血液の鉄人の理解しやすく役立つ臨床検査の部屋 Headline Animator

2014年12月30日火曜日

寄生虫感染症検査-3.赤痢アメーバ-

【赤痢アメーバとは】

主にヒト及びサルの大腸に寄生して増殖し、腸管臓器を破壊して宿主に障害を与える腸管寄生性寄生原虫です。

赤痢アメーバはその生活史上、栄養型と嚢子(シスト)の2形態に分類され、ヒトへの感染は糞便中の成熟シストが経口摂取され回盲部辺りを中心に、大腸管腔で増殖・定着感染します。

熱帯や亜熱帯の発展途上国を中心に多くの患者の発生が認められているますが、先進国では性行為やオーラルセックスで感染が広まっています。

※赤痢菌が原因の「赤痢」とは別のものです※

【赤痢アメーバの感染経路】

赤痢アメーバのシストに汚染された飲食物等の経口摂取により感染します。

また、ヒトからヒトへの直接感染も起こります。

性行為では、肛門と口唇が直接接触すること(リミング)によって、口から感染します。

日本の男性同性愛者間では、赤痢アメーバ症と梅毒やHIVなど、他の性行為感染症との複合感染も少なくありません。

※※日本の3大都市で同性愛者の56%がHIV感染者で,そうち45%が症状がある赤痢アメーバ症であったとのデータが有ります※※

【赤痢アメーバの寄生部位】

大腸や肝臓に寄生し、赤痢アメーバ性の大腸炎や肝膿瘍を引き起こします。

【感染の実態】

他の寄生虫感染症に比べ、日本でも多くの感染が発症しており、年間700から800人(死亡者は
年間数例)の届け出があり、4?5年前と比較すると約1.7倍増加しています。

日本での感染者の8から9割は海外渡航歴がなく、ほとんどの場合が男性同性愛者です。

【症状】

男女共に同様の症状が見られます。

1.大腸感染

下痢

イチゴゼリーのような粘血便

渋り腹)排便するものがないのに便意をもよおし、何回もトイレに通う)

排便時の下腹部痛

2.肝臓感染

赤痢アメーバ性肝膿瘍

肝臓の一部に炎症が起こり、その組織内に膿が溜まる。

38度以上の発熱

上腹部痛

肝腫大

寝汗

【治療】

メトロニダゾール、テトラサイクリンなどを投与する。

【感染予防対策】

飲食物の加熱、手洗いの励行、そしてリミングをしないこと。

消毒は塩素の場合,細菌を殺すには十分な濃度でも赤痢アメーバの嚢子は殺せませんが、水を煮沸すれば嚢子も死滅します。

【検査】

1)赤痢アメーバ性大腸炎の場合は便を検査し、粘血便を伴う症例では栄養型を、軽症例や無症状キャリアではシストを顕微鏡下で調べます。

検出感度は低いため、連続3日程検査を行う必要があります。

2)赤痢アメーバ性肝膿瘍の場合は、超音波やCT検査で膿瘍を証明し、穿刺やドレナージにより採取した膿瘍液中にアメーバ(栄養型)を調べます。

3)血清赤痢アメーバ抗体を調べます。

血清アメ-バ抗体の陽性率は大腸炎で50~90%、肝膿瘍では95%以上と高く有用な検査です。

画像診断と併せて鑑定診断に用いられます。

※血清アメ-バ抗体検査でIgG抗体を検出する場合は抗体価のレベルに注意する必要があり、低くて陽性下限に近い時は糞便検査のデータと併せて総合的に判断する必要があります※

※IgM抗体が検出されたら初感染早期を疑う※

4)現在では、免疫酵素抗体法による赤痢アメーバの主要抗原蛋白質の検出や赤痢アメーバのDNAをPCR法で検出する方法が採用されています。

【注意事項】

赤痢アメーバ症は、便を感染源に経口感染により男性同性愛者間に感染する性行為感染症でもあるため、性的パートナーも同時に検査する必要があります。

2014年12月17日水曜日

寄生虫感染症検査-2.アニサキス検査-

【アニサキスとは】

線形動物門双腺綱桿線虫亜綱カイチュウ目アニサキス科アニサキス属に属する動物の総称で、海産動物に寄生する寄生虫です。

【アニサキスの感染経路】

サケ、サバ、アジ、イカ、タラなどの魚介類から感染する。

【アニサキスの寄生部位】

胃・腸などの消化管に寄生する。

寄生する場所によって、以下のように分類される。

1.胃アニサキス症

2.腸アニサキス症

3.腸管外アニサキス症

4.アニサキスアレルギー

アルサス型のアレルギー反応で、初回感染時は無症状ですが再感染により発症します。

イカ、サバ、ハマチ等を摂取した際、発疹などのアレルギー症状を起こすことがありますが、アレルギー検査で食べた魚介類では陽性反応を示さない場合は、アニサキスによるアレルギーが原因の可能性があります。

【症状】

胃アニサキス症は、食後数時間のうちに始まる激しい腹痛と嘔吐で、嘔吐に際しての吐瀉物は胃液のみで、下痢も一切認められません。

この激しい痛みは、アニサキスが胃壁や腸壁を食い破ろうとするために生ずる症状です。

【治療】

胃内寄生の場合は、胃カメラで消化管粘膜上のアニサキスを確認し、鉗子を用いてアニサキスを摘んで取り除くか、開腹手術を行いアニサキスを取り除きます。

寄生したアニサキスを取り除くことにより、痛みなどの症状が消失します。

特異的な治療薬は現在ではありません。

デカドロンRや強力ネオミノファーゲンシー、セレスタミンRやプレドニゾロンを投与すると症状が軽快するという報告があります。

【感染予防対策】

海産魚介類を生で食べないことと、60℃で1分以上の加熱処理後に食べる。

-20℃,24時間以上の冷凍保存によってアニサキスは感染性を失うので,魚を冷凍して解凍後に生で食することは感染予防に有効とされています。

※醤油・わさび・酢がアニサキス症の予防に有効と一部では言われていますが、料理で使う程度の量や濃度,処理の時間ではアニサキスは死ぬことはありません※

【抗アニサキスIgG・IgA抗体検査】

エライサ法によって血清中の抗アニサキスIgG・IgA抗体を調べます。

内視鏡で虫体を確認できないアニサキス症の診断に用いられます。

【検査の原理】

検体中の抗アニサキス抗体はマイクロプレートに固相されたアニサキス特異抗原と反応し、次に添加されたペルオキシターゼ標識二次抗体と複合体を形成し、固相の抗原に結合した抗体の量は酵素の量に反映されるので、その酵素活性を測定することにより抗体価を計算で求めます。

