴァギナリス Assay」が最近利用されつつあります。

【治療】

メトロニダゾールやチニダゾールなどの抗原虫薬を用いる。

男性は1回の投与による治療が効果的かどうかは不明ですが、通常は抗菌薬を5~7日間投与すれば治癒します。

女性の95%は、抗菌薬のメトロニダゾールかチニダゾールを1回、経口で投与することで治癒します。

【日本人の感染実態】

女性の5~10%、男性の1~3%が感染しているといわれていますが、実際はもっと多くの感染者が存在していると言われています。

【感染予防】

コンドームを使用することで感染予防が可能と言われています。

【HIV感染との関連性】

膣トリコモナスに感染して性器粘膜や尿道の粘膜がただれていることから、HIVの感染リスクが極めて高くなることが報告されています。

2019年5月14日火曜日

風疹について-4.風疹ウイルス遺伝子検出法について-

急性期の咽頭ぬぐい液、血液、尿からRT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法などの方法で風疹ウイルスの遺伝子を検出する方法がありますが、この検査法は早期診断に有用ですが、検査を受けられる医療機関は少ないのが実情です。

【風疹ウイルス遺伝子検出法の特徴】

どの検体を使用しても発疹出現時期に近いほど検出率が高く, 特に咽頭ぬぐい液や尿では7日目程度まで検出可能です。

その一方, 血液中の風疹ウイルスは抗体の出現とともに急速に検出率が低くなります。

特異的IgM検出で偽陰性になりやすい発疹出現後0~3日目が, ウイルス遺伝子検出に適した時期であるため, 両検査を実施することでより正確な検査診断が可能となります。

【風疹ウイルス遺伝子検出法の種類】

風疹ウイルス遺伝子検出法としてリアルタイムRT-PCR法とコンベンショナルRT-nested PCR法があります。

RT-nested PCR法は検出感度がリアルタイムRT-PCR法よりも若干高いものの, 操作が多く, 結果を得られるまでにより時間を必要とすることと共に実験室コンタミネーションの危険性が非常に高いために偽陽性反応が起こりやすいことから 適切な環境で熟練した検査担当者が十分に注意して実施する必要があります。

逆にリアルタイムRT-PCR法は, RT-nested PCR法と比較して実験室コンタミネーションの危険性も低く, 検出に適した時期の検体を使用することや複数種の検体を使用することで, RT-nested PCR法と同様に十分に信頼のおける結果を得ることが出来ます。

このような理由からして 現在診断目的にはリアルタイムRT-PCR法を使用する医療機関が増加しています。

2019年5月7日火曜日

風疹について-3.風疹ウイルス抗体検査の解釈について-

風しん抗体検査の試薬としては、日本国内では10社から販売されています。

検査方法としては、以下のものがあります。

赤血球凝集法(HI法)
酵素免疫法(EIA法)
蛍光酵素免疫法(ELFA法)
ラテックス免疫比濁法(LTI法)
化学発光酵素免疫(CLEIA法)
蛍光免疫測定法(FIA法)など

【抗体価】

各メーカの検査キットによって異なります。

一般的には赤血球凝集法で風疹HI抗体価によって以下のように解釈します。

・8倍未満は陰性

・16倍以下では発症予防効果はあるが体内でのウイルス増殖が起こる

・32倍以上では体内でのウイルス増殖を抑制する

【風疹IgM特異抗の出現時期】

風疹ウイルスに感染して発疹出現から28日以内の血液中に風疹IgM特異抗体検出が出現します。

この風疹IgM特異抗体を調べることによって風疹の診断が可能となります。

【ペア血清とは】

ペア血清とは、とは同一患者から採取されたペア血清(ぺあけっせい、英: paired serum)とは同一患者から採取された1組の急性期血清および回復期血清のことを言います。

要するに同一患者から採血した急性期血清および回復期血清を使用して抗体検査を実施します。

ペア血清を用いて、CF、HI試験、ELISA法などで4倍以上の上昇が認められれば風疹ウイルスに感染していると判断します。