【判定】

カットオフインデックス1.50以上を陽性とする。

【異常値を示す場合】

アニサキス感染が疑われる。

2014年12月7日日曜日

寄生虫感染症検査-1.寄生虫について-

【寄生虫とは】

寄生生物のうち動物に分類されるものを言います。

【寄生虫の分類】

Ⅰ.外部寄生虫

宿主(しゅくしゆ)の体表あるいは皮膚内に一時的あるいは長期にわたって寄生する物を外部寄生虫と呼びノミ・シラミ・ダニなどの節足動物がいます。

※宿主(しゅくしゅ)とは、寄生虫・菌類などが寄生又は、共生する相手の生物のことを言います※

※よく"やどぬし"と音読されますが、学術用語としては"しゅくしゅ"と音読されるのが正しい呼び方です※

Ⅱ.内部寄生虫

宿主体内に寄生するものを内部寄生と呼び以下のものがあります。

1.魚類由来の寄生虫

海産魚由来アニサキス:日本海裂頭条虫・大復殖門条虫・異型吸虫など

淡水魚由来:横川吸虫・肝吸虫など

2.肉類由来の寄生虫

無鉤条虫・トキソプラズマ・有鉤条虫・イヌ蛔虫など

3.水の由来の寄生虫

エキノコッカス・ランブル繊毛虫・赤痢アメーバ・クリプトスポリジウムなど

【寄生虫感染症の現状】

寄生虫感染は,世界的(特に中南米,アフリカおよびアジア)にかなりの罹病および死亡の原因となっています。

日本を含めての先進国では、過去に比べて激減し一般的な感染症としては見られなくなってきています。

しかし、日本や先進国ではゲテモノ食いからの寄生虫感染症が新たな脅威となってきていることも見逃せません。

【寄生虫感染症の感染ルート】

多くの寄生虫感染が,食品や水の糞便汚染から流行します。

従って下水設備や衛生状態の悪い貧困地域で最も高頻度となります。

稀な感染経路としては、鉤虫など一部の寄生虫は汚染された砂泥、住血吸虫の場合は汚染された淡水との接触によって皮膚から感染します。

更に、輸血もしくは注射針の共有による寄生虫の伝播,または母親から胎児への先天的伝播も認められています。

2014年11月27日木曜日

エボラ出血熱-5.検査法-

【検査材料】

血液・血清・咽頭拭い液・尿

【検査方法】

1.分離・同定によるエボラウイルスの検出

2.PCR法によるエボラウイルスの遺伝子の検出

3.エライサ法によるエボラウイルスの抗原の検出

4.関節蛍光抗体法によるエボラウイルスのIgM抗体及びIgG抗体の検出

5.エライサ法によるエボラウイルスのIgM抗体及びIgG抗体の検出

【検査の判断基準】

Ⅰ.以下に記載したいずれかが満たされた場合,"エボラウイルス感染症"と判定する。

1.検体からエボラウイルスが分離される。

2.検体から PCR法でエボラウイルスの遺伝子が検出される。

3.検体からエライサ法でエボラウイルス抗原検出される。

4. エライサ法でエボラウイルス核蛋白が検出される。

5.間接蛍光抗体法またはエライサ法で、症状の急性期と回復期に採血したペア血清中のエボラウイルスの核蛋白に対する抗体価が,4倍以上有意に上昇する結果が得られる。

Ⅱ.以下に記載した場合は"エボラウイルス感染症"を疑う。

エライサ法でIgM抗体が検出された場合。

Ⅲ.陰性(エボラウイルスの感染なし)

上記に記載した1~5までの結果が陰性の場合。

2014年11月16日日曜日

エボラ出血熱-4.エボラウイルスの感染源-

【感染源】

・血液

・臓器及び組織

・唾液

・汗

・尿

・糞便

・膣分泌液

・精液

・母乳

・嘔吐物

【エボラウイルスの体外での生存期間】

液体又は乾燥有機物の中でも、室温では相当の日数、生存及び感染力を維持している。

汚染から6日後の室内環境から感染性を有するエボラウイルスが回収された事例が報告されています。

4℃でも数日間生存可能。

-70℃では永久的に感染能力を有しています。

凍結乾燥(フリーズドライ)でも感染能力を永久的に有しています。

体外でのエボラウイルスは、安定して感染力を長く有しますが、消毒剤には極めて感受性が高く簡単に死滅してしまいます。

【侵入経路】

傷のない皮膚は感染防護バリアがあることから感染はしません。

引っ掻き傷、切傷(大小問わず)、発疹、及び擦過傷は正常なバリア機能を損傷していることから、ウイルスは簡単に侵入します。

特に怖いのは飛沫感染することです。

ウイルスを含む血液や体液、唾液などが付着することによりウイルスが粘膜組織を通過して体内に侵入することも出来ます。

粘膜組織は眼、口、喉、肺、鼻腔内、膣組織、腸管、及び尿管を含む 箇所から感染します。

発病した人又は死亡した人以外の霊長類の取り扱及び葬儀の儀式における遺体との接触によっても感染します。



2014年11月6日木曜日

エボラ出血熱-3.消毒について-

【エボラウイルスの特性】

ウイルスは脂質を含む「エンベロープ」と呼ばれる膜で包まれているタイプと、エンベロープを持たない小型球形ウイルスに分類することが出来ます。

エボラウイルスはエンベロープと呼ばれる膜を持つウイルスであり,消毒薬抵抗性は低く、多くの消毒液が有効です。

【エンベロープとは】

エンベロープは偽装・宿主細胞への吸着の役割を果たすため、感染能力は高いのですが、このエンベロープを壊すことにより感染能力がかなり低下するのがエンベロープタイプのウイルスの特徴です。

エンベロープは、水に溶けにくく油に溶けやすい性質のため、エタノールなどの消毒薬によって簡単に破壊することがで可能です。

つまり、エンベロープタイプのウイルスは薬物耐性が低い(多くの消毒剤が有効)ということになります。

【消毒剤】

エボラウイルスのエンベロープは、アルコールなど簡単に破壊することが可能ですから、アルコール消毒液が有効となります。

以下に有効な消毒液を紹介しておきます。

1.アルコール

消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール


2.次亜塩素酸ナトリウム溶液

ミルトンR, ピューラックスR, テキサントR, ハイポライトRなど

3.グルタルアルデヒド

ステリハイドR, グルトハイドR, サイデックスRなど

4.加熱

60℃で 30~60 分間加熱

5分間の煮沸

【消毒方法】

1.手指の消毒

石けんを使用して流水で洗う。

手指に有機汚染物(血液、嘔吐物など)が付着しているとアルコール手指消毒剤の効果が低下するので、先に石けんを使用して手指に付着している有機汚染物を払い流してからアルコール手指消毒剤を使用する必要があります。

70~90%エチルアルコール(エタノール)ベースの手指除菌剤は、確実にエボラウイルスを死滅させます。

2.衣類などの消毒

水 10 に対し家庭用漂白剤1(10%v/v)を加えた塩素消毒剤に10分間つけ置きすればウイルスは死滅します。

3.器具・荷物

体液が付着した器具や道具、荷物などは家庭用漂白剤を水道水で2~3倍に薄めてこれを布などに染み込ませて拭き取れば十分効果が得られます。

2014年10月27日月曜日

エボラ出血熱-2.エボラウイルスとは-

【エボラウイルスの分類】

エボラ出血熱を引き起こすエボラウイルスとは、フィロウイルス科エボラウイルス属に属するウイルスです。

フィロウイルスとは、ラテン語で"糸"と言う意味です。

大きさは、80~800nmの細長いRNAウイルスで、ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず多種多様です。

【発見】

1976年にスーダン(現:南スーダン)のヌザラ (Nzara) という町で男性患者から発見されています。

【起源】

現時点では不明ですが、おそらくコウモリやげっ歯類が保有しているものが何らかの理由で人に感染したと考えられています。

【感染様式】

エボラウイルスに感染し、症状が出ている患者の血液、分泌物、吐物、排泄物や患者の体液等に汚染された医療器具物質に十分な防護なしに触れた際、ウイルスが傷口や粘膜から侵入することで感染します。

しかし、症状のない患者からは感染しませんし、空気感染もしません。

【ウイルスの危険度】

人類が発見したウイルスの内で最も危険なウイルスのひとつとされています。

数個のエボラウイルスが体内に入るだけで感染すると言われており、ひげ剃りあとの小さな傷や、目に見えない手先の擦り傷に微量のエボラウイルスが付着するだけで感染する可能性が指摘されています。

エボラウィルスはWHOのリスクグループ4の病原体に指定されており、バイオセーフティーレベル(BSL)は最高度の4が要求されています。

国は、世界保健機関が定めたウイルスの危険度バイオセーフティーレベルに応じて、ウイルスを扱うことができる施設を定めていますが、エボラウイルスのBSLは最高レベルのBSL-4で、国内では国立感染症研究所と茨城県つくば市の理化学研究所バイオリソースセンターの2ケ所でしか取り扱う事ができません。

現実これら国内のBSL-4の2ケ所の設備は、地域住民の理解が得られず稼働できないのが現状です。

従って現時点で日本国内にエボラ出血熱が発生すれば、検査やウイルスの解析のできる施設はないということです。

このように日本では、BSL-4に属するウイルスが侵入すればお手上げの状態です。

【予防ワクチン】

2014年10月現時点で医療現場で使用できる現在存在しませんが、WHOは2015年には予防ワクチンが出来上がり、使用可能と発表していますがその効果は今だ不明です。

【治療薬】

やはり2014年10月現在存在していませので、患者の症状にあわせた対症療法しか出来ません。

エボラ出血熱へ治療効果があるとされる薬剤としては、富山化学が開発した抗インフルエンザ薬として承認されているアビガン(一般名ファビピラビル)がありますが、この薬剤は現時点ではエボラ出血熱の治療薬としては承認されていません。

海外で使用されて、治療に成功したという報告もされていますが引き続き臨床検討が必要とされています。

それ以外に米国、カナダなどの未承認薬が治療効果がみられるとの報告がされていますが、完全な治療薬ではなくまだまだ臨床検討をする必要があります。

【日本国内での医療体制】

日本国内で患者が発生した場合は、全国で45ケ所の医療機関で対応すると国はしていますが、日本国内ではエボラ出血熱の治療経験のある意思が皆無に等しく、上記にも述べましたように検査体制も全く整っていないことからして、完全に対応はできないと指摘する専門家が大勢を占めています。

過去にもHIV感染者が出た時でも、大パニックとなり受け入れ拒否をした医療機関が続出したことからしても、十分な医療は難しいと考えざるを得ません。

取り越し苦労であれば良いのですが。

2014年10月14日火曜日

エボラ出血熱-1.エボラ出血熱とは-

西アフリカのギニアから2014年3月に始まったエボラ出血熱の流行は、シエラレオネ、リベリア、ナイジェリアへと拡大し、過去最大の流行となっており、未だに終息する気配はなく欧米への飛び火が懸念されております。

エボラ出血熱がわが国に上陸するのは時間の問題とも言われています。

今回から数回にわたってエボラ出血熱についての解説を行います。

【エボラ出血熱とは】

エボラウイルスによって引き起こされる感染症。

【エボラウイルス】

大きさが80~800nmの細長いRNAウイルスで、ひも状、U字型、ぜんまい型など形は決まっておらず多種多様です。

【エボラ出血熱の由来】

1976年に旧ザイールなどで初めて発見され、エボラの名は初期の患者発生地域の川の名称に由来する。

【エボラ出血熱の潜伏期間】

感染後2~21日間。

【臨床症状】

発熱や頭痛、のどの痛みが現れ、下痢や肝臓・腎臓機能の異常が生じ、末期には吐血や下血をして死に至る。

【感染源】

患者の血液や嘔吐物や排泄物などに触れることで感染します、空気感染はせず、症状のない人からの感染は起こりません。

【予防ワクチン】

2014年10月現在存在しません。

【治療法】

特異的な治療法は現時点ではありません。

患者の症状に応じた対症療法を行うことしか出来ません。

【死亡率】

致死率は50~90%と極めて高い。

2014年10月7日火曜日

デング熱-5.簡易検査検査-

日本国内でのデング熱感染者は、少なくなりつつありますが未だ油断はできません。

反面海外旅行で感染する人の報告が増加しつつあります。

特にマレーシアでは、デング熱が例年を上回る流行を見せており、年初来の死者数は9月末までに149人、患者数は75200人となり死者数、患者数ともに昨年の3倍を超えていることからしても、海外での感染には十分注意が必要です。

今回はデング熱検査のひとつで簡易検査について解説いたします。

【Dengue NS1 DetectTM Rapid Test 】

Inbios 社製でイムノクロマト・ストリップ法によりヒト血清からデングウイルスの NS1 タンパク(non-structural protein 1)を同定するための簡易検査キットです。

【検査をする時期】

デング熱ウイルスに感染して、血液中にデング熱のIgG抗体とIgM抗体 が上昇してくる前の感染初期の検体からデング感染を推定できます。

【検査方法】

1.製品に添付の Chase Buffer Type A をウエルに滴下する。

2.テストストリップのサンプル・パッドに検査検体を50μLを注意深く滴下する。

※テストストリップのバッファー・パッドの部分やウエルのバッファーには直接検体を滴下しない用に注意する※

3.直ちに検査検体を滴下したテスト・ストリップを下にしてウエルに浸す。

4.30分放置後肉眼でラインの出現を読み取る。

※結果の読み取りはかならず検査開始後30分から45分の間に読み取る、尚45分経過後の結果は信頼性はありません※

【検査結果の判定】

陽性:コントロールとテストの領域に赤色のバンドが出た場合は陽性と判定します。

※テストバンドの色が薄い場合も陽性と判定する※

※テストバンドの赤色は検体中の NS1 抗原の濃度により変化する※

※テストバンドの色が薄くても明らかに赤い線が出ている場合は陽性と判定する※

陰性:コントロールの領域にしかバンドが出ていない場合は陰性と判定します。

※テスト領域のバンドはテスト開始後30分経過しないと出現しない※

再検査:コントロール領域にバンドが出ない場合は、たとえテスト領域にバンドが出ていたとしても検査無効とし、再度検査を実施する※

【このキットは現在利用可能なのか】

検査試薬は試験研究用試薬で、厚生労働省が臨床検査キットとして承認していませんので、医療機関での診断用途には使用できません。

診断用検査としてはPCR検査か抗体検査を利用するしかありません。

この簡易キットは、2014年10月現在、日本では製造されておらず全て外国から輸入されています。


2014年9月29日月曜日

デング熱-4.デング熱の臨床検査-

2014年9月27日時点での日本国内でのデング熱患者は、150人となりました。

今回は、デング熱の臨床検査について解説いたします。

【検査の種類】

発症初期の1~5日目は非構造蛋白抗原(NS1)を検出するために遺伝子検査を実施する。

特にNS1抗原は簡易キットを使用して非構造蛋白抗原(NS1)の検査を実施する。

解熱する前後の4日以降は特異的IgM抗体のの検査を実施する。

発症から1週間以降の回復期であれば血清中IgG抗体の上昇を確認する。

【ウイルス分離や核酸検出検査】

ウイルス抗原検出よりも正確ですが、手間と費用がかかるためあまり用いられていないのが現状です。

【PCR検査】

PCR検査が2012年に導入されていますが、利用されるのはこれからです。

【役立つ臨床検査とは】

デングウイルス特異抗体、免疫グロブリンG(IgG)型及び免疫グロブリンM(IgM)型の検査は、感染の後期において診断を確認するのに役立ちます。

【IgG抗体とIgM抗体とは】

IgGとIgM抗体は共に、感染後5~7日後に体内に出来、IgM抗体の最高レベル(力価)は最初の感染後に現れるますが、IgM抗体は二度目または三度目の感染でも体内に作りだされます。

IgM抗体は、最初の感染後30~90日で検出されなくなりますが、すぐに再感染が起きた場合は、再び検出されます。

IgG抗体は、感染して一度体内に出来ると数十年以上もの間検出されることからして、症状がない場合、過去の感染歴を知るのに有用です。

血液中のIgG抗体は、最初の感染の14~21日後にピークに達しその後の再感染では、より早い段階でピークに達し、力価は通常さらに高くなります。

IgGとIgMの両抗体は、感染したウイルスの血清型に対する防御免疫を有しています。

【IgG抗体とIgM抗体検査の利用法】

IgG抗体検出のみでは通常感染の有無の診断を下さず、14日後に再度血液を採血し、IgG抗体のレベルが4倍以上増加した場合はデングウイルス感染し判断します。

尚、デング熱の症状が見られる場合はIgM検出で診断を確定します。

※IgGおよびIgM抗体を用いる検査は、黄熱ウイルスなどの他のフラビウイルスと交差反応を起こすため、偽陽性反応を引き起こすことから血清学的検査では判断が困難な場合も多く見られることがあります※

簡易検査キットに関しては、次回解説いたします。

2014年9月20日土曜日

デング熱-3.デング熱と鑑別が難しいチクングニア熱とは-

2014年9月19日時点での日本国内でのデング熱患者は、17都道府県で141人となりました。

現時点で重症の人がいないのが幸いです。

今回は、デング熱と非常によく似たチクングニア熱について解説しておきます。

【チクングニア熱とは】

チクングニア熱(Chikungunya fever:CHIKV)は、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカなどにより媒介されるウイルス性の伝染病で、デング熱やウエストナイル熱と症状が非常によく似ています。

チクングニアの名前は、スワヒリ語の「折り曲げる(that which bends up)」に由来しています。

【ウイルス】

チクングニアウイルス(CHIKV)はトガウイルス科アルファウイルス属に属する節足動物媒介性ウイルスです。

【潜伏期間】

感染から発病まで(潜伏期)は2~12日と言われていますが、一般的に気2~7日です。

感染しても発症しない(不顕性感染)場合もありますが、その頻度は不明です。

【臨床症状】

ウイルスを保有する蚊に刺されてから2日から長くても2週間程度の潜伏期間の後に、40℃に達する高熱と斑状丘疹が出来、関節が激しく痛む、頭痛や結膜炎、羞明(眩しがること)などを引き起こします。

発熱は2日ほど続き急に収まりますが、その後関節痛、頭痛、不眠、全身疲労などは5日から7日ほど継続します。。

小児とくに新生児では嘔吐、下痢、脳髄膜炎などを生じる場合がありますが、予後は一般的に良好です。

 CHIKVの感染は、消耗性疾患(debilitating illness)ですが、非致死性で、最も頻繁に見られる症状は発熱、関節痛、発疹、頭痛、全身倦怠、嘔気、嘔吐、筋肉痛、リンパ節腫脹です。

【デング熱との鑑別は】

症状がデング熱と類似しており、症状からの鑑別は難しく確定診断にはRT-PCR、ウイルスの分離、血清検査などの検査が必要となります。

【治療法】

特異療法は存在しないため、発熱に対する通常の対症療法を行うだけとなります。

ステロイドやアスピリンは副作用の恐れがあり使用は控えるべきです。


病気からの回復は年齢によって異なる。若い患者が5-15日で回復するのに対し、中年では1-2.5月を要し、年を取るほど時間がかかる。また病気の程度も若いほうが軽い。

妊婦に対して悪影響はありません。

致死率は0.1%と極めて低い。

【予防法】

デング熱やウエストナイル熱と同様で蚊に刺されないことです。

デング熱と同様にワクチンも、予防薬もありません。

2014年9月13日土曜日

デング熱-2.デング熱の臨床症状と血液検査の詳細について-

デング熱の発症者は9月12日現在、17都道府県で115人となり以前終息する様子はありません。

【臨床症状】

蚊に刺された3~7日後に、発熱(38~40℃)、頭痛(目の裏が痛い)、関節痛、下痢などの症状が5~7日感続き、熱が下がる頃に全面が赤くなり、中に白い斑点がポツポツとある皮疹が現れるのが特徴です。

特に高熱に加え、頭痛、目の奥の痛み、ふしぶしの痛み、筋肉の痛みがあれば感染が強く疑われますが、咳、のど痛、鼻水などの症状がある場合はデング熱の可能性は低いです。

発熱から5~7日後の熱が下がり始める頃に全身倦怠感が強く表れ、重症化する可能性があるので注意が必要です。

【血液検査】

発熱の3日目ごろから白血球数と血小板数が少なくなります。

白血球、血小板の減少が特徴的です。

"デング出血熱"の場合は、

①ヘマトクリット値は同性同年代の人に比べて20%以上上昇。

②血小板数は減少し、100000以下となる。

③出血凝固時間は延長する。

④補体は活性化されて、C3は減少し、C3a、C5aは上昇する。

【入院の必要性】

高熱が続いて体力が消耗するか倦怠感が強い為に、食事や飲水が十分にできないことから入院に至る人が多いです。

【異なるタイプのウイルスに感染すると重症化しやすい】

デングウイルスは血清型で4つのウイルス型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)に分類されています。

血清型の異なるウイルスによる2度目の感染をすると重症化しやすくなります。

同じ血清型のウイルスに再感染しても発症することはないと考えられています。

過去に感染したことのある人が他の血清型のデングウイルスに感染した場合は、初回の感染で中和能を有さない感染増強抗が体内に多量に産生され、2回目の感染時に大量の免疫複合体が血液中に形成されるから、体内の炎症が強く現れデング出血熱を引き起こすと考えられています。

【発症率】

デングウイルス感染者のうち、発症するのは10~50%で、重症化するのはそのうちの数%程度です。

注意しなければいけないこととして、妊婦や母体からの移行免疫の切れる6カ月以上の乳幼児、糖尿病の患者は重症化しやすい傾向があることです。

2014年の世界保健機構(WHO)の発表では、重症化するのは感染者200名に1~2名程度、死亡に至るのは感染者中約6000名に1名と推定されています。

【注意点】

デング熱ウイルス感染が認められている地域では、ヒトスジシマカ(ヤブ蚊)に刺されないよう、長袖等を着て可能な限り肌を露出しないような服装をすることと、虫除けスプレーを使用する対策を取る必要があります。

ヒトスジシマカは、11月下旬まで活動すると言われており、特に9月のヒトスジシマカは越冬卵を産むために活発に吸血活動を行っています。

熱い8月よりも9月や10月上旬にこそ危険とされていますので、晩夏から秋にかけても決して油断大敵です。

蚊に刺された後に発症が疑われるような症状が出た場合には、素人判断をしないで早めに医療機関を受診することです。

2014年9月5日金曜日

デング熱-1.デング熱とは-

【デング熱の現状】

デング熱は、熱帯や亜熱帯の全域で流行しており、東南アジア、南アジア、中南米で患者が多く発生しており、年間5000万~1億人が発症しているという疫学統計があります。

日本に最も近い流行地は台湾です。

日本国内では海外で感染し、帰国後に発症する例は年約200件報告されていますが、国内での感染は1945年以降は確認されていませんでした。

今回の流行で2014年9月5日の時点で、14都道府県で68人の感染者が報告されていますが、今後共感染者は増加すると考えられます。

【デング熱の病原体】

デングウイルス(Dengue virus)が原因の感染症です。

【感染経路】

蚊によって媒介され主たる媒介蚊は、ネッタイシマカ(日本には生息していません)です。

日本にでは、青森県以南のほとんどの地域でみられるヒトスジシマカも媒介します。

人から人への感染はありません。

【症状】

ウイルスを持つ蚊に刺されてからおよそ2~15日の潜伏期の後、発熱や頭痛、筋肉痛、発疹などの症状が出現し、はしかの症状に似た特徴的な皮膚発疹もでます。

大半は1週間程度で回復しますが、まれにデング出血熱に発展し、出血、血小板の減少等を引き起こしたり、デングショック症候群に発展して出血性ショックを引き起こすと重症化し、死亡する場合もあります。

デング熱とは知らずに一般的な頭痛薬を使用すれば症状が重篤化する恐れがあります。

更にアセトアミノフェン以外の解熱鎮痛薬を使うと、血小板の減少を促し、出血を助長する恐れがあります。

今の時期蚊に噛まれて、もしデング熱が疑われるような症状が出たら自己判断で薬を使用せずにすぐに専門医に診てもらうことです。

【予防ワクチンと治療法】

治療薬はなく、予防するワクチンも存在しません。

症状を緩和する対処療法をしてウイルスが体内から消失するのを待つしかありません。

【検査法】

検査法としては、

1.細胞培養によるウイルス分離

2.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるウイルスの核酸検出

3.ウイルス抗原検出や特異抗体などの血清学的検査

※検査法については後日解説します※

【予防対策】

蚊に刺されないようにするしか対策はありません。

可能な限り肌の露出の少ない衣服を着用することと、蚊は色の濃いものに近づく傾向があるので、白など薄い色のシャツやズボンを着用して虫よけスプレーを服の上から小まめにかける必要があります。

2014年8月29日金曜日

喀痰検査-1.喀痰とは-

【喀痰とは】

「痰を吐くこと」、あるいは単に「痰」を指す言葉です。

【痰は何処で造られるのか】

痰は呼吸器系の粘膜からしみ出る粘液の分泌物でねばねばした流体で、呼吸器系で作られた粘液に限り咳によって出される粘液で色は透明色~黄色をしています。

【痰の主成分は】

痰は呼吸器系の粘膜からしみ出る分泌物で、その成分には肺や気管支、咽喉頭など気道からはがれた細胞も含まれていますのでこれらの細胞に異常があったり、異物(細菌、ウイルス、ほこりなど)や血液成分が混じっていたりすると、痰に変化があらわれます。

従って痰を調べれば、肺や気管支など呼吸器のさまざまな情報を得ることができる訳です。

【痰の性状】

漿液性や粘液性、膿性、血性などに分けられます。

【痰の色】

痰は、病気によって色や性質が異なってきます。

色が白色や透明で、粘液性痰や漿液性痰は健康人にも見られます。

無色透明か半透明でサラッとした痰は、ほとんどが風邪をひいた時に出るか、細菌感染のない気管支炎の場合に出ます。

無色透明でも、粘りがある痰は気管支ぜんそくの時にでゼイゼイという喘鳴を伴ない、痰が切れにくくなります。

緑色の痰も細菌感染によるものですが、インフルエンザ桿菌や緑膿菌感染による場合が多いです。

痰が黄色く見えるのは細菌感染を起こしているために、集まった白血球と細胞などがたくさん含まれているから黄色く見えます。

褐色ややや黒みをおびた茶色の場合は、気管支拡張症、肺結核、肺梗塞、肺がんなどのときに見られます。

錆色即ち鉄についた錆のような色や赤みがかった褐色の場合は、特に肺炎球菌肺炎や肺化膿症、心不全、肺うっ血などの時に見られます。

ピンク色の場合は、肺にうっ血がある時や心不全などの時に見られます。

鮮紅色や多量の血液を含む場合は、肺結核、肺がん、気管支拡張症などの時に見られます。

機械的刺激により痰にに血液が混ざる場合もありますが、この場合はひつこい咳が長く続いたり、強い咳払いや咳が重なることにより気道の粘膜が傷つきその傷ついた場所から出血し痰に混ざります。

これは機械的刺激による出血で回数も多くなく、数回で消失する場合心配ありませんが、繰り返し起こるようであれば病的なものの可能性もあります。

【痰の臭い】

一般的には臭いはありませんが組織の崩壊が強い場合は、腐敗臭を呈することもあります。

腐敗臭のするばあいは、悪性腫瘍や肺化膿症など。

アセトン臭のするばあいは、糖尿病に合併した感染症など。

【喀痰検査とは】

1.喀痰細菌検査

痰に混じっている細菌や真菌(カビ)など、肺炎や気管支炎の原因になっている菌を突き止めます。

この検査には、採取した痰をガラスに塗りつけて顕微鏡で菌を見つける塗抹検査と、痰の中の菌を培養で増やし、菌の種類を確認する培養検査の2つの方法があります。

菌の培養には2~3日、結核菌は2ヶ月ほどかかります。

最近では遺伝子検索によって早く結果がわかるようになってきています。

2.喀痰細胞診

痰の中にがん細胞が含まれているかどうかを調べる検査です。

2014年8月23日土曜日

HTLV-Ⅰ検査-3.セロディア HTLV-Ⅰ-

【セロディア HTLV-Ⅰとは】

ゼラチン粒子凝集反応検査で血清又は血漿中の抗HTLV-Ⅰ抗体を検出する試薬で、ウイルス(HTLV-Ⅰ)そのものを検出する試薬ではありません。

【測定原理】

ゼラチンを粒型化した人工担体に不活化処理したヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-Ⅰ)抗原を吸着させたもので、この感作粒子が血清又は血漿中の抗HTLV-Ⅰ抗体と反応し、凝集することを応用した粒子凝集反応(Particle Agglutination Test:PA法)です。

【検査時間】

反応時間が短く、2時間後に判定可能です。

【特徴】

PA法は抗HTLV-Ⅰ抗体のIgMとIgG型の抗体を測定することが出来検出感度は極めて高く、偽陽性率は0.05~0.59%と極めて低いのでですが、妊婦では高率に偽陽性反応が出現する欠点があります。

【判定】

以下に凝集パターンと判定を示します。






【判定の解釈】

陽性となった場合、後日採血をし直してPA法で再検査を行うか、ウエスタンブロット法での確認検査をします。

ウエスタンブロット法で判定保留となった場合は、ウエスタンブロット法で再検査します。

更に精度の高いPCR法があり、HTLV-Ⅰ感染が疑われるときや特に他の方法で判定が困難なときに実施する事があります。

HTLV-Ⅰ感染初期では、抗体が産生されなかったり、産生されていても抗体の量が少ない場合があり偽陰性反応を起こすことがあります。

感染が疑われる場合には判定結果が陰性であっても、経時的に検査し、また他の検査(抗原検査、血液形態学的検査)結果、臨床症状を加味して総合的に判断する必要があります。

2014年8月16日土曜日

HTLV-Ⅰ検査-2.HTLV-I-

【HTLV-Ⅰとは】

HTLV-Ⅰ(human T-cell leukemia virus type I)は、ALTを引き起こすウイルスです。

【HTLV-Ⅰの感染経路は】

主な感染経路は、HTLV-Ⅰ感染者の母親から子供への母乳を介した母子感染です。

性行為による感染は,キャリアの男性の精液を介する感染がほとんどと考えられていますが,HTLV-1の感染力は非常に弱く,反復継続した性行為を行う男女間における男性から女性への感染が主なものです。

性行為による感染のほとんどは、男性の精液中のHTLV-1感染リンパ球による女性への感染ですから、コンドームを使用して膣内への射精を防げば、感染は予防できます。

また、女性の膣分泌液の中には、感染リンパ球がほとんどいないことから、女性から男性に感染することはまずありません。

男性から女性へのHTVL-1の感染のメカニズムは、精液中に存在するHTLV-1感染リンパ球により子宮頚管上皮細胞が感染し、それがTリンパ球に感染し、血中で感染リンパ球が増加して感染が成立すると考えられています。

一般的にHTLV-1は男性から女性へ感染しますが、ペニスに性行為感染症が有り、ペニス粘膜に潰瘍が存在する場合には、女性から男性への感染が起こることが報告されています。

唾液や汗から感染することはありません。

献血の血液に関しては、検査を行っていることから輸血による感染ありません。

HTLV-Ⅰが人から人に感染するためには、キャリアの持つHTLV-Ⅰ感染細胞が生きたまま大量に人の体にはいることが必要ですから、オーラルセックスやキスでの感染は起こりませんし、単なる共同生活・風呂場・プール・食事・トイレ・床屋のタオル・剃刀・バリカンなどから感染することもありません。

【夫婦のいずれかがキャリアの場合の夫婦間感染は】

性行為の場合は、精液中のリンパ球の中のHTLV-1が感染することから、おもに夫から妻に感染します。

夫婦間の性交渉での感染は、10年間でHTLV‐Ⅰ抗体陽性の妻から夫へは、0.4%と極めて稀ですが、逆にHTLV‐Ⅰ抗体陽性の夫から妻へは60%と高い感染率が報告されています。

性交渉によるHTVL-1の感染は、コンドームを使用することで感染防止が可能です。

しかも、成人してからの感染の場合、ATL発症についての報告はありません。

いずれにしても、HTLV-1が体内に入ったからといって必ずしも感染することは限りません。

2014年8月8日金曜日

HTLV-Ⅰ検査-1.ATL-

【ATLとは】

成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia)の略で、HTLV-Ⅰ(human T-cell leukemia virus type I)によって引き起こされる白血病・悪性リンパ腫の一種です。

ATLは、白血球の中のT細胞にHTLV-Ⅰが感染しガン化することにより発症します。

HTLV-Ⅰ感染者のみが発症します。

T細胞は、白血球の中でも免疫担当細胞として重要な役割を果たしているので、ATLが発症すると、強い免疫不全を示します。

【HTLV-1のキャリアとは】

HTLV-Ⅰに感染し、ATLやHAM(HTLV-I関連脊髄症:HTLV-Ⅰ Associated Myelopathy)などの病気を発病していない人をHTLV-1のキャリアと呼びます。

HTLV-1に感染するとHTLV-1は一生体の中にとどまり、持続感染状態となります。

キャリアからのATL発症は40歳を越えるまではほとんどありません。

全国のキャリア数は約100万人、ATL 発症数は年間約700例と言われています。

40歳を過ぎると年間キャリア1000人に1人の割合で発症し、生涯発症率は約5%前後と言われています。

【ATLの治療】

白血病の治療を行いますが、ATLの治療は白血病の中でも最も難しい部類に入り、2年以内にほとんど死亡しています。。

【症状】

男女共に以下の様な症状が出ます。

・リンパ節の腫れ(首、わきの下、足のつけ根など)
・肝臓のはれ、脾臓の腫れ
・原因不明の皮疹
・血液中のカルシウム値の上昇による、のどの渇き、意識障害、不整脈 など

2014年7月7日月曜日

もっと知ろうHIV検査-3.リアルタイムPCR検査-その4-

【見逃すHIVのサブタイブはないのか?】

現在世界中で見つかっているHIV-1のサブタイプ(グループM、サブタイブA~H及び0)は全て見つけることが出来ます。

※2014年7月現在、リアルタイムPCR検査ではHIV-2を見つけることは出来ません※

【抗生物質を服用して検査を受けると影響はあるのか?】

どのような抗生物質を服用しても、HIVには効果はありませんので、検査に影響を与えることはありません。

【ステロイド剤を使用して検査を受けると影響はあるのか?】

塗り薬や喘息の薬など少量のステロイド剤が含まれる薬剤が影響を与える事はありません。
 
入院してステロイド剤や免疫抑制剤を多量に使用していれば、HIV抗体が出来るのを押さえることがありますが、ステロイド剤や免疫抑制剤はHIVの増殖を助けるために、この検査に影響を与えることはありません。

【健康食品・ビタミンなどのサプリメントを使用して検査を受けると影響はあるのか?】

検査に全く影響を与えることはありません。

【その他風邪薬・胃薬・頭痛薬などの薬を服用して検査を受けると影響はあるのか?】

検査に全く影響を与えることはありません。

2014年6月27日金曜日

もっと知ろうHIV検査-3.リアルタイムPCR検査-その3-

【リアルタイムPCR検査を受ける最適な時期とは?】

不安な行為の次の日から数えて11日以降に受けることによって、信頼できる結果が得られます。


【不安な行為から30日以降にリアルタイムPCR検査を受けても意味は無いのか?】

当然不安な行為から30日が経過した時点でリアルタイムPCR検査を受けても信頼できる結果は得られますが、この時期であれば抗原抗体検査で信頼出来る結果が得られますから、強いてリアルタイムPCR検査を受ける必要はありません。

また、不安な行為から12週経過後にリアルタイムPCR検査を受ける人がいますが、これは受けても高い検査費用の無駄になります。

なぜならこの時期であれば、抗原抗体検査や迅速抗体検査でHIV-1とHIV-2の抗体を検出可能であるからです。

不安な行為から12週経過後にリアルタイムPCR検査を受けてもHIV-1の感染の判断しかできず、再度抗原抗体検査か即日抗体検査を受け直す必要があるからです。



【リアルタイムPCR検査は、不安な行為から1ケ月以上経過して受けると信頼できる結果は得られないのか?】

巷では、リアルタイムPCR検査を不安な行為から1ケ月以上経過して受けると血液中のHIV-1の量が少なくなるので信頼出来る結果が得られないと言われますが、これは間違いです。

そもそもリアルタイムPCR検査は、HIV-1感染者に抗HIV薬を使用しての治療効果を調べる意味で血液中のHIV-1の量を調べる検査ですから、極めて微量の血液中のHIV-1を検出することが可能ですから、不安な行為から11日以降いつ受けても信頼できる結果は得られます。


【リアルタイムPCR検査が陽性となるとHIV-1の感染は間違いないのか】

リアルタイムPCR検査は、全自動で検査を行いHIV以外の遺伝子の混入がないことから、偽陽性反応はゼロに近く起こりません。

従ってリアルタイムPCR検査が陽性の場合、HIV-1に感染していることは限りなく100%に近い信頼性があります。


【リアルタイムPCR検査を不安な行為から11日以前に受けて陰性であればHIV-1の感染はないのか?】

血液中のHIV-1の量が少ないためにいくら化学的にHIV-1の遺伝子の核酸を増幅しても、検査で見つかる量に達しないと陰性となります。

したがって、不安な行為から11日以降に受けるべきです。


【リアルタイムPCR検査の確認検査は何があるのか?】

リアルタイムPCR検査は、HIV-1に感染して11日以降に検出可能ですから、この時期に確認検査のウエスタンブロット法を実施しても偽陰性となってしまいます。

従って極めて早い時期のリアルタイムPCR検査の確認試験はありません。

確認方法としては、陽性となって数日後に再度リアルタイムPCR検査を実施して陽性となればHIV-1の感染は間違いありません。

※最初に陽性となり、数日後の検査で陰性となった場合は、再度数日後にリアルタイムPCR検査を実施し以下のように解釈します※

1.1回目のリアルタイムPCR検査が陽性で、二回目が陰性となり、三回目のリアルタイムPCR検査が陽性となった場合は、HIV-1の感染していると判断します。

2.1回目のリアルタイムPCR検査が陽性で、二回目が陰性となり、三回目のリアルタイムPCR検査が陰性となった場合は1回目のリアルタイムPCR検査を偽陽性と判断し、HIV-1の感染はなかったと判断します。

※実際上記2のケースはまず存在しません※

2014年6月17日火曜日

もっと知ろうHIV検査-3.リアルタイムPCR検査-その2-

【リアルタイムPCR検査の受ける場合とは】
 
本来リアルタイムPCR検査は、HIV感染者の治療の際に血液中に存在するHIV-1の数を調べて、治療効果の判定をする検査法ですが、検査の感度がよく感染初期から血液中のHIV-1を検出可能なことから、HIV-1のスクリーニング検査に利用されてるようになったわけです。

【感染リスクのある行為から長期間経過すればすれば信頼性は低くなるのか?】

巷では感染するリスクのある行為から、3ケ月以降受けると血液中のHIV-1の量が少なくなることから偽陰性反応が起きと言われていますが、これは誤りです。

化学的に血液中のHIV-1を1億倍に増幅することから、感染リスクのある行為から11日以降何時受けても、信頼出来る結果は得られます。

【行為から11日で受けて陰性であったものが、以後陽性となった事例はあるのか?】

感染するリスクのある行為から11日で受けて、陰性で以後陽性となった事例は報告されていません。

【HIV-2は見つけられない】

血液センターで使用しているNAT検査は、日本赤十字社がメーカとタイアップしてHIV-2も見つけられる検査キットとして製造していますから、HIV-2も見つけることは可能ですが2014年6月点ではリアルタイムPCR検査でHIV-2を見つけることは出来ません。

※研究室レベルでHIV-2を検出できるPCR検査は存在しますが、2014年6月現在この検査を医療機関で受けることは出来ません※

【将来HIV-2を見つけられるようになるのか?】

メーカでは現在のリアルタイムPCR検査改良試薬のバージョン2では、HIV-2が見つけられるようになると発表していますが、いつ頃日本において発売されるかは現時点では分かっていません。

【リアルタイムPCR検査が受けられる場所】

リアルタイムPCR検査は、高価な機器と高度のテクニックを必要とすることから大学病院及び大規模総合病院以外は、自施設では実施していません。

検査専門の会社に検査依頼をしますから、全国何処の病院やクリニックでも受けることは可能です。

ただし保健所では、ほんの一部でしか検査を実施していません。

【検査結果が判明するまでの期間は】

検査専門の会社に検査を依頼しますから、結果がわかるまでには採血してから7~14日かかります。

自施設で検査を実施してい場合でも2~3日かかります。

【偽陽性反応の出現率は】

検査は全て全自動で行われることから、外界からのウイルスや細菌などの混入がなく、偽陽性反応は殆どと言ってよいくらい出現することがありません。

【偽陰性反応の出現率は】

HIV-1の核酸を化学的に増幅して検査を行うことから、検出感度は極めて高い検査法ですので、不安な行為から11日以降に受ければ感染しているにもかかわらず陰性となることはまずあり得ません。
 


2014年6月2日月曜日

もっと知ろうHIV検査-3.リアルタイムPCR検査-その1-

【リアルタイムPCR検査とは】

HIV-1の核酸の一部の見つける検査法です。

【リアルタイムPCR検査の原理とは】

HIV-1の核酸を化学的な方法で、1億倍程度に増幅して検査をすることから検出感度も非常に高く血液中の微量のHIV-1を調べることが出来ることから、HIV-1感染の判断検査として広く用いられています。

【リアルタイムPCR検査の正式名称は】

『コバス  taqMan HIV-1「オート」』と呼びます。

 健康保険の名称は『HIV-1核酸増幅定量精密検査』です。

【どのように検査をするのか】

検査キット附属の定量標準HIV RNAを含む「カオトロピックイオン溶液」で、HIV-1を溶解して、シリカ粒子であるTaqMan磁性粒子懸濁液を使用して、HIV-1 RNA及びHIV-1RNAを精製する。

試料より抽出されたHIV-1 RNA及びHIV-1 QS RNAに自動調製された増幅試薬を加える。

核酸抽出から増幅試薬の添加までの工程は、専用機器コバスAmpliPrepを、RNAの増幅及び定量は専用機器コバスTaqManを使用して行われる。

各サイクルの「Z05 DNAポリメラーゼによる相補鎖の伸長」と「DNAプローブの切断・遊離による蛍光発光」の各ステップで測定された蛍光強度がリアルタイムにモニターされ、反応液中のHIV-1 RNA及びHIV-1 QS RNAの増幅曲線が得られます。

この際、HIV-1 RNA用のTaqManプローブとHIV-1 QS RNA用のTaqManプローブでは波長の異なる蛍光色素を使用していることから、それぞれの識別は可能となります。

得られた増幅曲線から蛍光強度が一定以上となるサイクル数を求めて、カットオフ値(Ct値:Critical threshold value)とします。

HIV-1 Qs RNAのCt値と反応液中HIV-1 RNAのCt値を用いて、キット固有の内部検量線より、血液中のHIV-1 RNA濃度を計算すます。

発光強度が一定以上に達しないときは、HIV-1 RNAのCt値として計算されないために、HIV-1 RNAは算出されません。

検査法を端的に言いますと【血液中のHIV-1を特殊な薬品で、1億倍に増殖させて、HIV-1の遺伝子の一部の核酸を機械的に調べる】検査です。

【検査成績の記録】

検出範囲は、40~1.0×10の七乗コピー/mLです。

以下の三種類に分けて記載されます。

1.測定上限を超えた場合  検査結果は【>1.0×1.0×10の七乗コピー/mL  検出  陽性】

2.測定範囲内            検査結果は【○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出  陽性】

3.測定限界未満でウイルスが存在する時    検査結果は【<○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出 陽性】

4.測定限界未満でウイルスが存在しない時  検査結果は【<○○×1.0×10の○乗コピー/mL  検出せず  陰性】

2014年5月21日水曜日

もっと知ろうHIV検査-2.NAT検査-

【NAT検査とは】

核酸増幅検査(Nucleic Acids Amplification test)のことです。

この検査は、ウイルスを構成する核酸(DNAまたはRNA)の一部を約1億倍に増幅(数を増やす)し検査を行うことから非常に感度と特異性が高く、ウインドウ・ピリオドの短縮を可能にします。

NAT検査は、日本赤十字社の血液センター専用の検査方法で、医療機関や保健所で受けることは出来ません。

血液センターでは1999年からNAT検査を導入しています。

また、この検査は、HIV、HBV、HCVのウイルスを同時に検出することが出来ます。

従ってNAT検査が陽性になるとHIV、HBV、HCVのそれぞれの個別NAT検査を実施してどれが陽性かを鑑別する必要があります。

現在のNAT検査は、HIV-2の検出も可能となっています。

NAT検査は、導入当初からプール法で検査されていましたが、プールすることにより検出感度が低下し、見逃しが発生したことから2014年8月をめどにプール法をやめてひとりひとり検査する1本法に変更する予定です。

NAT検査のウインドウ・ピリオドは、11日と考えられています。

【一言】

※一般的にリアルタイムPCR検査を含めて、NAT検査と総称していますが、NAT検査は血液センター専用の検査法で、リアルタイムPCR検査は医療機関と検査会社専用の検査法で、全く別の検査法です。

NAT検査という呼び方が一般的なっていることから、便宜上HIVのPCR検査をNAT検査と呼んでいるだけです。

【注意】

HIV-1とHIV-2が早い時期に高感度で検出できるからといって、検査目的の献血は絶対にしてはなりません。

HIVの感染を調べる場合は、保健所又は医療機関で受けて下さい。

NAT検査は、検査専門の会社に検査を依頼しますから、どこの病院、クリニックでも受けることは出来ます。